Q 慰謝料は相続されるのでしょうか。
例えば交通事故や原発事故で被害者が亡くなった場合です。
ややマニアックなテーマの質問をいただきました。
マニアックに,かつ分かりやすく言い換えて,説明します。
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A 被害者(亡くなった方)が持っていた慰謝料請求権は相続人に承継されます。
答えだけ見ると,当たり前過ぎて,裏の事情・歴史,が分かりにくいです。
順番に行きます。
昔の説1:慰謝料請求権というのは一身専属権であるから相続されないんだ
はい,一身専属権って何ですか?
という声が聞こえてくるので。
民法896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
これのことです。
なお,民法423条にも同じようなことが書いてます。「行使上の一身専属権」とかいうてます。が,ややこしくなるので,これはまた別の話し。
話しは戻って。
不動産・預貯金は相続されるけど,慰謝料請求権はちょっと特殊。
慰謝料は,気持ちが凹んだことに対応する請求権。気持ち重視なので本人の考え・意思最優先。
慰謝料は本人専用→一身専属(権)→民法896条但し書きにより承継されない。
昔の説2:でも,被害者本人が「慰謝料請求する」と意思表示をした後に亡くなった場合は,相続される。
ちょっと変わってきましたね。
こういう考えです。
慰謝料は,請求するかしないか,本人の自由意思。本人の気持ち優先。
でも,一旦本人が「請求する」という考えになったら,その時点で慰謝料が具体化する。
「単純な金銭債権になる」とか言います,同業者では。
要は,預貯金と同じ状態,と考えます。
だから相続人に承継される,と。
ここでちょっと注意することは,「請求の意思表示は軽くて良い」ということ。
1 相手方(加害者)に伝わっていなくても良い
瀕死状態の時に,周囲に駆け付けた親族に伝えるもOK
2 「慰謝料を請求したい」とハッキリ言わなくても良い。その意味になっていればOK
いろんな裁判でいろんなセリフが出てきました。
承継が認められた例,認められなかった例を挙げます。
<承継が認められた>
「残念だ・・・」
「(自動車で衝突してきた)相手が悪いんだ・・・」
「お母さん,苦しいよ・・・痛いよ・・・」
→いずれも「相手を責める気持」が入っている。
※「残念裁判」とか「相手悪い裁判」とか「イタイイタイ裁判」とかの呼称はあまり流行っていません・・・
<承継が認められなかった>
「助けてくれーー」
→これは,「相手を責める」気持が入っていない。
ということで,「被害者の瀕死状態でのセリフによって相続されたりされなかったりする」という状況になりました。
ある時,ある人が言いました。
「ちょっと,みんな,おかしいじゃないか。死亡慰謝料というでかい権利が曖昧なセリフの解釈で左右されるとは!」
ということでこの正論を掲げ,最高裁まで進んだ弁護士が居てました。
最高裁は「確かに,そやな」と,認めるに至りました。
これ自体が昭和42年というセピア色のノスタルヂック時代。
というか,私生まれてません!
画期的判例は末尾に引用しておきます。
現在の説:慰謝料は相続(承継)される。
現在は,当たり前のように,これが前提となっています。
交通事故の慰謝料算定においても,「えー,本人分・近親者固有の分の慰謝料の合計で相場からすると」というような寸法。
最後についでながら。
「一身専属」のテーマで問題となるものはこんなんがあります。
・遺留分減殺請求権
→相続肯定 最高裁平成13年11月22日
・扶養請求権
→相続否定
・扶養的財産分与
→相続否定
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<裁例(抜粋)昭和42年11月1日最高裁判所>
案ずるに、ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つた場合には、その者は、財産上の損害を被つた場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解するのが相当である。ただし、損害賠償請求権発生の時点について、民法は、その損害が財産上のものであるか、財産以外のものであるかによつて、別異の取扱いをしていないし、慰藉料請求権が発生する場合における被害法益は当該被害者の一身に専属するものであるけれども、これを侵害したことによつて生ずる慰藉料請求権そのものは、財産上の損害賠償請求権と同様、単純な金銭債権であり、相続の対象となりえないものと解すべき法的根拠はなく、民法七一一条によれば、生命を害された被害者と一定の身分関係にある者は、被害者の取得する慰藉料請求権とは別に、固有の慰藉料請求権を取得しうるが、この両者の請求権は被害法益を異にし、併存しうるものであり、かつ、被害者の相続人は、必ずしも、同条の規定により慰藉料請求権を取得しうるものとは限らないのであるから、同条があるからといつて、慰藉料請求権が相続の対象となりえないものと解すべきではないからである。しからば、右と異なつた見解に立ち、慰藉料請求権は、被害者がこれを行使する意思を表明し、またはこれを表明したものと同視すべき状況にあつたとき、はじめて相続の対象となるとした原判決は、慰藉料請求権の性質およびその相続に関する民法の規定の解釈を誤つたものというべきで、この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、本訴請求の当否について、さらに審理をなさしめるため、本件を原審に差戻すことを相当とする。