前回のブログが今年最後のブログだと言ったな。あれは嘘だ。
どうもこんばんは副将です。今年も残すところ一時間半ですね。
紅白を見ながらこの記事を書いていますが、別に紅白の感想を書きなぐるための記事ではないです。
12月24日から31日まで、twitterで部員が書いた短編・TANRENをアップしていました。読んでくださった方々、RT・いいねをしてくださった方々、ありがとうございました!まだ読んでないよーって方は文芸部のtwitterをご覧になるか、このままスクロースし続けてください。
前述の通り、twitterにTANRENをアップし続けていたわけですが、せっかくなので(?)ブログにTANRENをまとめたいと思います。これでtwitterの画像データが吹っ飛んでも安心です。
twitterに挙げる際、SS名刺メーカー様(https://sscard.monokakitools.net/index.html)のコンテンツを使用させていただきました!めちゃくちゃ作るの楽しいので是非皆さんも使ってみてくださいね!
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1日目
人間は年が変わるごとに小さな紙切れを送り合うらしい。なんのためにそんなことをしているか知らないが、楽しいのだろうか。そしてこれもなんでかは知らないが、そこには動物が描かれていて、俺も十二年に一回描かれている。
なんで十二年に一回なんだろう。人間たちには十二年に一回イノシシブームが来るのだろうか。それに必ずイヌブームのあとにイノシシブームが来るのだから不思議なものだ。確か今年の初めにお隣のイヌさん一家が「イヌブームを祝ってカンパーイ!」ってやってたから、あと数日後にはイノシシブームが来る……はず。
十二年に一回なんて言わずにもっと頻繁に送ってくれてもいいけど、まあ毎年だと忙しいから、十二年に一回でガマンしよう。
2日目
「猪突猛進ってさ、あんまり良い印象ないよね」
助手席の彼女は突然そんな事を言った。何もない山を進む道中、寝ないために話をして欲しいとは言ったが、いささか突然すぎやしないだろうか。
「やめろよ。俺、動物に例えるならイノシシだなって親にも友達にも言われるんだぜ」
「ああ、確かにそんなイメージある」
一生懸命、真面目、思い込んだら一直線。
うたうように口ずさむ彼女の方に顔を向けたいが、カーブが多くなってきたのでよそ見をする訳にもいかない。それでも俺が戸惑っているのは伝わったようで、彼女は口を一度閉じた。
「……どうしたんだよ。いきなり」
「いきなりじゃないよ。貴方はずっとそうだって話。イノシシみたいに脇目もふらず、目に入ったもの以外余所見もしないで突っ走る」
だから、と続けた彼女の声が震えているのがわかった。顔を見たいのだが、そんな時に限って道路は蛇行している。ただでさえ曲がった道が苦手なのに。彼女に良い所を見せたくて別荘につれてきたのは早まったか、イライラする。俺はアクセルに足をかけた。
「だから、私がいくら貴方と付き合わないって言っても聞いてくれない!! ねえ、私は貴方の運命の相手じゃないし彼女でもない!! ねえ、私はどこに連れていかれるの?!」
アクセルにかけた足に力が入る。真っすぐ突き進んだ先には、白いガードレール。
3日目
もうすぐ年末。年賀状を書こうと思う人も多いと思います。平成最後ということもあり、こちらもバタバタしております。
来年に向けての干支グッズを出すにあたり、いのししカレンダー、いのししタオル、いのししクッキー、いのししストラップ……企画課の人達もお疲れ様です。そんな中うちの店は上司の意向でフェアをやることにしたそうです。
え? なにを出すかって、もちろんイノシシ肉ですよ。うちの店……
ジビエレストランなので。
4日目
子・丑・寅・卯・竜・巳・午・未・申・酉・戌・亥。
十二支だ。
十二支がこの動物になった意味を知っているかな? うんうん。速いもの順だね。ゴールに速く着いた十二匹までが、十二支の栄誉をもらうことになったのさ。
ところで、どうして猪が十二番目なんだと思う? 猪の突進力をなめちゃいけないよ。猪が本気を出せば、他の十一匹なんて目じゃなかった。牛の頭の上にいたネズミどころか牛まで吹っ飛ばして一位をとれたはずさ。なのに猪はそれをしなかった。なぜだと思う。そう、猪はとても優しかった。その優しさ故に猪はスピードを出さず、ゆっくりゆっくり、何なら足元のアリまで気にしながらゴールを目指したのさ。結果は惨敗。十二位なんてとんでもない。ランク外さ。
でもね、神様は猪のそんな優しい姿を見ててくれたのさ。優しいお前には十二支の栄誉を与えようってね。つまり猪は十二位だから最後にいるんじゃくて、特別枠だから最後にいるんだよ。知らなかった? ふふ、君に新しく知識を与えられたならよかった。――でも。
これをただの優しさが報われた話だと思わないでね。
5日目
時は干支時代。生まれ年の干支を身に宿し、十二の派閥に人は分かれ、どの動物軍が天下を取るかの争いが世界中で勃発していた。
「私年上がタイプなのになー。同じ領の男子たち、皆汗臭いし男臭いしマッチョすぎてマジ体育会系って感じ。亥年生まれだから?」
亥年生まれ、十七才JKの椎乃は、周囲の同級生たちを好ましく思えなかった。実際、闘いをどうでも良く思う亥軍女子たちの間ではもっぱら「牛系男子」が人気だった。
「のんびりしててマイペースで包容力のある牛系男子……ほんとうに魅力的……。でも出会うためにはこの頭のツノを牛っぽく加工して、髪の毛もモノトーンにそめて、牛軍領土まで身分も姿も隠して移動しなきゃなんだよね……」
しかしうら若きJKの冒険心と恋心は、邪魔な大人たちの制約を踏破するために動き出す。次号……領外でまちうけていた「虎系男子」との遭遇、肉食の魅力に触れてしまった椎乃の運命の相手は……。乞うご期待!!!
6日目
「フクちゃん、猪さ、獲ってきたんだけど。鍋にしない?」
同居人の山城は右手に血まみれのポリバケツ(中に赤黒い何かが見える)と左手にこれまた血まみれのゴミ袋(皮だろうか)を持って帰ってきたのである。よくもまぁ、補導されなかったものだ――いや、されかけたのかもしれないが。
「ちょっと……せめて血、落とすとかさあ。補導されたりしなかったの?」
「はは、職質はされた。暗かったし、帽子も被ってたから走って逃げたけど」
そう言いながらクツを脱いで上がろうとする山城を慌てて制し、洗面所からタオルを持ってくる。が、よく見ると服やクツは思ったよりも汚れていなかった。着替えたのか、それとも何か上に着ていたのか。「はいこれ。あんまり汚れてないね」
「うん、服が汚れると面倒だから裸でさばいたの。シャワーあびてくるね」
――裸で? こんな都会で猪を捕らえてきたことにも驚いたがまさか裸でさばいたとは。
そっちの方が職質されそうだなぁと私はぼんやり思ったのだった。
7日目
イノシシを食べたい。
こう言うとぼたん鍋だのなんだのを食べたがっているように思われる。だが違うのだ。ぼたん鍋にも確かに心惹かれるが「イノシシを食べたい」と「イノシシの肉を食べたい」は似て非なるものなのだ。
イノシシと呼ばれる生物は、大概まるい。曲線だけで構成されやや固い毛が生えた体は、実にのどごしが良さそうである。画像だけをスマートフォンで見たなら、冬限定の溶けやすいチョコレートのごとしだ。
その首根っこつまんでまずは空中に吊るし上げ、下から口で迎えに行ってぱっくりとひとのみで食べてしまいたい。ごわごわとしながらもどこかつるりとした舌ざわりを楽しみ、舌と上あごで軽く二、三度押しつぶした挙句に丸ごと飲み込んでしまいたいのだ。食道に引っかかりながらも最後には私の体の生物としての動きに抗えず落ちていくイノシシを、一番近いところで感じたいのだ。
それを感じられればもう胃などに用はない。私に飲まれたあわれなイノシシは食道の出口から頭を出し、もといた森へ一目散に駆けていくのだろう。
※上記の文章はすべてフィクションであり、実在する筆者とは一切関係ありません。
8日目
私達イノシシは嫌われ者だ。害獣と呼ばれ大きい牙と体を恐れられる。ウリ坊ならかわいいと言われるものの、成獣を愛でるなんてよっぽどのもの好きだろう。自分で言うけど。
でもどんなに大きくても恐がられても、それで腹はふくれないわけで。空腹は私達にとってまさしく死活問題。それは生きる上での最優先事項とも言えるけど、同じくらい優先すべき事もある。
それは人間と会わないこと。なんだけど……。
「おうおう、たんと食え!」
その人は朗らかに笑って抱えていたとうもろこしを投げた。目の前に転がったそれにどう反応していいかわからなくて、意図を読めず硬まる私に背を向けて、その人は麦わら帽子をかぶり直した。
空腹に耐えきれず人里まで下りてきた私に、逃げ出しも追い払いもせず、ただ笑って手をさしのべたその人。笑顔は眩しすぎて見えなかったけど、かぶりついたとうもろこしの甘さも、耳に心地いい声も絶対に忘れないと誓った。
そう、生まれ変わっても。
「えっと、君は……?」
押し倒されて戸惑う君の声は何年経っても変わらなくて、私の唇に笑みがこぼれた。