飽くなき妄想の果て -710ページ目

本編16「激しく歌う猫」

独自妄想トータルでその17?。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことだったが…どうやら、ねじ曲がりこじれぐっちゃぐちゃ(>_<)

いよいよボコりますっ!

では、いってらっさいまし!
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「お前… 遊びすぎだろっ」
「あっは すまねぇ でも さすが土方さんっ 俺が何やっても動じないっ!」
「お前の大道芸の凄さは半端ねぇな…」

自室で、濡れた袴を脱ぎながら土方のこめかみには、怒りの筋が入っていた。

「あ 着流しってやつで行ってくださいね…」
「ああ わかってる」

妙な緊張が流れる中、猫もほいほいと着替えはじめた。

「お前… ほんっと 俺を”男扱い”してねぇな… 真正面向いて素っ裸になろうとしてんな?」
「は? 何か問題でも?」
「だから… この間、山南さんちで俺も交えて、くどくど説教されたの忘れてんのか?」
「あ~ んっと、殿方の前で肌見せるなと… おおぅ… あんた 何見てんだ! あっち向け!」
「今さら言うなっ!(も ほんと気分削がれるな…)」

後ろを向きながら、土方はまっさらな着流しに袖を通し、宴席での猫を思い出した。

「(こいつの思惑と天然の均衡ってやつぁ どっからどこまでで成り立ってんだかなぁ 流暢に話しながら、ほいほい あちこち酒を注ぎまくりやがって… あれもきっと面白がってたぞ? あ~そういや)」

「うっし! もういいぞ?」

と、雨に濡れた頭を無造作に掻く猫に、綺麗に着流した土方は振り返った。

「猫… 瞳… 見せてくれ…」
「ん? 何故に? 今? とくと見るがよい」

すると 猫は、素直に土方の目に瞳を合わせてじっとしている。

「あ~ お前… そうしてりゃ 端正というか、美人なのになぁ…」
「おっ!? まさか これ ウケたか?」

猫は、先程同様に指で無理矢理目を押し広げた。

「…。」
「あんたには ウケないな… ちぇっ!」
「お前のそれは、計算なのか天然なのか… って! おめぇ! それもやめろ…」

着替えたという猫の格好に、土方のダメだしが入った。

「肌 出すなっつったろ! その上半身! 乳しか隠れてねぇじゃねぇか!」
「蒸し蒸ししてて暑いんだもんっ! 後で、ちゃんと着るし!ええやないかいっ!」
「後で?」
「ああ… マズイならあんたの着物貸してくれっ どうせ 先生んち行かなくちゃなんないし、マズイのはわかってる」
「ああん? お前 また何か思惑を計算したな?」
「いいから貸せよ」

猫が指を指したのは、先程土方が着ていた、着物の上着。

「計算なんかしないよ… 俺 あんたの匂い好きなんだ~ だからそれ 羽織ってく」
「殺し文句のようで、そうで無いあたりにモヤつくな… ほれっ! てめぇが欲しいなら着ろっ」
「ワーイ ありがたいっ! さぁ 行こうかねぇ」
「(わざとらしいと感じるのは気のせいか?)」


                  **

山南の部屋で、「あちぃ~ あっつい! 京都クソだな!」と文句を言いながら、猫は新選組の帳簿と運営録に目を通していた。

「ん あ~猫君… その… 肩口をはだけるのもいかがかと… それに、もうそんなに暑くもないかと…」
「ああん? あ~ そうっすね 見苦しいモンすいません…」
「いえ 見苦しくはないのですが…」

そこへ原田がにやけつきながら、言う。

「お前の肩… 肉付きいいがよっ 色っぺぇんだよ」
「ん? 何だそりゃ いろっぺ? ま 後で調べる おい… お前ら こっから俺は何も指示しない あんたらも、こんなもんいくつかヤってきてんだろ? 初めて会った時、ここにいる全員から、他の血の臭いがしてたぜ? で、生きてんだから上手いってことでいいか?」
「んま~ とりあえず殺せばいいんだよねぇ?」

沖田は、あっけらかんと言葉を漏らした。

「そっ 殺してこいっ! じゃぁ 今日、俺が得た情報を伝える」
「ああん? 情報? てめっ 遊んでただけじゃねぇかっ!」

土方が不機嫌そうに言葉を出したが、猫はそれを無視した。

「やっぱducky… あの肉硬いわ… 反撃気をつけろよ…? 以上。 あの… ちょっと眠ります… 手はずってやつは、山南さんや皆に任せた…」
「ああ… お前 ちょっと最近顔色悪いからな… その辺転がっとけ…」
「おいっす副長… 一時経ったら起こしてくれ… すまぬ…」


                 **

一時後、起こす前に猫はがばりと起き上がった。

「ちょっと 行ってきますかねぇ」

そう言って、猫は立ち上がると、そそくさと土方の着物を脱ぎ去って、自分の服をガバリとかぶって身なりを整えた。

「だから、お前… ちったぁ 気にしろよそれ…」
「ああん? 何が?」
「もういいよ…」
「こっちこそ こんな細かい事どうでもいいっ! あ~ ちょいと 「犬小屋」見てきます。 俺 屋根に這いつくばっていますんで、押し入る際に俺の身振り見てくださいなっ まぁ 気楽にいきましょ~ では、山南さんのプラン いや えっと 計画でお待ちしております~ とうっ!」

猫は、山南の部屋の鴨居にぶら下がると、天井板をはずして天井裏へ身体を滑り込ませた。

「うっほ 日本家屋すごいっすね! こんなの初めてっ! ヤバ楽しい! じゃぁ 行ってきま~っす!」

遊びにいくような猫の口調に、沖田が言葉を漏らす。

「あ~ いいなぁ 猫ちゃん 僕もやりたいなぁ~」
「やりたいなら あのわけがわかんねぇ 身のこなしを覚えねぇとなぁ」

原田がそれに答えて、場は、しばし静まる事となった…。


                    **

その深夜…。
雨は本降りの絶好調とばかりに大粒の滴を落としていた。
そんな中で、猫は真っ暗な闇の中、じっと屋根に貼り付いていた。
相手が、わかるかどうかは知らないが、「ま いいか」とばかりに、家屋の間取りに合わせて、順番に標的の位置と、標的外を知らせるサインを 暗殺集団に送った後、

「(かま~ん… クククク)」

と、腕を振った。

そして、猫の下で豪華なオペラが始まった。
その様子が手にとるようにわかる猫は、時にあざけ笑い、時に苦笑した。

「あ~ やっぱり はみ出るんだね?」

趣をそがれたとばかりに、苦く不機嫌な顔を作った。
その気配を追い、汚くおどり出てきた男に向かって、制止の言葉も無くその耳の端を、銃で吹き飛ばした。
ソレは、ちぎれ飛んだ肉片おかまいなしに更に逃げようとしているが、あきらかに失速している。
猫は、それに向かってひょひょいと飛びながら詰め寄った。

「Oh! How tricky… Do only you run away?」[あ~ なんてずるいんだ… 自分だけ逃げるなんてさぁ]

その密やかな言葉に、平間は「あ…」と声をあげかけた。
しかし、その後頭部にはゴリリと、銃口が押し当てられていた。

「俺は、連邦捜査官!チャック・バウアーだ! 両膝を付いて、両手を頭の後ろで手組め~」

平間は言われる通りに膝を落とし、手を頭に持っていこうとしたが… その前にゴキリと首を折られ、簡単に事切れてしまった。

「You! obstructed it though it enjoyed the opera. son of a bitch!」[あんたは俺のオペラを邪魔しやがった!ゲスがっ!]

猫は、原田の視線を感じて、そこへニヤリと視線を向けながら… 死体を担ぎ、深く残った自分の足跡や亡骸が残した痕跡を、無造作に足で払っていた。それはすぐに大粒の雨が隠してくれるだろう…。
それから、猫は 原田に新たなサインを送る。
それを見た原田は、ゆっくり親指を立てながら家屋を出て走り去った。

「(結局 そうなったか…)」
「(沖田め ツッ込みすぎたか…)」
「(土方は、やはりよくやったなぁ~ ククク)」
「(先生もやっぱ斬るときゃ斬る人なんだなぁ~ やっぱ俺の先生だな 能ある鷹は爪を隠す…)」
「(原田… お前… 副官に欲しいところだよ)」

猫は、気配を殺しながら、刺客達が過ぎ去った後も、女達の嗚咽や悲鳴を聞きながら、こちら側に欠損がない事を確認してから、死体を肩に乗せ、歯笛を残しその場を去った。


                      **

「おつかれさま」

猫は、随分な時間を費やしてから、山南の部屋に戻ってきた。出ていった時と同じ所から帰ってきて、冗談っぽく言う。

「土方 15点 だったけど 総評41点 赤点ギリ  山南さん86点。今回の最高得点者。 沖田 5点。 現場にDNA残しやがって! 原田50点。 期待点含む…」
「遅かったじゃないですか… なにしてたんですかっ!」
「人に点数つけんじゃねぇっ! 遅ぇから心配してたんだぞ!」

「ははは」と、おどけ笑いしながら、猫は湿りきった髪をかきあげた。
部屋には、山南と土方が猫の帰りを待ってくれていたようだ。

「はみ出たヤツ ぶっ殺して 捨ててきた」
「ああん? どこにっ」
「肥だめってとこ」
「げっ! な~んでわざわざそんな事すんだよっ!」
「ん? ムカつくんだよね ああいうヤツ… 自分んちの頭領ほったらかして、自分だけ助かろうなんてよ… 神様とやらが許してくれない限り、死体は見つからない… 血肉は、微生物が分解し… 残った骨はどんどん沈殿していくんだぁ~ ククク」

その物言いに、土方も山南もいけないモノを見てしまったように目を背けた。

「猫君。いい加減にしなさい… あなたは、「人の死」について、もっと考えるべきです… 先生も人を斬りましたが、あなたのように愉快に語れる気分にはなれませんね… あなた 感情で人を殺さないと言いましたが、死体を玩ぶ行為には感情が入ってるんじゃないですか? あなたにすれば、命が無くなった段階で、人間はただの”肉の塊”になってしまうんでしょうがねぇ?」

初めて見る、山南の軽蔑めいた冷めた目線に、猫は戸惑いを覚えた。

「ですね… 仲間であれ、敵であれ… 死ねば、全部ただの肉の塊。歌って送るだけの慈悲しか俺には無いね」

そこで、土方が「ああっ!」と声を漏らした。

「てんめ! 俺達が斬ってる間、派手に歌ってやがったな?」
「はぁ?」
「雨の音より、てめぇの声が鳴り響いてうるせぇったら!次いで、あ~しろこ~しろってよ!」
「…? な 何… 言ってんすか?」
「声も呻きもあげるなっつっときながら、何だありゃ!」

猫は、真っ青になりながら、ぽつぽつと言う…。

「俺… 確かに… 小さく歯笛は… 吹いてましたが… 歌ってなんかねぇっすよ…」
「山南さんも聞いてたろっ!? なぁっ!」

すると、山南も「え?」と不安めいた表情で、静かに首を振る。

「私には、雨の音と… 悲鳴しか…」
「なん… だと?」

そして、未だ振りしきる雨の音だけが部屋の中を流れていく。

「もうダメだ… それが本当なら… ヒジカタ… あんた変わりはじめてるかもしんない… も やっぱ 不安で不安で… 俺 こっから動けないっ!」
「じゃ、きっちり記憶戻すんだな 自分がどういう立場の”人間”かって辺りをよっ」
「うん… わかってる…」

その会話に、見えない部分が多すぎて、山南は不快きわまりない形相で問うた。

「あなた方… 私に伏せている事がありますよね? それも沢山の事! 話しなさい!」

猫は、常々山南にも話さなくてはいけないとは思っていたのだが、なかなかきっかけが無く言い淀んでいたのだった。

「俺… やっぱ”人間”じゃないんです… すいません… 総司も入ってきていいよ…」

猫は、ずっと沖田が部屋の外で、入ろうか入るまいかと控えていたのを気にしていた。

「ん~ あ~ 何か気まずい感じになっててさぁ」

と、気まずげに顔を歪める沖田が、部屋に入ってきた。

「総司… 無事でよかった… ごめん… ほんと ごめん…」
「なぁに 言ってんのさ猫ちゃん 僕は、君の”指示”に従ったまでの事だよ すぐに土方さんがニの太刀入れたのにはびっくりしたけどね~」
「はぁ… もう 忘れたいぜ…」

すると沖田は、右頬から鼻下に滑る傷を、無造作に手の甲で拭った。
それを見て、猫はのど元を押さえて、退いた…。

「ヒジカタ… すまぬ… お主の理解及ぶ範囲でよい お二方に、ワタシの正体を話すがよい」
「ん? あ~ まぁ お前… 隅っこで 転がっとけ 顔色悪いって段階以前に震えてるじゃねぇか」
「……。」
「俺は まだ狂っちゃいねぇ それどころか、お前がいるからこそありゃ成り立ったんだ! ちったぁ 俺を信じろ!俺も てめぇを信じてんだ! てめぇこそ肝を据えろ! 俺ごときに脅えんじゃねぇっ!」
「そうだな… 任せるぞヒジカタ… この身は決して万能ではない…」
「だろうな…」
「新米Chevalierよ… 頼むぞ…」

そして、猫は外れた所で、ことりと身を横たえた。

「あ~っ もう! 総司! てめっ! とんでもないもん拾ってきやがって! 面白すぎて涙でてくらぁっ!」
「だよねぇ~ 僕も後悔してないっ 面白いよね~」
「あ~ 私も、こういうのは… 過ぎた所は目を瞑って、悪くありません」

話しを聞く気満々とばかりに、沖田と山南は構えた。

「あ~… じゃ 今から話す事は、こいつの言った通り、”ここ”だけで… まだ、外へ漏らすなよ?」
「ん? 言った通り? 猫君は、そこまで言ってなかったような…」
「そうだな そうだったかもしれねぇ…」
「なぁんか、それ… 以心伝心みたいな?」
「そういや 総司… こいつに噛まれたりしなかったのか?」
「ん~ 思い当たらないねぇ~ 最初見た時、飛びかかってきたけど、すぐ勝手に倒れちゃったしさ~ その後は、猫ちゃんずっと昼間寝てるし、夜中に目~覚ましてるから 遊んでただけで…」
「てめ… こいつと接触したか?」
「ん? 接触? 何だよそれっ 何 疑ってんだよ! 土方さんみたいな事は一切してないからね!」

土方は、本題に移る前に他の二人を心配しながら先へ進めた。

「山南さんは?」
「ん?? 土方君の言う、”接触”とはどの程度なんですかねっ!?計りかねますが、私は、猫君の髪しか触った事がありません!」
「そうか…」

そこで、土方は沖田に再度問う。

「総司… お前… 最初に鴨を刺した後何か別のもん聞こえなかったか?」
「ええ? ああ~ 自分のため息が思ったより大きくて 困ったくらいかな?」
「わかった それでいい…」

その会話を前置きに、土方は夜明け前までかかって、猫の正体を語った。

                   **

「おい… 良かったのか? あれで…」
「うん… 私が… 私自身について気付く前に、あの二人は世話してくださってたので、心配でしたが… 土方さんほど酷い目には遭っていないようでぇ~…… しかも何か半信半疑で、二人とも苦笑したまんまだしっ 合わせる顔が無いぃぃぃぃ はぅぅぅぅぅ」
「ちょ おめぇ やめろよ! しかも 涙なんかつゆとも出てねぇし!」
「すいませ~ん… 土方さん達って存在知ってたら、涙も残してたんですがぁ~ うぅぅぅ」
「うるせぇよ! わざとらしく聞こえんのは 気のせいか?」

屯所が、バタバタと大騒ぎになっている中。
土方は、何食わぬ顔で、自室にて出掛ける身支度をしていた。

「お出かけですか… 半裃かっけぇ…」
「ああ… 鴨がいなくなったんだ 当分忙しくなる 大人しくしとけよ?」
「……おっす」
「偉く素直だな…」
「大人しくしてるんで、気をつけて言ってらっしゃいませ!旦那はんっ」
「あ~ もう調子狂うなぁ… てか お前、消えちまいそうなくらい顔色悪りぃじゃねぇか…」
「うぐ…」
「また 何か隠してやがるな? まぁ いい… 帰ってから聞くから、それまでこっから出るんじゃねぇぞ… わかったな!」
「へぃ… 親びん…」

土方は、急ぎ気味に部屋を出ていってしまい、ぽつんと残された猫は、しばらく土方が出ていった所をじーっと見つめていた。

「(この感じ… 兄貴が仕事に出掛ける時とか… 兄貴がいなくなった時みたいな…)」
「(ぅおっと! ダメだ! 土方さんがいない時にこんな事考えて混乱したらヤバいっ!)」

猫は、慌てて入り口に背を向けたが…
しとしとと降りしきる雨の音に気がついて、そろそろと入り口へ向かい…
少しだけ障子を開けた。

「あ~あ… 折角の雨なのに、外へ出ちゃ駄目だなんて… ついてないなぁ…
(てぇか… どうしたんだろ… 
渇いているわけでもないのに、身体がだるくて重い… 
心臓が暴れるみたいに動いてる…
焼けるように肌が熱い…
あ~ そうか… 
そうだ…
思い出した…
俺…
太陽に嫌われてるんだった…
眩しくて…
眩しくて…
視界が真っ白だった…
はぁ…
こりゃぁ 自分で思ってるほど軽い損傷じゃないんだな…
目下リカバリー中ってわけか…
頑張ってくれよぅ?
母なる心臓…)」

そして、また猫は残念そうに雨の音と滴の姿を見ながら、こてんとその場に転がった。
じ~っと雨が降る景色を薄く開かれた障子ごしに見… いつの間にか眠りについた。

雨…
雨…
雨…
雨は楽しい。
雨が降ったら、誰もいない公園へ行って。
傘を放り出して踊るんだ。
I'm singin' in the rain~♪
噴水のまわりをくるくるくるくる。
Just singin' in the rain~♪

「俺のDIVAのミュージカル会場は、ここかぁ?」
「ああん? 誰がDIVAぢゃいっ! 気色悪い事言うなやっ!」
「ははは 照れるなよ ホントの事じゃねぇか~」
「ふんっ …兄貴 仕事は? 明日まで帰って来られへんって言うとったんちゃうんけっ!?」
「お前に会いたくて、とっとと片づけて帰ってきた… ほらっ 帰るぞっ いくらお前でも、そんなずぶ濡れになってちゃ体調悪くすっぞ… 帰ったら、兄ちゃんが温めてやるからよっ」
「はぁ… またかぃな…」
「この世でお前を一番愛してるのは俺だ…」

「(たかにぃっ!?)」

猫が、ハッとして、眠りから目を覚ますと、さっきまでの景色とは違うものがあった。

「よっ 猫ちゃん 目が覚めたかい?」
「伊予柑…」

薄く開かれた障子の向うで、原田があぐらをかいて背を向けていた。
猫は、もう少し障子を開けて身を起こそうとした。

「あ~ そのままでいい 調子わりぃんだろ?」
「おうっ 只今、自己修復機能を最大限稼働させているのだっ」
「ぷっ なぁ~んだそりゃっ」

原田は、少し座り直してにこやかな顔を猫に見せてくれた。

「ねぇ… 伊予柑…」
「ああん? なんだぁ?」
「伊予柑はさ、誰かに「愛してる」って言われた事あるの?」
「っだぁ~っ! 何だよいきなりっ ま そりゃ しょっちゅう言われるけどよっ 俺だって結構モテるから~ けど、本当にそんな事を… 意味を持って言われた事はまだ無いのかもなぁ」
「ふ~ん…」
「うん? はっはぁ~ん 土方さんにでも言われたかぁ?」
「土方さんじゃないよ… たか… あ~ っつうか、土方さんが俺相手にそんな事言う訳無いっしょ~ っぷ 死ぬまで言いそうに無いよねぇ もし、誰かに言ってんの聞きつけたら、俺、逆立ちで日本一周してやるよっ!」
「まぁ~ 違いないか っぷくくくく」

言葉では、笑っておどけていても、雨を見つめる猫の瞳は深く翠で、どこか寂しさを湛えていた。
原田は、それを見下ろして、何か言葉を探していた。
それを助けるかのように言葉を吐いたのは猫だった。

「で? 俺に何か用か?」
「ん? あ~ 用ってほどでもないんだけどよ? 昨日の事聞いていいか?」
「ああ… 当分、誰もここにやってくる気配は無い。そのまま話してもいい」
「まず… お前… すごいな…」
「何がだ?」
「俺達が押し入る前、下に指差してからこうやって、数を出しただろ?」
「ああ…」
「あれは何だったんだ?って考えてて、隣室へ逃げ惑っていく鴨を一r突き刺しながらわかったよ ありゃ、部屋の中の人数と目標になる敵を示してたんだな…」
「ああ… よく見えたな」
「もうちょっと早く気がついてりゃ、もう一匹外へ出さずに済んだんだけどな…」
「ああすれば良かったなんてのは、結果論として受け付けないぞ。だが、お前の判断は良かった。逃げ出したヤツの後を追って、自分も逃げようとした女を刀で脅してそこに留まらせただろ?」
「ああ… その後見たお前と飛び出した鼠に、ちょっとばかり驚いたがよ…」
「何にだ?」
「あ~れ 何やってたんだ? お前のそのピストル… 見えないもんまで撃てるんなら、一発でアイツ仕留められたろ? なのに、すぐ殺さずに駆けよってよ… 妙な事してたよなぁ」
「あ~ 「24」のジャックバウアーごっこしてたんだ あ~っと 海外の有名なドラマ… ん~と、劇の真似ごっこ ぷふふ」
「あ~ あんまりわからねぇが… おっまえ… 遊んでたのかよ! はっ 人殺しにも冗談付け加えるたぁなぁ~ 俺はそういうの嫌いじゃないなぁ やっぱり、俺はお前の事気に入ったんだなぁ はははっ」
「先生に知れたら、また軽蔑されそうだけどなぁ 黙っててくれよ?」
「ああ わかってる。 ってぇかよ お前、素手でも簡単に男の首へし折るんだな… 疑ってたわけじゃねぇが、お前は本物だな… こんな美人に産まれておきながら… 全く惜しいもんだぜ」
「ははは 褒め言葉として受け取っておく」
「そういやお前、アレ… あの後どこに持ってったんだぁ? わざわざあんなもん担いでよぉ」

そこで、猫は昨夜の山南の軽蔑した目を思い出して、目を伏せた。

「ん? どうした? 何かあったか?」
「いや… あの後、アレは田んぼにあったでっかい肥だめに、折り畳んで沈めてきた…」
「っは? 肥だめっ!? お おめっ それっ ぷは~~っはははははは」

猫の予想とは真逆に、原田は豪快に笑いはじめた。

「そんなにおかしいか?」
「だ~ってよ いい気味じゃねぇかっ 自分ちの頭があんだけ串刺しになってんのによ? 自分だけ逃げようなんてっ 虫ずが走るぜ! そうかっ 肥だめかっ うっくくくくく!」
「まぁ 意味はあるんだがな… どうやら伊予柑は、俺に近いようだな…」
「ん? 近い?」
「いや 何でもない。 ま ちゃんと説明するよ」
「はぁ? ああ…」
「俺が、ずるい鼠の耳の端だけを吹きとばしたのは… あまり足跡を残したくなかったから足止めする為と、銃の痕跡を残したくなかったからだ。お前らも「ピストル」というものを知ってても、実際見た事はあまり無いのだろ? 最初に土方がこれを見た時の驚愕具合から言って、そう判断した。」
「ん~ そうだな 俺も、猫ちゃんの”それ”が実物を見た初めてだ」
「俺がこれを使うってのは、いずれ周囲にバレるだろう 話しのネタにもしてしまったしな… あれは 落ち度だった…」

猫は、芹沢との宴会を思い出して、少しばかりの舌打ちをした。

「もしも、サムライで致命傷となる跡を残したら、すぐじゃなくても俺の仕業だってバレるだろ? それを避けたかったから、首の骨を折って殺したんだ。」
「へっえ~ぇ なるほど?」
「で、それを肥だめに落としたのは、耳のちぎれた部分。この時代、銃の痕跡と見破る者などいないだろうが… それをいち早く腐食させたくて、肥だめに落とした。」
「ん? どういうことだ?」
「肥だめというのは、田畑の肥料となる牛や馬…人の糞、生活で出たなまものの屑なんだろ? そこには、数々の微生物が存在していて、血肉すらも細胞組織の根元から分解していく働きがあるものも存在している」
「はぁ… 早い話しが、早く死体を腐らせたかったのか…」
「ああ… それに、あそこなら、逃げ惑って誤ってあそこに落ちて… 落ちた時に、変に首をねじって死んでしまったって言い訳も出来るだろ? もし、早く見つかっても、耳くらい野犬に噛まれたのかも?で済む。」
「……。」

原田が、急に押し黙って、猫を複雑そうに見ている。

「ん? どうした? どっか変だったか?」
「あ… いや… 変じゃないんだ。 猫ちゃん… お前の本当の凄さがわかったよ…」
「ああん?」
「やっぱり俺はお前が気に入った! というか尊敬するぜ… お前が俺をどう思うか知らねぇがよ お前が零番仕事を俺に振ってくるなら、俺は絶対に断らないぜぇ? お前の為なら、盾にでもなってやるっ」

原田のその言葉に、猫の表情が途端に険しくなった。

「馬鹿か… お前… 俺の盾になろうとした段階で、お前はもう死んでるぞ… そんなお節介しようとするなら、お前はもう使わない… 俺は、そんな鉄の棒に斬られたり突かれたりなんかヘマしねぇけどよ… そんな心意気のヤツなんか、俺には邪魔としか思えない…」
「……。」

猫は、サプレッサーのついたサムライをおもむろに取り出し、その銃口を一端ピタリと庭に向けた。そして、その撃鉄をかちゃりと動かし、原田に手渡そうとする。

「ほれ… 撃ってみろ… 特別だぞ?」
「い… いいのか?」
「零番組長が良いって言ってんだ… さっさと持て!」
「あ… ああ…」

原田は、恐る恐るサムライを手に取った。

「まだ引き鉄に人さし指をかけるなよ?」
「ああ」
「俺がさっき構えた通りに右手に持て」
「案外… これ重いんだな…」
「ただの鉄の塊だからな… さっき俺が狙ったとこわかるか? 大体でいい 構えろ」
「こうか?」
「うん それでいい… そこに、左手を添えろ… 多少反動が来るから、右手首を守るように銃の尻に手を添えろ…」
「おう」
「右腕をまっすぐ伸ばせ… 銃身から一直線になるように肩の一番内側にそれを持ってこい」
「…。」
「その銃は、貫通力も威力もさほど無いが、初めてだと少し驚くかもしれない… 俺がお前の肩を押さえているから 安心しろ… 撃った後も、その体勢を保て…」
「ああ… 零番組長…」
「よし! 撃てっ!」

バシュッ!

猫の合図に、驚くほど反応が速い段階で、原田のサムライは火を吹いた。

「excellent…」
「っは… ははは… 猫ちゃん… こんなもんをあんな簡単に扱ってたんだな…」
「事の真意はそこじゃない。 お前は今、自分が撃った弾がどこに着弾したか見えたか?」
「は?」
「お前は 銃口の先で、弾が見えたか?」
「いや… 一瞬の火花みたいなもんしか見えなかったが…」
「原田を犬扱いするわけじゃないが、今撃った弾を拾って来い… あの土塀の上手端から三間と二尺五寸… 下から五尺と二寸辺り… 見てこい…」
「ん? ああ…」

原田は、サムライを置いてすぐに立ち上がると、小雨になった中を言われたままの場所へ素直に駆けてゆき、土塀を少しほじくった後、すぐに帰ってきた。

「あったか?」
「ああ… あった… これだろ?」
「ご苦労だったな… まぁ 座れ…」
「お前の獲物はよくわかったが… 何で俺に?」
「ま 初心者ってのもあったが、よく出来た。やはりお前はすごいよ… また 試すような事をして悪かったが… わかったよ… あんた きっと普段闇雲に槍を刺してるわけじゃねぇよなぁ 俺が最初に狙ったのは、きっかり三間と五尺の所だったが 横に2尺もずれたのは、俺が変に肩を支えたせいと、お前の癖も見えた…」
「どういうこった…」

そこで初めて、原田が不快な顔を向けた。

「お前… 俺と殺りあったら、弾道読んでまるごとぶっ刺してくるだろうなぁ… 嫌だなぁ…」
「おい猫… お前何考えてやがんだ…」
「な~にも~? たださ お前… さっき、俺を信じきってたろ? ああいうのはやめておけ… 考えてみろよ、俺はここに来てからどれだけも経ってねぇし、もしも、古い仲間だったとしても、条件決めつけて心を許すんじゃない… 人の思いや欲望は移ろいやすいものだ… 心に刻んでおけ…」

引き離すような、そんな猫の言葉に、原田も負けてはいない。

「っは! お前こそどうだ? 簡単にお前の一番の獲物を俺に預けて! もしも、俺があそこで、お前にサムライ向けたらどうなってた!? お前こそ俺を信じちまってたんじゃないのか?」

原田の挑戦的な言葉に、猫はふぃとため息をついた。

「勘違いも甚だしいな… 厳密に言えば、現在サムライは俺の三番手だ…」
「ん? 三番手?」
「わっかんねぇのか? 伊予柑っ 一番手は、この身体そのもの… 二番手がボニーとクライド… 一とニは逆かと思えるけどなぁ 体術で人を殺るのが面倒だからあえてそうなってるだけだ」
「はぁん なるほどぉ? 俺が、そのサムライをお前に向けた所で、そんな事は気にも止めるほどじゃなかったってぇ事だな?」
「全くその通りだ… 人は、便利な方へ偏りがちだが、俺の基本は体術だ… 俺自身の体重… んと目方はあんたらに比べてそんなに重くないから、か弱く見えるだろうが、俺が最初に学んだのは日本の合気道だ… 相手が重い攻撃をすればするほど俺はそれを素早く返して、一気に解き伏せる…」

訝しげな原田の目が徐々に柔らかくなり、ふっと笑みを漏らす。

「参ったねぇ… ここまで俺に惚れさせるたぁ お前 相当なヤツだなぁ~」
「ふん 俺に惚れると死ぬぞ お前…」
「っぷ! それって きっと冗談で言ってねぇよなぁ~ ぶははははは!」
「笑いごっちゃねぇぞ!」
「ぷっは わかったよ… 猫ちゃん… もう盾になるなんて言わねぇ もしもの時は、お前ごとぶっ刺してでもとっとと逃げるし、お前が「逃げろ」って言うなら一目散に… いや 一番に逃げてやるっ」
「ふっ それが一番頼もしい… やはりお前は聡明なヤツだ… 俺の目に狂いは無い」
「そりゃどうも~ 俺も零番組長を最高に信頼した また お前の下で仕事できるのを楽しみにしてるぜ?」

猫は、にんまりと瞳を薄めながら笑った。

「沖田の次ぎに多用させて貰うかな… その力量と状況判断力…」
「んあ~ あいつの次かぁ 俺は…」
「まぁ 沖田の場合、”別物”の繋がりがあるからな… それに、俺と似すぎていて怖いヤツだ…」
「そうかもなぁ… でも、猫ちゃんの方が嫌味が無くて好きだぜ~」

上を見上げて思いはせる原田に、猫はふふふと笑みを漏らした。

「何 笑ってんだぁ 別に嫉妬なんかしてねぇぞ?俺はっ」
「そういう事じゃない」
「じゃ 何だよっ」
「伊予柑… ほんっと清々しいよなぁ~ って思ってね 俺の心のオアシスだっ! っくぅぅぅ~」
「なんだ なんだぁ?」
「ううう… あの関東のお人達… 笑いに枯渇してて、私は超悔しい! ただ一人わかってくれるのは、伊予柑だけだっ!」
「ああ~ まぁ ええんやないかぁ? 実際 猫ちゃん面ろいでよぉ? そぉれわからん「関東のお人」っちゅうんが損しちょるんじゃぁ~」
「おおおおおおおっ 伊予柑! ものほんの四国弁じゃきん! それっ!」
「おまんも… 本物じゃろが… なぁに懐かしがりよるんかよぉわからん…」
「オアシスぅ~ ああ えっと 心の楽園って言うやっちゃのぉ~ っくぅぅぅ」

そこで、原田の疑問が頭に浮かんだ。

「猫ちゃん… そもそも国はどこなんだ?」
「は? 国? 日本やけど?」
「じゃなくて、どこで産まれたのかってとこだ」
「んっと 5歳くらいまでは… むむぅ~ん 今の江戸。 その後は、主に大阪… いや大坂っ のんべんだらりと暮らしてましたとさっ」
「ん?? たった齢五で江戸から大坂って… で、更に土佐と行き来するなんざ… どこかの姫か?さては…」
「姫って… ぶっははは そんな大層な… いや ごめん… 伊予柑… 話しはここまでだ… 早急に立ち去って、藤堂の見聞に参加しろ…」
「ん? 何だぁ? またいきなり… まあ… わかった…」

立ち上がり、去ろうとする原田に向かって、猫は更に言葉を付け加えた。

「有意義な会話だった。感謝する」

原田もそれに答える。

「こっちこそ 有意義な時間だった。 やっぱり来て良かった… また来ゆぅで?」
「あっは~ 待っちょるきんなぁ~」

原田の気配が遠のいたのを感じた後、猫は…。

「(姫かぁ… 姫じゃなく 俺は、女王蜂だってぇ~のっ)」
「(また核心に近づいた… 土方も沖田も狂いはしない…)」
「(だって… 俺はやっと育った”オリジナル”そのものなのだからなぁ)」

*************************************
と、今日はここまで…

猫さんが鴨殺害中、歯笛で歌ったのは、もちろんアレです…
「魔笛」の「夜の女王のアリア」www
ほっぺたをベロベロ舐められて、本当は超怒ってたんですな…
屋根に張り付きながら、頬をずっとグシグシ雨で洗ってたとか…
歌が終わる所で、鴨も絶命したって事らしい~

次回は… 猫さん自分の事しか考えてないお馬鹿さんです。

本編15「はしゃぐ猫」

独自妄想トータルでその16?。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことだったが…どうやら、ねじ曲がりこじれぐっちゃぐちゃ(>_<)

先に言っておく!英語は適当ザマス!
あ~ もう… 嫌な設定にしちゃったなぁ はぅぅ…

いざ芹沢局長の「最後の晩餐」へ!

では、いってらっさいまし!
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猫の思惑通り、その日芹沢は、日も沈まぬ明るいうちに土方と猫を迎えにやってきた。

「待ってましたよ~ 局長 楽しみにして待ってたんです」
「そうか~ さっ 行こうかねっ」
「あ~ でも ちょっと門で待っていただいてもいいですか? 支度がまだ済んでなくて…」
「ん~? お前はそのままでも愛いぞ?」
「Oui?Frenchか?うい?? ういとは… なんぞや」
「何だ… お前 言葉がわからないのか? かわいらしいという事だ」
「あっはは そうなのか… いやいやご冗談をっ 言葉とか… 少しわからないとか… 後ほど… ねっ?」
「わかった わかった 少ししか待てんぞ? 早く来いよ?」
「は~い」

芹沢が去った後、ニタニタ笑う猫は、そそくさと、上着を脱いで、皮のベルトを肩にかけ、サムライの装備位置を左脇に変えていた。
そこに土方のじとりとした目が刺さる。

「お前… 何 企んでんだ?」
「な~にもっ?」
「嘘だな」
「いやぁ どうせなら楽しみましょうよっ 土方さんもほんと今日は、俺の事… 大目に見てやってよねっ! 怒ったら絶好するよっ!」
「ああ~ん?」

                    **

芹沢が、土方と猫を連れてやってきたのは、島原のとある店だった。
店先で「腰のモノを預かる」と、言われ、芹沢と側近二人、土方も腰のものを預けるが、猫にはそのようなものが無く、ボニーもクライドも隠れる場所に装備されているので、何も言われずにいた。

「なんだ… 根来くん… 差料はどうしたのだ?」
「にゃ? さしろぉ?」
「刀だよ刀っ 二本差してこその武士では無いか!」
「二本差してますけど… あ~ そういえばそっちは無いですねぇ 俺は、そっちはあまり心得というものが無くて… あはは」
「ん~? 忍者というものも 携えていると聞いたが?」
「…… それも後ほど… あはは 何か誤解したはるみたいで… あ ちょっと 先行っててください 土方さんも 少し店の者に話しておくことがあるのでお先にどうぞ」
「そ… そうか では 行こうか」
「余計な事すんなよ? どら猫っ! すぐ来なかったら引っ捕まえにくるぞっ!」

そう言って、先へ行く連れを見送って、猫はにんまりとした。




「ほっほぅ? これは これは どういった事になっているのだね?」
「うぉぉぉ! お刺し身だぁっ! あ… あ~ 失礼いたしました… はいっ 料理の品数は同じでいいので、最高級の料理と酒を出してくれと、店に言っておきました。それと、前払いで充分すぎるくらいの勘定は済ませておきましたっ! 局長!」
「ほぅ?」
「もてなして頂くのは有り難いのですが、申し訳ない部分が多々ありまして… 勝手な事と承知の上で、やらかしましたっ! あ~ でも、後の配慮の仕方がわからなくて… すいません…」

上座の芹沢が、並ぶ極上の料理を見て、悦に入っている。しかも、勘定が前払いで「これほどとは…」と、口の端の笑みを隠せないようだ。

「ってめ 勝手な事甚だしいぞ! どっから金出てんだっ!」
「ああ… その… 新見の金… どっからカツアゲしたのか不透明すぎて、どこにも収まらなかったんで… こっちに回しました… 「最後の晩餐」ってやつですよっ ククク あ~っと 土方さん… 聞いていいっすか… この、女と思わしき舞い踊る生き物は何ですかね…」
「ああ~ん? どうせ、アイツのお気に入りの芸子やら舞子やら揃えてんだろ… お前 まさかそんな事も知らねぇでっ!?」
「す… すいません… だから 俺 ”ココ”ではこういうとこ初めてなんですってば…」
「てんめっ!なぁなぁでやっていけるとでも思ってんのかっ!」

芹沢を上座に据えたその上手側面で、土方と猫はすこぶる小声で会話をしていた。
それを、にまりと見ながら芹沢は…

「まぁまぁ 土方君。 根来君は、君にも配慮したのだろうな 勘弁してやれ むっはっはっは さて、改めて祝杯と行こうか! 根来君の歓迎にっ!」

土方の不機嫌そうな顔に満足しながら、芹沢は、盃をたかだかとあげて、それをくいっと咽に流し込んだ。
それを見て、猫以外の者が自分の口へと酒を流すが…

「あ~ 俺 土方さんに酒 止められてるんで、やめときます~ でもっ」

と、言うその横で… 
土方が、「んっ!」と、思わず声をあげた。

「あ… 土方さんとこのお銚子の中は水です。 聞きましたよぉ~? あんまり強くないんですって? あんたに酔われると困るんで、店に「土方さんは、このあと机仕事があるので、こっそり水にしといてください」って、頼んでおきましたっ!」
「てめぇ~~~っ まぁた 勝手な事を!」

ひそひそと話していたのだが、そこで、猫は、わざと声をあげる。

「あ~ 俺 やっぱ 酒ぐせひどいですもんね… まじで酔ったら、この部屋が血で真っ赤になるかもなぁ ククク」
「お前の黒さは、半端ねぇな…」
「じゃ 俺のとこの酒っ 土方さん飲んでよっ! 飼い主の義務だからねっ! 酔いつぶれても連れ帰ってあげないよ~ じゃ そこの娘な人に頼みましたぞっ!」
「こんの! どら猫!」

いつしか 喧嘩が起こりそうな気配に、上座で娘達をはべらせていた芹沢が、愉快とばかりに笑いながら、声をかける。

「まぁまぁ 宴の席でもめるなど無粋だぞ? ほらっ 根来君。 私の隣に来いっ お話でもしようじゃないか?」

そう言って、右手の娘を乱暴に突き飛ばして、ここへ座れとばかりにとんとんと指を鳴らした。
すると猫は、「あ~ はい」と、言いながらすごすごと四つんばいでそこへ座りに行く…

「根来じゃなく 猫でいいですよ局長~」
「ん~? そういえば、根来君。名の方は何というのだ?」

猫は、素直に芹沢のそばで、丁寧に正座で向かって座り答えた。

「あ~… タカですっ」
「ん? たか?」
「そっ! お空を飛んでるアレですっ」
「あ~ 鷹かっ」

「(てんめ!それ! 兄貴の名前じゃねぇかっ!)」

土方は、ひそかにそう思い、クワッと怒りの表情を作った。

「キョクチョーは 猫と鷹どっちがいい? 俺は どっちで呼んでもらっても構わないっ!」
「ああん? 局長は、「猫」が好きらしいぞ? わざわざ小猫探しに、俺んとこやってきたくらいだからよっ!」

芹沢よりも先に、土方が口をはさんだ。

「はっはっはっは その通りだっ! じゃぁ 小猫ちゃんにしようかっ」
「おいっす!」
「ああ そういえば、先程、刺し身に喜んでいたようだが? 好きかぁ?」
「おおおおおおっ! めちゃくちゃ好きですっ!」
「では… ほぅら お口を開けなさいっ」

と、芹沢は、自らの箸に取った刺し身を醤油に少し浸そうとしたが、猫はその手をそっと止めた。

「醤油はいらないですっ! キョクチョー! そのままの味が!そのままの魚の味が大事なのですっ! なので、あ~~~ん!」
「っぷ お前は、なかなかの通というか不思議なヤツだなぁ ほ~ら」
「ほっはぁ~」

猫は、口に入った刺し身を、感動のあまり目を閉じて、身震いさせながら味を楽しんでいた。
そして、それが咽に通ってしまうと…。
「もう一個!」と、ばかりに瞳をキラキラさせていた。

「ん? あ~ も… もう一つか… では… ほらっ」
「あ~ん っと もっひゅぅ~~っ! うんまぁ~い!」
 
目をらんらんとさせる猫は、感激にそれを潤ませた。

「小猫ちゃん? その美しい翠の瞳… もっと… 見せろ…」
「ん? これっすか? いいっすよぉ?」

「(なにぃっ! 見ていいのは俺だけっつったぢゃねぇかっ!)」

と、更なる怒りを湧き上げた土方の前で部屋中が笑うことになった。

「ほれ! とくと見なっ!」

猫は、目をいっぱいに見開き、まだ足りないとばかりに、両手の親指と人さし指を添えて、無理矢理瞳を開かせた!

「ぶっ ぶわっはっはははははは」
「見えましたぁ? ほれっ!」
「お お前… 本当に気に入ったぞ!」
「え?」

「(あ… あいつ… 気をもませやがって!)」

そんな思いの土方をよそに、猫は更に畳みかける。

「あ… あのぉ~ きょくちょ?」
「ん~ 何だ?」
「その前に、お酌ってやつ 俺 やってみてもいい? いや こりゃ駄目なのか… 越権業務になるのか?」
「いいに決まってるじゃないか! さっ」
「おおっ!」

芹沢は、注がれたばかりの酒を、一気にくいっと煽り、猫の前に盃を差し出した。

「さっ 注げっ」
「あいあいさ~っ!」

だが、その手つきは明らかに慣れてはいなかった。
少し、芹沢の手にこぼれ、猫はびっくりしたように、徳利を引き上げた。

「ごめんなさいっ! 初めての経験で 緊張してっ! あわわわわ」
「ぶっ あっはははははは このくらいで何を言っているのだ しかし お前 初めてとは?お前も以前は飲んでいたような口ぶりだったが?」
「ん? あ~… ちょっとそれは察していただけるかと…」
「ん~~?」
「実は俺… 先に謝りたい事が… あの… この女という人達の前では…」
「あ~ かまわんよ こいつらは、口が硬くなくてはこんな商売できない連中だ 少々の事など外には漏れない… 何だ?」
「そうっすか… では…」 

すると、猫は大げさにバターッと土下座をしはじめた。

「扇子破ってごめんなさい! 忍者って思われてるみたいだけど、違うしごめんなさい! あああっ! 俺、外国から来たので、敬語ってやつとかわからん的でごめんなさいっ!」

芹沢は、酒を煽りながら「ん~?」と目をあげた。

「扇子など気にしていたのか… 良いモノを見せてもらったのだから、その代償としてはかまわん」
「でも… 山南さんが、人のモノを壊したら謝りなさいと…」
「ん~ なかなか君は、縛られているようだな… それよりも、どこから来たって? 詳しく聞かせろ!」
「へいっ 大親びんっ!」

猫は、改まって正座し、その背筋をピンっと伸ばした。
その目の端に、土方の両側の娘達が、それぞれ争うように酌をしているのを見て、ムカっとしてしまったのは、猫の落ち度だった。

「あ~っと 局長さんっ 俺は、忍者では無い。 そもそもは日本人だが、齢十二で、異国に渡り… 特別な身体鍛練をしたあと、各諸外国を渡り歩く傭兵になったんだ」
「異国? 傭兵?」
「ほらっ! 俺のこの瞳っ 翠だろ? このせいで、この国にはいられなかった。だから、こっそりとこの国を出たんだ… 傭兵ってのはな? 金をもらって、人殺ししたり、合戦の指揮したり、個人の警護をすんだっ あ~ そこの二人っ 芹沢さんの警護とか身の回りやってるんですよね? いわば同業者みたいなもんです」
「ほ~ 異国を渡り歩く? では、異国語も達者なのだろうな?」
「疑ってるんですか? Hey! ducky! イッヒフンバルトクソデェ~ル!(っぷ Germany ごめんっ くくく)」

怒りをこめて、後半をドイツ語風に言葉を発してみる猫。
土方から、「ぷっ」と小さな笑いが漏れたが、猫はそれを無視して、更に続ける。

「well... May I still speak in English your understanding? That's easier. ..aha?(俺ジャーマン苦手だったわ うへっ)」 [そうですねぇ あんたがわかるなら、英語でしゃべっといてもええかいな?そのほうが楽だしさっ]

更に、飽きれ気味に付け加えた英語に、芹沢が驚きの表情を見せた。

「っは なるほど… それで、土方君がひた隠しにしていたわけだ… なるほどなるほど… これはこちらも秘密にせなばなぁ~」
「Ha? Though it's not such a reason...」[え?そういう意味じゃないけどさぁ]
「もういい 小猫ちゃん? 君が本物かどうか疑ったのは、悪かった。で? 警護もやっていたのだって?」
「well~ えっと… 偉そうに警護と言いましたが、やったのは2回だけです。アメリカと中国の要人警護…」

そこで、猫の顔がクワっと険しくなった。

「落ち着け!猫!」

という、土方の声が聞こえたが、それを遮るような猫の殺気が巻き上がっている。

「なっ 何だ? 小猫ちゃん?」
「すんません… また嫌な事を… 思い出しまして…」
「ほほぅ 武勇伝とみたが、話してほしいなぁ」
「いいんですか? 夜中におしっこ行けなくなりますよ?」
「ぶわはははははっ かまわんっ 面白そうだ! 話せっ」
「あ~ はい… かいつまんで言いましょう。 俺、警護なんですが、その要人ってヤツが、執務室で二人きりになると俺の尻ばっか撫で回すやつでっ! いや まぁ 尻くらいならいいかと撫でられてる所に、俺が気配感じて、「伏せろ!」ってそいつ押し倒したんすけど… そいつ何を勘違いしたのか、更にむぎゅ~っと尻掴んで… そいつのいた頭の所に銃弾が着弾しましたんす。」
「じゅうだん?」
「あ~ これっすね ”アッチ”は銃社会なので、これ欠かせないっす。」

と、猫はハンドガンのサムライを懐から取り出し、土方の側にある徳利の底を、間髪入れず…

ドン!

と、撃ち飛ばした。

その途端、部屋の女達が「キャー」と慌てふためき逃げようとした。

「お前ら!! こっから出たらぶっ殺すゾ! 脳みそ飛び散らしたくないなら 黙れ! うるさいっ!」

猫のその怒鳴り声に、女達はピタリと悲鳴を押さえて青い顔をして元の場所に座った。

「ああ… 猫… お前なぁ 俺に何か文句あんなら聞くぞ…」

と、落ち着き払いながら、土方は酒でびしょっびしょになった袴を懸命にぬぐっていた。

「おおおぅ! フクチョー! すいませんっ! 私としたことがっ! こんなお漏らししたみたいになるなんてっ!」
「てんめっ! 狙ったな? 絶対狙ったはずだ! 狙ったように、徳利がここに落ちたぞ!お前ならやる!絶対やる!」
「何の事ですかねぇ~」
「くっそ! お前 帰ったら朝まで説教垂れてやる! 覚悟しとけっ!」
「おおぅ… ご主人様… とんだ粗相というものを私はやってしまったのか… 」
「お前なぁ… はぁ… 明日の昼まで説教延長だ!」
「とほほ」
「コレとコレとコレ!弁償代!お前の給金からさっ引く!」
「ひぃ~~え~~~っ ご勘弁をぉ~~」

被弾ヶ所を順番に指して、深い怒りを額にこめて土方は怒っている。
そのやりとりに、芹沢はおろか、女達までもが徐々に笑いはじめる。

「あ~~~~はっはははは 愉快 愉快! 土方君っ! 君は、本当に面白いモノを拾ったもんだっ! 羨ましいっ!」
「(ああん? うらやましい?)いっそ 貰ってやってくれ… はぁ…」
「そぅ~かぁ? じゃぁ 欲しいなぁ~」

と、いやらしく芹沢の眼光が細く光る。

「あ~?headhuntingか? じゃぁ それなら 俺のguarantee いやいや 給金交渉からですね 俺 そもそも 自分でmanagement いやぁ ええと?自分で自分の価値知ってますんで、それ要求しますよ?」
「ほう? いかほどかね?」
「んっと、さっきの中華要人警護の一日分で、10milliondollarもんだったっすね」
「ん? それはどういうことかね?」
「たぶん大体300両? あ~ ちょっとまだ、京の市場相場がわからないんですが、そんなもんっすか? ま でも、局長の警護なんか めちゃくちゃラクなんで、1日30両で手を打つよ? プクククク 昨日、あ~んな わかりやすい 鼠なんか送ってくれちゃってぇ… これさぁ 京都でお刺し身なんかそうそう食えるもんじゃないんでしょ? でも、局長がわざわざご用意してくださったお刺し身っ おいしかったぁ~っ!(俺は刺し身以外はって注文したんだぜ?)」

その最後の言葉に、芹沢から側近二人に向けて、ジロリと睨みが一瞬飛んだ。

「という事は、土方君にもそれだけの給金をもらっていると?」
「そうですねぇ 別の色を付けてもらってますねぇ~ っと さっきの話しは途中ですよ?」
「ん?」
「銃が雇い主の頭狙って来た後~」
「ああ そうだな…」
「そういう時って 暗殺外れた段階で、たまに強行部隊が数人押し入るんですが… まさにそんな事態になりましてね? で… さっきまで俺の尻なで回してたヤツ 俺の身体を盾にして、羽交い締めにしようとするんですよなぁ~ んまぁ 俺は 銃が両手にあって手首さえ動けりゃ充分なんで、部屋に降りてくる順番に暗殺者をきっちり片づけましたぜぇ? 部屋の開口部分が全部血で染まってて、ヤツぁ 腰抜かして震えてたなぁ ククク」
「まぁ 刺客が来たところで そんな数人 ほどがないだろう 俺一人でも全然平気だな」
「いやぁ 数人ではなかったなぁ? 両手銃ももう装填分しかなかったから、30人かと思ったがなぁ… 後は、およそ100m先に狙撃が二人いたんで、狙撃ライフルをハンドガン持ちして眉間を撃ち抜いたかなぁ まぁ 死体が山になる前に、尻撫でオヤジが腰抜かして気を失ってぶったおれたんで こっちも助かった。そんな感じだね」

動かなくなった芹沢に、猫が不安げになる。

「あ~ あの… 俺、誇張など言葉で付け加える技術が無いので、わかんないっすが 給金 安く見積もったのは、あんたらの武器? あの刀ってやつ。 俺は、あれを抜きはじめる前の段階で、もう殺せるからさっ 仕事 簡単っすよなぁ~ つぅか 何であんたらあんなに簡単に自分のモノ預けるのか、俺わかんねぇ~ 見えるとこにわざわざ置くってからには、俺に勝てる自信あったり?」
「っふ」

芹沢は、猫の講釈など聞いてはいなかった。

「なぁ~に そこ 行ってんっすかぁ」
「さすが 早いなぁ」

あろうことか、話す猫に、芹沢が抱きつこうとガバリと襲いかかったのだった。
しかし、猫はそれをその場飛びで、後ろに少し退き難を逃れていた。

「俺の尻に触ろうとしたなぁ? つか 俺の尻触ろうなんて、局長も変態じみた真似すんなよっ!」
「あっれぇ? お前も ”鬼ごっこ”好きだろう? ふはははは」
「あ~ そういう事か… っぷ こんな狭いとこで、あんた 俺に挑むのかぁ 勇気あるなぁ」

それまで、芹沢には気を置かなかった側近までもが慌てはじめた。
大きな身体をどったんばったんと打ち付かせながら、猫を部屋中追う芹沢を押さえようと、追いかけている。

「(あ~… アイツ ほんっとに玩んでるな…)」

半分 水。 半分 酒。と注がれる盃に、土方は!”そもそも”萎えていて、”そもそも”の酒量範囲を超えていても、一向に酔えない自分に嫌気が差してきた。
その身は、「もう勝手にやれ」とばかりに、部屋の隅に移動させていた。

「さぁっ トシはんどうぞ?」
「何言うたはるん! トシはんのお銚子はウチどすっ!」
「あ~ もう どっちでもいい…」

もう、どっちがどっちか気にも止めず土方はそれを飲み干した。
「(あ~ こっちが酒か)」
そう確認したところで、猫が止まる。

「あ~っ そろそろ帰らないと!」

そこで、息をあげた芹沢が抱きついた。

「捕まえたぞ… ぜぇぜぇ」

その手はもう尻を撫で回そうとしていたが、猫の腰装備がじゃらじゃらと邪魔をしていて、なかなか触れない。
そんな事には気にしない猫は言う。

「局長っ! 俺、そろそろ帰らないと、山南副長に怒られるっ!」
「あ~? さんなん?」
「組織経営の帳簿を建て直してる最中なんっす!」
「あ~?」
「もう~~ 局長! そんなんだから、”ウチ”の先行きが暗雲立ち篭める状況に陥るんですよ?藩から下った拝両分食いつぶしてんのは局長じゃないか… わかってんの?」

とろ~んとなった、芹沢の目が抱きついた猫の目に合わさる。そして、芹沢は猫の頬に「ぶちゅ!」っと吸い付き、舌で舐め回しはじめた。
その横で、二人の金魚の糞も、猫へ手を伸ばそうとしていた。

「おいっ!! 猫! 帰るぞ!」

たまりかねた土方が声を荒げた。

「はいな! 局長はいかがいたします? 一緒にお帰りになるなら、ずっと肩をお貸ししますよっ?ちょ~ もぅっ! ほっぺたくすぐったいじゃないっすか! キョクチョー!」
「じゃぁ このまま連れてってもらおうかなぁ 小猫ちゃん~」
「うっは もう… しょうがないな キョクチョーわぁ… んじゃ しっかりつかまってくださいよ?それと、別途時給請求しますからねっ」
「しっかり者だな 小猫ちゃん~」



「おっも! あんたら おっも!」

じっとりとした空気… とうとう降り出していた雨の中、猫は芹沢に肩を抱きつかれるようにされ、逆の肩には同じように側近の一人がのしかかっている。

「あ~ もうほらっ しっかりしてくださいよ~ぅ!」
「あっはっは! 愉快 愉快!」
「あっ 局長っ! 今 わざとよろけましたねっ!?」
「お~っと 俺も 足が~」
「watch out! 平山さんもっ! なぁ~にやってんっすかあんたらぁ~ あっははは」

三人の影が、ふらふらと右へ左へと何度もゆらつかせながら、帰路を歩んでいく。
その後ろで、もう一人の側近が、けらけらと笑い声をあげながら、あまり役に立ってはいない傘を
差しかけていた。
土方は、その後ろを、ぶっすりとしながら黙って傘を差して歩いている。

「ほらっ! 平間さんっ 局長濡れちゃうじゃないっすか! しっかり差してくださいよぅ~」
「いやっはっはっはっは」
「あんた 笑いすぎっ!」

珍道中の末、やっと八木宅に到着すると、芹沢は、ぎゅ~~っと猫を抱きかかえた。

「お前もこっち来いっ 綺麗どころが待ってるぞぉ? 共に楽しまないかぁ?」
「あ~ もうっ! 局長! わかってんすか? あんた 逮捕状出てるんっすよ?」
「ん~」
「俺は、あんたの為に仕事してんだよ! ほんとは今 超忙しいんっす! 帳簿もまだ途中だしっ!」
「そんなの明日にしとけ~」
「明日ぁ? もし、今 あんたが捕縛されたら、俺の仕事がちゃらになるっ!そんなことになったら、損害賠償金も請求しますからねっ!」
「がめついヤツだなぁ…」

そこで、猫は、土方に顎で合図を送った。

「おらっ 芹沢さん… 店からのみやげだっ」
「ん? これは?」
「前金がでかくて、もてなし分賄えなかったんだとよっ だから、上級の酒を持たされた」
「ほぅ? 一体いかほど払ったのだろうなぁ」
「知るかっ あいつは、給金ふんだくるヤツだからなっ ”相当”渡したんだろなっ」
「あっはっは! じゃぁ 土方君も どうかね? まだ呑むだろぅ?」
「俺は、アイツが仕事する横あいから説教だ! 遠慮する」
「はっはっはははは 愉快だなぁ」

芹沢は、濡れしきった土方の袴に目を落とし、耐えられないくらいに笑いを飛ばした。
「ちっ」という、舌打ちを漏らす土方をよそに、猫は言う。

「んぢゃ また 誘ってくださいな ”捕まらなければ”の話しですがね~」
「嫌味だなぁ~? まぁ そこがまた愛いところだな」
「”お休みなさい” 芹沢局長~」

*************************************
と、今日はここまで…

もう一個の要人警護…
「24」好きの猫ちゃんは、アメリカでずっとジャックバウアーごっこをしていたようですwww
通信で、兄貴を呼ぶ時は、「クロエ!早く衛星画像を送れ!」と、おっさん声を真似て…
で、あんちゃんは…「今やってますぅ~ せかさないでくださいっ!」と、クロエの真似を…
と、ずっと小芝居が続いたのであった。
当然、警護対象を「大統領ぉっ!」と呼んで…
「いや… 私は、長官ダカラ…」と、返されていたようですwww
心底楽しんだので、この時はギャラをふんだくらなかったようでゲスwww

普段からそんなことやってるんで、芝居はお得意っ!

あ~ てぇか… 史実挟むの何か嫌だのぅ… すごく悪い事してる気分(>_<)
そして、適当だし…
まぁ いっか…

次回は… 思い出の中に、兄貴が登場っ

本編14「張り切る猫」

独自妄想トータルでその15。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことだったが…どうやら、ねじ曲がりこじれぐっちゃぐちゃ(>_<)

何だか更に恥ずかしくなってきたゾ!熱が下がらないゾ!
も、何となくごめんなさいっ!
この文章は… いや、ランダム文字は、空気だと思ってくだシャーっ!

では、いってらっさいまし!
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「土方さん~ 風邪ひきますよ~って前に… マジで申し訳ない…」

猫は、自分の横で、静かめのイビキをかきながら寝ている土方に、土下座をした。

「(本当にごめんなさいっ その分仕事で、挽回しますっ)」



寝静まる屯所… 勝手口が見える真っ暗な場所で、猫は、小さな歯笛を軽く吹きながら、座って潜んでいた。
部屋にいなければ… 
どうせココにいればいずれ帰ってくるだろうと、気長に歌を楽しむ。

「(ほ~ら 来たっ)」

「左之さんも手伝ってよ この筋肉だるま運ぶのぉーっ!」
「はっは~んってよ~ これも鍛練の一つだぁ~って思え~」
「そんなぁ~っ!」
「俺ぁ~ まぁだ 飲むぜぇ~」
「あ~っ 駄目駄目駄目っ! それ 醤油だってぇ~ しんぱっつぁん」
「うあっ ゲホゲホッ」

ガラガラガッターン!

「こりゃ さては、西洋の酒だなぁ~?」
「もう 勘弁してくれよぉ…」
「あ~あ~ しょうがねぇなぁ 俺が片づけとくから、先へ行けぇ~ へーすけ~」
「あ~ 頼んだ~」

猫は、飽きれながら、「よっこらしょ」と、勝手口で、おぼつかぬ手で片づけをする原田の横に立った。

「お前ら、毎日あんなコントやってんのかよ ククク」
「あ~ん 猫ちゃ~ん? こ~んな所で、な~にしてんだぁ?」
「お前を待ってた。」
「おっ 逢引きのお誘いってかぁ~?」

原田の手から、木杓子をとりあげ、サクサクと場を片づけながら、猫は言う。

「ああ そうだな… 俺んちの… 零番の仕事手伝ってくれたら、考えなくもない」
「っへ~ そういうことかぃ」
「このあと、落ち着いたら、庭の奥の木まで来い… 知ってるだろ? 待ってる」

そういうと、猫はすぐに去って行った。

「色気の無さそうな… 逢引きだなぁ~ んまっ 退屈はしねぇよなぁ~」


                     **

「おいっ 土方っ! 土方!」
「ん~? なんだよ…」
「すまねぇ 髪結ってくんねぇかっ ちょっとでも早く行きたいんだっ 起きてくれよっ!」

朝… 日が出て半刻も経たないうちに、土方は猫に無理矢理揺り起こされた。

「何だよ… まだ日が変わったばっかじゃねぇか…」
「寺へ行きたいんだっ なっ なっ」
「あ~? こんな早くにぃ?」
「総司が来ないうちに、ちょっとでも子供と遊びたいっ ほらっ 結って結って!」

猫は、背を見せキチンと座って、親指で自分の髪をクイックイッと、指している。

「わかったから ちょっと待て… ってぇか こんな朝っぱらから、子供なんていんのかぁ?」
「魚の匂いがする子がいたっ きっと 魚河岸の子だよっ 魚河岸の朝は早いから、きっともう遊んでる! 野菜の匂いの子もいたっ! 市場の朝は早いっ だから、きっといるんだっ!」
「魚河岸?ん? あ~ いや… ほんと お前 子供好きだなぁ…」

土方は、寝ぼけ眼で、猫の髪の毛を掴み、それを結い上げていこうとする。

「でぇ~? 三つ編みだっけかぁ? どうすんだっけぇ?」
「は? 何言ってんすか? そんな気持ち悪いもんしたら、吹き矢で殺しますぜっ! ぅごぉ~~~っ 痛いたいたいたいたいっ!」

三つ編みしたいと言ったのはお前だとばかりに、土方は、高くまとめた猫の髪をわざとぎゅうぎゅう引っ張った。

「わりぃ ちょっと力が入っただけだ」
「今の絶対ワザとじゃないかっ! なんっだよ!」
「何だじゃねぇよ!」

いつもは、ムッスリしながら結い上がるのを待っているのに、今朝だけは、ソワソワと嬉しそうに待っている猫。
土方は、ふと聞いてみた。

「なぁ お前… 女の格好とかしたこと無いのか?」
「ん? 何でそんな事聞いてんだか… あ~ そんな事無いですぜ? あっ あ~っ! ああああっ! クッソ! あんたのせいで、変なもん思い出したじゃねぇかっ!」
「はぁ?」
「そうだぁ… あれも、兄貴が受けた依頼だぁ… クッソ~~ぅ! あんなエロだぬきのトコ送りやがってぇ! 契約期間中チャイナドレスをずっと着せられてたんだ!中華の要人警護の依頼だっ!」
「ちゃ… ちゃいな?」
「おうよっ! あ~ わかんないだろな… ちょっと待ってろ。辞書引いて、挿し絵とか出るかなぁ… おおっ あったあった」

猫は、モバイルを取り出して、タカタカと指先を走らせた後、それを土方に見せた。

「これだよ コレっ! これの袖無し真っ赤バージョン着せられてよぉ 似合わねぇったらもうっ 寒気ブルブルっ!」
「んぶっ!」
「笑うなっ!」

モバイルには、青いチャイナドレスを着たおねぃさんが、わざとらしく笑う写真が載っていた。
それを見て、土方は、笑ったわけでは無い。

「(お前、絶対これ似合うだろっ!) いや、笑ってない」
「くそぉぉぉっ! あんのエロだぬき! 毎日 人の尻ばっか撫で回しやがってぇ! ぅぅぅううううっ! 夜な夜な ヒールで踏んでくれとか… アイツ狂ってやがったぜ!」
「そんな怒ってて… よ… よく、殺さなかったな…」
「ああん? 警護してるヤツを殺したら、仕事が成立しねぇじゃねぇか 守る相手殺してどうすんだ… ギャラ… 給料さっ引かれるどころか、新たに小さな戦争起こすようなもんだ」
「あはは… そりゃ ちげぇねぇな… てか おめぇ 用心棒もやってたのかよ」
「用心棒? ああ~ うん そうだな… そりゃ その辺の依頼が来りゃ やらなきゃしょうがねぇだろ 組織トップの指令が回ってくりゃ 嫌でも受けねぇと… ってか、これの場合 俺しか出来なかったな… 「女子SP求む!」って ひっくり返ってこけそうな題名の指令書だったからなぁ その代わりギャラ… ああ~ 給金ふんだくったから、チャラにしてやった」 
「おっと… そういや、お前の給金でてるぞ?」
「あぁ? 給金? そっか… そういや、あんたの依頼、一つ受けてたなぁ」
「ああ… あれの分だ」
「いいよ… いらねぇ そもそも、俺はあんたの飼い猫だからよ あんたんとこに入れといてくれ、もし要り用な時は、あんたから要るぶんだけもらう めんどくせぇしっ」 
「ったぁ~ お前なぁ… 丸投げすんなよっ 俺に渡したら、色街通い詰めるぞっ!」
「イロマチってなんだぁ~? ちょっと待てよ…」

そう言って、猫はまたモバイルに指を走らせかけた…。

「まままままっ待った! やめろ! 悪かった!」

と、土方は猫の手を止めたが…
遅かった。

「あ~ キャバクラ街か。 いいぜ~ 楽しんで来いよっ 俺もその分 寺で… ああ~~~っ! 何話込んでんだよ! 悪い! 土方さん 髪っありがとう! 寺に行ってくるよっ そうそう~ 総司にさ 朝飯終わったら寺で遊ぼうって伝言頼んだっ! っじゃ!」

「…… 何だぁ? あいつ…」
「(しかし… 本当に自分の容姿に無頓着というか…)」 
「(ちゃんとすりゃ… その辺の女どもより美人に見えるだろうに…)」

「んあ~~っ! もうっ! 振り回しやがって! 目が冴えちまったじゃねぇかっ!」

                    **

猫は、急いで寺に向かってみると、やはりもうすでに5人ほどの子供が遊んでいた。

「お~い 鬼さん来たよ~ 逃げないと、捕まえて、可愛いほっぺに食いつくぞぉ~」

猫は、思いっきり脅したつもりだったが、子供たちは猫を見つけるなり、

「あっ! 猫やっ! 猫ぉ~っ!」

と、駆け寄ってくる。
猫は、一番早くやってきた子供を、捕まえて抱きかかえあげると、その額に軽くキスをした。
それを見て、他の子供たちは、逃げるどころか全員が、自分も自分もとせがんでくる。

「こりゃ まいったなぁ~ 鬼さん、ほんと怖い人なのになぁ~」

と、苦笑いしながら、子供達一人一人を抱き上げ、「おはよう」と言いながら額にキスを落としていった。
そして、最後の一人にキスを終えたあと…

「鬼さんから逃げないと… こうなるぞぉっ! と、その子供の脇を思いっきりくすぐり、無理矢理悲鳴のような笑いを起こさせた。
それを見て、他の子供たちは、一斉に「キャー」といいながら境内を散り散りに逃げていく。

「ほらっ 君も逃げなよ。俺は、ここで十数えてから探しに行くから、ちゃんと隠れるんだよ?」
「うんっ!」

猫は、腕の中の子供を逃がしてやると、その側の地面に大きな円をつま先で描き、目を閉じて10をカウントダウンする…。

「(10・9・8・7・6・5・4・3・2・1)ぜろぉ~~っ!!!」

猫は、駆け出して、うまく隠れる子供を、まるで見えているかのように次々と捕獲して抱き上げる。そして、その頬にキスを落とし、大きな描かれた円の中に子供を運んでは、そこへ降ろす。

「いいかぃ? ここは、鬼の牢屋なんだよ? 正義の武士が来て、鬼を改心させるまで出ることが出来ないんだ~ だから、出ちゃだめだよぉ?」
「え~っ そんなんいつ来るんや~」
「もうじき来るよっ あ~ まだ一人、鬼の獲物がいるなぁ~ いっひひ」

そう言うと、猫は、最後に残った子供を、わざと見当違いな場所をまさぐりつつ、大きな声で牢屋の子供を笑わせながら探す。

「ここかぁぁ!! あ~ 違ったなぁ~っ… では、っここかぁ~っ! ここも駄目だったぁ~」

もう、猫には当然最後の子供がどこにいるのかわかっている。その子からも、クスクスと笑いが上がりはじめている。

「(早いな総司… もちょっと遊びたかったのにな…)」

そして、とうとう最後の子供が見つかった!

「ここだぁーっ!」

ビクリとして、目を上げた子供は、キャーと逃げ出す。それを追いかけて、猫は、わざと足をもつれさせたり転んでみせながら追いかける。
その様子を、牢屋の子供達が、応援している…。
そして、とうとう最後の子供が捕まり、頬にキスが落ちる頃…

「猫ちゃ~ん 鬼さんの魔の手から、子供たちを助けに来たよ~」
「総司! 来たなっ!!正義の武士よ! 待っておったぞ!!」

そう、殺気を飛ばしながら、猫は総司に向かって駆け出した。

ドゲザシャーーーーーッ!

「すいませんでした! 子供たちは開放しますので! ひらに ひいらにぃぃぃ!」
「ふっふ~ん 鬼くん ようやくわかってくれたんだね?」
「そりゃもう 犬のように腹見せてはふはふ言ってもいいくらいにっ!」
「じゃ やってよ」

「ギンッ!」と、猫のざわつく殺気が、沖田に飛んだ。それが子供たちにも少し不安を落とす。

「んまぁ 許してあげるよ…」
「ありがと~っ」

覚めた表情の猫がゆっくりと立ち上がり、にっこりとした顔を作って、子供たちに振り返った。

「猫さぁ 総司とちょっと相談があるんだっ だから、ちょっと向こうで遊んでてくれるか?」
「っえ~~っ 一緒に遊ぼうなぁ~」
「んっふっふ 駄目さぁ~ 猫と総司はね、次は何ごっこするかの相談をするんだっ だから、俺達に近づいたら楽しくなくなるぞ? いいな? すぐ終わるから楽しみに待ってな~ ククク」
「わかったぁ! はようしてなっ!?」

そして、子供たちは、話が聞こえないよう遠くで遊ぶようになった。

「猫ちゃんと僕って こういうとこ気が合うよねぇ~」
「だなぁ… わかってんだろ? アレ…」
「あ~ うん 薄々ねぇ~」

そして、猫と総司は、無造作にその地面に腰を降ろして、本題に入った。

「総司… 零番の仕事を手伝えっ 返事など聞かない、お前は絶対要るからな…」
「僕は、逆に猫ちゃんとこの仕事は断らないよ… だって、楽しそうだしっ」
「ククク… そりゃ 願ったり叶ったりだな… 多用させてもらうゾ」

                    **

その日の昼下がり…
猫と土方は、屯所の門扉裏で、立ち話をしていた。

「顔色が悪いな」
「あはは… ちょっと朝から動き回りすぎて、すこ~し疲れてるだけです 心配ねぇでやんす…」
「なら、いいがよ…」
「はいなっ!」
「てぇか お前… 何 企んでんだ? お前の嘘は、俺にゃ通用しねぇぞ?」
「わかってますよ わかってるからこそ安心なんですよね~ クスクス」 
「お前ってヤツは、どこまでしたたかなんだか…」
「まっ たぶんもうすぐですから、土方さんも私に合わせてくださいよ~っと 役者みたいに容姿端麗な土方さんよっ! どんだけ役者張れるか見せてくださいなっ」
「ああん? そんな事誰が言ってたんだか…」
「とりあえず、俺が頭ボリボリ掻きはじめたら、「そろそろ行くぞ~っ」て呼び戻してくれりゃいいからっ ほらっ 行きますぜっ!Ducky帰ってくる…」
「お前というヤツぁ…」

猫は、ぴょこぴょこと、門扉をくぐり表通りへの石畳を進んでいく。
そして… 表通りを、右手左手ときょろきょろとし…

「お~っ 芹沢局長~っ」

そう行って、駆け出していった。

「ん~? 根来君か…」

芹沢と、その側近三人は少々二日酔いなのか、気だるい様子で、だらだらと歩いている所に、猫が走り寄ってきたのだ。

「おかえりなさいっ!キョクチョー!」
「あ? ああ… わざわざ出迎えに?」

と、芹沢は聞いたが、猫のずっと向うに土方の姿を見つけ、「そりゃ違うだろな」と、汚く苦笑した。

「違いますよ~ 今から、遊びに連れてってくれるんですっ 今日は俺が主役なんだっ」
「っほ~ぅ 根来君も遊ぶのが好きかね?」
「うんっ! 鬼ごっこが好きっ! 俺が鬼でねぇ捕まえたら! 頬にチューってするんですよっ かわいかったよなぁ……」

子供たちと遊んだ時のことを思い出して、本気で悦に入っている猫に、芹沢はニヤリと顔を歪めた。

「それは楽しそうだなぁ 私とも是非遊んで欲しいなぁ どうだい?」
「はいなっ!いいですよ~ あ~ でも今日は駄目ですよ? 俺の「誰でも出来る!暗殺講習会」だし、芹沢局長は、そんなもの聞かなくても、強いでしょ?」
「あ… あ~そうだなぁ」
「でも、局長のSPさん達は、聞いたほうがいいかなぁ…」

芹沢の後ろで、一瞬「は?」という顔をした男達は、お互いの顔を見合ったが、次の瞬間には、屈託なく笑う猫につられて一様に頬を弛めた…

「今日は、駄目だけど、明日は大丈夫ですよ~ どっか遊びに連れてってくださいな~ 明日なら、その二日酔いも治ってる? ねぇっ ねぇっ!」

猫は、翠の目でまっすぐと芹沢の目を見つめながら、腕を取っておねだりをする。

「ふっ… はーっはははは いいだろうっ 明日、連れてってやろうじゃないかっ しかし、お前は面白そうなヤツだなぁ それに、これは男にしておくのはもったいないなぁ…」
「はへ?? あ~ それとあのさ… 俺… 局長に謝らないといけない事もあるからさ… えへへ…」

猫は、後頭部を右手でガシガシと掻きながら、バツの悪そうに苦笑いをした。

「おいっ! そろそろ行くぞっ!」

後ろからの土方の声に、「おおっと!」と肩をすぼめて、猫は言う。

「あ~ 局長… アレ… 忘れてました… たはは 俺… ”今んとこ”あの人の飼い猫だからさぁ
アレも一緒でいいかな…」
「あ~ ”アレ”ね いいんじゃないか? 女達も、”色男”に喜ぶだろうしなぁ~ その辺に置いときゃいいだろぅ」
「はぇ? あれが色男というものか… へぇ~ ああ… でも、こんな約束勝手にして、大丈夫だったかなぁ…」
「なぁに、心配するなっ 局長が連れてってやると言ってるんだっ 平気だよ んっふっふ」
「だよねっ! じゃっ 明日いっぱい遊ぼうっ! いっぱいですよっ?」
「あ~ あ~ わかったわかった… しょうのないヤツだなぁ 愛いなぁ その瞳…」
「引き止めてごめんなさい… ゆっくり休んでくださいっ ではっ また明日っ!」

とろんとした笑顔の芹沢を置いて、猫は手を振りながら土方の元へ駆けよっていく…
土方は、そんな猫の頭を「ポコリ」と殴ると、猫はムスーっと口をすぼめている。
そして、土方が、芹沢へ軽く会釈してから去っていった…。

「う~ん… 飼い猫ねぇ~」
「どうします?局長…」
「まぁ 一応… 探っておけ…」
「わかりました…手配します」

                  


「ククク エロだぬき… まんまと乗って来やがって… ヒールでガシガシ踏みつけまくってやろうかっ! まぁ 最後に遊んでやるのは、俺じゃないけどさっ ククククク」
「お前というヤツぁ… どこまでしたたかなんだ… あっさり、約束取り付けてきやがって…」
「あ~っ! そうだっ! 土方さんっ! 微妙に棒読みでしたや~んっ 役者にゃ~なれませんぞっ!」
「別に、役者になりたくてこんな顔してるわけじゃねぇ~よ!」
「こういう仕事はさ… 役者になりきるのも必要なんですよ~っと ふふふ」
「空恐ろしいヤツめ…」

料亭への道すがら、土方と猫は他愛なく会話をするが、その猫の目はいつになく冷たい。
「どうかしたか?」と、土方が問うものの、猫は「何でもないですよ」と、はぐらかすのであった。

料亭へたどり着くと、一人山南がニコニコしながら店の前で待っていた。

「先生っ ありがとうございます。」
「いいえ? お安い御用ですよ~」
「あ~ ここ二階なんだ… 二階のお部屋がいいな… 一番端のっ」
「はい~ そのようにお願いしてありますよ」
「さすが先生! あ~ そうそう… 俺のぶん食事いらないから… もしも頼んでるんなら、取り消しといてください…」
「あ~ やはり食べませんか… う~ん わかりました… 取り消します」

が…

「こっこっこっ これはっ!!! お鯛さんやないかっ!!」

沖田の横で、焼き魚を狙う猫がいた…。

「あげないよ~ぅ ていうか~ 猫ちゃんお魚好きなの?」
「うんっ! お刺し身が一番好きっ!だけど、焼き魚も好きっ!」
「へぇ… やっぱり猫ちゃんも食べる時はあるんだね…」
「たまにはねっ 一口だけくれっ あ~ん あ~ん」
「あ~もうっ 食べたいならあげるから自分で食べなよ~」
「だって、俺んとこ箸無いもんっ あ~ん ったら あ~ん」

そのやりとりに、とうとう向かいに座る土方が眉間にしわをよせながら言う。

「そんなに欲しいなら、俺の…」
「はい 猫ちゃん あ~ん おいしい?」
「おうっ! んま~いっ!」
「もう一口いる?」
「う~ん… おうっ もらってあげる~」
「んじゃ はい あ~ん」
「あ~ん」

土方が、不機嫌そうに「チッ」と舌打ちをし…
その様子に、猫のもう片方隣の原田が、腹を抱えて笑い出した。
そして、山南は…

「沖田君と猫さんは、本当に仲良しさんですねぇ~」
「ほっとけほっとけ~」

そして、しばらく… 猫は、皆が夕飯を摂るのを畳の一点を見つめて待っていたが、ふぃと沖田に訪ねる。

「あのさ… お母さんってさ どんなもんなの?」
「何なのさ いきなり」
「ん~ 今日さぁ お寺で遊んでたら、子供達のお母さんが「お昼やで~」って呼びにきたでしょ?」
「あ~ うん…」
「ああいうのって良いなぁ~って思って… 俺にそんな記憶無いんだよねぇ お母さんはいたはずなのになぁ あれ? いたっけ?う~ん…」
「まぁ 僕にはわからないね 気がついたらもう 父さんも母さんもいなかったしさ 僕もあんまし記憶無い」
「ふ~ん まぁ いっか… また嫌な事思い出しそうだし 考えるのやめよっと」

猫は、きょとんとした態度で、別段それを追及する事も無く。
今度は、原田にそそそと寄っていった。

「ねぇねぇ 伊予柑はさっ 松山?」
「はぁ? お前何でわかるんだ?行ったことあんのか?」
「う~ん 行った事は無いけど、オバサンって人が、土佐でね… 夏になったら、毎年そこに預けられてた。恐ろしい”はちきんばばぁ”だったぜ… はは…は」
「あはは…」
「いや 俺のことはいいんだ 何で家出したの?」
「あ~ ま~ これでさ… 」

そう言うと、原田は、少し晒しをめくり腹の傷を指した…

「一悶着あってよ 嫌気さして 脱藩したってとこかな」
「おおっ すごいなそれっ! よく生きてたなっ!」
「お前がそれを言うかぁ…?」

一同同じ事を思って、云々と頷いた。

「俺もそういう死にそうなのある…」
「いや、お前の場合ありすぎるだろっ!」
「じゃなくて… 俺が一番始めに殺した”人間”ってのはさ… 俺自身なんだ…」
「お前も死に損じたのか?」
「う~ん… ここに跡があるんだけど見る?」

と、猫は胸の晒しに指を引っかけてくいっと、ずらそうとしたが…
副長達の、恐ろしく渦巻く殺気に気付いて、原田は断った。

「いやいやいや 見たら 俺、殺されるから… あの人達に…」
「まぁ いいかっ いやぁ だからね、俺、組織入って訓練はじめに… とりあえず実弾銃を渡されたんだ… で、それを心臓に向けて ガーン!ってやったんだけど… あっれ? 何で自殺しようとしたんだ? つか、中身が背中から飛び散ったのに、何で生きてられるのやら こりゃまたさっぱり… ん~ さては、俺は幽霊だなっ! あ… あれ? どうしました?」

沖田以外の3人が、箸を止めて、暗くなっているのに気がついて、「あ~ また違うんだわぁ」と、しゅんとなってしまった。

「猫ちゃ~ん お豆腐も食べるだろ?」
「ん? 何で?」
「口に突っ込んだら食ってたから~ ほらっ 拾ってきてすぐの時っ」
「そうだ! 総司! あの後、遊んであげる~って言って! 猫じゃらしを目の前にチラチラとっ!」
「猫ちゃんも、手出してちょいちょいってしてたじゃないか~」
「いや… だって… 何だかムラムラと… まぁ でも、総司はよく変に遊んでくれてたなぁ… 夜中 ず~っと桃太郎とか、浦島太郎とか色々読んでくれたし… んで、何とか日本語思い出したんだ…」

そこで、山南が「ん?」と、疑問を投げ掛けた。

「猫さん それまで何語を話してたんです?」
「基本的に、英語です。私の場合、アメリカ英語ですねぇ イギリス圏のQueen'sEnglishみたいな綺麗な文法や発音が出来ないので… 英語もかなりきちゃない口調です…」

土方も、そういえばと…

「お前、混乱すると、すぐ出てくるよなぁ それっ 外で異国語は極力控えろよ?」
「了解です…」
「それと、お前… さては… 俺んとこ来てからじ~っと俺の背中見てたのは、遊んでほしかったのかっ!?」
「んぐ… だって、構ってくれないんだもん… で、夜中に色々考えてたら、いっぱい混乱して…」
「はぁ…… 総司がよくこんなもの抑えられてたなぁ~と思えば…」

他愛なく話すうちに、随分経ったような気がして、山南が本題を持ちかけた。

「その話は、その辺にして、猫さんのお話しでも聞きましょうかねぇ」
「はい~っ んじゃ はじめます。まず覚えて欲しいのは…」

と、そう言いながら、猫は立ち上がって… 左手にハンドガンの”サムライ”を持ち、撃鉄を起こした。
そして、それを、ピタリと天井に向け、構えながら続ける。

「暗殺やその他作戦の実行中は、身振り手振りで意思の疎通を計ってもらう。たとえば、こうしたら…「静かにしろ…」 し~~っ…」

その直後、天井で、小さな気配が動いた。
猫は、ニヤリとそれに向かって…

「あっれ? ネズミかなぁ~」

バシュッ!

板の継ぎ目のど真ん中に風穴をあけてから…

「あ~~… 逃がしたかぁ~~ 飼い猫失格かもなぁ~~」

と、わざと大きな声で、歪みきった笑顔を作った。
その横で、沖田も腹を抱えて、笑いを堪えながら転がった。

「猫ちゃん いいねそれ~っ!」
「だろ? ず~っといてさぁ どうでも良い話を延々とするもんだから、たぶん聞くだけ聞いて、暇してたんだよねぇ」
「身振り手振りは、見ないとわからないしさ 見ちゃうよね」
「で、そこに、銃口向けられてたら、そりゃ 慣れてても慣れてなくても驚くよなぁ ククク 何だよあれ~ 見つかってないとでも思ってたのかねぇ ド素人がよぉっ!」
「うまいよ 猫ちゃん」
「そりゃどうも」

まるで、心がつながっていたかのように、会話をする二人に、副長二人は、表情も動かさず聞いていた。

「俺が 沖田を多用したいっつたのは、コレだよ副長さん。 俺が気付いてる事は、大概沖田も気付いてるんだ 別に仲がいいわけじゃねぇけどよ 普段へらへらしてる割に鋭い。それに、沖田の得意技は、狭い日本家屋内でももってこいの殺傷力がある。」
「お前ら、また… 寺でじゃれてたな?」
「ギクゥッ! ま~ 流れで…」
「うん かぐや姫は 月に戻らなかったという結末でね~」
「まぁ… 髪の毛もってかれたくらいで、命があって良かったや…」

そこで、副長組が「なにぃっ!?」と、目をむいた。

「あ~ あの… すいません… こういうポニーテール慣れてないもんで… 避けたところに、総司の刀が、先っちょをちょ~っとだけ… あ~ すいません…」

そこで、原田が「ぷっ」と、少し吹き出した。

「な~んか、真面目なのか、ふざけてんだか… 暗殺計画っつぅからよ、どんな殺伐とした話すんのかと思えば… くっくっく わかったよ 俺は、猫ちゃんの零番組長って疑ってたわけじゃないが、こ~んな美人がどこまで出来るんだ?って、見くびってた。 で~も… あんなもん見せられちゃ~なぁ~」

猫は、原田に答える。

「逆にこちらは、申し訳ないが、想像上の戦闘力であんたを選んだ。いや、槍の名手であるというのは、以前聞いた。 という事は、太刀の場合振り下ろすよりも、差すほうが威力あるよなぁ? 太刀もいける口だろ? 頼んである通りにやってくれりゃいいんだ。 早い仕事を期待するぞ」
「参ったね。 俺は、試されるって事かい でも悪い気なんかこれっぽっちもしないな~ な~んでだろな~」
「まぁ 現場臨機応変で頑張ってよ 実際、誰が誰を斬るかなんて、現場で判断しないとわからないからさぁ とりあえず、お互い見えていない背中部分を皆で補ないあうんだ。」

と、一息つきながら…

「じゃぁ 暗殺について、俺のやり方を言う… 実際問題さ、やっぱり、現場の早い判断ができなくちゃ、こっちの命も危ないんでね。 感情の起伏や、先入観などで、心が揺れてはいけない。 例え、目標が、やみくもに誰かを盾にしても、俺はまるごと殺す。「盾にされただけだ~ 自分は悪くな~い」 違うね… 盾にされるあんたが鈍くさいってねぇ 命請いなんてものはじめる前に殺す。
それから、さっきみたいにさ 天井のネズミは、銃口向けられて、「ひっ」ってなってたけど、アレも駄目だなぁ… かすれるくらいのちょっとした攻撃を、受け流せないでどうするんだ? ちょっとばかし斬られても、うめき声一つあげるなよ? それ以前に、声を出すなんて持っての他だ。 息すんのも忘れないと、見つかっちゃうよ~ っと… 俺、脱線多いけど我慢しろよっ?」

淡々と立ったまま語る猫は、少しばかりにこっとした。
そして、誰にも何も言葉を発っしさせないうちに、次へと移る。

「さっき ちらっと言いかけたけど、現場では声を出せない。こっちでは「目配せ」ってやつがあるんだろうけど、真っ暗な中で、そんなの無理っしょ? だから、片手で指示したり、答えたりする。
手を握って親指を向けたら、「良い」「良し」。手を、下に向けてひらひらさせたら「駄目」。んで、握った手の親指だけを立てて、それを首にすべらせると…「殺せ」「死ね」
これもちょっと指揮官の国によっても 個人にも差があるから… っと脱線…。 あとは、退がれとか行けとか、たぶん指さしで、わかるだろうからそれを使ってる。 つか、絶対、声出すなよ! っと… ちょっと休憩する?」

場は、半ば放心状態に入っていた。

「あ~ いや だからぁ~ あ~ そだっ ほらっ! 土方さんがさっ 俺を抱いて、先生の部屋に行った時。俺、しきりにそれやってたんだけどさぁ あはは 手を軽く振って「下がれっ」 「静かに」ってさ でも、沖田さんってば、土方さんの肩をがっちり押さえてるし、原田さんの後ろでは、喜劇が始まってるしさっ ほんと この人たち何なんだろぅ?って、驚いたよっ くっくっく」
「あ~ あれ そう言う意味だったの~ 僕はもう、笑い堪えるのが必死でさぁ~ 咄嗟に土方さんの肩 掴んでたぁ~」
「お前っ あれ わざとだろうっ!」

矢継ぎ早に話す猫の話に、放心していた場の空気が、一気に緩む。

「あ~ あの時かぁ 酔っぱらった新八が、土間の隅にしょんべんひっかけてた時だ~ あんとき 土方さんな~に抱えこんでんだぁ? ってぇ~見たら 猫ちゃん「にゃ~」って言ってたよなぁ んぷっくくく」
「あなたたち… 私の所に来る前にそんな所で遊んでたんですかぁ…」

山南の言葉に、全員が乾いた笑いをしていた。

「まぁ あれはさぁ 目先の目標しか見てなくて、俺のしぐさの意味を受け流したり、無視した結果だねぇ 人間の行動には全て意味がある。それを素早く判断できる者が長生きできるってぇことだよな っつうか、まさか俺が「にゃ~」なんて古い誤魔化し方するなんてなぁ~ っぷ」
「それで、土方さんちの猫ちゃんだってわかったからさ まぁ~ いっか~って思ったし 成功じゃないか?」
「んははっ でも、あれで、わかったんだ 原田さんはさ、どんだけ酔ってても、ちゃんと頭に記憶が残る人だなぁ~って あの次の日、ちゃんと他の2人連れて、先生のところに来たもんさぁ」
「副長は三人で山南さんとこ行くかどうか、まかせるって 言ったけどよ 連れていかねぇわけにゃいかねぇだろ、猫ちゃんを一回見ちゃってんだから… 平助なんか、すっげぇ心配してたぞぉ? ほぼ裸の女の子が、整然と怒る斉藤さんの横で、痛みに耐えてる姿を見てるんだからよぉ 新八は、何か変に燃えてたなぁ 何 勘違いしてたんだか…」
「あはは そりゃ とんでもなく見苦しいモノ見たら、驚くよな… もっとちゃんと謝らなきゃなぁ」

そこで、副長コンビが同じ事を思う。

「(違ぇ~だろ! もう、ほんとコイツずれまくってねじれてて、わかってねぇよ危ねぇよ!したたか以前の問題を正さないと、これから先マズイだろっ! それに仕事と割り切った殺しにもヤバいもんあるぞこりゃぁ…)」
「(猫さんには、もう一絞りのお説教が必要ですねぇ… あんなに言ったのに、自分の身体をまだ粗雑に扱っていたり、思ったりするなんて! それに… 物の考え方にも… 悲しいものを… やはりこういった思考は夷狄文化の…」

副長二人が、不服そうな顔をしているのには気がついているが、本題とは違う所でまた怒っているのだろうと、猫は無視して、やっと話を前へ進める。

「じゃぁ 明日の筋書きを言うぞ?とりあえず、俺は、今日帰ったら、山南さんの部屋で、説教聞きつつ先生の仕事を手伝う。 ネタ探しついでに運営記録などがありましたら見せてください。あの… 会計帳簿確認したりの仕事やりますけど、山南さんは、ちゃんと頃合い見て寝てくださいよね」

説教を「見透かされている」のだなと、山南は思わず力の無い笑いをした。

「で、俺は、山南さんの所で夜明かしした後に、土方さんの所に戻って、朝方少々休ませてもらうよ… あんたの説教も聞きながら…」

土方も、「上等じゃねぇか!」と、強い意気込みを覚える。

*************************************
と、今日はここまで…

もう、どうでもいい話がたらたらたらたら…
あ~ 斉藤さんどこいっちゃったんだ… ぼや~っと刀の手入れしてるのかなぁ…(←どうでもいい事ばっかし考えてしまう…)

とと…
あと、手サインは、ちょいと曖昧ですかね(^^ゞ
外人さんの、ボディーランゲイジって、たまにわっかんないのんあるからなぁ…
もっ 適当 適当っ!

次回は… 鴨ちゃんといっぱい遊びますっ♪

本編13「明かす猫」

独自妄想トータルでその15。
新選組の面々は薄桜鬼のキャラをワタシの脳内解釈の偏見あれど、そのまんまってことで?(>_<)

もう、何だか自分でもよくわからなくなってきた…
書いてる本人がすでに混乱しているというヒドイ状況っ

なんか、恥ずかしすぎてまた熱が上がってきた…
たぶん、これ入れてあと5回くらいで、序章は終わるはずっ!
我慢だっ!

では、いってらっさいまし!
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「土方君… 食が進まないようですが? どうかしました? アレは、未遂に終わってて、事は丸く収まったのです… あまりいい感じはしませんがねぇ… それでも猫君は無事だったんですから、よしとしましょうよ…」

夕飯を摂る土方の箸が所々止まり、なかなか飲み込まずにずっと噛んでいるだけの様子に、山南は、「まだ何かあるのか?」と、心配している。

「いや 何でも無い… ちょっと、最近忙しくて、疲れてるのか… 食が進まないだけだ。」
「そうですね… たぶん ここにいる全員がそうでしょうが…」
「ああ… 目に余るモノがあるよなぁ」

会話に割りいった永倉も、いつものような… 食に勢いがない…。

「ああ…」

近藤も、一端… 箸を置いて、ため息ついでに茶を啜った…。

「実は… 朝廷から芹沢鴨の逮捕命令が出た。 それを受けて… はぁ… この後は、トシ… 頼んだぞ」
「ああ… 伝えておく…」

土方は、早々に切り上げて、自室に戻ったが、猫の姿が見あたらなかった…。

「あいつめぇ… あの不気味さからこっち、荒れまくってて話しにもなんねぇし!どういうつもりだっ!」

猫の妙な履物が無い事から、屋内よりも、外を探した方が早いような気がして、庭を一周してみるかと思った瞬間…

シュキッ!
チッ! チッチッチッチ! チッ!

カチン!

と、いう音を聞いて、そちらに向かって見ると…

「くっそ! ゲロまっず!」

庭の一番奥の木の下で、幹をガシガシ蹴りながら、不機嫌そうな猫を見つけた。

「土方さんよっ 俺は殺らねぇっ! あんた達でやってくれ!」
「どういう意味だ…」
「勘違いすんなよっ? 仕事放棄したわけじゃねぇっ! 暗殺のノウハウ教えてやるから、それで行けっつってんだ!」

どこのゴロツキか?と、思うほど猫は荒れていた…。

「それは… たばこか?それとも…」
「アヘンとか麻薬じゃねぇぞ? 心配すんな… あんたら言うところの西洋煙草だっ! 濡れまくったもん乾かしたから、マズイったらありゃしねぇっ! くそがっ!」
「おめぇ… 俺が言うのも何だがよ… 最近、荒れすぎててひどいな… あーっ!お前!それ酒かよっ!」
「まだ栓開けてすらねぇよっ! これからだっ! 酒!煙草は俺の領分だっ! 飲まなきゃやってらんねぇよっ!」
「何があって荒れてんのか知らねぇけどよ… ほんっと、おめぇ口わりぃなぁ…」
「あんたに言われたか無ぇよ! あんたの口調が伝染ってんだ!」
「まぁ 愚痴りたきゃ愚痴れよ… 聞いてやっからよ…」

ガラの悪すぎる猫は、ひさしぶりの煙草で口の中がきもちわるいのか、唾を「ペッ」と吐きながら、木の幹に背中を預けた。

「聞いてんだろ? 俺が、多重人格者だってよ! 先生が根掘り葉掘り聞いてたからよっ」
「ああ…」
「俺は3番目だけどよっ 嫌なもん面倒なもん全部押し付けやがるっ!抑えんのも大変だっ!」
「3番目?」
「ああっ 俺は3番目だよっ! 2番目は、いい加減な態度装って、素直な風体で気楽なもんだっ!」
「いや、ちょっと待て… お前の中に3人って聞いたが?」
「ああ? 何言ってんだ! 4人だ! よ・に・ん! 位置づけに文句なんかねぇがよっ!」
「(まだ、いるってぇのかっ! ほんと怖いなコイツ…)」
「おいっ! 先生様も出てきてくださいよっ! 前よりもっとちゃんと説明できますからっ!」

猫のギロリと睨んだ先から、「とほほ」と、山南がすごすご出てきた…。

「やはり バレましたか…」
「俺にわからないわけが無いでしょうがっ!?」
「はい… そうでした…」

「(こいつ… ガラが悪くても、山南さんには最低限敬語なんだな… くっそ 俺にも敬意を払えっ)」

土方は、不服そうにしながら、そう思った。
いつの間にか、一見若者の猫に、年長者が2人怒られるように立っている。

「あ~ だから… 俺は… 俺自身いまのところ、2番目と3番目が融合状態で行動してんだ… 能力も知識も、何とか俺達で賄ってる。だけどよ、俺が今ムカついてるのは、4番目だっ! 俺は、コイツの声を聞かないようにしてる… けど、オツムは一つだからよぉ! 考えてる事はわかってんだ!」
「あの… 何故 聞かないようにしているのでしょうかねぇ?」
「ああ… 知っての通り… 自分の好きな事にしか反応しないんです… あいつ たぶん5歳あたりのまま、成長してないんだ… 好きな物は好き。嫌いなものは嫌い。好きか嫌いかしか無いくせに、俺を飛び越えて出て行こうとすんだっ!止めきられねぇんだ! 俺達が、今必死にココに馴染もうとしてんのに、きっとアイツは壊す!勉強する気も無いのに、何もできねぇのにっ!それが気に入らない!」

怒りが最高潮で、興奮しきりなのを、自分で抑えようとしているのか、猫は、苦い顔で煙草を吸い、乱暴に灰を落とす。

「話し戻して…。俺が 「ducky」を自分ではぶっ殺したくないって言ったのはよぉ」
「ん ぶふぅっ!」
「おいっ!そこ笑うな!」
「す… すまね… 堪えようと思ったんだが… っぷふ」

真面目な場面で、あろうことか吹きだしてしまったのは、土方だった。
「??」と、山南の頭に出たのを見たが、猫は先へ進めた。

「4番目が、「ducky」いらないから殺せっつてんだ… 俺のポリシーはなっ! 自分の感情で人は殺さないって事なんだ! そりゃ、喧嘩売られた結果あっちが死ぬ事だってあったけどさ!これからも、そんな事あるかもしれねぇっ! けど、自分の勝手な思いで、殺りたかねぇんだ!」

土方は、確かに思い当たるものがあった。

「勘違いも甚だしいがよ… 「アレ」は、ココを家族だと思いはじめたって事かよ…」
「その通りだ… 土方さん… 俺も2番目も、ここが数ある「組織」の内の一つだと理解してるが違うか?」
「ああ… お前の理解はあってる。 だが家族だなんて生易しいもんじゃねぇ」
「あっち!くそっ 吸い直しだっ!」

猫は、火種がいつの間にか、根元に来ていた煙草を、地面に殴りつけるように投げると、それを踏みにじり、すぐに次の煙草に火を点けた。
そこで、ただ一人置いていかれそうになっている山南に気付き、煙を吐きながら猫は説明をする。

「「局長」がお父さん、「副長」がお母さんなんだって思っているんですよ 山南さん。こないだ、俺が新見副長を… 大ざっぱに「粛正」したのもあって… 「お父さん」「お母さん」の概念にそぐわない人が、ただ一人残っているのが、4番目は気にくわないんです。気にくわないだけじゃなく殺そうって 俺さえ抑えにかかってきやがる!」
「えと… 私もお母さんの位置づけで理解されてるんでしょうかねぇ…?」
「あらかたそう思っているんでしょうね… 今までいた組織は、「縦」と「横」しか無くて、あんた達の言う「誠」やら「理念」なんてものは存在しなかった。戦争中だし、組織関係が複雑すぎるのもあって、ほとんど人の「気持ち」なんて関わっていられる状況じゃなかったからな… 関わると こっちの身が持たないってのわかってたし、例え仲間でも、なにかしら理由つけて、ガンガン殺した… けど、ココに来て… 仲間の概念が全然覆されて混乱する2番目3番目押しのけて… 何年も黙ってやがった4番目がしゃしゃり出るんだ…」

そこで、猫は、さっき踏みつけた煙草の吸い殻を拾い上げ、それをとりあえず空のマガジンポーチに仕舞う。

「こういう… 特に目立つ証拠になるものは、ちゃんと拾っておくのが常識だ… あとでちゃんと抹消するもんだ 落ちた灰では、個人が特定出来ないからいいんだけどな~」

ようやく、落ち着きを戻してきているのか、どうでもよさそうな事を話している猫に、山南が恐る恐る伺う。

「あのぉ… 先程から、あなた達や、4番目しか話しが出ませんが… 1番目という方は、どういった方なのでしょうか…」

すると、猫は… 吸い終えた煙草をブーツの裏に擦りつけて火を消し…
途端に何かに脅えながら答えた。

「1番目が、本来の俺だ… 全部を掌握してる… 俺もあまり理解及ばない部分がある。とんでもないんだ… ただ、確かなのは、2番目よりもしたたかで、3番目の俺より策士で戦闘能力も倍以上上回る… 怒りの境地で戦うと、この一帯跡形も無い状態になるなぁ… 俺がこの世で一番怖いって思うのは彼女だ… 2番目のすごい所は、「女帝」を抑えてる辺りだな… 本当に怒るとヤバいから「障らぬ神に祟りなし」だなぁ はは… は」
「物騒な予感がするんだが… お前よりキレるって…」
「文字通り「女王様」だな… 今までの俺的感覚では…」
「いつ お目見えになるんでしょうかぁ…」

不安気味の山南は、本当に脅えてしまっている。

「ああ… たぶんココではお出ましになりませんよ… (たぶん) 何せ、気位高くて、高慢で… 見る者動く者が全部家来で… あ~っ あっと でも、慈しむ心得は… たぶん 私2番目の心持ちですぅ~ うぇっうぇっ… すいません… 落ち着きました…」

突然の変わりように、土方も山南も、胸をなで下ろすように「はぁ~」とため息をついた。

「ほんと… すいません… ちゃんと仕事はしますので、許してやってください… たぶん、私が何とかもっと”人間の心”を理解していければ… なんとか…」

その頼りなさげな態度に、理解がついていけそうにない聞き手の二人は、「あの密命」をどう切り出すべきかと悩みはじめる。

「と… とにかく… 部屋へ戻りましょう~ もう煙草吸う気無いですしっ」

と、何も言えなくなっている二人の様子に…
猫は言ったのだが、動かない二人に不安を打ち明ける。

「あの… ありのままを言えて、私はスッキリしたのですが… 副長達には、やはり私という存在… あまり良くないと思うんです… なので、やはり、ココで切り捨てていただければと…」

土方は元より、山南までもが、猫を「ギッ」と強く睨んだ!

「斬り捨てるだとぉ??」「斬り捨てるなんてっ!」
「ちゃうんっす! クビって意味で! 殺してくれとわっ! いやいやいや! お役が過ぎる的な御免ってやつでぇ あわわわわ」
「もういいっ! 部屋戻ろう! 山南さんも俺んとこ来てくれ!」
「ですね…」

土方は、むっすりとして、自室に戻ろうと歩み、その後に山南も猫も続くが…

「うわっと 忘れ物! 俺の宝っ♥」

と、言いながら、猫は酒瓶を少し取りに戻った。

「それは没収!」

土方にそう言われて、「ガビーン」と白髪になりかけたが…

「駄目です! これは俺の宝なんっす! フクチョーぉぉぉー これだけは助けてぇぇ~ 心のパラダイス奪わないでぇ~っ! これ 奪ったら… 寝入った土方さんの耳元で、毎日「鬼」「鬼」「鬼」って一晩中囁きますぜ… 命からがら守ったのに、ここで失ったら俺もう生きるの諦める… さようなら… 俺の人生…」

そう言って、大事に酒を抱きながら、自分の顎にピストルの銃口を向けている。

「あ~ もうっ! てめぇが、その酒 こよなく愛してんのはわかったから、さっさと来い! 没収しねぇからよ!」
「猫君… もうそれはしないって約束でしたよねぇ? お説教ですよ?」
「あいあいさ~っ!」

先程、とんでもなく重い雰囲気だったにも関わらず、土方と山南はそれぞれに猫へ思いを落とす。

「(どうだか知らねぇが… 猫ほどの策士なんざ見たことねぇな… 天然通り越しての境地だろうがよ)」
「(心を分割する事によって、人というのは、こんなにも人を惹き付け、強さを得られるものなのでしょうか… 誰にも心に光と闇があるのでしょうが… 人格というはっきりとした位置づけがあれば、更なる英知に達する事ができるのでしょうかねぇ)」


【以下、下の記事へつづくのであった】
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本編13「明かす猫」続き

                     **

「では 会津藩よりの密命により、このMissionの作戦を練る」

芹沢局長に暗殺密命が、会津藩から降りているという事を猫に告げた途端…
猫は、一変して、いきなり立ち上がった。

土方は、「あ~…」と腕を組み。
山南は、眼鏡の縁を持って「ん?」と目を見張る。

「あ~ ちょっと待ってね?」

そう言うと猫は、自分の荷物から、小さな冊子と手のひら台の板を取り出し、部屋明かりの側で何やらしはじめた。

「ん?猫君… それは?」
「作戦手帳とペン… それから衛星端… う~ん 山南さん ちょっとお待ちを… 今は、あまり問いただすのは遠慮していただけますか。早急に綿密な情報が必要とされますので、そちらが持っている目標の情報提供を願います。」

途端に、仕事意欲に燃える猫にはついていけなかったが、土方は、逆に聞く。

「殺すって事は決まってるが、後は何が聞きたいんだ?」
「まず、目標の生態データが欲しい。身長 体重 血液型 性格 近来の素行。あ~ すいません… 私も、何度も芹沢さん見てますねぇ~ お家ってこの向うの家でしょ? ん~と推定身長170cm 推定体重100kg メタボリック甚だしいっと書いておこう… まぁ 血液型はこの際いらないなぁ~ 性格聞いていいですか?」
「あ? ああ… 一言で片づければ、酒乱。自分が気に入らなければ、断固として受け付けないし、挑発すればするほどムキになって… 自分の意が通らないと、すぐ暴れる… 呑まなきゃなかなかひょうきんなおっさんなんだがよぉ… こんな感じでいいか?」
「あ~ プロファイリング起こすまでもなく充分だ それで… 殺される瞬間の行動すら、手に取るようにわかる。ありがとう土方」
「お前は今… 二番目ってやつか?」
「あ~ そうですねぇ おおまかなというか… こういったデータの取得や入力は私ですねぇ で? 最近の素行は?」
「以前から、かなりの狼藉ぶりだったが…」
「あ~ ちょっとお待ちを… 「ろうぜき」がわからなかったので、調べます。 あ~ 乱暴な振るまいですね? 続きをどうぞ」
「商家に資金協力を強いたが聞き入れられず、焼き打ったり… それから… 先日… 女を抱こうとして、その女に断られた事に怒って… そこの店に… 店を破壊すっぞって脅して… それから…」
「どうも歯切れが悪いですねぇ 土方さん… すいません… 面食らってるってのはわかりますが… これが私の仕事なんですよ… また私を心配してるんでしょうが、仕事には私情挟みませんからどうぞ」

どんどんと、歯切れが悪くなっていく土方に、猫は、淡々と対応を迫って、とても冷たい瞳を向けていた。
それに、とても寂しくなったのは、土方だけでなく山南も同じで…。

「休憩 挟みましょうか?」

と、言ったのだが…

「いえ こっちが先です。 土方さん、先をどうぞ」
「ああ… 猫の言う通りだな…」
「脅しただけでも 脅迫罪ですが、その後どうなりました?」
「いちゃもんつけて、肌を許さなかった女と、その女に付いてた芸鼓に髪を切らせた… 悪けりゃ無礼討ちに…」
「いちゃもん…って… っぷ 今、関西弁真似ましたな? 関東のお人よっ」
「そこに重点置くのかよ! 俺はてっきり 肌~許さないとか髪切られるってとこも、お前も傷つくんじゃないかと…」
「あ~… やっぱり、また心配してたんですかぃ… 肌あたりは理解及びませんが… 「髪は女の命」って聞いた事ありまっせぇ? ただ 私は女じゃないので、気にしなくていいです」

不服な空気が、土方よりも山南から湧き上がって…

「猫君! あなたは瞳だけじゃなく! その髪! ものすごく大切にしなさいっ! 真綿のように柔らかで絹のように滑らかでいて… 手櫛しかしないのにその美しさ! あなた自身が女子だとは思っていなくとも、土方君も私も、それを損なう事は許さないですっ!」

猫は、思いの外怒られて、驚いた。

「あ~ いやぁ… じゃぁ 髪は守ります… 先生怒ってるけど、褒めるなら、私の髪はいい感じって事で… ただ… クビを簡単にかっ斬られないように伸ばしてるとか、散髪が面倒だってのもあって、無頓着ですが… あはは… 今は、そこじゃなく本題に戻しましょう~」

おどけながら先を進めようとする猫に、土方は、

「(コイツ… 徹底して、男と女を分ける何かを遠のけようとしてる…?)」

そう訝しむ。

「えっと 後は… 暗殺場所と日時… ご意見あればどうぞ」

極めて、事務的な猫の段取りに気落ちしそうになるが…

「おめぇ 言ったの覚えてるか? 雨がどうとか…」
「あ~ あれか… 確かに言いました。 本当ですね。 明日より明後日… 降りますね… この高気圧がゆっくり通過した後、明日は曇るでしょうが… その後京都市内特有の大粒の雨が…ただ、悲鳴をかき消せるかどうかはわかりません。衛星写真情報なんて、ココじゃ入手できないし…」 
「猫君… お天気も計れるのでしょうか…」
「空気の気圧密度を読んで、天候も味方にするのが戦争屋ですからね 今回は、勘に頼ってますが ま 暗殺にはうってつけですよ うっし 実行は明後日っと… で? 場所は? 当然、目標が絶対そこにいないといけないんですが… あのお人、帰ってきたり来なかったりしてません?」
「よく見てんなぁ~ お前…」
「そりゃぁ そうっすよ… 動けない時は、暇で暇で、人の気配を追いかけて遊ぶしか無かったんですから… 別に、土方さんの背中に「鬼」とか書いてあるのを凝視してたわけじゃないです」
「喧嘩売ってんのかっ! あ~… まぁ いい… かなりの気分屋だからな その日どこに行くのかわからねぇし 出先で待ち伏せすんのは得策じゃない。とすりゃぁ… やっぱ八木家だな… 誰かがその日 だっきぃちゃん… っぷくく おいっ!このあだ名何とかなんねぇかっ!」
「嫌~だね~ 絶対どっかにジョークを織り込むのが俺のポリシーだっ!」
「あのぉ… 「だっきぃちゃん」とは?」

一人置いていかれている山南は、そう問い。
猫は、土方に説明した時と同じ内容で伝えた…。

「そっ そ~れはちょっとぉ ぷっくくく」
「言う度… 俺も吹きだしちまぅ… くっくく」

「(この人達… 俺とはズレたところに笑いのツボがあるんだな… さすが関東のお人達!)」

しばらく、笑いが続いたが、とうとうシビレを切らせて、猫が言う。

「んで? 土方君続きをどうぞ~」
「あ~ わりぃ だからよ、誰かがその日の夜に、宴会しようぜって誘ってベロベロに酔わせて、八木家に帰らせる方向に持ってきゃ…」
「待った! その八木家という固有名詞もOUT!駄目~ あ~と… めぇめぇ山羊さん~ 「sheep」… ふむっ  「Shetland Sheepdog」しか思いつかないな… ま~「犬小屋」にでもしとくか… あ~…そんなにギャグったわけではないので、そこの人たち… 笑わないように…」

もう遅かった…。

「かわいこちゃんは、犬小屋に帰るのですね…? ぷふふ」
「きっと、犬小屋なんかにゃ 捩じ込んだって入らねぇぜ~ こりゃいいやっ っくくく」

「いや… だから…(この人達は強敵だっ!)」

クワッと、なっている猫に、山南が気付き、何とか笑いを堪えた。

「で、それを誰が?」
「うってつけの餌が、ここにいるじゃないですか~ 先生っ」

キラーン!と、わけのわからないポーズをしている猫に、山南は怒る!

「駄目です! あなた、先日何されたかわかってるんですかっ!?」
「わかってますよ? わかってるからこそです。 なので、土方さんも連れて行きます。土方さんもいりゃぁ 滅多な事できませんよねぇ~ ククク お友達が、あんな事になったんだから… うまくあしらいますって~ 先生は、そんなに心配しないでくださいな ねぇ 土方さん?」
「ん… ああ… お前のしたたかさは、半端ねぇし、運の良さも…」
「仕方無いですね… 土方君!猫さんに何かあったら、承知しませんからねっ!」
「ああ… コイツが俺を信じている以上は、付きあうさ…」

「決まった」という事で、猫は次の内容に移る。

「じゃぁ 山南先生。 「犬小屋」の間取りを、書いていただけます?」

と、小さな冊子と、妙な筆を渡され、不思議そうに見つめる。

「あ~ それ、筆みたいに、紙に書くんですが、墨はかなり持ちますんで、気にせずそのまま書いてください」
「はい… わかりました…」
「私、気配まではわかりますが、中の細かい部分までは見えませんので… お手数かけます…」
「ああ いえ… お構いなく…」

山南は、最初は、多少なりの違和感があったものの、すぐに不思議な筆に慣れて、綺麗な「犬小屋」間取り図面を描きはじめた。

「で、土方さん」
「何だ? 少々聞きたいのですが、その日本刀… それは、持ち主の身長や腕の長さ、体格によって個々違うものかと、私は判断しているのですが、あってますか?」
「ん~ まぁそうだな、後は本人の力加減やら、流派の基本やら 趣味やら入ってくるがよ」
「あ~… 了解。 あ~ そうだ。 原田さんって「槍」使いって聞いたんですが… 差してますよねぇ~ ソレ」
「あ~ ヤツは、基本槍が得意だが、太刀もなかなかに… 俺ほどじゃねぇがなっ」
「っぷ 土方さんは、わかってますよ 身体見れば…」
「あっ! お前今 プッって プッって!」
「あ~ すいません よく暑がって、夜着ひんむいて寝てるから… 暇だったし、生態研究を… 左右均等に近い筋肉が肩と腕についてるって事は、振りかぶって断ち切るのが得意なのかなぁ?っと でも右利きなので、凪ぎ払うときの為に、腕の右全体がちょいと、作りがいいんでしょうなぁ」
「……てめ… 人の身体、なぁにマジマジ見てやがんだっ! 犯すぞこらっ!」
「あ~ 図星っと ははは」

必死で、間取りを描いていた山南が、諭す。

「あなた達! 遊んでるんじゃないですよ!」
「あ~ えっと、先生… 先生の身長から見ての大体でいいので、家屋の出入り口の高さとかも付け加えておいてください。」
「あ… はいはい わかりました。」

猫は、描きかけの図面を見て、何も無かったかのように続ける。

「ん~ 斉藤さんは今回お休みですな~ 残念。 私も、斉藤さんの間合いギリギリにいるのが怖かった…」
「お前、本当に斉藤さん好きだなぁ~」

本当に、残念そうに独り言を言う猫に、土方は、あきれ顔で挟んだ。

「だって そうですよ… 命の恩人だし、あの正確な太刀筋! パねぇぜ!」
「まず、俺を命の恩人よばわりしろよっ!」
「傷の消毒してくれたのって、斉藤さんが始めてだったんですよな… こっちも、あんまり言い方がわからなくて、悩んでたら、対処してくれたんですよね… なかなか傷が治らなかったのは、暴れて傷が開く以外に、膿んできそうな所を、自分で剥いでたんすよね…」
「どうにか言ってくれりゃ!俺だって気がついたかもしれねぇじゃねぇか…」
「あ~ それは、私にも落ち度ありますので… すいません…」
「んで? 何で、斉藤さんが居合いやるって知ってたんだ?」
「一回抜いたのを見てたので… また、見たいなぁと… 詳しくは聞かないでください」
「はぁ? 何かあったなぁ? 調書内容以外にっ!」
「あ~っと あの調書、もう追記していないようですが、破棄してください。私、自分で話せますので… 無駄な情報が、漏えいしない為にも、アレは危険です。灰にしてください。」

話しを覆す術を覚えているという事は、山南の差しがねかっ! と、土方が山南を見ると、柔らかな笑顔で…

「猫さん これでいいですか?」

と、図面を完成させていた。

「さっすが 先生。 やっぱり綺麗だし、要点押さえてる。 これで充分です。」
「っけ 変なとこばっかり真似してよっ!」

一人文句を言う土方を置いて、構わず猫は言う。

「あと二人… 零番の隊員決まった… 沖田と原田。 それが、一番仕事が早い。 先に、お前達に実行現場の任務内容を、説明する。 まず、山南… お前は、現場において、総指揮を取ってくれ。 臨機応変に、誰を殺して誰を殺さないかの指示をするんだ。 ここには、「犬小屋」を所有している主人とその家族もいるんだろ? そいつらの殺害は、極力避けろ。 しかし、「Ducky」がそいつらの誰かを盾にしたら、丸ごと斬れ! そして、目撃者を残せ… 犯人がわからなければ、責められるのは「Ducky」だからなぁ 狼藉が重なった上での粛正に至るんだろ? その後は、近藤局長はじめ、幹部の力量で挽回できればいい。新選組の名が汚れる前に、宣伝効果にもなる。汚れたモノを綺麗にするには、数十倍の努力がいるがな~」

それは、暗にとも言わず、自分達の力量を、猫が試そうとしているかのように受け取り、副長二人は、息を飲んだ。

「それから、土方! いつも「Ducky」に金魚の糞みたいに二・三人くっついてるよなぁ?」
「ああ… うぷっ」
「あれも、きっと… 宴会についてくるよなぁ?」
「ああ たぶんな」
「後々面倒ってのもあるし、すぐに斬りたいがなぁ… まぁ それほっといて、「ducky」存在を確認しだいすぐに目標の息の根を止めろ! 殺りかたは、まかせるが、まず一撃では死なないねぇ~ 力量に望むぞぉ? 後は、山南の指示を仰げ! たぶん、「Ducky」肉団子すぎて、すぐ死ねなくて… 這いずり回るか、命請いをするか… ッククク 死ぬまでフルぼっこして合挽肉にしちゃえって… いうか… いい加減 慣れてくんない…?」

笑いが癖になってしまったようで、必死に堪えているのは土方だった。

「私は、外にいます。もしも、「犬小屋」から誰か出てきたら、そいつを殺る。山南…殺したく無い連中は、なるべく外に出さない事だな… 私の兵隊以外は全部殺すからな… 「Ducky」の生態反応out確認後、各自現場離脱… 遅れたヤツがいても気にするな。 まっ この辺の事は、また明日 皆揃ってから説明するよっ 沖田さんや原田さんは、私が簡単に説明して誘っておきます。なもんで、先生~ どっか外で会えるとこ部屋取ってもらえます? 猫ちゃんの誰でも出来る暗殺講座を開きます~ 私のやり方を知っておいてもらわないと、話しになりませんのでねっ」
「わかりました。適当な料亭でも取りますかね…」
「だな… 猫の存在があっちにバレてたんだ。間者がいるなぁ」
「間者ってスパイの事ですかぃのぅ… ふむむん…」

猫は、先程からずっと土方と山南には見えないように、薄い鉄の板を左手に持って、ものすごい早さで右手の指をそれに走らせている。

「先程から 何をやっているんですぅ?」

と、山南がそれを覗こうとして…

「だっ 駄目ですっ これは私のプライベートなもんですっ 私の恥ずかし~部分見るなんて、先生のすけべ~ って感じですっ! あ~ そうそう 土方さんの詩集みたいなヤツっす」
「てっめ!見やがったなぁっ!おいっ!お前っ それ見せろ!」
「ちょ ちょ ちょっ 待ってくださいねっ うしっ これならっ!」

と、慌てた猫は、人さし指を何度も擦らせた後に、それをパッと二人に見せた。

「ん~? ん? ん?」
「なんだこりゃぁ…」
「空の写真」
「空ですが… 写真っ!?」

板の面いっぱいに、空が広がっており、まるでこの小さな板の向うに本当に空が広がっているように見える。

「二人以外には内緒ですよ? 私の、世界じゃあ 写真なんかすぐ撮れるんですよっ♥ この板は、衛星通信端末… モバイルと言いまして… 大体、一人に一個は持ってるもんなんです。で、この中には、さっきの写真がいっぱい入れてあったり、あらゆる国の辞書とか… 暗算が面倒な時は計算してくれるし… あとは、私の日記とか… ただ… ココに来た時に開いてみたら、全部初期化されてまして… ってぇか何だかこれ… 随分機種も何もかもバージョンアップしてるような… う~ん…」
「……。」

驚愕のあまり言葉を無くしてしまっている二人に、猫は続ける。

「たぶん… 私はですね… あなたたちのとお~~~い子孫かと… とお~~~い未来の人なんですが… 品種改良されたバケモノなんですよ… 戦争の為の兵器なんです… 人間じゃないんですよね… これが… それに先日気がついて… だからクビにしてくれって言ったのであって… 帰らないといけないような、帰っちゃいけないような… 記憶がもうぐっちゃぐちゃで… たはは」

暗い顔をしたり、泣きそうになったり、引きつり笑いをしたり複雑な面持ちを見せる猫に、土方は…

「人間だろ。そんな表情をコロコロと変えることが出来るのは、人間しかいねぇよ… 自分の事をバケモノとか、人間じゃないなんて二度と言うなっ!」
「そうですよ… 先生も多少面食らって、只今混乱中ですけどねっ 猫さん笑うじゃないですか… 笑うという表情を作れるのは人間にしか出来ない事なんです。あなたはただ忘れていただけの事で、これからゆっくり色々な事を思い出していけばいいと思いますよ? そりゃ、良い事も悪い事もあるでしょうが、私たちが付いているではありませんか… 私たちは、そんなに頼りないですか?見守る事もさせてもらえないのでしょうか?」

すると猫は、申し訳なさそうに返答する。

「いいえ… その真逆です… 温かくて… 皆で心配してくれて… こんな得体の知れないやつを受け入れてくれて、本当に理解不能で… お節介で… 今まで、そんな事された事が無いので、不安で不安で… きっと、いっぱい迷惑かけるし、勝手な解釈でおかしな事をすると思うし… でも、ココ離れてちゃいけないし…」
「ああ… 内容が回廊に入ってしまいましたねぇ… もう、よしましょう」
「何だか、どっちが本題なんだかわからねぇぜ まだ、「明日」って日が延々と続くんだ。また明日考えればいいさ」
「そうですねぇ お開きにしますか… じゃ 私は部屋に戻ります。」

そう言うと、山南は立ち上がったが、ふと思い出した。

「猫さん さっき写真?を見せてくださいましたが… 他にももっと撮ってるんじゃありませんか?」

すると、猫はあからさまに「びくぅっ!」として、モバイルをさっさと腰の装備にしまい込んでしまった。

「まぁ 良いです。また今度見せてくださいね? それから、たまには私の所にも戻ってきなさい。あなたがいなくなって、先生すこ~し寂しいです。」
「あいなっ!先生っ!」

山南が去ってから、土方の目はずーっと猫の腰を睨んでいる。

「駄目ですっ」
「てめぇ… 人のもん見といてそれは無ぇんじゃないのか?」
「駄目ったら駄目ですっ!」
「日記とやら見せやがれっ!」

土方が、猫に飛びかかり、転がり回りながら攻防をはじめた。が… 猫が、ピタリと止まった。
仰向けの猫に、土方が乗り掛かる体勢で、ぴたりと間近に視線が合った。

「ん? 日記? そっちなら…」
「(マズイ! っこの体勢は 俺の勘だと、アイツが来る!)」

と、沖田の気配を探ったが、その様子は無かったので、土方はふっと安心した。

「いいですよ 日記読みます?」
「あ?? ああ いいのか? あんなに恥ずかしがってたのに…」

猫は、平然と身を退けて、スラリとモバイルを取り出した。そして、少しばかり何かを操作した後…

「はい どうぞっ」
「ん~?何だこりゃっ」

そこには、横書きの外国語がずらりと並んでいた。

「読めるなら読んでいいっすよ おっほっほ 英語ですから。」
「ったぁ~~ おめぇ… どうせなら日本語にしとけよ… くっそ、いつか勉強して読んでやらぁっ!」
「楽しみにしてますぜ!だんなぁ~」

と、土方は悔しがっていたが… 急に、目線を外して、言いにくそうに…

「で… おめぇさ 読んだんだよな…」
「あ~ はい 何だっけ 豊玉なんたらっての… 暇だったんで、土方さん何か本持ってないかな~と…」
「人んち家捜しすんぢゃねぇよ! いやぁ だから、読んだからには、筋ってもんがあるだろ…」
「すじ?」

と、猫が自分の身体を指す。

「それは、ヒジ!」
「おおっ! ツッ込んだ! 関東のお人が! おお~っ」 
「だからっ!」
「感想聞きたいんですか?」
「わかってんなら、とっとと言えよ!」

猫は、何故土方が恥ずかしそうにしているのかわからないという風で…

「ん~と… やっぱり、日本語って美しいですねぇ(あんまり意味がわからなかったけど) 土方さんの本を読んで、確信しましたよっ!日本語は世界一美しい響きだ! いや~ 感動しましたっ 何で恥ずかしがるんですか?」
「……。」
「どうかしました?」

猫が、黙ってしまった土方の前で、何度も首を傾げている。

「お前… 良いヤツだな。」
「え? え? 良い事しましたっけ?」
「あ~ もうっ いいよっ! で? 俺は聞き逃さなかったぜ?」
「へ?」
「日記以外の何かがあるんだろっ!? これにっ!」
「っ! いやぁ~っ! ダメダメダメ! まだパスワード設定してないのにっ!!!」

慌ててモバイルを取り返そうと、猫は必死にしがみついた。

「白状します…」
「お~う!」
「写真ですよ…」
「ああん? まさか…」
「ええ… 毎日 土方さんを隠し撮りしてましたっ!」
「なにぃ~? おいっ! 見せろ! どうすんだ?これ!」
「教えませんってば~ 私の宝物なんですから~ ここの土方さんは、誰にも見せない私だけの土方さんなんですっ!」
「……。」
「あ… あれ? 何か変な事言いましたっけ… すいません… もうしません…」

猫が、天然でそう言った事はわかっているが、気恥ずかしくて、土方は言葉を失ってしまっていた。

「あぁもういいよ… 持っとけ持っとけ…」
「おおっ! やったぁ! あんたぁやっぱし海のように心が広いお人でやんすなぁ~」
「天然にもほどがあるな… あ~ しかしよぉ 写真って命吸い取るって聞いた事があるけど、ありゃ本当か?」
「そんな事あるわきゃないですよ~ ……うん 無い」
「そうか~ それならそれで… ってどうした?
「あはは 何でも?」

何か言いにくい事があるのは、土方にも感じ取れる。先程まで、素直に何でも話していたのに、突然よくしゃべる口を動かさなくなったのだから…。

「何か、まだ思い出してる事あるんだろ?」
「あは… は いつかは、言わないといけないなら… 言わないとですよね…」
「なら、話せよ」
「私がココを出て行けない理由があって… その理由は… 土方さん… あなたなんですよ…」
「はぁ? 惚れたとかぬかすんじゃねぇぞ? このモテ男にっ」
「いやいやいや モテ男あたりは、私にはわかんないっすけど…」
「喧嘩売ってんのかっ!」
「あ~~ん また俺かよっ! くっそ あのな… 俺、自分の事「バケモノ」つったよな…」

途端に、土方の顔が険しくなって、何かを口にしようとしたが、それを手で遮って猫は続けた。

「早い話が、えっと? ここでは… 吸血鬼ってヤツなんだ…」
「ああん?」
「あ~ っと 「人の血を啜る鬼」というのか… 黙って聞いてくれよな… 俺は、あんたらが食うような食事をしない。煙草みたいに嗜好として食うってこともあるけど、本来の食事は、たぶん… あんたら人間の血肉だ… 俺が、どっからこんな状態になったか辺りは、まだあまり覚えてはいないが… 思い出したんだ… とある作戦中に、八人幹部が全員吸血鬼で、それぞれ小隊を横一列率いてて… 俺は副指令預かってて、右翼部隊の指揮を担当した… そんな夜中に、起こった事態がとんでもないったら… ははは 右翼部隊たった一人ってヤバいったら…」

猫は、先日思い出した記憶をありのままに話した。土方に、どこまで理解できるかはわからなかったが、生ける屍が次々と、自分の隊の兵士を噛みちぎり、そして、その噛まれた兵士も死んで尚も起き上がり、自分の血肉を求めて襲って来たという事も話した。
そして、先日見せた、「自決剤」と称する赤い錠剤を荷物から取り出す。

「「コイツ」ただ死ぬ為のもんじゃないんだ… 生きるか死ぬかの一か八かの博打勝負の代物… 俺の記憶では、三十人ほどの吸血鬼が訓練上がりで、その全てがいきなり部隊を率いる為の幹部地位… 最終的に、その三十人の中で、権勢する結果… 更なる地位と力を得ようとして、これを飲んだヤツがほとんどで… その3分の2が失敗して、その3分の1が成功… とどのつまり… 俺以外皆「コイツ」を飲んだってことだ… 結局、最後に残った同期9人は、全員強化型の吸血鬼幹部になった…」
「あ~ ちょっと待ってくれ? 待てよ? ん~ 失敗ってとこもう一度言ってくれ…」

土方も、嫌な予感はしているに違いない… しっかり、不安な部分に再度の説明を求めてきた。

「吸血鬼幹部達にだけ渡されたこの「薬」。「もう、死ぬなと思った段階で、奥歯でしっかり噛め」と言われて渡されている。成功すれば、自分の意識を保ったまま、五感などは元より、身体能力が向上し、身体の治癒力も上昇する。その効果は絶大で、彼らの戦闘能力データの結果から、個人にバラつきはあるものの10倍から20倍とされていた。そして、その容貌は、年月を経て変化し、髪は銀髪、瞳の色もどんどん薄くなり、肌も白くなって、全ての色素が失われていく。で… その反対に… 失敗すると… みるみる人間を構成する細胞組織が死滅… もう 見る影もなく、皮膚が劣化し、髪は抜け落ち… あ~ 細胞というのは、人間という形を造るためにある、一番小さい部品だ…」
「あ~ うん」

わかるようでわからないような土方に、どう言ったら説明できるだろうかと、猫は頭をひねった。
そして、猫はもっとわかりやすくなるように、自分の手帳を取り出し、図を加えながら説明していった。

「ん~と… そうだ 積み木 積み木って、色んな形あるだろ? あれ積み上げて、色んなモノを作ったろ? 人間の身体もそんな感じで出来てるんだ。その人間を造る積み木は、目に見えないほど小さなものなんだ。そして、この積み木を形作ってる、また更に小さな積み木… と繰り返していくと、行き当たっていくのが、とっても小さな1つの塊。」
「ん~ すごいな… そんな事を考えたこともねぇな」
「俺も、きっと 普通そんなとこ気にしなかったと思う… 普通に生きていれば… あ~ だから 話戻して… 失敗すると… おおまかにその細胞がどんどんと死滅していく。あ~死滅じゃなく、最低限の機能を残しての劣化に置き換える。そのままバッタリ死んでくれりゃいいんだけど… 違うんだな… 脳だけが生き残り、その脳の劣化も激しく、人間がもっとも激しく抱く欲求だけが残る…。肉体が死んでも尚欲しがるモノ… 自分の肉体を維持しようと最後に残る欲望…「食欲」… それが、何であれ… 獣でも人間でも、動く物は全部食料… たんぱく質を摂取するのはもちろん、普段から、自分の食べたいモノを食べて暮らす、普通の人間が一番栄養を蓄えていて、最高のご馳走となる。身体は死んでるのに、良い肉には鼻が利く、性質の悪い「生ける屍」。 でも… 成功した吸血鬼幹部も、「生ける屍」となった吸血鬼幹部も…共通点はあった… そいつらが、食に困って、人間に噛みつくと… その人間は、必ず「生ける屍」となり、次の獲物を追い、更に「生ける屍」を作って広がってゆく… 欲求を司る脳を破壊しない限り、その連鎖はどんどん広がる… ソイツらを殲滅しない限り終わらない。」
「あ~ それが、さっきの話か… つか、お前、よく生き残れたな… 話がどこまで俺に理解出来てたかわからねえが… とんでも強くなった他の幹部よりもお前は強かったってことだが… お前は、ソイツを飲んでいないんだろ?」
「そこなんだ… 俺は、「薬」を使っていないのに、銀髪連中よりも… その… 他の吸血鬼幹部と違ったのは、俺の元々の性別が女だったところだけだが… いや、たぶん「女王様」が何かわかってるんだけど、その部分が閉ざされてわからない… 思えば… 他の連中よりも遅れて訓練に入ったのに、結構、実弾銃を扱えたし… あれ? あ~ ま~ いっか… 後で…」
「とりあえず、その「女王様」ってのか? 相当、お前は脅えてるようだな… とんでもねぇ事平気でやるお前が脅えるたぁ 相当な… 俺も、ちょっと怖ぇよ… くっくく」
「笑いごとじゃ無いんさっ! お前、覚えてんのかないのかっ! 俺、あんたに噛みついたろっ! なのに、あんたは平気で… 俺の事ばっか心配して… 俺の正体に自分自身気がついて、それを思い出してから、気が気でなくてっ! もしも、あんたがあんな「血肉食らうバケモノ」になったら、俺のせいだから、その時は苦しませないように殺す!って、ずっと見ていようと思うけど、あんたはあんたで、仕事があって、外へよくどっか行っちゃうし… だから、言ったんだ… 斉藤さん着けとけって… 斉藤さんだったら… たぶん、あんたがそんな事になったら、理由どがえしに斬ってくれると思ってる… 俺が側にいなくても、あんたを苦しませずに送ってくれると思って…」

そこまで言って、猫の見開かれた左目だけから、涙が流れた。
その涙を、土方が親指で拭ってやる。

「お前… そんな事で、イライラしたり脅えたりしてたのか…」
「うん、俺… たぶん、あんたは殺れないと思う… もしも変化してしまったら… 少し食われてもいいかなって…」
「はぁぁぁ… 実際、俺は、お前が必死に語った話の半分も理解できねぇよぉ! だがな、はっきりしてる事は、今の俺はどうだ? 狂ってるか? お前に噛まれてからココ、おかしくなってるとしたら… お前のせいで調子狂って駆けずり回ってるくらいだなぁ 何でぃ ずらずら長すぎる説明のとどの詰まりは俺かよっ 」
「ごめん… うっぜぇと思うのも無理無いけど… 数日、俺が考えての結果がこれで…」
「わかったよ… 俺自身ヤバいと思ったら、言うから… どこでも何でもそのサムライで撃ち抜けよ… 言わなくても、お前に俺が噛みつく前に殺してくれよ… 綺麗な肌してやがんのに、傷跡だらけって痛々しいとこに、噛みつきたかぁねぇよっ」

土方に、涙を拭われた後からはもう、涙は流れなかったが。その瞳は濡れてどんな硝子細工よりも美しい輝きを見せていた。

「その瞳… 伏せないで見ろよ… 俺を… 俺は見ていいんだろ?」
「おうっ 許すってったの俺だからな!」

すると、涙を湛えたその瞳が、キッと土方を力を込めて眼差しを向ける。

「あ~ それから… お前… コレ… 嫌いなんだろ?」

そう言って、土方は、猫の高く結われた髪を結い紐をほどいて落とした…。

「あ~ うん… 拘束されてる気分になる… あまり意味がわかってないけど、これもきっと、俺を心配しての事なんだろ? と、俺は理解して我慢してる」
「俺や山南さんの前じゃ、我慢しなくていいと思うぜ? 何せ、母ちゃんだからなぁ くくく」
「お母さん…」
「お前ってほんと不思議だよなぁ~ あぁ~ まぁ 理解半分だが、どっから来ただかだし… でも、俺が見てるのは、この目に映るお前が全てだからな その髪… 山南さんに先越されちまったが… 思ってた… 何でこんなに光るんだ? つっか 何で、山南さん!肌触りまでっ!」
「あはは… そういや、触ってもいいか?って 言ってましたなぁ 何であんな緊張気味に聞いてんのかわからんかったですが… そんなにいじりたきゃどうぞと!」
「ああ~ん? お前なぁ… 天然もいい加減にしとけよ… お前がソレに無頓着なのはわかったが、相手は違うんだ! あんまり、他人に髪を触らせんじゃねぇ!」
「あ~ えっと? ん~ 俺は、この「結い上げる」というヤツ、自分で出来ないというか要領を得ないから… 誰かに頼むわけで… それは、土方さんか、山南さんにしか頼んではいけないのか…」
「あ~ ま~ 今んとこそうだなぁ」
「お母しゃんだ… うん 髪の毛長い女の子は… 皆、朝… お母しゃんに髪の毛かわいく編んでもらってて… でも、ぼくは男の子で… 女の子なのに男の子で… 女の子ぢゃだめなの… お兄ちゃんがだめなのぉ…」

また現れた不穏な雰囲気に、「あ~ 来たこれ…」と、不気味な気分を押さえ込んで、勇気を持って立ち向かう。

「お母さんは好きか?」
「ん~ かちゅきのおかぁさんは嫌い」
「(かちゅき?)お兄ちゃんは?」
「うん たかにぃ好き でも 変なことする」
「へんなこと?」
「かちゅきたかにぃきらわれたくない」
「あ~ あ~ じゃ 他に何が好きだ?」
 
すると、どんどん表情を暗く落としていた顔が「パッ」と、見た事も無いような笑顔を見せ飛びついてきた。

「ヒジカタ抱っこ好き~ あったかい! お母しゃんっ 本当のお母しゃん!」
「あ~ いやぁ~ 本当のお母さん? はぁ?」
「お兄ちゃんとお母しゃん嫌い! 死ねばいいのにっ! ふふふ あ~ そうだ、あのお父しゃんもいらない。ヒジカタが困るもんっ」
「あ~ あのたぬきオヤジの事か… はぁ…」
「クスクスクス たぬき 殺しちゃえ~」
「あ~ もう ヒジカタが殺してやるから、安心しろ」

その言葉を発した土方自身もゾワリとする。

「(俺 何言ってんだ…)」
「きゃはははは ねぇ ヒジカタぁ かちゅきのかみのけ ゆってぇ? あのねぇ きのうみちゅきちゃんがじまんしてたんだ~ 「おかぁしゃんが みちゅあみしてくれたんだ~」って、あれ…かちゅきもしたい~ いま できる~ ねぇ~ それでねっ かちゅきもみちゅきちゃんみたいなお洋服着てみたいっ ねぇ いっかいだけ! おねがい! 着たい! ねぇ~」
「あ~ でも もう寝る時間だ… お休みしよう ほら ヒジカタ隣にいるから、寝なさい」
「そぅかぁ… じゃぁさ! あした! ぜったいだよ?」
「あ~ そうだな 覚えていたらな?」

抱っこ状態の、大きな娘を布団に降ろし、未だキラキラと何かを期待する猫に添い寝状態で、ぽんぽんと胸の上を優しくたたくと、幼い猫はスースーという寝息を立ててとっとと寝入ってくれた。

「(ホント とんでもねぇヤツだな… 4番目…)」
「あ~ちょっと待てお前、いま自分の事「かちゅき」って言ってたよな… あ~ 起こすのはやめておくか…」

土方は、これまで苦い表情で眠る猫の顔しか見た事が無かった。しかし、目の前にある寝顔は、とても健やかに眠る子供の笑顔…。

「はぁ… 俺もこの先 自分の子供なんかってぇもん 可愛がったりなんかねぇんだろな… でも… 今だけは味わってやってもいいかなぁ~ 本当に子供持つより大変かもしれねぇがよ…」

そう、言いながら、眠る猫の髪を優しく撫でながら、土方も側で眠りに落ちた。

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と、今日はここまで…

半端ねぇ文字数…
文章も何が何やらはっぱらぺっぽっぴ~~

ほんと… 人に説明するって難しいっすよなぁ…

あ~ そうそう モバイルwwww
もう、フクチョー's 驚き慣れてて、反応が薄くなってるんでしょうなぁ~
おいらが思うところ、猫ちゃんはi-Pad的なモバイルを持っているのかなぁ~と…

何… オイラはヒトゴトみたいに言ってんだろうか… ぅぅぅ

次回は… 実は猫さん… かなり欲深いのであった…って感じです。