☆風疹ワクチン | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

最近、風疹ワクチンについての質問が大変多く、誤解もしばしばありますので、ここでまとめておきたいと思います。概略は、2013.3.11「ワクチン接種のガイドライン(米国)」でも簡単に述べました。

まず、風疹にかかったことが「ある」か「ない」かは、「抗体検査」でわかります。
抗体とは、細菌やウイルス(抗原)に暴露した際に身体で作られる防御物質です。風疹は一度感染したら二度と感染しない「終生免疫」を持っていますので、抗体があるかないかがカギです。風疹ワクチンは生ワクチンであり、これを接種すると、風疹にかかったのに近い状態になり、抗体ができます。ただし、ワクチンでは抗体が弱くしかできないこともあります。

抗体検査
風疹HI法:8倍未満を(ー)、8倍と16倍を(±)、32倍以上を(+)とします*
風疹IgG抗体:(+)は過去に感染したことを示します
風疹IgM抗体:(+)は現在感染していることを示します
*最も広く行われている検査はHI法です。HI法は8倍、16倍、32倍、64倍、128倍、256倍、512倍、1024倍というよう数値でしか結果が出ません。採血した血液を倍々希釈していくからです。したがって、完全に(+)とするには、8倍を2回希釈した32倍としているようです。

妊娠中に母体(女性)が風疹に感染すると、「先天性風疹症候群(CRS)」という胎児の異常を引き起こすことがあります。胎児の白内障や緑内障、先天性心疾患、難聴などを起こすもので、妊娠4週から20週までの感染でCRSが起こります。産科ガイドライン2011によると、妊娠4~6週に風疹にかかると100%がCRSになり、以下7~12週で80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%20週以降は0%です。なお、父親自身の感染は一切関係ありませんが、妊娠中の母体に感染させる可能性がある場合だけは別です。

したがって、女性の風疹HI抗体価と妊娠の有無、妊娠時期別に対処法が異なりますので、それぞれを具体的に記します。

妊娠前の場合
8倍未満   ワクチン接種
8倍と16倍 ワクチン接種 or そのまま妊娠を目指す(患者さんとの相談になります)
32倍以上  そのまま妊娠を目指す

妊娠20週未満の場合
16倍以下  妊娠20週までは、人ごみや子どものいる場所へは出かけないように注意し、同居家族の(抗体がない方に)風疹ワクチンを接種する。産後すぐ風疹ワクチンを接種する。
32倍以上  特別な対処は不要

妊娠20週以降の場合
16倍以下  産後すぐ風疹ワクチンを接種する
32倍以上  特別な対処は不要

出産後の場合
16倍以下の場合、産後すぐ風疹ワクチンを接種する(接種後すぐの授乳もさしつかえありません)。

風疹ワクチンは「生ワクチン」であるため、風疹ワクチン接種後2ヶ月避妊期間が必要です。「生ワクチン」は、妊娠中の接種もできないことになっています。生きた風疹ウイルスが少し入っているからと考えるとわかりやすいでしょう。しかし、実際に妊娠中に風疹ワクチンを接種しても、CRSの発症は世界中で1例も報告されていません

日本では、昨年より今年、さらに風疹の爆発的な流行が起きていますが、罹患した方の80%が男性です。これは、国の予防接種制度と関係しています。現在の年齢が18歳以上の男性、18歳~33歳の女性は中学校での予防接種がなかった空白の世代です。また、海外渡航のワクチンのリストにも風疹ワクチンは記載されていません。ですから、これらの世代の方が外国の風疹流行地で感染して、日本に持ち込み、流行するといった図式になっています。