飽くなき妄想の果て -709ページ目

基本設定って何だっけ?

猫さんのおさらい…

●名前:本名を覚えていない。いや、明かしたくないだけかも?
codename:「sneaking cat」。
sneakingを省いて「cat」と呼ばれる事の方が多かった。
訓練時代は「number zero」 zeroなのは、予定外の拉致だったため(?)に、そうなった。

●年齢:容姿は推定18~20。 

●背景:近未来。主要4カ国による第三次世界大戦勃発後すぐ、ルーマニアを中心とする各都市で、核爆弾が所要都市に落とされ、ルーマニア本土と、その周辺地域は、事実上壊滅状態に陥り、EU同盟が大打撃を受ける中、世界各国で、5歳~20歳に至る子供や青年が行方不明になるという事件が、1ヶ月の期間で起こる。しかし、これはあまり世界的に報道される事もなく、世界大戦のさなかという事もあり、人々の記憶からはすぐに消える…。

主人公は、12歳の頃に、日本から兄と共に亡命。←本人曰く「拉致」
拉致の後、あらゆる武器や体術を身体にたたき込まれ、あらゆる国の語学を学ばされる。
拷問訓練と称する虐待を受け、身体は傷跡だらけ。
訓練終了後、早速指揮官として、戦場へ借り出され、世界大戦が冷戦状態に入った後は、主に暗殺を目的とする任務を負う。たまにボディーガードなども受ける。
実動任務に入る折りに、麻薬系のドラッグを打たれ、ドラッグが切れると狂ったように敵味方関係なく、動くモノの息を止めるまで暴れる。

●身体:本人曰く、ヴァンパイアのオリジナルデータを持つたった一人の女王様。
身体の代謝は、恐ろしいほどの回復治癒力があり、少しくらいの傷なら半日で治る。
ただ、紫外線にはすこぶる弱い… 油断して、昼間動き回ると、身体が勝手に眠りへと落ちる。
お食事は、当然人の血… 今のところは、プロテイン的なゼリー飲料をチビチビ飲んで持ちこたえている。
嗜好品として、酒たばこ。人間の食料… 特に魚を好む。
胸に銃を押し付けての自殺経験アリ… 心臓ごと吹き飛んだはずが、まだ生きている。
子宮を摘出されている事だけは覚えているが…
自殺理由も、摘出理由も覚えていない。
女性ホルモンの低下のせいか、鍛えた筋肉は、普通の男子を遥かに超えている。しかし、身体は女性本来の軽量かつしなやかさを持つため、瞬発力は傭兵組織きってのスピードを誇る。codenameの由来はここから。

●性格:基本的には明るい性格。
関西育ちの気質から、ボケ倒すのは日常茶飯事。人殺しにもjokeを織り交ぜる狂いっぷりと、天然っぷり…
昭和かぶれの兄の影響で、とんでもない古いギャグをも操る。
古い映画やオペラ、ミュージカル、jazzにrockが好き。
頭脳は明晰で、頭の回転がものすごく速いが、多い会話の内容は、いつも遠回しな所から弾丸のごとくしゃべりはじめる。
お金に関する内容に、すぐにとびつくがめつさは、生まれつき(?)
乗馬やピアノ… 弦楽器も得意。

●装備:アメリカから取り寄せたM92Fを独自に強化カスタマイズしたハンドガンを”dress modelサムライ”と称して使用。この時点で、M92Fはちょっとしたレトロ銃。最後の任務には、組織指令に乗っ取ってトカレフを使用した。本来は、コルトガバメント”heel modelサムライ”を装備していたが、銃弾がかさんでバックパックに入らないので、”dress modelサムライ”に重点を置いた。
左の大腿部のベルトには、サバイバルナイフ。右の大腿部には五本のダガーナイフがベルトで固定。
ダガーナイフを「ボニー」 サバイバルナイフを「クライド」と愛称をつけている。
他に、彼女はPSG-1も扱う事もあった。
夜中を基本に動くため、黒を基調とした、迷彩柄スーツは、撥水性が良い特殊な繊維で作られた防護服。だが驚くほどに軽量。ナイフなどの軽い刃はよっぽどの鋭利さが無い限り肉体へは通さない。
首には、白兵戦において、簡単に掻き切られないように太い皮のベルトを巻いている。
皮の手袋は、その手に持つナイフや銃を手に吸い付けるかのように密着したもの。
腰のベルトには、マガジンの予備や、工具、プラスチック爆弾などのさまざまな装備が密着して付けられている。
背中のバックパックには、予備弾や麻酔弾、カードリーダー モバイルなどさまざまな道具が入っている。
そこかしこに皮のベルトが使用されているのは、敵に捕まった際、それを敵が解く間に、自決できる時間を設けるため。自決剤と称されるものは、任務の際前歯の裏に密着するように仕込まれていて、自決の際はそれを舌で取り外したのち、「奥歯で勢い良く噛むように」という指示を受けている。

●容姿:身長は165cmくらい。大きくもなく小さくもなくの胸部の膨らみと、女性特有のラインはあるが、肩や上腕、周辺の筋肉、臀部から下肢にかけての筋肉も極限まで磨かれたパーフェクトバでぇwww
当然腹も割れている。でもやはり女子なので、ウエストの位置は高い場所にあって、かなりの足長。
瞳の色は、一見黒だが、明るい場所や光が差すと深い翠色が鮮やかな光を放つ。多少つり目。
髪は、漆黒。長髪であるのは、首や周辺の動脈を守る為。耳の横の髪が短かめにしてあるのは、最低限の視界を得るため。
肌の色は、日本人よりも北欧人種に近い白。それはお爺さんに当たる人がルーマニア人で、クォーターであるため。父の血が濃かったのか、顔立ちは、しっかり日本人。

●家族:兄は、普段は普通の外科医。父親違いの兄妹。
父はマグロおたくの漁師(ほぼ趣味)で、彼女が10歳の頃、漁に出たまま帰らぬ人となる。
産みの母は、不明。
育ての母は、脳科学を主とする医科学研究者。
家族全員が、特許を持っていたり、金持ち… 





こんなもんかのぅ…
では、これを踏まえて、「局中法度篇」へ…

ある日のつぶやき… 猫篇

「いいなぁ… あぶく銭… どっか湧いてねぇかなぁ…」

「変な言葉覚えんじゃねぇっ!せっせと働け!」

本編18「師と輪と猫」

独自妄想トータルでその19?。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことだったが…どうやら、ねじ曲がりこじれぐっちゃぐちゃ(>_<)

やっとこれで終わる…

ほんとちょっと、薄桜鬼やってて、ムカッ!としたものを覚えた所が…
それ思い出して、ついカッとなってやってしまった…

では、いってらっさいまし!
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山南がなかななか寝つけずに、何度も何度も寝返りをうっているうちに、どこからか「ザクザク」という音が聞こえてきた。

「ん~? こんな夜中に一体…」

こんな夜更けに、誰が何をしているのだろうかと、山南はムクリと起き上がり、そそくさと眼鏡をかけて部屋を出た。
そして、庭へ降りると、建物をぐるりと抜けていく…。

「あ… 先生… すいません 起こしてしまいましたか… あはは」

山南が、猫の姿を見つける前に、向うから話しかけてきた。

「どうしたんです猫君。こんな夜中に、そんな隅っこで…」
「あ~… 猫の死骸… ちゃんと埋めてやろうと思って…」
「猫ぉ?」
「いやいや 私の事ではなくて、この朽ちた黒猫の死骸ですよ… いつも腐臭がするなぁとは思ってたんですが… 辿ってきたらここに… この間カラスが面白がってたかってたのはコレだったんですね…」

すると猫は、地面を指した。
目を凝らせてみると、そこには、もうほとんど原形を留めていない黒いぐちゃぐちゃの毛と骨が塊で落ちていた。

「あ~ それでお墓を掘っていたのですか…」
「お墓か… すいません… 先生… 私には、お墓という概念はありません…」
「じゃぁ 何故?」
「ただ地面の上に落ちているよりも、埋めてやったほうが分解が早い…」

無機質に語る猫に、悲しくなり… 山南は、胸が締めつけられる思いで、作業を再開させている猫をじっと見ていた。

「全く… 総司めぇ… 覚えてろよ… こんな可哀相な事しやがってぇ! あ~ 元はと言えば、俺のせいか… ごめんよ… 猫助…」
「動物には優しいんですね 動物は好きですか?」
「さぁ… どうでしょうかね… ただ、動物は俺の事をいじめたりしないし、無条件に私を愛してくれるから… ま どっちかと言うと、好きなんでしょうね… っと 終わった! ナムアミダブツ~」
「はぁ… あなたという人は…」
「先生? お休みにならないんですか?」
「なかなか寝つけなくて、困っていたところなんですよ…」
「じゃぁ ちょっとだけ外へ付き合っていただけますか?」
「ええ… もちろん… しかし、どこへ?」
「隣の寺にでも行きません? ほらっ 見てくださいよ先生っ 月が無いせいで、星がたくさん見える… すこし広いところで、しばらくあれを一緒に見ましょうよ」
「ほ~ぅ これはまた見事ですねぇ いいですねぇ では参りましょうか…」

山南は、夜着のままだったが、別段それを気にするわけでもなく、猫と寺へ向かった。



境内まで来ると、猫は無邪気に手をいっぱいに広げて、高だかと手を差し伸べた。

「ほーら先生っ 少し広い所で見るともっといっぱい見える!ひゃっひゃっひゃ~」

「(こんな純粋な子が… どうして…)」

山南は、星を見て喜ぶ猫の後ろ姿を見て、右手で胸を掴んで下唇を噛んだ。

「おっ …………。 金金金っ!!」
「っ!? なっ 何ですか?いきなり…」
「流れ星っ 流れ星が消える前に願いを三回唱えると叶うらしいですよ~ 私は、今ちゃんと間に合ったかなぁ…」
「(純粋な子… 前言撤回ですっ!)金の亡者ですかっ!あなたは、そんなに儲けたいんですか?」
「いやぁ~ 別にここではまだそんなに必要じゃぁ無いんですけどね~ ありすぎて困るもんでもないし、たまには 酒の風呂に浸かったり、ギャンブル… っとと え~っと博打かな? それにかまけてみたり… 憂さ晴らし憂さ晴らしっ♥」
「あなた… 筋金入りのワルですねぇ… はぁ…」
「そうかもしれません~ でも… 金を使う事は悪い事じゃないですよっ 酒をいっぱい買ったり…、好きな服をいっぱい買ったり まぁ ギャンブルはどうだか知らないけれど… お金は使えば使うほど巡り巡って、その商品の研究費用になったりで、よりいい物を産み出すための糧となる…」
「なるほどね… 猫君は市場に貢献しているってわけですか~ しかし、酒風呂とは随分もったいないような…」
「たはは… まぁ… こんな傷だらけボロボロの身体ですが… ありゃ、結構いいもんですよ… 肌がつるつるすべすべで、浸かったまま眠っちゃうほど気持ちいいっ! いくら見苦しくても、多少の自分磨きは必要ですしねっ 」
「またそんな事を…」

山南は、そんな事を言う猫に、どう言えばわかってくれるのだろうかと、考えて少し黙り込んだ。
その様子に、猫は首を傾げて目線を落とした…。

「さっきまで土方さんと一緒だったんでしょ…?」
「ええ…」
「それで、また眠れなくなったんでしょ…」
「……。」
「全部聞いたんでしょ?私が怖くなったでしょ… もしかしたら、私… 先生に飛びかかって、その血を求めて咽元に食らえついちゃうかもしれませんよ?」
「はぁ… そんな事するなら、もうとっくにやってるでしょ… それに、あなたが怖かったら、こんな誰もいない所にのこのこ着いては来ません」
「……うん」
「怖がっているのは、あなたの方ではありませんか?」
「………そうですね」
「私は、あなたを見捨てるなどしませんよ… どこまで信じられるか、未だ気持ちを整理できてませんが、全てを受け入れるならば… 
そうですね… 永遠をあてがわれた、あなたという吸血鬼の存在が現実にここにあるなら、答えはこうです。
私は、あなたを置いて先に寿命が尽きてしまうのでしょうが… それでも、あなたの記憶には私との思いでが残るでしょう… だから、沢山の思い出を、私や土方君… 皆と作ればいいのです… それから… 私は約束します。思い出が薄れて消えそうになる前に、また生まれ変わってあなたに会いに来てあげますよ…」

すると、猫はぱっと顔をあげて山南の顔を瞳に焼き付けた。

「先生はすごいなっ! そんな事ができるのかっ!」
「あ… いえ… 努力はしてみますが…」
「そうか… 人の生もくるくる回ってるのか… 輪廻転生って本当にあるのか… 先生! わかりましたよ!」
「はい?」
「世の中の物は全部回ってるんですよっ!」
「はぁ…」
「ほら、さっきの猫の死骸だってそうですよ 土に帰って草木が育つ為の糧となって、その木や草の実を鳥がが食べて、その鳥を猫が食べる…」
「(ああ… 葬ってやるという概念ではなく、そういう事を思って埋めていたんですね… この子は…)」
「地球だって回ってるし、お金だって回ってる… ああ… そうだ… もう一つ、ちゃんと先生に言わなきゃね… 屍を肥だめに放り込んだワケを…」

猫は、山南の軽蔑した目を忘れる事ができなくなっていて、ずっと気に病んでいた。
それから猫は、原田に説明したように本当の意味を素直に話した。





「そうだったんですか… そんな意味が…」
「ええ… あの人の血や肉も、すぐに分解されて、来年は稲の肥料になるんでしょうねぇ~ それを食べるあなた達にとっては、あまり気持ちのいいものではないでしょうが… あの人が、どんな人生を歩んできたか、私は知りませんが、死ねばただの屍… そして、それは皆平等。 いい稲が育てば、あの人も少しは”浮かばれる”ってやつじゃないでしょうかね… あんな冗談を言ってあなたを惑わせてしまって、申し訳ない事をしてしまいました。すいませんでした… あ あ~ 私はまた、何か間違ってるでしょうか… すいません… 」

泣きそうな表情になっている山南を見て、猫は慌てた様子で、何度も謝っていた。

「いえ… 謝るのは私の方です…。あなたがそんなに思慮深い人だとは思っていなかった…。ただ単に、あなたが私より年若いという外見だけで、本質を見極めきれていなかったのですね… どちらが教わっているのだか… あなたに「先生」と呼ばれるのは、悪い気などありませんが、少々役不足のようです… 申し訳ないです…」

逆に謝ってくる山南に、猫はひどく顔を歪めて駆けより、自分の掌をその胸元に手を当てた。

「何を言ってるんですかっ! 「先生」は「先生」ですっ! あなたは、私に色んな事を教えてくださったし、今もこうしてあなたから沢山の事を学んでいるんですっ! 「先生」をやめるなんてヒドイ! ちくちくねちねちした超長い説教もちゃんと聞きます! だからっ!」
「あ~ 猫さん… そんな風にお説教を聞いてたんですね…」
「ギクリっ!」
「そりゃぁ… 自分の感情が収まるまで一気に叱りつける土方君よりは、少々長く感じるかもしれませんが、それは、あなたがちゃんと理解できるように配慮しての事ですので、わかってください」
「はい… 先生…」

そして、山南は、今夜初めてはっきり見る猫の顔を間近にして、ざわざわと殺気を沸き上がらせはじめた。

「ね~こ~君! その頬の痣は何ですかっ! それに、口の端も切れているようですがぁぁ??」
「あ? あ~ これか… あはは 土方さんにどつかれまして… たはは 腐りきってた私が悪いんです… あんま 気にせんとってください~ もう、傷口固まってますし…」
「そうですか… 土方君ですか… あんの色(ピー)ガイ野郎めぇ~~~~~っ!」
「あ… あの… センセ… 何だかキャライメージ外の言葉が聞こえたような… (いや 気のせいだ… クレヨンしんちゃんの友達…ねねちゃんのママ的なもの伺えるけど気のせいに違いない…)

でっかいウサギのぬいぐるみをドカスカぶん殴る山南の姿を思い描きつつ、猫は、山南の胸に置いていた掌を放そうとした。
が、その左手の手首に、山南の力強い手がかかった。

「あなたもあなたです! あなたなら、あんな土方の拳など避けられたはずでしょう!? 何故、わざと殴られるような真似をしたんですっ!」
「あ~ いやぁ… その… ホントに俺… 悪い物言いしちまったんで… その代償に少しばかりの叱咤は受けるべきかと思ったわけで…」

すると、山南はひどく怒った形相で、猫に詰めより、高く結い上げられた髪の根元を掴んでギューっと結い紐を荒くほどいた。
そして、バラリと落ちたその髪を丁寧に手櫛で整えた。

「わかってない… あなたは、わかっていない… この柔らかでつややかな髪… こんな漆黒の闇の中でも、星明かりを受けてきらめいて…」

更に、山南は髪を撫でていた手を、猫の頬に置いて親指でその唇をなぞった。

「白い肌に浮き上がる桜のような薄紅… いえ紅梅にも劣らない色鮮やかな小さく儚い唇… 形の良いすらりとした鼻筋も…」
「…。」

何も言い返す言葉が見つからない猫を置いて、山南の親指の先は、猫の眉筋をなぞった。

「そして… 誰もが一番に魅入ってしまうこの七色を映す瞳…」

その言葉の端で、猫は思わずまぶたを少し伏せて、目線までも下へと落としてしまった。

「伏せないで欲しいのですが…」

残念がる山南に、猫は答えた。

「駄目なんです… これだけは約束なので… 私が私を守る為に…」
「そうですか…」
「でも、山南さんが言おうとしている事は、何となくわかりました… 兄貴しか言ってくれなかった事を、ほぼ全て言っちゃうんだもの… 参ったな…」
「あなたのお兄さん… 土方君は、まだすこし何かを隠しているようでしたが… あなたをとても大切に思っていたのでしょうね… 少し妬けます…」
「あはは は… ちょっとアイツは、妹萌えすぎて… あ~ いや 愛情過多ってやつですかね? それが過ぎてて頭がおかしかった…」
「あなたにとってお兄さんは、兄という役割以前に、母であり父でもあったのでしょうか?」
「あ~ そんな所もありましたかね… でも、たぶん… もっと深いんでしょうね… 私たち吸血鬼は、過去も未来も永遠に近い時を過ごす… その優越も、悲しみも辛さも… 全部を共有できるのは私達だけだった… あなた方人間は、この世にある全ての循環に沿って生きているのでしょうが、私たちだけは、その輪から抜け落ちた、ただちっぽけな「点」でしかない… 私は、それについさっき気付きましたが、きっと兄貴は、もっと早くに気付いていたはず… 私は幼かった。 そして、まだ幼いんだ… この手にかけた兄貴の為にも… いえ… 直接的にも、間接的にも俺は何千万人… 何万人何億もの命を奪ってるんだ… この背に科せられた責任は、今、私が考えている以上に重いものなのかもしれない… 学ばないといけない… そして、全て思い出さなければならない… ただでさえ押しつぶされそうなのに、あんたらときたら…」

そこで、猫は、左目だけから涙をボロボロと落とし始め…
更に続ける。

「でもさ… 山南さん… あんたのおかげで、未来への不安が少し和らいだよ… thank you for the dear teacher…」

その言葉の終わりで、右目からも涙がポロポロと流れ始めた…。

「あ? あれ… おかしいな… 涙ってこっちからも出るんだ… へぇ… あはは」

以外だなとばかりに、右目の涙ばかりを拭って確認する猫の左目の涙を、山南が親指でそれを拭った。
必然的に、それは、山南の両手が猫の顔を覆う形になっていた。

「あなたに、お願いがあります…」
「は? へ? 何でしょう… 先生…」

いつもの優しい表情で、山南は猫の顔を見下ろしていた。

「私も、土方君や沖田君みたいにあなたの配下に置いてやってくれませんか?」

猫は、以外とばかりにその瞳をいっぱいに開いて、眉間にしわを寄せた。

「駄目だ… 駄目だっ! 先生っ! 俺は嫌だっ! 土方や沖田に斉藤は事故だったんだ! あれは俺の責任なんだ! 俺はこれ以上しょいこみたかぁねぇんだっ! あんた先生のくせに馬鹿かっ! 教員実習生に降格させっぞ!」
「っぷ 降格ですか… それでも構いません。 私は、あなたという”人”をもっともっと知りたい… それに、会って間もないのですが、私はあなたがとても愛しい存在だから… とても自然な成り行きで… こうしたい…」

そして、山南は猫の唇に、自分の唇を合わせようとしたが、猫はふいっと顔を横に向けてしまった…。

「先生… 私… 責任持ちませんからね… どれだけおわかりになっていらっしゃるか理解できませんが、あなたがそんなにおっしゃるなら… う… 受けましょう… ただし約束してください… 絶対! 絶対… 産まれ変わっても私の所に会いに来てください…」

そして、今度は猫の右目だけからポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「ええ… 約束します… 努力します… だから、私を信じてください… 待っていてください…」
「うん… わかった…」

そして、山南は、猫の腰に腕を回して身体を少し持ち上げながら、小さなくちづけを落とし、その少し後に唇を割って少しだけ舌を忍ばせた。
そこで、山南は「ん?」と、首を傾げて唇を離した。

「猫さん… 少し口を開いてもらえますか?」
「ん… あ~ えっと… アレですか… あまり良い物じゃないので見せたくないのですが…」
「見せてください… はいっ 口を大きく開けてっ!」
「ん~ はい… あぁ~ん」

猫は、「これですか?」とばかりに、前歯の横に生える牙を剥き出しに口を開けた。

「ほ~ これは、なんとも可愛らしい八重歯…」
「はぁ? かわへらひいぃ?」
「これもまた 魅力的な…」
「はへ? ひひょふへひ?」
「あ… あ~ もういいですよ… 口を元に戻して… ははは…」

すると猫は、あくびをするように一端更に大きく口を広げた後に、元のように唇を閉じた。

「カワイイ? いや、コレ… これだけは、兄貴も忌み嫌って苦い顔してたのに… ホント先生わかってるの? この牙は… あんたらの血を吸う為の… 最後の… 私の武器…」
「そんな事、すぐにわかりましたよ… でも、私には可愛いとしか思えませんね 私が食料として見えるなら、もうすでにこれで噛みきっていたでしょうが… あなたは、そんな事してないじゃないですか…? 例えこの先、そんな衝動があったなら、私は進んであなたの糧となる勇気は出来ています。(最初に会ったあの日から、私はあなたの瞳に捕まってしまって動けないんですから…)」

猫は、流れでた涙の後をグシグシと無造作に手の甲でぬぐい取って、また空を見上げた。

「んも~ やっぱり教員実習生に降格っ!」
「ふふふ 構いません それでも あなたの「先生」でいさせてくれるのでしょ?でも、私にとってもあなたは「先生」です。また色々と教えてください」
「Oui! じゃ あれ 知ってる?」

猫が指す先には、川のように煌めく星達が無数に列を成している。

「あ~ あれは、天の川ですか? 七夕あたりにはもっと鮮やかなのでしょうが…」
「んふふ~ 織り姫 彦星な~んて 浪漫譚は世界のどの地域の話か知りませんが… あれはね、異国語では「milky way」と言うんです。」
「ほぉ… どういう意味です?いや天の川なのでしょうが…」
「日本語に直訳すると「乳の道」ですねぇ~」
「はぁ? 「ちち」? もしかして「母乳」ですか?」

猫が、自分の胸をぽんぽん叩いていたので、山南は、すぐにそう悟った。

「そ… 母乳なんですよ~ 時に、山南さん… ギリシャという国をご存知ですか?」
「ん~ 異国の書物では度々出てきてはいますが、日本のようなおとぎ話がいくつかあるのかな…としか… 異国語が難しくて、未だ理解に及びません…」
「それですよっ その おとぎ話っていうのが、ギリシャ神話と言って、数々の神々が織りなすメロドラマっ! あ~いや、多数が色恋芝居… その中で、あの「milky way」の由来が出てくるんですよっ っと あ~ 先生… やっぱりもう帰りましょうかね…」

あくびをかみ殺そうとした山南の様子に、猫は気がついた。そして更に、猫は口を真四角に広げて、顔を蒼白にさせた。

「や… やべぇっ!! 殺されるっ! 「とっとと帰ってこい」って言われたの忘れてたっ! それで来てたのかぁっ!」

突然慌てはじめた猫の様子に、山南はその慌てぶりの理由をすぐに悟った。

「あ~ 猫さん 土方君ですね? 大丈夫です… あなたが怒られないように、私がついていきましょう… 私が言えば土方君もそんなに怒る事も無いでしょうから…」
「いいえ! 駄目ですっ! 親方の言いつけを忘れてしまっていたのは私ですからっ! 先生はとっとと帰って、とっとと眠りこけてください!」
「っぷ わ… わかりました… あなたのそれは、どうして笑いを誘うのでしょうかね…」
「笑いはこの世を治める為の政策の一環だからです! ほらっ! 急ぎましょう!」

そう言って猫は、山南の手を取って走り出した。

「(この子は… 永遠の未来に何を望んでいるのか… 私は、それを絶対に見たい…)」


                   **

「ん~ あ~ え~っと… すいません…」
「何してたか、ちゃんと言えば許してやる」

山南を無理矢理部屋へ押し込めて、早急に土方さんちに戻って来た猫は、明かりを灯してまだ起きている部屋の主にまず謝った。その相手は、湧き出そうな殺気を押し殺すのが必死な様子…。

「あ… ああ… 行動報告します…… え~っと… 副長と斉藤さんが去った後… しばらくぼやぁ~っと、雲が流れてくのを見てたんすけど… 「ひゃっほぃ!星全開!新月万歳!oh!yeah!」な所で、どっからか腐臭が漂ってきまして… その腐臭を辿っていきますと… 何とそこに、先日沖田の馬鹿クソ野郎が俺のクライドで試し斬りでボコったのであろう黒猫の亡骸が落ちてまして…」
「あ~ お前ら、そんな事もあったのかよ… てか お前 遊び相手変えたほうがいいぞ…」
「私も、常々思ってますが… っと 続きます。 黒猫の肉の塊埋めようと、ボニーで土を掘りまくってた最後あたりで… 山南副長に見つかっちまいましたっ! そこで少し会話したんすけど、フクチョーってば… 浮かないってヤツの顔でして… こりゃやっぱ、土方さんが言ってた通り俺のせいだなと… 気晴らしになるかと思って、折角の新月で星もいっぱい見れる事だし、少し広く空が見れる隣の寺へ誘いました!」
「はぁ…… また天然な事やらかしやがって…」
「は? 天然? あ~いやいやいやっ やはり 先生は凄い人ですねぇ… 私の不安を一掃するかのような台詞をぶっこきやがりましたぜ… うううっ…」
「どんな事だってぇ?」
「先生とか土方さん達といっぱい思い出を残しなさいって… で… 先生… 私の未来について… そこに… 会いに来て… くださる… って… あらら?」

猫の右目だけから、突然涙が溢れて止まらなくなった。
それを見て、土方は困惑するが、困惑具合は猫の方がひどかった。

「センセ… やっぱ… マズイ… だめ… ヒジカ… とめ… 俺… また… 俺… かよ…」

猫は右目からだけ、涙が止まらずポロポロとこぼれ落ち、身体を激しく震わせながら、細かい息をしゃくりあげていた。
それは、今まで見ていた暴れる猫とは違っていて、土方も身体を押さえるのが少し遅れてしまっていた。

「お… おいっ どうしたっ!」

土方は、猫の両肩をしっかり掴んで、懸命に紡ごうとする言葉を待った。

「せんせっ… 俺っ せんせもっ… Cheva… 俺のもんに… ヒジカタ… これ… 何だ?… し… 心臓… 熱いっ 兄… 兄貴じゃ… ない… 何で… 何で… 俺に押し付けるんだ…」
「あ~ もういいっ! 俺を、母ちゃんでも兄ちゃんとでも思って構わないから、すがっていい! 泣きたいときゃちゃんと泣け! 我慢すんな!」
「へ… へぃ… 親… びん…」
「俺が悪かったよ…」

何度もしゃくりあげて、普通にしゃべれなくなった猫の背中に、両腕を回してそれをとんとんと軽く叩いた。

「ちゃんと息しろよ?」

すると、猫は土方の胸の中で、「うんうん」と頷いた。

「(山南さん… こんなガキ相手に… 何やってんだよ… 俺たちゃこんな事やってる場合じゃねぇんだよ…)」

土方の腕は、いつしか猫の腰を抱き上げるようにしていた…。

「あ… あのぅ…」
「どした?落ち着いたか?」
「ええ… というか、少々窮屈です…」
「おっと わりぃ」

土方は、猫の腰を開放し、とっとと離れた。その土方の顔は、非常に不機嫌で、目は半分も開かれていない。

「そういえば… また土方さん迎えに来てくれてたんですね…」
「ああ 帰りがとんでもなく遅ぇからよ… この辺探しても見つからねぇし… あと、おめぇが行きそうなとこっていやあそこしかねぇだろ…」
「すぐ声かけてくれりゃ… あんな事には…」
「かけられるかっ! あんな雰囲気のとこ入って行けるほど、無粋なヤツじゃねぇっ!」
「兄貴だったら、すっ飛んでくんのに…」
「お前… いい加減、俺とてめぇの兄貴混同したり、比べるのやめろよ… 俺はてめぇの兄貴なんかじゃねぇんだ! 俺は俺だっ!」
「そんな事わかってる! わかってるけど、止まらないんだよっ! あんたはあんただけど、兄貴じゃないってのわかってるんだけど… あんたの事考えると、何だか心がモヤつくっ!ムカムカするっ!」
「っか~~… もういいよ…」
「山南さんは… また別… 兄貴と同じ事言ってくれたけど… 全然違う… 兄貴が嫌う私の… 一部分を… あの人は、褒めてくれた… だから特別…」

「(ったぁ~~ 相思相愛かよっ!やべぇぞこりゃぁ…)」

「あ~… でも、何で山南さんは、俺なんかの配下に入りたがったんだか… Knightを4人も抱え込んだら、大変ぢゃないか… しくじったなぁ…」
「なにぃっ!? てっめ… あんだけ吸いつきまくっといて!(わかってなかったのかよ!馬鹿天然にもほどがあるぜっ!)」
「吸い付きまくる? ん? ん?」
「な… 何度も… 口… 合わせてたじゃねぇか… 言わせんなよっ!」
「はぁ? いや~ 口ん中は、まじまじ見られましたが… はっは~ん さては、勘違いしやしたねぇ?」
「何ぃっ!? 口ん中ぁ?」
「ちょっとくらいは妬けました?」
「妬くかっ! 何で俺がっ!」
「ちぇっ 面白くない…」
「鬼だなお前はっ!」
「だから、吸血鬼ですってば…」

「減らず口はこの口かっ!」と、言いながら、土方は猫の頬を掴んで強く引っ張った!

「にゅぅぅぅぅ~~~」

びよ~んと伸びた、猫の口の端に傷があるのを思い出し、土方は「ハッ」となりすぐにやめてしまう。

「あ~ そうか… こりゃ マズイんだなっ おっとそういや、お前の口の中っていやぁ アレだろ?」
「な… 何だよ…」

土方は、猫の小さな口に手をかけて、無理矢理唇を開かせた。

「この牙…」
「っ!」
「ん~ こりゃ よく食いつけるだろうなぁ~ そういや、あんな冗談言って悪かったな… 総司の腹食いちぎれなんて… あんときゃお前がそんな… 吸血鬼だなんて思ってなかったからよ… すまなかった…」
「んぁ~ あれか… あれは、俺も少し噛みついてやってもいいと思った。土方さんが俺を気づかった行為に対して、馬鹿にしてたからな… ま… もしも、あの時俺が”渇いて”たなら、土方の命令通りやってたかもな…」
「もう忘れろ… あ~ そうだ… そのお前… お前の身体を生かす為には… 人の血が必要ってなら… 俺は…」
「待った! 土方さん… あんた、今、とんでもない事言おうとしてる… 山南さんが言った事と同じだな? きっと… やめてくれ… 俺は、あんたらを食料なんて定義で見たくはない… この生業やってるんだ、どうせその段階で、つまみ食いなんかいくらでも出来る。心配すんな…」
「何だか… 複雑すぎてわかんねぇが… お前はきっと… いや… 何だろ… その牙ぁ誇りにしてもいいと思うぜ…」
「誇り? なぁに言ってんすか 副長…」
「俺に噛みついたのは、それは、俺を敵視して心底嫌ってたんだろうが、ありゃ事故だった… でも、その後誰にも噛みつかずにずっといるじゃねぇか…」
「そ… そりゃぁ… 闇雲に食い散らかすなんて事、出来ないっしょ… そんなの女王様が怒る… 食うのは女王様だけの特権だ… 俺はそれに生かされてるだけの存在だから… 新見の件であんたに殴られた後、俺は衝動に駆られてタコじじぃの血を舐めた。本当はとんでもない混乱が入ってた… 激昂した女王様を2番目が閉じたんだな… ああ… あんた達のおかげで、俺達は強くなれるかもしれない… 普通の人間になりたいなんて、今まであんまり思わなかった事だけどさ… 今日… あんたらが羨ましくなった… って! もぉぉぉ あぁぁぁ! ほらっ! 土方!寝ろよ! あんたらは夜寝る生き物だっ! 俺につき合ってんじゃねぇよ!」

猫は、土方の胸ぐらをいきなり掴んで、その身体を軽々と引きずって布団の上に落とした。

「ったぁ~ もう… お前… とんでもねぇ男前だなぁ…」
「疲れてるのは、あんただっ! どうせ明日も仕事だろっ!? その心臓しっかり動かせ! 俺の心配ばっかりするんじゃねぇ! クミチョー命令だ! すぐ寝ろ!」
「ああ… わかった てか、真似すんじゃねぇよ…」
「俺は俺のことばっか押し付けてたんだなって… やっと今日わかった… だから… あんたが眠るまで見ててやるから、もう… 開放していい…」
「じゃ… 歌えよ… 俺だけに… 俺の為だけに… 誰にも聞こえないように… あの歌を…」
「わかった… お前以外の者への心を閉ざそう… お前はワタシにとって特別だ… お前の持つ哀色に心を込めて… ワタシはお前だけに… 静かに瞼を閉じるがよいぞ…」

Lovin' you~
Is easy 'cause you're beautiful
Making love with you is all I wanna do~♪

「(この身が、気付くのにどれだけの経験が必要なのであろうな… 真実はもう見えていると思うのじゃが…)」

                     **

「猫ちゃ~ん? 局長が呼んでるよぉ?」
「んあ?」

猫が目を覚ますと、開けっぱなしの障子の奥から射す真昼の太陽を背に沖田が見下ろしていた。

「まだ調子悪いの?」
「あ… ああ~ わかった… すぐ行く」
「猫ちゃん… どうしたのさ…」
「ああん?何がっ」
「何だか 雰囲気が違う…」

猫は、不機嫌そうに部屋を見渡した。そこに土方の姿は無かった。

「土方さんは?」
「あ~ うん 朝飯食わないうちに出てったけど?」
「山南さんもか?」
「うん…」
「で、何故局長がまだココにいるんだ…」
「そんな事僕が知るわけないじゃない~」
「それもそうだな… しかし、お前… 一番組名乗るならそれなりの上官の素行を見抜けよ?」
「それはどういう事かなぁ 猫ちゃん?」
「ばっくれやがって… まぁいい… 行くぞ沖田さんとやら… 新たな血が俺達を待ってる… お前は俺に着いてこいっ!」

すると猫は、自分の為に新調された隊服に初めて袖を通して、それを翻した。

「あ~ そうそう… 猫ちゃんさぁ それ着たら用心したほうがいいよ? 人の目が痛いからぁ~」
「まぁ そうだろうな… それは、俺もわかってる」
「どうだかねぇ~」
「ほらっ! 局長呼んでんだろ! 行くぞ!」

                  **

旅支度をして、猫は土方を待っていた。
昼過ぎに、日が少し傾きはじめた頃にやっとその姿を現してくれた。

「おけぇ~りなさいましっ」
「あ? どしたっ! そんな格好して…」
「似合ってますかねぇ~ こんな明るい色は、俺にゃ似合わないけど… ちょっと、出張してきます。」
「出張だってぇ?」
「大坂で、ちょいと仕事頼まれましたので… 局長にっ♥」
「近藤さん絡みか… ってぇか お前!大坂わかってんのか? この世間あんまり知らないてめぇがっ!」
「あ~ そか、輸送ヘリ無いもんな… 一号線足で走っていくのもいいですが… 総司は無理だろうし… ん? この時代移動はどうしてるんっすか?」
「うん~ 伏見から船で淀川下っていくのが…」
「ぎゃぁぁぁぁぁっ! あんな川を船なんてっ! 無理無理無理っ! くらわんかぁ~ 言われたって、俺、それどころじゃないっ!」
「んあ? どしたよ… お前…」
「あ! この時代は! そうだ… 馬貸してください 馬をっ!」
「はっ? お前、馬… 乗れるのか?」
「ったりめぇだ! 乗馬はお嬢様のたしなみ!」

猫は、またキラーンと、わけのわからない格好を取っているが、それを無視して土方は続けた。

「馬ぁ 借りるにゃ 二通りあるな… 会津藩から借りるか、市井の商いから借りるか…」
「じゃ 市井の方でいかほどのお値段かかります? 俺の給金で賄えるならそっちがいい!土方さんの貯蓄崩してでもっ前借りする!そんだけ、俺は働くザマス!」
「俺の金まで狙ってんのかっ! お前… さては 船 嫌いだな?」
「ぎぎくぅぅ!」
「まぁ 良い… 俺も、会津に頼むのは時間がかかるし、市井商いから借りるほうが手っ取り早いと思う が… その前に俺に了解得る事あるだろっ! 零番仕事だろっ! 誰と誰を連れてくつもりだっ!」
「総司と原田いりゃいいかな~っと… 土方さんや山南さんと行きたいなぁと思うけど無理なんでしょう? あ~ 斉藤さんともデートしたいなぁ~ うきうきっ」
「お前… それ以前にすっげぇ楽しそうにしてやがんな? な~ぜ~だ~ぁ?」

大坂へ行く事に、ソワソワウキウキする態度が、隠せず、猫の瞳はキラキラ光っていた。

「だぁって! 俺、大阪で育ったから! 懐かしい! とっても見たい! ついでに殺せばいいんっしょ?」
「まぁたお前道草食うつもりしてやがるなっ!? あ? てぇか… てめっ大坂育ちかっ!っかぁ~それで、金にがめついってぇか…」
「あれ… 言いませんでしたっけ…」
「聞いてねぇ…」
「ああっと… ざっくり言うとですな… 五歳くらいまで江戸、十歳まで大坂、十一歳が京都、十二歳の一年満たない間が京都外れの舞鶴ですっ! たぶんこれであってる… と… 思うっ!」
「なるほど… 地の利はあって当然ってことか…」
「過分な人工的地理の変化はものすごいモノがありますが… たぶん大丈夫です。迷子になんかなりゃしません…」
「俺は、お前を信じるしかねぇのか… ずっと、目の届く所にいてほしいんだがなぁ…」
「無茶言うなよっ! あんたも仕事するように、俺も仕事すんだっ! ちゃんと仕事してくっから心配すんなっ!」
「じゃぁ 井上さんも連れて行け! お目付け役だ! それともう一人見繕えっ 斉藤さんでもなんでもっ」
「え~~… そんなゾロゾロいらないのに…」
「お前らほっとくと、すぐ遊び呆けるだろが!」
じゃぁ 実戦見たいし、わけわかんなく一直線な永倉さんも… って そんなに幹部連れてっていいのか?」
「ああ… お前が遊ばずとっとと帰ってくりゃ問題無い」
「じゃ 馬だな…」
「こだわりすぎだろっ! どんだけ船嫌いなんだっ!」


                  **

「じゃ… 行ってきまぁ~っす!」
「わ~い また 大坂かぁ~」

馬上で嬉しそうにする猫と沖田に、土方と山南は苦笑した。

「お前らなぁ… はぁ… ま、他の船組の三人とはちゃんと八軒屋で会うんだぞ?」
「わかってますって~ 天満橋んとこでしょ? 猫ちゃんGPSナビを信じろっ! うっし 総司! 一気に駆けるぞ! 遅れるなよ!? っとと…八幡と守口手前で二回ほど休憩を入れる! じゃないと馬が可哀相だっ!ってか、ちょっと馬さんと遊びたい…」
「え~ 一気にって言ったじゃないか~」
「ちったぁ 馬の気持ちも汲め! なぁ… お前…」

そう言いながら、猫は馬の首をバシバシ撫でていた。

「おっし! お前の名は、今から「ミスターシービー」だ!三冠馬の称号が待っている!頑張れよ!」

すると、それに呼応するかのように、猫の馬が静かに鼻を鳴らせていた。
それに比べて、沖田の馬は、落ち着きなくそわそわと前脚を足踏みさせていた。
猫は、自分の馬を静かにそこへ誘導して、沖田の馬の首に手を滑らせた。

「悪いようにはしないぞ!「ミホシンザン」!お前はいい馬だっ! G1だと思って地を駆けろ!」

すると、沖田の馬は、地を掻いていた前脚を止めて、猫の顔を舐めようと首を起こした。

「ぶっは! やめろよお前っ! うひゃ~」
「なんだよ 猫ちゃん 勝手に変な名前つけるなよ~」 
「お前も「ミホシンザン」って呼ばないと、こいつ言うこと聞いてくんないぞ~」

馬に、ベロベロと舐められる猫を見て、山南はひっそりと言葉を漏らした。

「純粋に… 輪にはじかれながらも… 万物に愛でられるあの子は… 誰の物にはならないのでしょうね…」

土方は、その言葉をしっかり耳にしていたが、それを無視して、怒鳴り上げた。

「とっとと行って、とっとと帰って来い! おいっ 零番組長! 誰一人落とすんじゃねぇぞ!わかったか! こりゃぁ副長命令だ!」
「俺一人で充分… あ~ 総司と一緒にボコりゃ天下無敵っす! 早い仕事にビビんなよぉ?? それから、副長さん達よぉ もう心配すんなよっ! 普通にやってくれよっ! 俺は、もうあんたらに命令しないように心を閉ざした! それが、俺が学ぶ為の最善策っ! 俺はそれが俺の為だって気付いたんだ! 勘違いすんなよっ? んっじゃ行ってきま~っす!」
「んぁ~ 猫ちゃん待ってよ、いきなり置いてくなよ~」

馬を気づかうように、すこしゆっくり走る猫の浅葱の背中に、土方は言葉を漏らした。

「ほんと 大丈夫かよ… でも、アイツがいりゃぁ なんとかなるんじゃねぇかって思える… 心底不思議なヤツだなぁ…」
「そうですねぇ… しかし、強そうに見えて、心は幼くか弱い… そんなあの子を私たちは、これからも守ってあげなければなりませんね…」
「ああ… しっかし… 山南さんよぉ へんな気起こすんじゃねぇぞ?」
「あなたもでしょ? 土方君…」
「っは! どうだかなぁ そりゃ ひどい冗談だぜぇ」

*************************************
と、ここまで…。ぎゃふんっ!

猫さん、幼少からギャンブル好きな兄貴にひっついて、京都競馬場や、阪神競馬場に行っていたようですww
無類の馬好きというかねぇ~ww

っかぁ~~~っ やぁ~っと序章終わったぁぁぁ
長かったぁぁぁぁ
ちょっと休憩しよ…

次回は、猫サン仕事頑張る「局中御法度篇」。

本編17「悩み荒れる猫」

独自妄想トータルでその18?。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことだったが…どうやら、ねじ曲がりこじれぐっちゃぐちゃ(>_<)

ものすごい忙しいだろうに…
土方さん…

序章が、やっとこれ入れてあと2回…
あ~ 長かった…

では、いってらっさいまし!
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三尺ほど開かれた障子の向うで、雲の割れ目から夕日が差す中、土方が仁王立ちに部屋のなかの猫を見下ろしていた。

「オカエリナサイ 土方サン…」
「てめ… まさか ずっとそんな格好で転がってやがったのか?」

土方が言う所の「乳しか隠れていない」状態の猫が、入り口に転がっていた。

「本日 ここに訪れたのは 原田さんだけです。問題ない。 それどころか目覚ましいほどの信頼を得たので、沖田の次ぎに原田だなぁ~ ククク」
「はぁ… まぁた お前黒い事になってんなぁ…」

疲れ切った身体を自室に運んで、暑苦しい上着を脱ごうとした所で、それを猫が手助ける。

「お疲れはんどす~ 忙しいゆうたかて、ここにいやはる間はお休みになっておくれやす~」
「あああああん? てっめ どういうつもりだぁ?」
「馬鹿にしてるわきゃねぇが 俺も舞妓や芸鼓出来るだろなぁ~ 手習いしてたの思い出した ひと通りの舞いくらいは出来るぞ?それに 琴や三味線くらいならやってやるぞ?」
「はぁぁ?? 何だその上機嫌っ! 聞いて欲しいってぇならすぐに座敷にでも連れてってやるがよぉ」
「ふはは… 俺が嬉しい以前に、あんたに不安抱かせてすまなかった… あんたは、狂いやしないよ?いや まだ不安要素は残ってるけどよ 今の段階では心配ないどころか、あんたにとっちゃ好都合かもな?」
「くそが!話しが見えねぇ! ちゃんと道筋立てやがれ! 俺は疲れてんだっ!」
「ああ… そうでした… すいません… 自分の感情ばかり押し付けてしまった… とりあえず、土方さん… くつろげる体勢をどうぞ!」

複雑な表情を作りながら、土方は緩い着流しに身を修めた。

「っで? 何がどうだってぇ?」

身を据えた土方の前に、猫がそそくさと正座で腰を据えた。

「まず… 不安を煽ってすいませんでした… 土方さんや沖田さんは、バケモノになんかなりゃしませんっ!」
「ちょっと待て… 総司もってどういうことだ?」
「は? さぁ… でも あれだけ 手に取るようにお互い解るようになってるんなら、もう彼も私の”サムライ”なんでしょうね… でも、彼は土方さんほど私との粘膜接触における繋がりは深くないので、心配は無いでしょう」
「ん~? ね? ねんまくぅ?」

すると猫は、土方にそそそと詰め寄り、自分の唇を土方の唇に少しだけ合わせた。

「こういうことですかねぇ? お礼ってやつ? こんな簡単な事でも、軽~い感じで私の支配下になっちゃうんだな… 危ないな… それは、すごく申し訳ないと思っているんだけど… でも、あなたにとっては少しだけいいかもしれない」
「…。」
「まだあんたは人間だ… でも、ちょっとだけ変なとこないか?」
「お前な… そういうのもやめろよ…」
「ほえ?」
「これっ!」

土方は、猫の口を掴んでむぎゅ~っと引っ張った。

「んぎゅぅ~~っ」
「わかったか!」
「むんむんっ!」
「ぃよ~っし!」

唇を開放された猫は、頷いたものの少々抗議めいた目を土方に向けている。

「なんだよ…」
「ちぇ… 俺はやんねぇけどっFrenchkissくらい誰だってやるぞっ っつぅかさ! 自分だってことあるごとに吸い付いてくるくせに… あんたのはFrenchkissどころのもんじゃなかったぞ… ブツブツ」
「何か文句あっかぁ?」
「いいえ~ べっつにぃ?」
「でぇ? 何が何だってぇ?」
「あ~ だから… 最近土方さん、結構傷の回復が早かったり、疲労気味になっても持ち直すのが早いというか、調子良かったりしません?」
「確かに… 思いあたらなくはねぇが…」

そこで、土方は、猫に噛まれた右手の親指の付け根に目を落とした。もう跡形もなく治っている。

「たぶん、総司の傷もすぐに治る… あんたらの細胞が活性化されてんだ… 現段階では特にそんなに悪い事にはならないはずだ… ただ気をつけろ… 俺の血そのものには絶対触るな… 狂ったりなんかしないけど、後々苦しむ事になる…」
「何故 狂わないなんて断言できるんだ?苦しむって何だよ…」

すると猫は、泣きそうに眉をひそめて瞳を床に落とした。

「それは、俺が… 俺だけが産まれながらの吸血鬼… たった一人の本物だから… ちょっと話しは長くなる… 疲れている所申し訳ない…」
「かまわねぇさ~ お前もさっき言ったろぅ 俺の最近の調子の良さはお前のお陰様ってよ!」
「ははは… そうだったな… じゃ… 話す… 言いたくない部分があるのは勘弁してくれよ…」
「ああ…」

「夢で兄貴の事を思い出したんだ…
そんなにひどい記憶じゃなかったし、俺そのものの記憶だから、四番目は暴れ出なかったんだろうな…
俺ってさぁ 物心ついた時からなかなかの暴れん坊って言うか、負けず嫌いで…
ほとんど兄貴に育てられたようなもんだけど、その兄貴に殴るわ蹴るわ噛みつくわ…
俺が幼い時から、兄貴は俺のもんになってたんだろうなぁ
で、あまり意味はわからなかったんだけど…
あ~ えっと… 兄貴が… 俺の血を摂取したというか、交えたというか… 
たぶんそこから兄貴は、吸血鬼になったんだと思う。
でも、何も変わらなかった。
兄貴は、いつも俺には優しかった… 
雨の中遅くまで公園で遊んでたら必ず迎えに来てくれたし…
外では男の子やんなきゃ駄目だったけど…
家では、ちゃんと女の子扱いしてくれて…
瞳を褒めてくれて…
俺… アイツにずっと守られてたんだ…
すごく愛されてたのに…
何で、あんなに怒ってたのかよく覚えてないけどさ…
俺が首かっ斬って殺した…
兄貴…
きっともういないんだ…
あんなのもう生きてない…」

猫の左目だけから、するりと涙がこぼれ落ちた…。
土方は、それをまた親指で拭ってやる…。

「っはぁ… でぇ? その兄貴と俺が似てるんだっけか?」
「うん… 口調から性格から行動に至る何から何までウザいくらい似てる… いや 違うとこもあるけれど…」
「で? 兄貴は、ずっと狂う事無く過ごしてたから、俺や総司も大丈夫だって事か…」
「あっれ? でもおかしいぞ… 兄貴… いったい歳はいくつだったんだろ…」

そう言って、猫は土方の上から下まで隅々観察している。

「俺は関係ねぇだろうがよっ!」
「ん~ 土方さんよりはちょっと若かったしもっと男前だった…」
「何だとコラァっ!」
「変だ… 変だな… 物心ついた時から、最後の記憶まで全然歳を取ってない… 兄貴のやつ… 俺が産まれる前から、もう吸血鬼だったってことか…」
「ん?おい… するってぇとだな… お前も歳とらねぇって事かよ…」
「うん… 俺の体力限界頂点がこの辺りだから止めてんのかなぁ… あっれ? 俺一体いくつだ?」
「まさか俺より年上ってこたぁねぇだろうなぁ…」
「ここに来る直前の記憶が無いからわからねぇや… もしかしたらもう還暦かもな… ケッケッケ」
「おいおい…」

それから少し、猫は押し黙って何かを考え込んでしまった。
先程のような涙は流れていなかったが、まるで泣いているようで…

「どした…」
「私だけが置いていかれるのか…」
「……。」
「まっ しょうがないよなっ たはは あ~だから… 俺はさ、兄貴が言うには吸血鬼の女王蜂みたいなものなんだとさ」
「女王蜂ぃ?」
「うん… その辺りはもう何だかまだあやふやでちょっと思い出せないんだけど… ほんと… 俺ってどっから来たんだろな… この身体は…」
「あ~~~~~っ もう、頭がおかしくなっちまいそうだっ!」
「俺も夢であって欲しいよ… 全部が全部… 目が覚める度にがっかりするのももう飽きたなぁ はぁぁぁ…」

口の端を少しだけあげて苦笑いしながら猫はスックと立ち上がった。
そして、押し入れの戸袋に手をひっかけて、懸垂すると、天井板を外し、そこから瓶をとり出した。

「ああっ! お前っ! そんなとこに隠してやがったのかっ! 酒っ!」
「これ 没収されたら、生きてけねぇもんっ!」
「そんなにその酒が好きなのかよっ!」
「呑まなきゃ やってらんない時だってあるんだよ… 俺だって… ちょっと外行ってくる… 一人になりたいんだ…」
「ああ 勝手にしろぃ 但し酔うなよ? お前が酔っぱらうと、ロクな事になんねぇ予感がするっ!」
「こんだけしか無いんだ… 酔えるわきゃねぇだろっ 大事に呑むっ!」

猫は、右手に持ったズブロッカをジャブジャブと振りながら、抗議した。
そして、おもむろに腰から煙草を一本取り出し、口の端にくわえながらズカズカと歩み、足で障子をスカーン!と、開け放った。

「おいっ! 行儀悪りぃぞ お前!」
「うっせぇ! ついて来んなよっ!?」

不機嫌きわまりない形相を残して、猫は障子を開け放ったまま、庭へと降りていってしまった。
その途中で、煙草に火を点け、豪快な煙を残してゆく…

「開けたら閉めろよっ! とんだ女王様だなぁっ!」


                    **

「(くっそ ホント 俺 どうなってんだ!? 何 イライラしてんだっ!?
ただの”人間”がうらやましいなんて、これっぽっちも思ったことなんかねぇのによっ!
何だよココはっ! 皆 皆 皆っ! 皆だっ! 俺の事にお節介焼き過ぎだっちゅうのっ!
入れ替わり立ち替わりやってきやがって! 猫 猫 猫 猫 猫 猫っ! 
俺の本当の名前はなっ! 名前は… 名前… ”イヴ”…)」

ぬかるんだ地面を嫌って、猫は木の幹に背中をあずけるだけにして、立っていた。

「何だよ俺… こんなの名前じゃない! 兄貴の名前は出てくんのに、自分の本当の名前も思い出せねぇのかよ…」

初めて開けたズブロッカの瓶の口に、少しだけ舌をつけて、中の藁を止めながら酒を舐めた。

「うんまぃ! っくぅ~~」

残り少ない一瓶だけの酒で、咽を潤すほどには呑めないが、久しぶりに入れるアルコールに、猫は余す事なく唇についたぶんも舐め取った。

「(名前なんか… 個体を識別するだけのもんじゃねぇか… 中華じゃ「王 鳳麗」… UKなら「Jackie」…  「死神隊長」やら… 「10milliondollar dress」、「one hand rifle」、「assassination doll」「sneaking cat」に「number zero」全部 俺の事だろがっ! 他に… 「ドブ色目」… 「鬼目」…「ごみ」… 「ゾンビ」… はっ ひっでぇ ククク)」

猫は、更に酒をあおって、煙草を吸う…。

「それから… DIVA…」

大好きな雨が止んでしまい、猫は残念そうに空を見上げた。
新月だったが、猫には、足早に流れゆく雲がしっかりと見えていた。

「(そうか… 新月だからな… 満月や新月… こういう時ってあんまり良い事無いんだよな… ああ… そうでもないか… 総司に拾われた時は満月だったなぁ それがluckyだったのかunluckyだったのか未だわかんねぇけど… たぶん、兄貴を殺ったのも、満月だったんだろうなぁ~)」

猫は、酒瓶の栓を閉めて、それを木の根元にたてかけた。

「兄貴… あんたは俺を愛してくれてたけど、俺はあんたをどう思っていたかなんて覚えちゃいないどころか、どうにも思ってなかったような気がする… だって、俺にはあんたしか話し相手がいなかったような気がするから… 俺は殺したんだろうか… この世で一番俺を愛してくれていた兄貴を… 何があったんだろうな… けっ 胸くそ悪いって事しか思い出せねぇっ!(深い海の色は大嫌いだ… あの目で俺をずっと見てた… 大嫌いなのに、懐かしくて… 会いたいなんて… 何だよこれ… 馬鹿だろ俺…) ああ… そうだ… 俺はまだ兄貴を送ってなかったな…」

そして、猫は、立てかけた酒瓶を再度手にして、栓を外して、今度は咽を潤すほどに酒を体内に流し込んだ。
根元まで吸った煙草を、ぬかるんだ地面に付け火を消すと…
擦れた小さな声で歌い始めた。

「Lovin' you
Is easy 'cause you're beautiful~♪…」

何度も何度も同じ歌を繰り返し歌う… 何度も… 何度も…

「(俺は、兄貴を愛してたんだろうか… 実の兄貴を愛するなんて、無理じゃないか… そんな事は、俺にだってわかってたさ… くっそ… ただ一人殺しただけの人殺しでこんなに泣くなんて初めてだっ)」

歌いながら、左目だけからボロボロと流れ落ちていく滴を抑えるように、猫は左手でそれを覆った。

「Lovein' you I see your sun come shining~♪… 輝いてたわけなんかないじゃないか… 俺を本当に愛してるなら、何ですぐ殺してくんなかったんだ… なぁ 土方さんよぉっ! 会って間もないあんたに聞くのはお門が違うってやつだろうがっ 俺が生きてる理由って何なんっすかねぇ!? 死に場所探してふらふらふらふらっ! 死にたいのに死ねない身体なんていらんっちゅうねんっ!」

ぬかるんだ地面をゆっくり踏みしめながら、土方がやってくる。

「歯ぁ 食いしばれっ!」

その言葉尻に間に合わない勢いで、土方の拳が猫の頬を激しく殴りつけた。

「いってぇな… くっそ…」
「てめぇ また避けなかっただろう…」
「さぁ… どうだかね…」
「そんなに叱って欲しいなら、何日でも何週間でも何ヶ月でも叱ってやる!」
「はんっ 馬の耳に念仏ってぇやつだ… あんたが疲れるだけだ」
「減らず口叩きやがって! いい加減にしろっ! お前がどう思ってんだか知らねぇがよ! ちったぁ俺達皆の事も考えろっ! てめぇ自身の事ばっか矢継ぎ早に話し腐りやがって! 心配なすりつけてんのは、おめぇじゃねぇかっ! こんな大変な時に、山南さんなんか、お前の事ばっかり考えてて、仕事になりゃしねぇっ! 原田にも話し聞いてきたぞっ! アイツとんでもねぇくらい、お前に陶酔しきっちまってるじゃねぇか… どうすんだよっ!」
「ちっ お節介におしゃべりめ…」

猫は、頬の内側が切れて、口の端から漏れた血液を手の甲で無造作にふき取って、それを見ると… 甲についた血を舌で綺麗に舐め取った。
そして、無造作にウォッカをまたあおる。

「また 殴られたいのか…」
「いいや… 消毒だ… 馬鹿にしてるわけじゃない… 俺は… 本当は肉片一つ… 血の一滴たりとも外に出しちゃ駄目なんだ… ちぎれ飛んだ細胞は死滅するけどよ… 怖いんだよ… お節介なあんたらを失うのがっ!」
「じゃぁ 失わないように努力するんだな… とにかく”持ちつ持たれつ”って言葉を覚えろっ」
「!?」
「俺達には、お前が必要不可欠になっている。 そして、お前も… お前自身が心を成長させていくのに俺達が必要なんだ… 誰もお前に死んで欲しいなんて思っちゃいないし、生きていてほしいと思ってる。お前自身が死ぬつもりでも、俺たちゃそんな事知ったこっちゃない… けどよ… 置いて行こうとすんなら、俺がお前を斬ってやる!」

その言葉に、暗闇の中で、猫の瞳だけが鮮やかに光る。

「置いて逝くのは、お前達だけど… それを見送るのも悪くないってとこか…」
「そうか… 苦しみってのは ”それ”だな? お前は俺達が死んでいくのを恐れてんのか…」
「まぁ そうかな… 永遠にも等しい時間を彷徨う事への恐怖… 俺がこの世に生を受けてどれだけ経つんだか知らねぇけどよ… この身体に受けた傷の数よりも、先の事を考える方が痛く辛いんだ… だから、あんた達を俺の仲間になんかしたくねぇ… けど、ほんと長生きしてくれよ?」

猫は、「ハッタリ」を言っても、一切嘘をつかない…。
土方は自分の行く末よりも、猫の行く末に気を置かずにはいられなかった。

「俺達が… 天命まっとうせずとも死んだ後… お前はどうするつもりなんだ…」
「あ~ さぁ~な~ 帰る場所さえままならないんじゃ 楽しい方向探して、世界中飛び回るしかないんじゃないかなぁ~ それも悪くないと思う… 悲しい事もありゃ楽しい事もあるだろ… っと まずは、酒を仕入れにロシアだなっ これっぽっちじゃもたねぇもんっ あっははは んで… 俺は… 本とネット情報でしか”人”ってもんを理解できていないから、学ばなきゃなぁ~」
「たった一人でやって行けんのか? そこに不安はねぇのか?」
「っへ! あんたまた何”心配”してんだよ… 見たろ?俺の処世術… 世の中、手八丁口八丁で何とかなるさっ それより、あんた達の行く末を心配しなよ… 俺は…(連戦連勝部分しか手助けできねぇんだからさっ)」
「ああん? てめ… また何か隠したな?」
「ああ… 隠してる。言っておくよ… 上官… 俺はこの先、零番仕事を断る権限が欲しい。これが飲めないなら、俺は降りる。拝命段階で言えなかった事は謝るが… これは、必要不可欠の問題だ。すまないが、飲んでくれ…」

土方は、猫の悲しそうに歪む瞳を見ながら答えた。

「じゃ 条件付きで飲もう…」
「ああ… 出来る限りの事ならいいがな…」
「俺の行く末… いや、新選組の成り行きを全部見て行けっ! これが条件だ…」

猫は、目を見張って驚きを隠せずにいた。

「い… 言われなくても… そのつもりだよ… やだなぁ… わかりきってんだろ… あんた…」
「お前の交渉力の凄さはわかってる… こんな短い間に色んなモノを見せやがって… 昔なじみよりも もっとずっと一緒にいたような気がする…」
「それは、あんたの飲み込みの早さと、好奇心の成せる技だな… こっのぉ… 新しいもん好きめが…」
「てめぇに言われたかねぇよっ 目新しいもんにすぐ飛びつきやがって!天然にもほどがあるぞっ」

いつしか和む雰囲気の中で、そもそもの問題に顔をうつむけたのは猫だった…。

「くっそ… ホントあんた兄貴そっくりだ… いくら喧嘩しても、絶対勝てないのは俺なんだ… あんたにゃ絶対勝てないな… 殺してせいせいしたとこに、あんたなんてヤツがいるなんて… ずるいよ…」
「まぁた 兄貴か… あ~ そういやぁ お前よぅ… また 歌ってたろ… しつこいくらいに何度も何度も同じもんを… 屯所内どこ行っても聞こえてたぞ… あれ… 何なんだ? 鴨ん時とは違う優しい感じの…」

すると、猫は激しく訝しむ顔をした。

「またかよ… ホントにお前が大丈夫なのかって不安だけど、よく考えりゃ兄貴もそうだった… 俺が歌う場面の後には必ず兄貴がいたからな…」
「更に兄貴かよっ! どんだけ兄貴が好きなんだかっ! まぁ~ そりゃいいがよっ 俺はまだお前が歌ってる所を見た事がねぇ… さっきの歌でいいから 聞かせてくれねぇか…」
「ああ… Minnie Riperton の「Lovin' you」か… じゃ 折角だからお前に向けて歌ってやろうか…?」
「やっぱり異国語なのか…」
「ひっそり歌ってたはずだがあんたに聞こえてたんなら、誤魔化せないんだな… でも、俺… 歌うのは好き以前に”気持ち”ってやつあるんだ… 土方さんの色は何色だろうか… 何色が好きだ?」
「俺の色? じゃぁよ… 浅葱に気持ちをやれよ… 俺を含めたお前に気持ちを置く全員に送れよ」
「浅葱か… わかった… でも、咽全開にして歌えやしないから静かに歌う… 勘弁してくれよな…」
「ああ…」

「Lovin' you
Is easy 'cause you're beautiful
Making love with you is all I wanna do~♪」

聞き入る土方の姿に、猫はまた左目から涙がこぼれ落ちる。

「shala la la... ぁぁ… ごめん 土方… きっと斉藤さんもなんだ… ごめん…」

歌の最後で、猫は歌う事をやめて、苦い表情をした。

「斉藤さんも聞こえてたんっすか… これ…」

猫が、少し声を張った先に斉藤が立っていた。

「いや 邪魔をするつもりは無かったのだが… 先程の歌とは少し調子が違ったので… どうしたのかと… 呼ばれるような感じがして…」
「そうだな… グ~スカとっとと寝てる総司は別として… 聞こえるんだ… 俺の歌…」

「やっぱり斉藤も毒牙にかかってたか」とばかりに、土方は斉藤に尋ねる。

「斉藤さん… 昨日の晩なんか聞かなかったか?」
「しょ… 正直に言っていいのでしょうか…」

言い淀む返答は、明らかに猫へ向けられていた。

「うん… いいよ… 正直に言えばいい…」
「では… その… 昨夜深く… 突然遠くで歌声が鳴り響き… 一端外へ出たのですが… 猫の字が「来るな」と言っているような気がしたので… 俺はその言葉に逆らえず… 自室に戻った。」

バツのわるそうに、立ち尽くす斉藤に猫は歩み寄った。

「斉藤さん… ありがとう… それから… ごめんなさい… 私の配慮が甘かったばかりに… 悪いようにはしないから…」
「ん? その感謝と謝罪の意味は、どういった了見の元で紡がれたものなのか、理解が及ばない… それに、猫の字の配慮とは?」
「ぷっ 混乱しなくていいって~ 斉藤さんは斉藤さんでいて欲しいからさっ まだ何も教えてあげないけどっ 長生きすっぞ~ あんた~」
「猫の字は、占いもするのか…」
「そんなとこかな?」

苦笑する猫と土方を、斉藤は交互に見ていた。
そんな斉藤の訝しむ顔を無視して、猫は…

「さっ あんたらは、帰った 帰った~ 折角来てもらって悪いんだけどさっ もうちょっと俺は一人になってたいんだ…」
「考えすぎて、まぁた自暴自棄になるんじゃねぇぞ?」
「その逆っ 何にも考えない時間が欲しい… 明日って言う日が嫌でも延々続くんだろ…? 何にも考えないでいる時間がちょっとくらいあってもいいかな~ ってね 心配しないでくれよ…」

心を落ち着けている猫に安心して、土方は去ろうとする。

「とっとと帰ってこいよ?」

首を何度も傾げながらの斉藤も去って行く…


「(”人間”って… 本当に難しいな…)」

そして、猫は真っ暗な空を流れる雲を延々と見つめていた。

              
*************************************
と、今日はここまで…

猫さんは、レトロ好きなので、古い歌ばっか歌いますな。
ただ歌の最後のあの声は、絶対出てないよなぁwww

しかし、斉藤さんは、いつ感染しちまったんでしょうかねぇ~…
謎のままで置いておきたい気がするwww

次回は… ついカッとなってやってしまった星空ロマンスです。

本編16「激しく歌う猫」

独自妄想トータルでその17?。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことだったが…どうやら、ねじ曲がりこじれぐっちゃぐちゃ(>_<)

いよいよボコりますっ!

では、いってらっさいまし!
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「お前… 遊びすぎだろっ」
「あっは すまねぇ でも さすが土方さんっ 俺が何やっても動じないっ!」
「お前の大道芸の凄さは半端ねぇな…」

自室で、濡れた袴を脱ぎながら土方のこめかみには、怒りの筋が入っていた。

「あ 着流しってやつで行ってくださいね…」
「ああ わかってる」

妙な緊張が流れる中、猫もほいほいと着替えはじめた。

「お前… ほんっと 俺を”男扱い”してねぇな… 真正面向いて素っ裸になろうとしてんな?」
「は? 何か問題でも?」
「だから… この間、山南さんちで俺も交えて、くどくど説教されたの忘れてんのか?」
「あ~ んっと、殿方の前で肌見せるなと… おおぅ… あんた 何見てんだ! あっち向け!」
「今さら言うなっ!(も ほんと気分削がれるな…)」

後ろを向きながら、土方はまっさらな着流しに袖を通し、宴席での猫を思い出した。

「(こいつの思惑と天然の均衡ってやつぁ どっからどこまでで成り立ってんだかなぁ 流暢に話しながら、ほいほい あちこち酒を注ぎまくりやがって… あれもきっと面白がってたぞ? あ~そういや)」

「うっし! もういいぞ?」

と、雨に濡れた頭を無造作に掻く猫に、綺麗に着流した土方は振り返った。

「猫… 瞳… 見せてくれ…」
「ん? 何故に? 今? とくと見るがよい」

すると 猫は、素直に土方の目に瞳を合わせてじっとしている。

「あ~ お前… そうしてりゃ 端正というか、美人なのになぁ…」
「おっ!? まさか これ ウケたか?」

猫は、先程同様に指で無理矢理目を押し広げた。

「…。」
「あんたには ウケないな… ちぇっ!」
「お前のそれは、計算なのか天然なのか… って! おめぇ! それもやめろ…」

着替えたという猫の格好に、土方のダメだしが入った。

「肌 出すなっつったろ! その上半身! 乳しか隠れてねぇじゃねぇか!」
「蒸し蒸ししてて暑いんだもんっ! 後で、ちゃんと着るし!ええやないかいっ!」
「後で?」
「ああ… マズイならあんたの着物貸してくれっ どうせ 先生んち行かなくちゃなんないし、マズイのはわかってる」
「ああん? お前 また何か思惑を計算したな?」
「いいから貸せよ」

猫が指を指したのは、先程土方が着ていた、着物の上着。

「計算なんかしないよ… 俺 あんたの匂い好きなんだ~ だからそれ 羽織ってく」
「殺し文句のようで、そうで無いあたりにモヤつくな… ほれっ! てめぇが欲しいなら着ろっ」
「ワーイ ありがたいっ! さぁ 行こうかねぇ」
「(わざとらしいと感じるのは気のせいか?)」


                  **

山南の部屋で、「あちぃ~ あっつい! 京都クソだな!」と文句を言いながら、猫は新選組の帳簿と運営録に目を通していた。

「ん あ~猫君… その… 肩口をはだけるのもいかがかと… それに、もうそんなに暑くもないかと…」
「ああん? あ~ そうっすね 見苦しいモンすいません…」
「いえ 見苦しくはないのですが…」

そこへ原田がにやけつきながら、言う。

「お前の肩… 肉付きいいがよっ 色っぺぇんだよ」
「ん? 何だそりゃ いろっぺ? ま 後で調べる おい… お前ら こっから俺は何も指示しない あんたらも、こんなもんいくつかヤってきてんだろ? 初めて会った時、ここにいる全員から、他の血の臭いがしてたぜ? で、生きてんだから上手いってことでいいか?」
「んま~ とりあえず殺せばいいんだよねぇ?」

沖田は、あっけらかんと言葉を漏らした。

「そっ 殺してこいっ! じゃぁ 今日、俺が得た情報を伝える」
「ああん? 情報? てめっ 遊んでただけじゃねぇかっ!」

土方が不機嫌そうに言葉を出したが、猫はそれを無視した。

「やっぱducky… あの肉硬いわ… 反撃気をつけろよ…? 以上。 あの… ちょっと眠ります… 手はずってやつは、山南さんや皆に任せた…」
「ああ… お前 ちょっと最近顔色悪いからな… その辺転がっとけ…」
「おいっす副長… 一時経ったら起こしてくれ… すまぬ…」


                 **

一時後、起こす前に猫はがばりと起き上がった。

「ちょっと 行ってきますかねぇ」

そう言って、猫は立ち上がると、そそくさと土方の着物を脱ぎ去って、自分の服をガバリとかぶって身なりを整えた。

「だから、お前… ちったぁ 気にしろよそれ…」
「ああん? 何が?」
「もういいよ…」
「こっちこそ こんな細かい事どうでもいいっ! あ~ ちょいと 「犬小屋」見てきます。 俺 屋根に這いつくばっていますんで、押し入る際に俺の身振り見てくださいなっ まぁ 気楽にいきましょ~ では、山南さんのプラン いや えっと 計画でお待ちしております~ とうっ!」

猫は、山南の部屋の鴨居にぶら下がると、天井板をはずして天井裏へ身体を滑り込ませた。

「うっほ 日本家屋すごいっすね! こんなの初めてっ! ヤバ楽しい! じゃぁ 行ってきま~っす!」

遊びにいくような猫の口調に、沖田が言葉を漏らす。

「あ~ いいなぁ 猫ちゃん 僕もやりたいなぁ~」
「やりたいなら あのわけがわかんねぇ 身のこなしを覚えねぇとなぁ」

原田がそれに答えて、場は、しばし静まる事となった…。


                    **

その深夜…。
雨は本降りの絶好調とばかりに大粒の滴を落としていた。
そんな中で、猫は真っ暗な闇の中、じっと屋根に貼り付いていた。
相手が、わかるかどうかは知らないが、「ま いいか」とばかりに、家屋の間取りに合わせて、順番に標的の位置と、標的外を知らせるサインを 暗殺集団に送った後、

「(かま~ん… クククク)」

と、腕を振った。

そして、猫の下で豪華なオペラが始まった。
その様子が手にとるようにわかる猫は、時にあざけ笑い、時に苦笑した。

「あ~ やっぱり はみ出るんだね?」

趣をそがれたとばかりに、苦く不機嫌な顔を作った。
その気配を追い、汚くおどり出てきた男に向かって、制止の言葉も無くその耳の端を、銃で吹き飛ばした。
ソレは、ちぎれ飛んだ肉片おかまいなしに更に逃げようとしているが、あきらかに失速している。
猫は、それに向かってひょひょいと飛びながら詰め寄った。

「Oh! How tricky… Do only you run away?」[あ~ なんてずるいんだ… 自分だけ逃げるなんてさぁ]

その密やかな言葉に、平間は「あ…」と声をあげかけた。
しかし、その後頭部にはゴリリと、銃口が押し当てられていた。

「俺は、連邦捜査官!チャック・バウアーだ! 両膝を付いて、両手を頭の後ろで手組め~」

平間は言われる通りに膝を落とし、手を頭に持っていこうとしたが… その前にゴキリと首を折られ、簡単に事切れてしまった。

「You! obstructed it though it enjoyed the opera. son of a bitch!」[あんたは俺のオペラを邪魔しやがった!ゲスがっ!]

猫は、原田の視線を感じて、そこへニヤリと視線を向けながら… 死体を担ぎ、深く残った自分の足跡や亡骸が残した痕跡を、無造作に足で払っていた。それはすぐに大粒の雨が隠してくれるだろう…。
それから、猫は 原田に新たなサインを送る。
それを見た原田は、ゆっくり親指を立てながら家屋を出て走り去った。

「(結局 そうなったか…)」
「(沖田め ツッ込みすぎたか…)」
「(土方は、やはりよくやったなぁ~ ククク)」
「(先生もやっぱ斬るときゃ斬る人なんだなぁ~ やっぱ俺の先生だな 能ある鷹は爪を隠す…)」
「(原田… お前… 副官に欲しいところだよ)」

猫は、気配を殺しながら、刺客達が過ぎ去った後も、女達の嗚咽や悲鳴を聞きながら、こちら側に欠損がない事を確認してから、死体を肩に乗せ、歯笛を残しその場を去った。


                      **

「おつかれさま」

猫は、随分な時間を費やしてから、山南の部屋に戻ってきた。出ていった時と同じ所から帰ってきて、冗談っぽく言う。

「土方 15点 だったけど 総評41点 赤点ギリ  山南さん86点。今回の最高得点者。 沖田 5点。 現場にDNA残しやがって! 原田50点。 期待点含む…」
「遅かったじゃないですか… なにしてたんですかっ!」
「人に点数つけんじゃねぇっ! 遅ぇから心配してたんだぞ!」

「ははは」と、おどけ笑いしながら、猫は湿りきった髪をかきあげた。
部屋には、山南と土方が猫の帰りを待ってくれていたようだ。

「はみ出たヤツ ぶっ殺して 捨ててきた」
「ああん? どこにっ」
「肥だめってとこ」
「げっ! な~んでわざわざそんな事すんだよっ!」
「ん? ムカつくんだよね ああいうヤツ… 自分んちの頭領ほったらかして、自分だけ助かろうなんてよ… 神様とやらが許してくれない限り、死体は見つからない… 血肉は、微生物が分解し… 残った骨はどんどん沈殿していくんだぁ~ ククク」

その物言いに、土方も山南もいけないモノを見てしまったように目を背けた。

「猫君。いい加減にしなさい… あなたは、「人の死」について、もっと考えるべきです… 先生も人を斬りましたが、あなたのように愉快に語れる気分にはなれませんね… あなた 感情で人を殺さないと言いましたが、死体を玩ぶ行為には感情が入ってるんじゃないですか? あなたにすれば、命が無くなった段階で、人間はただの”肉の塊”になってしまうんでしょうがねぇ?」

初めて見る、山南の軽蔑めいた冷めた目線に、猫は戸惑いを覚えた。

「ですね… 仲間であれ、敵であれ… 死ねば、全部ただの肉の塊。歌って送るだけの慈悲しか俺には無いね」

そこで、土方が「ああっ!」と声を漏らした。

「てんめ! 俺達が斬ってる間、派手に歌ってやがったな?」
「はぁ?」
「雨の音より、てめぇの声が鳴り響いてうるせぇったら!次いで、あ~しろこ~しろってよ!」
「…? な 何… 言ってんすか?」
「声も呻きもあげるなっつっときながら、何だありゃ!」

猫は、真っ青になりながら、ぽつぽつと言う…。

「俺… 確かに… 小さく歯笛は… 吹いてましたが… 歌ってなんかねぇっすよ…」
「山南さんも聞いてたろっ!? なぁっ!」

すると、山南も「え?」と不安めいた表情で、静かに首を振る。

「私には、雨の音と… 悲鳴しか…」
「なん… だと?」

そして、未だ振りしきる雨の音だけが部屋の中を流れていく。

「もうダメだ… それが本当なら… ヒジカタ… あんた変わりはじめてるかもしんない… も やっぱ 不安で不安で… 俺 こっから動けないっ!」
「じゃ、きっちり記憶戻すんだな 自分がどういう立場の”人間”かって辺りをよっ」
「うん… わかってる…」

その会話に、見えない部分が多すぎて、山南は不快きわまりない形相で問うた。

「あなた方… 私に伏せている事がありますよね? それも沢山の事! 話しなさい!」

猫は、常々山南にも話さなくてはいけないとは思っていたのだが、なかなかきっかけが無く言い淀んでいたのだった。

「俺… やっぱ”人間”じゃないんです… すいません… 総司も入ってきていいよ…」

猫は、ずっと沖田が部屋の外で、入ろうか入るまいかと控えていたのを気にしていた。

「ん~ あ~ 何か気まずい感じになっててさぁ」

と、気まずげに顔を歪める沖田が、部屋に入ってきた。

「総司… 無事でよかった… ごめん… ほんと ごめん…」
「なぁに 言ってんのさ猫ちゃん 僕は、君の”指示”に従ったまでの事だよ すぐに土方さんがニの太刀入れたのにはびっくりしたけどね~」
「はぁ… もう 忘れたいぜ…」

すると沖田は、右頬から鼻下に滑る傷を、無造作に手の甲で拭った。
それを見て、猫はのど元を押さえて、退いた…。

「ヒジカタ… すまぬ… お主の理解及ぶ範囲でよい お二方に、ワタシの正体を話すがよい」
「ん? あ~ まぁ お前… 隅っこで 転がっとけ 顔色悪いって段階以前に震えてるじゃねぇか」
「……。」
「俺は まだ狂っちゃいねぇ それどころか、お前がいるからこそありゃ成り立ったんだ! ちったぁ 俺を信じろ!俺も てめぇを信じてんだ! てめぇこそ肝を据えろ! 俺ごときに脅えんじゃねぇっ!」
「そうだな… 任せるぞヒジカタ… この身は決して万能ではない…」
「だろうな…」
「新米Chevalierよ… 頼むぞ…」

そして、猫は外れた所で、ことりと身を横たえた。

「あ~っ もう! 総司! てめっ! とんでもないもん拾ってきやがって! 面白すぎて涙でてくらぁっ!」
「だよねぇ~ 僕も後悔してないっ 面白いよね~」
「あ~ 私も、こういうのは… 過ぎた所は目を瞑って、悪くありません」

話しを聞く気満々とばかりに、沖田と山南は構えた。

「あ~… じゃ 今から話す事は、こいつの言った通り、”ここ”だけで… まだ、外へ漏らすなよ?」
「ん? 言った通り? 猫君は、そこまで言ってなかったような…」
「そうだな そうだったかもしれねぇ…」
「なぁんか、それ… 以心伝心みたいな?」
「そういや 総司… こいつに噛まれたりしなかったのか?」
「ん~ 思い当たらないねぇ~ 最初見た時、飛びかかってきたけど、すぐ勝手に倒れちゃったしさ~ その後は、猫ちゃんずっと昼間寝てるし、夜中に目~覚ましてるから 遊んでただけで…」
「てめ… こいつと接触したか?」
「ん? 接触? 何だよそれっ 何 疑ってんだよ! 土方さんみたいな事は一切してないからね!」

土方は、本題に移る前に他の二人を心配しながら先へ進めた。

「山南さんは?」
「ん?? 土方君の言う、”接触”とはどの程度なんですかねっ!?計りかねますが、私は、猫君の髪しか触った事がありません!」
「そうか…」

そこで、土方は沖田に再度問う。

「総司… お前… 最初に鴨を刺した後何か別のもん聞こえなかったか?」
「ええ? ああ~ 自分のため息が思ったより大きくて 困ったくらいかな?」
「わかった それでいい…」

その会話を前置きに、土方は夜明け前までかかって、猫の正体を語った。

                   **

「おい… 良かったのか? あれで…」
「うん… 私が… 私自身について気付く前に、あの二人は世話してくださってたので、心配でしたが… 土方さんほど酷い目には遭っていないようでぇ~…… しかも何か半信半疑で、二人とも苦笑したまんまだしっ 合わせる顔が無いぃぃぃぃ はぅぅぅぅぅ」
「ちょ おめぇ やめろよ! しかも 涙なんかつゆとも出てねぇし!」
「すいませ~ん… 土方さん達って存在知ってたら、涙も残してたんですがぁ~ うぅぅぅ」
「うるせぇよ! わざとらしく聞こえんのは 気のせいか?」

屯所が、バタバタと大騒ぎになっている中。
土方は、何食わぬ顔で、自室にて出掛ける身支度をしていた。

「お出かけですか… 半裃かっけぇ…」
「ああ… 鴨がいなくなったんだ 当分忙しくなる 大人しくしとけよ?」
「……おっす」
「偉く素直だな…」
「大人しくしてるんで、気をつけて言ってらっしゃいませ!旦那はんっ」
「あ~ もう調子狂うなぁ… てか お前、消えちまいそうなくらい顔色悪りぃじゃねぇか…」
「うぐ…」
「また 何か隠してやがるな? まぁ いい… 帰ってから聞くから、それまでこっから出るんじゃねぇぞ… わかったな!」
「へぃ… 親びん…」

土方は、急ぎ気味に部屋を出ていってしまい、ぽつんと残された猫は、しばらく土方が出ていった所をじーっと見つめていた。

「(この感じ… 兄貴が仕事に出掛ける時とか… 兄貴がいなくなった時みたいな…)」
「(ぅおっと! ダメだ! 土方さんがいない時にこんな事考えて混乱したらヤバいっ!)」

猫は、慌てて入り口に背を向けたが…
しとしとと降りしきる雨の音に気がついて、そろそろと入り口へ向かい…
少しだけ障子を開けた。

「あ~あ… 折角の雨なのに、外へ出ちゃ駄目だなんて… ついてないなぁ…
(てぇか… どうしたんだろ… 
渇いているわけでもないのに、身体がだるくて重い… 
心臓が暴れるみたいに動いてる…
焼けるように肌が熱い…
あ~ そうか… 
そうだ…
思い出した…
俺…
太陽に嫌われてるんだった…
眩しくて…
眩しくて…
視界が真っ白だった…
はぁ…
こりゃぁ 自分で思ってるほど軽い損傷じゃないんだな…
目下リカバリー中ってわけか…
頑張ってくれよぅ?
母なる心臓…)」

そして、また猫は残念そうに雨の音と滴の姿を見ながら、こてんとその場に転がった。
じ~っと雨が降る景色を薄く開かれた障子ごしに見… いつの間にか眠りについた。

雨…
雨…
雨…
雨は楽しい。
雨が降ったら、誰もいない公園へ行って。
傘を放り出して踊るんだ。
I'm singin' in the rain~♪
噴水のまわりをくるくるくるくる。
Just singin' in the rain~♪

「俺のDIVAのミュージカル会場は、ここかぁ?」
「ああん? 誰がDIVAぢゃいっ! 気色悪い事言うなやっ!」
「ははは 照れるなよ ホントの事じゃねぇか~」
「ふんっ …兄貴 仕事は? 明日まで帰って来られへんって言うとったんちゃうんけっ!?」
「お前に会いたくて、とっとと片づけて帰ってきた… ほらっ 帰るぞっ いくらお前でも、そんなずぶ濡れになってちゃ体調悪くすっぞ… 帰ったら、兄ちゃんが温めてやるからよっ」
「はぁ… またかぃな…」
「この世でお前を一番愛してるのは俺だ…」

「(たかにぃっ!?)」

猫が、ハッとして、眠りから目を覚ますと、さっきまでの景色とは違うものがあった。

「よっ 猫ちゃん 目が覚めたかい?」
「伊予柑…」

薄く開かれた障子の向うで、原田があぐらをかいて背を向けていた。
猫は、もう少し障子を開けて身を起こそうとした。

「あ~ そのままでいい 調子わりぃんだろ?」
「おうっ 只今、自己修復機能を最大限稼働させているのだっ」
「ぷっ なぁ~んだそりゃっ」

原田は、少し座り直してにこやかな顔を猫に見せてくれた。

「ねぇ… 伊予柑…」
「ああん? なんだぁ?」
「伊予柑はさ、誰かに「愛してる」って言われた事あるの?」
「っだぁ~っ! 何だよいきなりっ ま そりゃ しょっちゅう言われるけどよっ 俺だって結構モテるから~ けど、本当にそんな事を… 意味を持って言われた事はまだ無いのかもなぁ」
「ふ~ん…」
「うん? はっはぁ~ん 土方さんにでも言われたかぁ?」
「土方さんじゃないよ… たか… あ~ っつうか、土方さんが俺相手にそんな事言う訳無いっしょ~ っぷ 死ぬまで言いそうに無いよねぇ もし、誰かに言ってんの聞きつけたら、俺、逆立ちで日本一周してやるよっ!」
「まぁ~ 違いないか っぷくくくく」

言葉では、笑っておどけていても、雨を見つめる猫の瞳は深く翠で、どこか寂しさを湛えていた。
原田は、それを見下ろして、何か言葉を探していた。
それを助けるかのように言葉を吐いたのは猫だった。

「で? 俺に何か用か?」
「ん? あ~ 用ってほどでもないんだけどよ? 昨日の事聞いていいか?」
「ああ… 当分、誰もここにやってくる気配は無い。そのまま話してもいい」
「まず… お前… すごいな…」
「何がだ?」
「俺達が押し入る前、下に指差してからこうやって、数を出しただろ?」
「ああ…」
「あれは何だったんだ?って考えてて、隣室へ逃げ惑っていく鴨を一r突き刺しながらわかったよ ありゃ、部屋の中の人数と目標になる敵を示してたんだな…」
「ああ… よく見えたな」
「もうちょっと早く気がついてりゃ、もう一匹外へ出さずに済んだんだけどな…」
「ああすれば良かったなんてのは、結果論として受け付けないぞ。だが、お前の判断は良かった。逃げ出したヤツの後を追って、自分も逃げようとした女を刀で脅してそこに留まらせただろ?」
「ああ… その後見たお前と飛び出した鼠に、ちょっとばかり驚いたがよ…」
「何にだ?」
「あ~れ 何やってたんだ? お前のそのピストル… 見えないもんまで撃てるんなら、一発でアイツ仕留められたろ? なのに、すぐ殺さずに駆けよってよ… 妙な事してたよなぁ」
「あ~ 「24」のジャックバウアーごっこしてたんだ あ~っと 海外の有名なドラマ… ん~と、劇の真似ごっこ ぷふふ」
「あ~ あんまりわからねぇが… おっまえ… 遊んでたのかよ! はっ 人殺しにも冗談付け加えるたぁなぁ~ 俺はそういうの嫌いじゃないなぁ やっぱり、俺はお前の事気に入ったんだなぁ はははっ」
「先生に知れたら、また軽蔑されそうだけどなぁ 黙っててくれよ?」
「ああ わかってる。 ってぇかよ お前、素手でも簡単に男の首へし折るんだな… 疑ってたわけじゃねぇが、お前は本物だな… こんな美人に産まれておきながら… 全く惜しいもんだぜ」
「ははは 褒め言葉として受け取っておく」
「そういやお前、アレ… あの後どこに持ってったんだぁ? わざわざあんなもん担いでよぉ」

そこで、猫は昨夜の山南の軽蔑した目を思い出して、目を伏せた。

「ん? どうした? 何かあったか?」
「いや… あの後、アレは田んぼにあったでっかい肥だめに、折り畳んで沈めてきた…」
「っは? 肥だめっ!? お おめっ それっ ぷは~~っはははははは」

猫の予想とは真逆に、原田は豪快に笑いはじめた。

「そんなにおかしいか?」
「だ~ってよ いい気味じゃねぇかっ 自分ちの頭があんだけ串刺しになってんのによ? 自分だけ逃げようなんてっ 虫ずが走るぜ! そうかっ 肥だめかっ うっくくくくく!」
「まぁ 意味はあるんだがな… どうやら伊予柑は、俺に近いようだな…」
「ん? 近い?」
「いや 何でもない。 ま ちゃんと説明するよ」
「はぁ? ああ…」
「俺が、ずるい鼠の耳の端だけを吹きとばしたのは… あまり足跡を残したくなかったから足止めする為と、銃の痕跡を残したくなかったからだ。お前らも「ピストル」というものを知ってても、実際見た事はあまり無いのだろ? 最初に土方がこれを見た時の驚愕具合から言って、そう判断した。」
「ん~ そうだな 俺も、猫ちゃんの”それ”が実物を見た初めてだ」
「俺がこれを使うってのは、いずれ周囲にバレるだろう 話しのネタにもしてしまったしな… あれは 落ち度だった…」

猫は、芹沢との宴会を思い出して、少しばかりの舌打ちをした。

「もしも、サムライで致命傷となる跡を残したら、すぐじゃなくても俺の仕業だってバレるだろ? それを避けたかったから、首の骨を折って殺したんだ。」
「へっえ~ぇ なるほど?」
「で、それを肥だめに落としたのは、耳のちぎれた部分。この時代、銃の痕跡と見破る者などいないだろうが… それをいち早く腐食させたくて、肥だめに落とした。」
「ん? どういうことだ?」
「肥だめというのは、田畑の肥料となる牛や馬…人の糞、生活で出たなまものの屑なんだろ? そこには、数々の微生物が存在していて、血肉すらも細胞組織の根元から分解していく働きがあるものも存在している」
「はぁ… 早い話しが、早く死体を腐らせたかったのか…」
「ああ… それに、あそこなら、逃げ惑って誤ってあそこに落ちて… 落ちた時に、変に首をねじって死んでしまったって言い訳も出来るだろ? もし、早く見つかっても、耳くらい野犬に噛まれたのかも?で済む。」
「……。」

原田が、急に押し黙って、猫を複雑そうに見ている。

「ん? どうした? どっか変だったか?」
「あ… いや… 変じゃないんだ。 猫ちゃん… お前の本当の凄さがわかったよ…」
「ああん?」
「やっぱり俺はお前が気に入った! というか尊敬するぜ… お前が俺をどう思うか知らねぇがよ お前が零番仕事を俺に振ってくるなら、俺は絶対に断らないぜぇ? お前の為なら、盾にでもなってやるっ」

原田のその言葉に、猫の表情が途端に険しくなった。

「馬鹿か… お前… 俺の盾になろうとした段階で、お前はもう死んでるぞ… そんなお節介しようとするなら、お前はもう使わない… 俺は、そんな鉄の棒に斬られたり突かれたりなんかヘマしねぇけどよ… そんな心意気のヤツなんか、俺には邪魔としか思えない…」
「……。」

猫は、サプレッサーのついたサムライをおもむろに取り出し、その銃口を一端ピタリと庭に向けた。そして、その撃鉄をかちゃりと動かし、原田に手渡そうとする。

「ほれ… 撃ってみろ… 特別だぞ?」
「い… いいのか?」
「零番組長が良いって言ってんだ… さっさと持て!」
「あ… ああ…」

原田は、恐る恐るサムライを手に取った。

「まだ引き鉄に人さし指をかけるなよ?」
「ああ」
「俺がさっき構えた通りに右手に持て」
「案外… これ重いんだな…」
「ただの鉄の塊だからな… さっき俺が狙ったとこわかるか? 大体でいい 構えろ」
「こうか?」
「うん それでいい… そこに、左手を添えろ… 多少反動が来るから、右手首を守るように銃の尻に手を添えろ…」
「おう」
「右腕をまっすぐ伸ばせ… 銃身から一直線になるように肩の一番内側にそれを持ってこい」
「…。」
「その銃は、貫通力も威力もさほど無いが、初めてだと少し驚くかもしれない… 俺がお前の肩を押さえているから 安心しろ… 撃った後も、その体勢を保て…」
「ああ… 零番組長…」
「よし! 撃てっ!」

バシュッ!

猫の合図に、驚くほど反応が速い段階で、原田のサムライは火を吹いた。

「excellent…」
「っは… ははは… 猫ちゃん… こんなもんをあんな簡単に扱ってたんだな…」
「事の真意はそこじゃない。 お前は今、自分が撃った弾がどこに着弾したか見えたか?」
「は?」
「お前は 銃口の先で、弾が見えたか?」
「いや… 一瞬の火花みたいなもんしか見えなかったが…」
「原田を犬扱いするわけじゃないが、今撃った弾を拾って来い… あの土塀の上手端から三間と二尺五寸… 下から五尺と二寸辺り… 見てこい…」
「ん? ああ…」

原田は、サムライを置いてすぐに立ち上がると、小雨になった中を言われたままの場所へ素直に駆けてゆき、土塀を少しほじくった後、すぐに帰ってきた。

「あったか?」
「ああ… あった… これだろ?」
「ご苦労だったな… まぁ 座れ…」
「お前の獲物はよくわかったが… 何で俺に?」
「ま 初心者ってのもあったが、よく出来た。やはりお前はすごいよ… また 試すような事をして悪かったが… わかったよ… あんた きっと普段闇雲に槍を刺してるわけじゃねぇよなぁ 俺が最初に狙ったのは、きっかり三間と五尺の所だったが 横に2尺もずれたのは、俺が変に肩を支えたせいと、お前の癖も見えた…」
「どういうこった…」

そこで初めて、原田が不快な顔を向けた。

「お前… 俺と殺りあったら、弾道読んでまるごとぶっ刺してくるだろうなぁ… 嫌だなぁ…」
「おい猫… お前何考えてやがんだ…」
「な~にも~? たださ お前… さっき、俺を信じきってたろ? ああいうのはやめておけ… 考えてみろよ、俺はここに来てからどれだけも経ってねぇし、もしも、古い仲間だったとしても、条件決めつけて心を許すんじゃない… 人の思いや欲望は移ろいやすいものだ… 心に刻んでおけ…」

引き離すような、そんな猫の言葉に、原田も負けてはいない。

「っは! お前こそどうだ? 簡単にお前の一番の獲物を俺に預けて! もしも、俺があそこで、お前にサムライ向けたらどうなってた!? お前こそ俺を信じちまってたんじゃないのか?」

原田の挑戦的な言葉に、猫はふぃとため息をついた。

「勘違いも甚だしいな… 厳密に言えば、現在サムライは俺の三番手だ…」
「ん? 三番手?」
「わっかんねぇのか? 伊予柑っ 一番手は、この身体そのもの… 二番手がボニーとクライド… 一とニは逆かと思えるけどなぁ 体術で人を殺るのが面倒だからあえてそうなってるだけだ」
「はぁん なるほどぉ? 俺が、そのサムライをお前に向けた所で、そんな事は気にも止めるほどじゃなかったってぇ事だな?」
「全くその通りだ… 人は、便利な方へ偏りがちだが、俺の基本は体術だ… 俺自身の体重… んと目方はあんたらに比べてそんなに重くないから、か弱く見えるだろうが、俺が最初に学んだのは日本の合気道だ… 相手が重い攻撃をすればするほど俺はそれを素早く返して、一気に解き伏せる…」

訝しげな原田の目が徐々に柔らかくなり、ふっと笑みを漏らす。

「参ったねぇ… ここまで俺に惚れさせるたぁ お前 相当なヤツだなぁ~」
「ふん 俺に惚れると死ぬぞ お前…」
「っぷ! それって きっと冗談で言ってねぇよなぁ~ ぶははははは!」
「笑いごっちゃねぇぞ!」
「ぷっは わかったよ… 猫ちゃん… もう盾になるなんて言わねぇ もしもの時は、お前ごとぶっ刺してでもとっとと逃げるし、お前が「逃げろ」って言うなら一目散に… いや 一番に逃げてやるっ」
「ふっ それが一番頼もしい… やはりお前は聡明なヤツだ… 俺の目に狂いは無い」
「そりゃどうも~ 俺も零番組長を最高に信頼した また お前の下で仕事できるのを楽しみにしてるぜ?」

猫は、にんまりと瞳を薄めながら笑った。

「沖田の次ぎに多用させて貰うかな… その力量と状況判断力…」
「んあ~ あいつの次かぁ 俺は…」
「まぁ 沖田の場合、”別物”の繋がりがあるからな… それに、俺と似すぎていて怖いヤツだ…」
「そうかもなぁ… でも、猫ちゃんの方が嫌味が無くて好きだぜ~」

上を見上げて思いはせる原田に、猫はふふふと笑みを漏らした。

「何 笑ってんだぁ 別に嫉妬なんかしてねぇぞ?俺はっ」
「そういう事じゃない」
「じゃ 何だよっ」
「伊予柑… ほんっと清々しいよなぁ~ って思ってね 俺の心のオアシスだっ! っくぅぅぅ~」
「なんだ なんだぁ?」
「ううう… あの関東のお人達… 笑いに枯渇してて、私は超悔しい! ただ一人わかってくれるのは、伊予柑だけだっ!」
「ああ~ まぁ ええんやないかぁ? 実際 猫ちゃん面ろいでよぉ? そぉれわからん「関東のお人」っちゅうんが損しちょるんじゃぁ~」
「おおおおおおおっ 伊予柑! ものほんの四国弁じゃきん! それっ!」
「おまんも… 本物じゃろが… なぁに懐かしがりよるんかよぉわからん…」
「オアシスぅ~ ああ えっと 心の楽園って言うやっちゃのぉ~ っくぅぅぅ」

そこで、原田の疑問が頭に浮かんだ。

「猫ちゃん… そもそも国はどこなんだ?」
「は? 国? 日本やけど?」
「じゃなくて、どこで産まれたのかってとこだ」
「んっと 5歳くらいまでは… むむぅ~ん 今の江戸。 その後は、主に大阪… いや大坂っ のんべんだらりと暮らしてましたとさっ」
「ん?? たった齢五で江戸から大坂って… で、更に土佐と行き来するなんざ… どこかの姫か?さては…」
「姫って… ぶっははは そんな大層な… いや ごめん… 伊予柑… 話しはここまでだ… 早急に立ち去って、藤堂の見聞に参加しろ…」
「ん? 何だぁ? またいきなり… まあ… わかった…」

立ち上がり、去ろうとする原田に向かって、猫は更に言葉を付け加えた。

「有意義な会話だった。感謝する」

原田もそれに答える。

「こっちこそ 有意義な時間だった。 やっぱり来て良かった… また来ゆぅで?」
「あっは~ 待っちょるきんなぁ~」

原田の気配が遠のいたのを感じた後、猫は…。

「(姫かぁ… 姫じゃなく 俺は、女王蜂だってぇ~のっ)」
「(また核心に近づいた… 土方も沖田も狂いはしない…)」
「(だって… 俺はやっと育った”オリジナル”そのものなのだからなぁ)」

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と、今日はここまで…

猫さんが鴨殺害中、歯笛で歌ったのは、もちろんアレです…
「魔笛」の「夜の女王のアリア」www
ほっぺたをベロベロ舐められて、本当は超怒ってたんですな…
屋根に張り付きながら、頬をずっとグシグシ雨で洗ってたとか…
歌が終わる所で、鴨も絶命したって事らしい~

次回は… 猫さん自分の事しか考えてないお馬鹿さんです。