メラトニンの効能は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

メラトニンは動植物や微生物に存在し、動物では脳の松果体から分泌され、昼に低く夜に高く睡眠と関連するなど、生体内の時計の役割をしています。したがって、不眠症や時差ボケの解消など睡眠障害の治療に用いられてきました。最近では強力な抗酸化物質としての役割や、遺伝子保護、フリーラジカル除去の役割も報告され、アンチエイジングの物質として注目されています。本論文は、メラトニンが体外受精の成績に及ぼす効果をメタアナリシスにより検討したところ、有効性は認められなかったことを示しています。

Fertil Steril 2014; 101: 154(ブラジル)
要約:メラトニンと体外受精に関して、これまでに5つのRCT(ランダム化試験)が報告されており、そのデータを解析したところ、採卵数、妊娠率、流産率、生産率、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)発生率、胎児異常率に有意な相違を認めませんでした。したがって、メラトニンのメリットもデメリットも現段階では明らかなものはありません。

解説:卵子の老化(質の低下)を抑制する方法として、酸化ストレスを低下させるというアンチエイジングの考え方があります。メラトニンはそのひとつの候補として使用されていますが、本論文が示すように現段階では証拠不十分という結果になりました。しかし、完全に否定されたわけではありませんので、今後の検討を待ちたいと思います。

メラトニンの抗酸化作用は、ビタミンEの約2倍あります。また、メラトニンは血液脳関門も容易に通り抜けることができます。メラトニンの抗酸化作用により生殖細胞が保護されるため、不妊治療に有効であるとの報告がある一方で、メラトニンには性腺刺激ホルモン抑制作用もあり、性腺の退化が生じるとされています。生殖に関しては依然として正体不明の物質ですので、新たな展開も期待できるかもしれません。