蛇足という名のプロローグ 【迷い猫】 | 飽くなき妄想の果て

蛇足という名のプロローグ 【迷い猫】

独自妄想その2。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで(>_<)
では、いってらっさいまし!

↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
まぶたに温かい温度が落とされた。
しかし、身体が思うように動かない俺は、人の気配に向けて殺気と共に目を見開き睨んだ。

「あ… やっと起きたの?」

本当は、もうずっと前から何度か覚醒はしていたが、目を開かずにいたのだ。

「ねっ 君 いくつ? 何て名前? どこから来たの? 女の子だよねっ」

矢継ぎ早に降り注ぐ言葉に、どことなく違和感はあるが懐かしさを覚えた。
俺がいつも憧れていた言語。懐かしい生きている「ニホンゴ」。
俺に語りかけている青年は、じっと俺の瞳をらんらんとした表情で覗き込んで尚も続ける。

「声が聞きたいんだけど?」

どこかでゆらめく小さな火の明かりが細々と感じ取られつつ
彼の言葉の意味は解ったが、俺には状況を確認するのが先だった…
どうやら、この青年は俺を危険に犯す… 例えば拷問するなどの意図は無いようだ。
俺は、無表情を保って屈服しない意気で目を見開いたのだが、その時の力をいつしか収めていた。
そして、俺は妙な安心を覚えてまた目を閉じ、記憶を振り返った…

                    **


充分な武装と自分の武器弾薬を確認した後に、輸送ヘリに押し込められ、今回のターゲット… 暗殺する相手のいる場所に運ばれて行く。
暗殺を実行するプランは、現地到着予定時間の5分前に行われ、ターゲットの顔や特徴は、そこで告げられる。
今回、俺はどうやら単独での暗殺なのだろう… 操縦士 副操縦士 それに、容姿を一様に揃えた黒づくめの男3人。どう見ても俺のように実動するような風体ではない。
珍しくはない状況ではあったが、ドラッグ漬けで思考が衰え始めたこの身体に、じっとりとした汗が滲むのとは他の嫌な何かがまとわりついてくる。
輸送ヘリが低空飛行に入ってほどなく… 黒い男の一人が振り返る。

「『零番』 今回のミッションだ」

俺は、不意に語りかけてきた相手に返事の言葉を発する事も無く目だけを向ける。そして、膝に書類の束をバサリと落とされた。

「5分で理解しろ」

いつもの言葉だ。
それを上の空で聞きながら、俺は書類に目を通しながら添えられていたターゲットの写真を何度も確認し、特徴を頭に植え付けた。
「(ふんっ スーパーイケメン…)」
暗殺プランを確認する最後の1分で、書類の内容を脳にたたきこみながら、書類の束を男に突き返した。そして、機械的な手慣れた動きで降下の準備を整える。

「30分内でターゲットをアウトした後、20分で戻れ!」
「…」

30分以内を越える時間で銃撃が確認された時点で、逃げ場も無く戦うことになる。
暗殺が完了しても、20分経てば逃げ道は無い。無茶苦茶な話だ。
大丈夫、地の理は頭に入っている。
「(いつも通りにこなせば鼻くそほどの仕事だがな!)」
そんな言葉を頭の中で叫びながら俺は、ヘリから一気に降下していった。

俺の今のコードネームは『sneaking cat』
そう…
音もなく相手に近づく猫。
感情も動かさず近づく猫。

降り立った地面の上で、ぎゅっと目を閉じ1分待った。今降りたった場所に、肌を馴染ませる…。
その後、地面と目標地点を何度も視点をうごかしながら、つま先だけで疾走していった。

(いつも通り、撃つだけだ。例え相手が誰であれ…)

しかし…
そこからの記憶が欠落していた…
思い出せない…

何故自分が水の中にいるのか?
何故自分が誰かの肩にすがって移動しているのか…
ただ、その時、左手のサバイバルナイフだけが指から抜け落ちていったのを覚えている。

*****************************************

「総司!!てめぇまた迷い猫や迷い犬をココへ連れ込んだのか!!」
「え~? 何の事ですかぁ?」
「じゃ~ そこをどけ 部屋の中見せやがれっ!」

怒号と、幾度か聞いたような声色を聞いて、俺は眠りの束縛から一気に戻された。
みぞうちの深くから湧き上がってくる激しい吐き気を押さえ込みながら身を起こし、身体をこわばらせていた。
そして、ほどなく外の光が眩しく勢い良く部屋を照らした。

「…」
「っ!」
「あ~あ 見つかっちゃった~」

おそらく怒号をまき散らしていたのはこの人だろう。
俺は、その相手と目が合った。
怒号をまき散らした相手は、俺の存在を見て、目を見開き、明らかに驚いている様子。
俺は、次に起きるかもしれない最悪の事態に備えて体術で反撃をする用意をしていた
が…

「あれ? 君… 脇腹えぐれてんのに、もう起きれるんだ~ すごいな~」

知っている声と瞳がすぐに近寄ってきた。

(これは敵ではない)

何故そう思ったのか…
俺の身体から力が抜けてゆく…

「総司… これは何だ?」

怒りが抜け、呆れ顔の怒号の主が、後ろ手で陽光を締めて問うている。

「何って!? 猫だよ~ 猫っ ほら~」
「俺には『人』に見えるがなぁ」

言語の変換が追いつかないが、間違ってはいるが間違ってはいない…そんな気分で、俺は状況をしばらく見る。

「どこで拾ってきたっ!」
「ん~っと… 三日前だっけ~ 僕がさ、何だか寝つけない夜だったんで、何か面白いこと無いかなぁ~…って、お散歩してたらさ~ 僕の事がとっても気に入らないって感じの六人の浪士に追いかけられちゃってさ~」
「何っ!? お前!俺はそんな報告っ 聞いてないぞ!」
「だって 僕 夢だと思ってたもの~」
「はぁ??」
「1匹ずつ殺っちゃいながらの方が面倒じゃないかな~ どうしよっかな~って思った途端 タンタンターンって音が鳴ってさ、びっくりして振り返ってみたら、横あいの川からバシャーって黒猫が現れて~ ものすごくちっさい刀持って斬り込んできたんだよねっ 僕も死ぬかと思った フフフ」
「…何だそりゃ…」
「けどさ 僕以外の奴ら死んでから この猫~ 酔っ払いみたいに嗚咽しながら倒れちゃってね もう危なくないみたいだし、何か可愛いかなって連れて帰ってきた」
「なんでそうなるんだ… お前は…」

その話を聞いて、俺は記憶は無くは無いような気はしたが、まだ把握には達しない脳がくらりと意識を遠のきそうになり、折角起こした身体を床に落とした。

「で… そんな危険な雌猫と、この三日ねんごろしてたってぇのかぁっ! またお前が猫持って来たって聞いて、「もう 猫くらいならいいか」と思っていた矢先! 猫ごときにお粥を作ってやってるっていう話を聞いて来てみりゃ!女じゃねぇかっ!」
「黒猫なのになぁ~」
「丸裸の女がてめぇの布団にくるまっててまだ言いやがるのかっ!!!俺から見りゃ白い雌猫だっ」
「あ~ だって いっぱい怪我してたからさ!何だか脇腹からいっぱい血を出してたり、太ももの裏とかえぐれててさ~ 面倒だから全部脱がせて手当てしてあげたんだよっ 変な着物でさぁ 脱がせるのに苦労したんだよね~」
「な~んで真っ先に医者に連れて行かねぇんだ…」

(そうだ…
この束縛感は全部包帯みたいに痛い箇所を締めつけるものだ。
小さい傷にはきっとゆるく何か布を巻き付けてくれているんだろう…)

「土方さん お願いっ この子もうちょっとここに置いてやってよ」

(土方? 総司? そういえば何だろう?そもそも俺がいるココはどこだ?)

「こいつ… ただの女じゃねぇな…」
「だから 猫だって~」
「肉の付き方が尋常じゃねぇ そこそこ鍛練された男でもここまで見事な身体は作れねぇ」
「だって 猫だもの…」

そして、怒号の主の土方は、部屋を見渡して衝立の奥にたどり着いた。

「っっっ!!!???」

声にならないような土方の奇声が聞こえた。
そして、見慣れた俺の所有物が、衝立をどけられた影から見える。
そこには、俺の相棒が…
それに振れようとした土方を見て俺は必死に身を起こし叫んだ!

「触るな!!!!ソレに触るなっ…」

驚いて目を剥いた土方がいる。
そして、咄嗟に右手を出しながら起き上がったが、座りきれない俺の身体を支えた総司がいた。
そのまましばしの制止だった。

「君 やっと口をきいたね ちゃんとしゃべれるんじゃないか」

何の言語を叫んだのかはわからないが、俺は声を出せた事に安堵した。
もしも、これが拷問であったなら俺はここで、失格だったはずだが…。

「聞きたかったんだ~ 君の声…」

無邪気とも取れるその声に、眉間をひそめてしまう。

「これは、ピストルというヤツじゃねぇのか?」

土方は、「触るな」という私の台詞忠実に、相棒には触る事無く、動けない俺にニヤリとした目で問う。

「名は『サムライ』ただのハンドガンだ」と私用にカスタマイズされている相棒を助けようとして言おうとしたが、言葉になったかどうだかの辺りでハタリと考えが混乱し、周囲を大げさに状況監査してしまう。

総司という青年は、おかしな頭… まげ?というのか それでいて着物であり… 土方においても、ニホンにいたころよく歴史の何かで見た着物。

「ここは… いったいどこだ?」

かすれた言葉が自分にも聞こえた。二人に聞き取れたのだか、何語をしゃべったのかわからなかったが、ちゃんと俺はニホンゴをしゃべっているようで…

「僕の部屋~」

と、総司はあっけらかんと答えたのに対し、土方は…

「京」

と、一言だけ答えた。
「京?」その一言に浮かぶのは、日本の名前を持った在りし日の自分が一番幸せに過ごしていた頃の京都!?

「お前ら誰だ… 俺に拷問しても何も出ないぞ 神経系の薬を入れたかっ!?」

俺はそう叫んだのだと思う。それが彼らに伝わるであろうニホンゴだったのか、よくわからない。思考がうまく働かず、色々な経験が混同して視界までもがぐちゃぐちゃに潰れていった。

でもすぐその後に聞こえたのは、優しい声だった…

「今の君の瞳ってさ 限りなく暗い翠なんだね… 君はまだ起きちゃいけない 悪いようにはしないからお眠りよ…」

叫んだ途端に視界を無くしていっていた俺に、優しい言葉が降り注ぎ、ワタシはそのまま… また意識を遠のけた。

*************************************
第2回目はここまで