うつろい | 品田誠ブログ

品田誠ブログ

1992年3月2日生まれ
俳優やってます。
品田誠

「うわ、あの頃は何も見えていなかったな」

と過去を振り返って思うことがある。
最近だと、ひょんなことから昔書いたブログを読んで、とても恥ずかしい気持ちになったりもした。今ならあり得ないと思うようなことも書いていた。消そうと思って一旦思いとどまった。

同時に、
「もうこんなことを書けないな」ということにも気づかされた。
僕が今の時点から読んで恥ずかしく思った、「何も見えてなかったな」という当時の視点や気持ちは、もう手に入れることは叶わないものでもある。


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時は2014年、今から5年前になる、平成が終わるとは考えてもいなかった頃、
『モラトリアム 完全版』(澤佳一郎監督)
という映画に僕は初めて主演した。
その時のことを少しだけ書きたい。

多分僕だけじゃないと思うんだけど、俳優というのは不安と隣り合わせの仕事である。
なんせ、放っておいたら死ぬまで仕事がないのかもしれない職業。
その上、当時(22歳)の僕にスキルなんてものは露ほどもなかったし、俳優って仕事がどんなものかも全然知らなかった。
それなのに周りの反対を押し切って大学を退学して(家族はどうしたことか反対しなかった)、「いや僕は俳優になるのでやめます」と周りの声よりも自分の心を拠り所に、つっぱっていた時期。

つっぱりの反対側には、いつも大きな不安があった。社会的なメインストリームから離れ、「何か取り返しのつかない選択をしたのかもしれない」、という思いに襲われることも少なくなかった。

そしてもちろん、俳優の仕事はそんな未経験の俳優志望者22歳においそれと与えられるものではなかった。
というより、入り口に立つことさえも難しいのが現実で、その壁の高さに立ち尽くし、見上げては恨んでいた。

日々募る焦り、
「おいおい、一生仕事なんてないんじゃないの」
「やっぱ大人しく大学通っておけばよかったんじゃないの」という心の声は徐々に勢力を増して行った。

そんな鬱屈とした時期を過ごしていた時に『モラトリアム』のオーディション募集を見た。それも主演を探していたのである。おお、珍しい機会だ。チャンスだ。

すぐに「僕にやらせてください」と長ったらしいメールを監督に送っていた。

その時期はちょうど同級生のみんなが大学を卒業し、社会人になってひと月が過ぎたぐらいのタイミングだった。
周りのみんなが、自分と違ってなにか形あるものになっていくような気がしていた。

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そんな始まりから、『モラトリアム 完全版』に僕は参加できることになった。
映画は長い時間を経て完成し、今年の春、ありがたいことに池袋シネマロサ、名古屋シネマスコーレが本作を劇場公開してくれた。

そして明日から、高円寺シアターバッカスで10/19(土)〜25(金)の1週間上映がある。
またスクリーンでかかる。嬉しい。


なんていうか、この映画は"誰もが通ってきたあの頃"にもう一度連れて行ってくれるようなパワーがある。

"思い出す"だけではなく、
"もう一度通ることができる"という感じ。
通る前と通った後で、変化をもたらすもの。
そういう道となる作品ではないだろうか。

僕もモラトリアムのことを書こうと思ったら、ついまた自分自身のあの時の道を通ってしまった。
つらつらと昔のことをすみません。

ただこの時の僕を澤さんが映画に残してくれたことで、僕は今では恥ずかしい拙さと同時に、今ではもう手に入らないものも残すことができた、とも思う。
もう今は葛城役は演じられない。あの芝居はできない。その事実に思案を巡らせる。


「あの頃は何も見えていなかった」のではなく、
「何かをもっと執拗に見つめていた」のかもしれない。
きっと、いつだってそうなのかもしれない。


『モラトリアム 完全版』
DVD化など決まっておりませんので、劇場で観れるこの機会に、どうぞよろしくお願いいたします。
10/22(火・祝)は18時〜よりコメンタリー上映もします。澤監督と。もう1人の主演、尾身美苗さんも来られます。
他の日もイベントがたくさんあります。ぜひ。
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