この旅では、個性的な宿はここだけ。後は普通のホテルに泊まった。

「多聞館」は創業300年。羽黒山のもと宿坊であったが、戦後旅館にしたという。建物は大正のもの。

各部屋に鍵はない。が、襖を開けたら隣の部屋、ということもない。大きな座敷の中が、細かく襖で仕切られている感じで、各仕切りの間には畳敷きの空間がある。

それでも鍵がないので、油断しているとあられもない姿を他の方に見られるかもしれない緊張感がある。

天壌無窮!

10月14日0500。夜明け前に宿を抜け出す。当初の計画では朝食前に羽黒山に登り、下りて宿で朝食をとり、出発の予定で、宿にもそう伝えてあった。

だが、宿近くにあった看板の矢印通りに歩いても、羽黒山入口になかなかたどり着かない。そして道案内の看板自体も非常に少ない。不安にかられ、Googleマップを使ったら逆方向という。それに従う。そして凄い山道に入る。地元の人でも滅多に入らないでしょ。でも景色はよい。

別に好きで1人で遊んでいるわけではない。別に私は2人でもいっこうにかまわないのだが。

0540頃、こんな山道を驚いたことに人とすれ違った。60代後半くらいの男性。しかも道を聞かれた。「手向」はこっちでよいのか、という。私はそうですと答えた。だが知っていた。そもそもこのあたりはすべて「手向(とうげと読む)」という地名であり、あの方の質問への答えとしては、甚だ不誠実であることを。

そしてこう考えた。そもそも道を尋ねるとはどのような意味を持つ行為であろうか、と。

天壌無窮だ。

ご紹介しましょう。これがグーグルマップ様に導かれし国宝・羽黒山五重塔です。

ウソつき!私はナビウォーク(ナビタイム)よりGoogleマップの方がアプリとして数十倍マシと思い、地理的に不正確で、数も少ない地元の看板にも逆らってここまで来たのに!Googleのヤツめ!

しかし今来た道を戻るのかよ。早起きして私が負ったダメージは甚大だ。クマなど出ませんように。

それにしても、風光明媚な山道だった。

この看板を無視して左に進んだことがそもそも間違えだった。それほどまでに私はGoogle様を信じた。

そして、写真は残念ながら撮り損ねたが、この「筍沢温泉」は本当にとんでもないところにある。

宿に帰る。道を間違えたことを主人に伝え、驚き呆れられる。

朝食。羽黒山の後は山形に向かうことを主人に告げ、宿を出た。