祈ると妊娠率が上がる? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

2002年に私がある国際学会の事務局長をしていた時に知り合った医師にDr. Kwang Yul Chaという韓国の方がおられます。不妊治療がご専門で、韓国と米国に不妊クリニックを持っておられますが、韓国には自ら設立した医学部や研究所を作るなど研究方面にも勢力的に活動されている方です。研究成果は次々と論文や学会で発表され、非常にアクティブな科学者です。その方が書かれた「とりなしの祈りをすると体外受精の妊娠率が良い」という論文をご紹介します。

J Reprod Med 2001; 46: 781
要約:体外受精を韓国ソウルで受ける方219名(26~46歳)米国•カナダ•オーストラリアで祈る方の双方に介入内容を知らせない状態(double blind)で、「祈る」群と「祈らない」群にランダムに分け前方視的検討を行いました。全ての妊娠の結果が判明してから、結果を米国の研究所で分析しました。「祈る」群(50%)は「祈らない」群(26%)より有意に妊娠率が高く、着床率も有意に高い結果(16% vs. 8%)でした。「とりなしの祈り」がこの集団では有用であるという結果でしたが、症例数を増やした更なる検討が必要です。

解説:キリスト教のお祈りには5つの種類があるといわれています。それは、「賛美(神をたたえる祈り)」「感謝」「告白(ざんげの祈り)」「願い」「とりなしの祈り」です。「感謝」「告白」「願い」は自分のために祈る祈りですが、「とりなしの祈り」は自分以外の誰かのために祈ることです。肉親、子供、友人、知人、その他見知らぬ人など敵味方問わず誰のためにでもする祈りです。

「科学」と「祈り」、一見全く異なる分野に思えますが、科学では解明できない心の領域も多く残されています。科学者はとかく人間としての心の部分を排除するような傾向があるように思います。本論文を見つけたのは2002年、Dr. Chaは「科学」と「心」の両面を重視したバランス感覚を持たれた医師なのだと尊敬の念を抱きました。