元常務秘書が何も考えずに

旅するミュージカル劇団に入団し

はからずも抜擢されてしまった…

あの頃…の話。







和歌山県上富田町から
公演の旅が始まった。


初日はそんなに
輝かしくもキラキラした日、
でもなんでもなく

開演ギリギリまで
体育館中に
作演出家の怒鳴る声が
わんわんと笑鳴り響き


モウロウとして
前を見ると


お客様が座っていた。



一幕終わった後すぐに
作演出家が裏に飛んできて
またワタシにガミガミ言って、

二幕始まって

なにがなんだかわからないまま
終演していて


すぐにバラシ作業に入ったが

バラシ中にも
作演出家にワタシは呼ばれて
ダメ出しがしばらくあり

モウロウと
トラックの積み込みしていた。


セットの積み込み方が
定まっていないので
新作の積み込みは時間がかかる…




ワタシの役、
『風見夏美さん』を探し求める
長い旅が始まった。




作演出家からは

「この話は『夏美』に
街や村の皆んなが
心を寄せて変わっていくんだ。

でも、
お前は劇団に
馴染んでいないから
皆に好かれているとは言えない。
そういう面からも
お前は変わらないと
皆んなもやりにくい」

と言われた。





ワタシは

①作演出家と制作部の言うことは
全部言う通りにする

②劇団のカラーに誰よりも濃く染まり
劇団と一心同体になる

彼氏は作らない


を心に決めた。







「芝居ができるわけではないのだから、
日常からも役で生きなければ
『自分じゃない誰か』は掴めない

と作演出家は
よく言っていた。


そうして
この劇団では

稽古から大千秋楽まで
朝起きた瞬間から眠りにつくまで
仕込みバラシの間も移動日も
役名で呼ばれる。

プライベート時間がほとんど無い
劇団生活だったので


「装子」という
自分の名前で呼ばれることは
少なくなった。




芝居をちゃんと
勉強したこともないのに
毎日試合に出場するような日々。




もう一つ。

弟の生命を助けてもらえるよう
祈るつもりで
連日稽古し舞台に立っていた。

一つ頑張れば
一つでも神様に伝わるように。




関西から岡山県を巡演していた
5月頃だろうか。

神様に祈りが通じたのか

幸運なことに
弟は昏睡から目を覚ました。

その後しばらくリハビリは
必要だったが

生きてるだけで感謝。











典型的な体育館公演の楽屋風景。

この劇団の楽屋と衣裳部屋は

別の部屋だった。


(今、外の世界では

楽屋=メイクもして

自分の衣裳も置いてある部屋)


毎日毎日、移動して

違う条件の劇場又は体育館で

公演するためには

これが合理的になったんだろうと思う。


早替えにも対応できるように

衣裳部屋、着替えは

なるべく舞台近くに。


メイクとお弁当と

打ち合わせだけやる楽屋は

開演したら二度帰らないから


舞台から遠く離れた

隣りの棟の会議室でもいい、


ということなんだろう。