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松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、チョコレート嚢胞アルコール固定術に関する後方視的検討です。

 

Hum Reprod 2024; 39: 733(フランス)doi: 10.1093/humrep/deae014

要約:2013〜2021年に、フランスの一つの大学病院でチョコレート嚢胞アルコール固定術を実施した126名(平均年齢31.9歳)を対象に後方視的検討を行いました。アルコール固定術の適応は、少なくとも10mm以上のチョコレート嚢胞があり、疼痛あるいは不妊症のために治療が必要な女性です。まず、チョコレート嚢胞の内容物を完全に吸引除去し、生理食塩水で洗浄し、96%エタノールをチョコレート嚢胞容積の60%分注入し、10分間静置後、完全に除去しました。アルコール固定術が実施できなかったのは、穿刺不可の位置、過去のエタノール漏出、吸引不成功、生理食塩水の漏れとしました。術中合併症は、エタノール漏出、血中アルコール濃度増加、エタノール中毒としました。術後合併症は、発熱、炎症、卵巣膿瘍です。なお、エタノール漏出は注入量の5mLあるいは10%以上と定義しました。13名(10.3%)でアルコール固定術が実施できず、13名(10.3%)で合併症が報告されました:1名が骨盤感染症、2名が卵巣膿瘍、1名がエタノール中毒でした。

 

解説:子宮内膜症は女性の約10%がにみられ、生理痛や不妊症と関連しています。腹腔鏡による嚢腫切除術が標準治療ですが、複数回の手術により卵巣予備能が損なわれることがしばしばあります。1988年日本で初めて行われた、超音波ガイド下でのアルコール固定術は、嚢胞壁の破壊を誘導します。他にもいくつかの薬剤(テトラサイクリン、メトトレキサート)が検討されましたが、アルコール(エタノール)が最も有効であると評価されています。本論文は、大規模かつ標準化されたプロトコルでチョコレート嚢胞アルコール固定術の合併症を検討したものであり、10%で実施不可、10%で合併症がが認められています。本論文の著者は、特別なトレーニングの必要性と、合併症を評価するための定期的なモニタリングが必要だとしています。また、本療法のセンター以外では80mm以上のチョコレート嚢胞に対してアルコール固定術を行うのは適切ではないとしています。

 

チョコレート嚢胞のアルコール固定術は、2000年前後の日本で盛んに実施されていました(私もたくさん経験しました)。その後腹腔鏡の器具が進化し、腹腔鏡手術が誰でも簡単にできるようになったため、ほとんどが腹腔鏡手術になりました。不思議なのは、今更なぜアルコール固定術なのか?そして生殖医学の分野で超一流の雑誌に今掲載されるのはなぜなのか?頭の中に???がいっぱいです。

 

下記の記事を参照してください。

2022.6.4「腹腔鏡下チョコレート嚢腫アルコール固定:ビデオ論文

2021.1.23「チョコレート嚢胞のアルコール固定術:ビデオ論文

2017.8.13「チョコレート嚢腫固定術:メタアナリシス

2014.4.23「☆卵巣嚢腫の取り扱いについて