☆男性の加齢→大きな胎盤→妊娠中のトラブル増加 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

精子は毎日作られるため、あまり老化しないと考えられていましたが、男性の加齢に伴い赤ちゃんの異常が増加することが近年知られるようになりました。本論文は、男性の加齢により、大きな胎盤となり、その結果妊娠中のトラブルが増加することを示しています。

Hum Reprod 2013; 28: 3126(ノルウェイ)
要約:1999~2009年にノルウェイ全土で出生した妊娠22週以降の赤ちゃん590,835名を、国の出生記録を元に調査しました。胎盤重量、胎盤/児の重量比率と父親の年齢との関連を、母体年齢、分娩回数、性別、妊娠週数、喫煙、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)、母体糖尿病、妊娠方法、出産方法で補正し比較しました。父親の年齢が20~24歳の赤ちゃんと比べ、父親の年齢が50歳以上の赤ちゃんで胎盤重量が有意に重く(656.2g vs. 677.8g)、胎盤/児の重量比率も有意に大きく(0.191 vs. 0.196)なっていました。

解説:母体年齢が高齢になると、妊娠および出産に伴うリスクが増大することがよく知られています。一方、父親の年齢が高くなっても同様に、妊娠および出産に伴うリスクが増大することが報告されています。たとえば、父親の加齢に伴い、流産率、胎児死亡、妊娠高血圧症候群、低体重児、統合失調症、自閉症が増加します。これは、加齢による精巣構造の変化、精液所見低下、性ホルモン低下、遺伝子変異の増加によるものと考えられます。

良好な機能を持つ胎盤は、胎児の発育に欠かせませんが、大きな胎盤(胎盤重量の増加)は妊娠中の合併症増加(妊娠高血圧症候群、胎児死亡、低APGARスコア、NICU入院)と関連することが知られています。母体の加齢に伴い胎盤重量が増加します。本論文は、父親の加齢に伴い胎盤重量が増加することを初めて示したものです(母体年齢で補正しているため、母体年齢とは独立したリスク因子です)。精子は細胞分裂の回数が多いため、遺伝子変異が生じやすく、加齢に伴い異常が頻繁に生じるようになります(詳細は、2013.8.14「☆精子も明らかに老化します」を参照してください)。胎盤が大きいと、一見胎児にとってよさそうな感じがしますが、これは逆に胎盤の機能低下を補うために胎盤が大きくなっていることを意味します(代償性増大)。胎盤が大きくなれない場合には、胎児発育が悪くなり、胎児死亡などをもたらします。また、大きな胎盤で生まれた子供は、将来高血圧や心血管疾患になりやすいことも知られています。これについては、Barker仮説の項を参照してください(2012.11.8「☆妊娠中の栄養と出生児の健康:Barker仮説、DOHaD」)。

これは余談ですが、クローン動物では胎盤が大きくなります。やはり、何かがおかしいです。