☆☆2人の元気な赤ちゃんを授かるにはどっちが良い? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

ご夫婦に伺うと、どの国でもだいたいの場合「お子さんを2人欲しい」といいます。「せっかく体外受精なのだから、一度に二人、それも性別が男女だったら最高だ」という方が多いという統計もあります。双子(双胎)の妊娠は母子ともにリスクが高いことは、医療者にとっては常識なのですが、患者さんご夫婦にはなかなかそのリスクが理解してもらえないことがあります。具体的な数字が出てこないと、ご夫婦にとってはピンとこないからだと考えます。本論文は、1個胚移植で1人を2回出産と比べ、2個胚移植で双子を1回出産すると、どのくらいリスクが高くなるかを示したものです。

Fertil Steril 2013; 99: 731(スェーデン)
要約:1個胚移植で1人を2回出産した場合(921件1842名)に対する、2個胚移植で双子を1回出産した場合(991件1982名)の母子合併症が何倍になるか示します。
 赤ちゃんの合併症
37週未満の早産:12.7倍
32週未満の早産:7.43倍
出生時体重2500g未満:16.6倍
出生時体重1500g未満:4.72倍
低出生体重児:7.62倍
呼吸障害:4.92倍
敗血症(重症の感染症):2.31倍
黄疸(黄色くなる):5.03倍
 母体合併症
重症妊娠高血圧症候群(重症妊娠中毒症):2.64倍
前期破水(陣痛前の破水):8.43倍
帝王切開:4.19倍

スェーデンの体外受精のデータから算出し、何回採卵や胚移植をすれば2人のお子さんを得られるかというと、下記のようになります。
1個胚移植で1人を2回出産3.3回採卵&新鮮胚移植+5.3回融解胚移植
2個胚移植で双子を1回出産3.3回採卵&新鮮胚移植+2.7回融解胚移植
つまり、採卵回数は一緒で、融解胚移植が約3回違うだけとなります。

解説:これだけのキチントした数字を出せるのは、「北欧ならでは」ですが、非常に重要な情報を示しています。生殖医療は、単に赤ちゃんを得ることが目的なのではなく、「元気な赤ちゃんを得ること」です。双子の出産は、母子ともに、特にお子さんが、生命の危険にさらされる確率が2倍~16倍高くなります。日本ではさらに、小さな赤ちゃんを診るNICU(新生児集中治療室)を持つ病院や医師(新生児科医)が限られていますので、地域やタイミングによって助かる命も助からないということもあり得ます。このような考え方のもとに、世界的に胚移植は原則1個とすることになっています。