最近読んだ本の中で一番面白かったのは平野啓一郎さんの『ある男』だったので、平野さんの本をもっと読もうと著作リストを見てみたら小説作品よりもこちらのタイトルが気になったので読んでみました。
『本の読み方 スロー・リーディングの実践』
平野啓一郎著 2006年
ローガン卿が必要になってから(というか左右の視力の差が広がってきて)本を読むスピードがめっきり遅くなってしまったので、今の私にぴったりの本。
出版当時は速読本がブームであったことや著者自身がスロー・リダーであることからこの本を書かれたそう。
2006年の本ですけど、映画を倍速で観たり曲のイントロや間奏をスキップして聴いたりする人もいると聞く現在、情報を効率よく時間をかけずに取り入れたいという欲求はますます高まっているのではないでしょうか。しかし読書で大切なのは「量」ではなく「質」。
本の前半では速読のなにがいけないのか、本は何のために読むべきなのかが語られます。
速読の知識は、単なる脂肪である。それは何の役にも立たず、無駄に頭の回転を鈍くしているだけの贅肉である。決して、自分自身の身となり、筋肉となった知識ではない。それよりも、ほんの少量でも、自分が本当においしいと感じた料理の味を、豊かに語れる人のほうが、人からは食通として尊敬されるだろう。(P.42)
そして「遅読」こそ「知読」と言い、読みながら「なぜ?」と疑問を持ち、主体的に考えることが大事なのだと説きます。
また作者の意図を考えつつも、自分なりの「誤読」をすることが想像的な楽しみ方だという指摘も。
これは読書だけのことではなくて、人が作った曲を演奏する時に私が大切にしていることでもあります。作曲者へのリスペクトはありつつもオリジナルをただ再現することが目的ではなく、自分がその曲を演奏する意味や価値を付与したいと思うのです。
本の後半部は夏目漱石の『こころ』やカフカの『橋』、三島由紀夫の『金閣寺』などのテクストを実際に掲載した後、この部分はこんなふうに深掘りして考えることができるんだよという読み方が提示されます。
速読している人にこそおすすめですが、いつもの自分の速度よりも遅く読もうとするのは、高速道路をずっと時速100キロで走った後に下道を40キロに抑えて運転しなければいけないようなフラストレーションを感じたのは否めません(笑)