☆新鮮胚移植の条件 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

黄体ホルモン(PあるいはP4)は、着床に必要なホルモンです。新鮮胚移植では、P値の増加(P >1.5 ng/mL)が妊娠率低下につながることが知られています。本論文は、P値の増加のみならずP値の低下(P <0.5 ng/mL)も妊娠率低下をもたらすことを示しています。新鮮胚移植を行う際の新たなチェックポイントとして考慮すべきものと考えます。

Hum Reprod 2014; 29: 1698(ポルトガル)
要約:2006~2012年に初回あるいは2回目の新鮮胚移植を行った方女性(19~36歳)のべ2723周期のhCG投与日のP値と生産率の関係を後方視的に検討しました(アンタゴニスト法、刺激周期)。82%が単一胚移植、52%が胚盤胞移植でした。生産率とP値の関連は下記のようになりました。
P       生産率
~0.5     17.1%
0.5~0.75   25.1
0.75~1.0   26.7 
1.0~1.25   25.5
1.25~1.5   21.9
1.5~     16.6
P<0.5およびP>1.5では、有意に生産率が低下していました。
また、卵の成熟率についてはP値との関連は認めませんでした。P値の増加と有意な相関が認められた項目は、総FSH量と採卵数とE2値が正の相関を、hMG製剤使用量が負の相関を示しました。

解説:凍結融解胚移植の方が新鮮胚移植より妊娠率が高いことが知られています。日本産科婦人科学会の全国調査の報告を見ても、凍結融解胚移植の方が約10%妊娠率が高くなっています。これは、凍結融解操作の技術革新により、凍結前後の胚の質がほとんど変わらないことが一番の理由と考えられます。日本が世界で最も凍結融解操作の技術が進んでいるため、諸外国に先駆けて凍結融解胚移植が盛んに行われています。逆に言えば、諸外国では現在もなお新鮮胚移植が一般的です。新鮮胚移植での妊娠成立には条件がいくつかあります。これまでは、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)がないこと、P値<1.5であることとされていました。一方で、Pは卵胞発育の最後に必要であること、あるいは排卵の引き金の一端を担っている可能性が指摘されています。P値の至適濃度はいくつなのかについて、これまで結論が得られていませんでした。本論文は、Pは低くても高くても生産率が低下し、新鮮胚移植の際の至適P値は0.5~1.5であることを示しています。

日本では凍結融解胚移植がメインになっておりますが、新鮮胚移植の際にはP値を測定し、移植に適した周期かどうかを判断する必要があります。P値は高くても低くてもうまくいきませんので、ご注意ください。