「第3話 力と技の風車が回る 後編 」の続きです。
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注:この小説は創作小説です。現存する団体などには一切関連がありません。
バックナンバーは「こちら 」から!!
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仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z
悪の秘密組織ブラックサタンによって親友を殺された城茂は!
自らブラックサタンに改造され電気人間となった!!
そして脳改造を逃れた後、ブラックサタンに復讐を誓った!!
――「仮面ライダーストロンガー」より
◇
第4話 僕の胸に生きている 前編
◇
「リチャード・グラース……三十五歳。先日の自爆テロに巻き込まれた、海兵か……」
資料に目を通しながら、彼……城茂(じょうしげる)は呟くように言った。
三十代後半程の男性だった。
その顔は彫りが深く、どこか年季の入った影を感じさせる。
彼の視線が、資料の一点に留まった。
城はニヤ、と小さく笑うと、資料を閉じて、テーブルに放った。
「趣味は海兵隊のアメフト部での活動か……」
「ジョー司令、このままではリチャードはまもなく息を引き取ります。許可を」
長机を囲むようにして、胸に勲章をつけた男たちが座っている。
その内の一人に言われ、城は黙って腕を頭の後ろに回し、ギィ……と椅子の背もたれに体を預けた。
そして長い足を伸ばし、重低音を立ててテーブルに両方を乗せる。
「本人の強い希望もあり、すぐにでも改造手術ができる準備が整っています」
「今回の施術では、人体の九十二パーセントを生体機械に置き換えます。体内には小型原子炉を内臓。リチャード・グラースの精神力ならば、改造手術に耐えうると見た末での結論です」
もう一人の男が口を開くと、その向かい側の男も、答えようとしない城に向けて言った。
「ご決断を。人体の六十五%以上の改造をするには、我が部隊の司令官である、あなたの許可が必要です」
城の着ている軍服には、多数の星がついた勲章が取り付けられていた。
それが天井の蛍光灯の光を浴びて、キラリと光る。
そこでドアがバシン、と開き、手術服を着た医者と思われる者が駆け込んできた。
彼は一度敬礼の姿勢を取ると、引きつった声を発した。
「報告します! リチャード・グラースの容態が急変しました! 意識混濁状態から、昏睡状態に! バイタル、危険値を示しています! 危篤です!」
「司令!」
男の一人が、掴みかからんばかりの勢いで、あらぬ方向を向いて口笛を吹いている城に向けて怒鳴った。
「真面目に聞いてください!」
「真面目? 俺はいつでもシリアスだぜ」
口笛を止め、彼は足を翻して床に立った。
そしてズボンのポケットに、手袋をした手を突っ込んで、背中を若干丸めて歩き出す。
「いいね、すごくいい」
「…………?」
疑問符を浮かべた周囲を見回し、彼はクックと喉を鳴らした。
「俺はその、リチャード・グラースという隊員のことは、データ上でしか知らない。お前らが持ってきた資料でしか、そいつの人格を図ることは出来ない。だから、お前らの言葉を信用しないわけじゃないが……全て鵜呑みにする訳にはいかないってのは、理解できるな?」
自分たちより、少なくとも「外見」は若い姿をしている城の言葉に、男たちが押し黙る。
「俺は、改造人間を増やすプロジェクトには反対だ。そうでなくても、俺達軍の兵士は、大体、体の何処かを改造してる。ギリギリ人間と呼べるラインの奴もいる。まぁ……確かに、お前らが戦力増強、技術向上のためにモルモットが欲しいってのを、俺は否定しないよ。科学部の、当たり前の要求だからな」
「ジョー司令、その実験を受けると、初めて完全了承したクランケが今死にかけている。話している時間は……」
手をあげて、発言した男性の言葉を打ち消し、城は続けた。
「だが……いいなぁ」
「何が……?」
「アメフトだよ」
男性の方を向いて、城は青年のような、明るい笑顔でニィと笑った。
「アメフト選手に悪い奴はいねぇ。最も、大抵の奴らが脳みそまで筋肉で出来てやがるから、アホだがな。いいぜ。やりな」
「許可が出たぞ! 直ちに施術に移れ!」
間髪をいれずに、別の男性が声を張り上げる。
医師は敬礼の姿勢を解いて、慌てて隣の部屋に消えた。
城はそちらを一瞥してから、ポケットからタバコの箱を取り出し、息をついた。
そして一本抜いて口にくわえる。
彼がタバコの先端で、パチン、と手袋の指を鳴らすと、軽くその場に青白い放電が走った。
それにより火がついたタバコの煙を吸って、思い切り吐き出した彼に、軍人の一人が顔をしかめて言う。
「ジョー司令、ここは禁煙です」
「知るか。俺は吸いたい時に吸いたい場所で吸うんだよ」
彼は意に介さず、といった具合で壁に背を預けると、またタバコの煙を吐き出した。
「USシティに駐屯してる国連軍が有する、初めての『パーフェクト・サイボーグ計画』だ。てめぇら、しくじったらぶっ殺すぞ」
あながち冗談ともつかない口調で、城が言う。
周囲に緊張感を含んだ張り詰めた空気が走った。
その中心にいる城は、しかし大きく伸びをすると、タバコの吸い殻を床に捨てて、足でグリグリと踏みしめた。
高価そうな絨毯に焼け焦げが広がる。
「俺は……寝るわ」
◇
――やめて! お母さんに手出しをしないで!
手を、止めてしまった。
罠だとは頭のどこかで分かっていた。
反政府ゲリラのアジトに突入したリチャードが見たものは、今にも死にそうな程の拷問を受けた形跡がある女性と、物陰から飛び出してきた少年だった。
少年の言葉に、思わず動きを止めてしまったのだった。
目に何が映ろうとも、感情を殺し駆逐する。
それが自分の使命であり、仕事だ。
それが軍であり、そこには一個人としての感傷は全く必要ない。
分かっていた。
分かっていたはずだった。
真っ先に突入した先頭の自分が行動を起こさなければ、事態は最悪の結果をたどってしまう。
そんなことは、分かりきっていたはずだった。
しかし特殊警棒を持った手が震え、意図せぬ子供の出現。
声。
そして、血まみれの女性を見て、リチャードはその場に立ち尽くしてしまったのだった。
女性が、その一瞬を逃さないとばかりに立ち上がり、手に持った手榴弾のピンを抜いた。
待て。
そういう暇もなかった。
「どうしたリチャード!」
同僚たちが走ってくる。
来るな!
声が出ない。
逃げろ!
早く!
あたりを、閃光が包んだ。
◇
軍兵士の死者十五人。
負傷者多数。
リチャードが潜入した部屋には、各所に爆薬が設置されていた。
その誘爆に巻き込まれて、彼の小隊は壊滅状態に陥ってしまった。
彼自身も、死に至る傷を負い、幾ばくもない命の中、思考する。
あれは罠だった。
それは分かっていた。
拷問を受けた傷も、おそらくフェイク。
自分達兵士を欺くための偽装だ。
元々生き残りには期待していなかった。
それに、あの女性はおそらくゲリラ側の人間だ。
人質ではない。
人質は全員救出した後の話だから、断言できる。
しかし……。
子供。
あの存在が、リチャードの動きを止めたのだった。
――やめて! お母さんに手出しをしないで!
声。
それが頭の中で幾重にも反響する。
あの子供も、フェイクだったのだろうか。
◇
体中に点滴が刺され、鼻や喉に呼吸器が取り付けられた状態で、リチャードは歪む視界を無理やりあけた。
焼けるように体全体に激痛が走っている。
熱に浮かされ、手足が痺れ、激痛以外の感覚がない。
音が聞こえない。
声も出せない。
焼け焦げた皮膚から血が滴っているのが見えた。
手術台のようなところに寝かされていた。
他数の医師達が自分を取り囲んでいる。
リチャードはそれを見た瞬間、グルリと視界が暗転して意識を失った。
◇
夢の中で、彼は真っ白いどこまでも広がる、何もない空間に立っていた。
白くまぶしすぎて、自分の体さえも見えない。
それは地面なのか、それとも自分は浮いているのか。
それさえも分からない。
少しして彼は、自分のすぐ脇に小さなテレビが置いてあることに気がついた。
それだけ白くなく、はっきりと見える。
リチャードはしゃがみこんでテレビのスイッチを入れた。
電源などどこからとっているのか分からないが、ブツリと音がして、古ぼけたブラウン管に医師の顔が映し出される。
マスクとゴーグルに隠れ、素顔が見えない。
「リチャード・グラース中尉。聞こえるかね? 今君の深層意識に、直接交信を送っている」
「あんたは……俺は、どうしたんだ……?」
「私が誰かなどどうでもいい。記憶が混濁しているようだな。現実の君のバイタルも微弱になってきた。もう保たない。率直に言おう。このままでは君は死ぬ」
「どういうことだ……?」
「反政府ゲリラの自爆テロに巻き込まれたと聞いている。体表の六十パーセントに熱傷を確認。外傷も多数。君の『体』は、もう使い物にはならない」
「…………」
唖然として、リチャードは言葉を失った。
全てを滝の流れのように思い出す。
そうだ、自分は。
自分のせいで、沢山の仲間を犠牲にして。
そして、作戦は……失敗したんだ。
「俺は……死ぬのか……」
絞りだすように声を発すると、医師は静かに言った。
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
「……意味がわからないな。何を言っている?」
「君には選択する自由がある。このまま何も知らずに死ぬか、それとも、地獄を見ながらも『生き残る』道を選ぶか。私からはどちらかを与えることは出来ない。君が選ぶのだ」
「地獄を……?」
リチャードは両拳を握りしめ、歯を噛んだ。
「地獄ならさっき見てきた! 嫌という程な! 俺は……俺は!」
膝をつき、彼は拳を地面に叩き付けた。
「最低だ……!」
「時間がない。選ぶのだ、中尉。私は嘘偽りは言っていない。このままでは君は確実に死ぬ」
「死ぬか生きるか、選択しろっていうのか……」
「そうだ」
しばらく沈黙して、リチャードは口を開いた。
「……改造人間計画だな?」
「…………」
黙り込んだ医師に、歯を噛んで彼は続けた。
「その被験体に俺を選んだんだな! 答えろ!」
「……その通りだ。軍は君を生かす代わりに、改造人間化計画の被験体にしようとしている。しかしそのためには本人の了承が必要だ。だから危険を冒してまで、意識野の最下層まで交信を飛ばしている」
「改造人間……俺が……」
リチャードの脳裏に、天使のように笑う赤ん坊の姿がフラッシュバックする。
そして、それを抱く女性。
握り拳を作り、彼は叫んだ。
「何故俺なんだ! 何故今更! 何故!」
「それを話す権利を私は持っていない。選ぶのだ中尉。悠長に話している時間はない」
「くっ……」
彼は言葉を飲み込み、そして目を閉じた。
しばらくしてふーっ、と息を吐きだして、リチャードは言った。
「……俺はまだ死ねない。死ぬ訳にはいかない。だから、実験にでもなんでも付き合ってやる。どうせ死ぬ命だ。好きに使うがいい」
「完全了承ととっていいのだな? 意識の最下層の返答は、嘘偽りのないものと記録される。それでもいいな?」
「…………当然だ!」
雄叫びを上げて、リチャードは拳をテレビに叩き付けた。
グシャリとテレビが崩れたケーキのように潰れ、あたりを白い光が包む。
そこでリチャードの意識は、光に飲み込まれて消えた。
◇
その施設が、異様な集団に襲撃されたのは、リチャードの意識と何者かが交信した、数日後のことだった。
『ジョー司令! この駐屯基地が、アンノウンに襲撃されています! 敵の数不明! た、太刀打ちできませ……うわああ!』
ザザッ……と通信機の向こうからノイズが聞こえ、交信が途切れる。
城はそれを聞き、重苦しい顔で周囲を見回した。
駐屯基地の作戦会議室には、軍人達が集まっていた。
「今から五分前の通信だ。何か強力な、正体不明の敵にここは襲われている」
城がそう言うと、周囲の一同がゴクリと唾を飲んだ。
「目的はおそらく、リチャード・グラースの『破壊』だ。何としても阻止する。全戦力を投入して、叩け」
バサッ、と軍服を翻し、城は立ち上がった。
「ジョー司令、どこに?」
「俺も出る」
問いかけてきた軍人にそう返し、城は歯を噛んで続けた。
「この感覚……もし俺の考えていることが、外れではなければ、お前達では相手にならん」
「しかし……」
「死にたい奴はついてこい! 死にたくない奴は隅でヒィヒィ震えてろ!」
パンッ、と手袋をつけた拳を打ち鳴らし、城は大股で歩き出した。
◇
「増援はまだなのか!」
「ひぃい! 誰かあ!」
困惑の声と絶叫が、燃え盛る駐屯基地の建物内に響いていた。
黒尽くめのボディスーツとヘルメットを被った軍兵士達が、一気に吹き飛ばされ、反対側の壁に折り重なってぶつかる。
「素直に被験体の居場所を吐けェ……でないと」
押し殺したようなくぐもった声が、あたりに響いた。
絶叫を上げて足をバタバタ振っている兵士の一人、そのヘルメットを掴んで持ち上げた、身長ニメートルを超える巨体の男は、クックと喉を鳴らして笑った。
「こうなる」
バキィッ! と重く低い嫌な音があたりに響いた。
粉々になったヘルメットの奥から、断末魔の表情で即死した兵士の顔が覗く。
それを脇にドチャリと放り、男は足を鳴らして一歩を踏み出した。
人間ではない。
それが一目で分かるほどの、異様な姿だった。
ニメートルを軽く超えている身長。
巨大な鎧を着込んでいる。
手には、まるで重機のような、人間一人分程の大きさがある、巨大な鉄球を持っている。
銀光りする鎧に炎を反射させながら、彼はまたズゥン、と鈍重そうに足を踏み出した。
「退避だ! 退避ィ!」
「下がれ! 下がれ!」
兵士達が鎧男に背を向け、一斉にその場を離脱しようとする。
「人の話を……聞けィ!」
鎧男は、鎖がついた鉄球を振りかぶると、まるで玩具を投げるように勢い良く片手で放った。
衝撃波と轟音をまとった鉄球が、逃げようとしていた兵士達に突き刺さった。
絶叫と断末魔の声が周囲に響き渡る。
「チィ……どいつもこいつも脆すぎる。折角襲撃の一番手を引いたってのに、これじゃ時間が来ちまうな……」
兵士達の屍を踏みしめて、男は更に奥へと進み始めた。
「どこだ……『被験体』は……」
兜の奥の目を怪しく赤く光らせながら、彼は足を進めようとし……そこで動きを止めた。
軍服を翻し、ポケットに両手を突っ込んだ姿勢で、城が少し離れた通路に立っていたからだった。
「……鋼鉄参謀か。久しぶりだな」
吐き捨てるように城がそう言う。
鋼鉄参謀と呼ばれた怪人は、それを聞いて動きを止めた。
そして数秒間沈黙した後、あたりをつんざくように笑い声を上げた。
「カァーカッカッカ! まさかここで貴様に会えるとはな! そうか! そういうことだったのか!」
「…………」
「俺に組み込まれたDNAがさっきからざわつくと思っていたんだ。何だそういうことか。貴様か……『俺を殺した』仮面ライダーだな?」
「どういうことだ……?」
「さぁな! だが俺の中の怨念が、貴様が敵だって喚くんでな! 殺らせてもらう!」
鉄球を振りかぶった鋼鉄参謀を見て、城は両手の手袋を脱ぎ捨てた。
そこから出てきたのは、コイル状になった機械の腕だった。
「変身ッ!」
彼は腕を振り上げると、両手のコイルを擦るように勢い良く打ち当てた。
「ストロンガー!」
電気が、あたりに走った。
「グゥ……!」
眩しすぎる強烈な放電に、鋼鉄参謀が思わず動きを止めて、片手で目を覆う。
「これが……コードネーム『仮面ライダーストロンガー』か……!」
放電が収まった通路で、周囲が真っ黒に焼け焦げている中、その中心に立った男を見て、鋼鉄参謀は重苦しく呟いた。
そして楽しそうに笑う。
「クク……貴様は脆くなさそうだ」
放電の中心に、異形の姿が立っていた。
緑の巨大な目。
カブトムシのような角。
白いマフラー。
アメフト選手のような、筋骨隆々としたボディアーマー。
彼は構えを鋼鉄参謀に向けてとると、静かに、通る声で言った。
「天が呼ぶ……地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ!」
腕を振り上げ、彼は床を蹴って一瞬で鋼鉄参謀に肉薄した。
「俺は正義の戦士! 仮面ライダー! ストロンガー!」
バチバチバチと音を立てて、彼の固めた拳に青白い放電が走る。
アッパーカットの要領で放たれたそれがかすった床が、真っ黒に焦げた軌跡を作り出す。
「電ンン! パンチィ!」
「チィ!」
拳を、鋼鉄参謀は鉄球を持ち上げてそれで受けた。
打ちあたった城の拳が、半ばまで巨大な鉄球にめり込んだ。
まるで、バターのように鉄の塊に肘まで突き刺さる。
「エレクトロ! サンダー!」
そのまま城は叫んだ。
彼の体が、一瞬周囲を灼く程に真っ白に発光した。
凄まじい放電が周囲に走り、それは鉄球を伝い、地面を伝い、鋼鉄参謀に襲いかかった。
「ククク……」
しかし鋼鉄参謀は不気味に笑うと、押し殺した声で言った。
「忘れたか! 電気返しの恐怖を!」
彼の体に吸い込まれた白い電流が、逆流して城に向けて放ち返された……と思った瞬間。
「ダブルエレクトロ……サンダー!」
城はそう叫んで、更に強い放電を体から放った。
それは逆流しようとしていた電気を飲み込み、一気に鋼鉄参謀に突き刺さり、吸い込まれて炸裂した。
「がああああ!」
絶叫が辺りに響き渡り、鋼鉄参謀は体の各部から白い煙を上げながら、片膝をその場についた。
城は腕に突き刺さった鉄球を、片手で持ち上げると、横に振って捨てた。
ズゥゥン……とそれが壁を倒壊させて、真っ黒に焦げた床にめり込む。
「てめぇの弱点は、一度戦った相手だからな。知ってるぜ。反射できる電撃には許容量がある。分析以上の電撃をぶつければ、それを破れるって寸法だ。てめぇのデータは古い俺だ。進化した今とは違う。鋼鉄参謀。蘇ったところを悪いが、速攻で決めさせてもらう」
「ククク……」
しかし鋼鉄参謀は、膝をついたままいやらしい声で笑った。
「愚かなり仮面ライダーストロンガー。貴様が進化したように、俺達も変化しているのだ!」
「……何?」
「目的のためなら! 手段は選ばん! それが今の我ら! デルザー軍団よ!」
城がそこで反射的に床を蹴り、飛び上がる。
今まで彼がいた場所を、刃のように何かが通りすぎた。
それはトランプだった。
トランプのカードが、スカカッ、と軽い音を立てて城が立っていた場所に突き刺さる。
「ジェネラルシャドウか!」
城が叫んだ瞬間、トランプのカードが膨れ上がり、爆弾のように爆発した。
それに煽られる形で、着地に失敗した城に、床を蹴り猛スピードで肉薄してきた鋼鉄参謀が、肩からぶつかる。
「ぬううう!」
受け身をうまく取れず、城はそのまま壁に突き刺さり、ブチ破って向こう側に抜けた。
鋼鉄参謀のタックルは止まるところなく、そのまま二枚、三枚と壁を打ち破って突き進む。
そして開けた部屋の中に飛び込んで、城は吹き飛ばされ、床をゴロゴロと転がってやっと止まった。
「ぐ……」
「ほう……これがもしや……『被験体』か?」
鋼鉄参謀が呟くように言う。
慌てて顔を上げた城の目に、逃げ惑う医師達と、手術台に寝かされている男……リチャード・グラースの姿が映った。
偶然にも、彼の手術室に到達してしまったのだ。
「何をしている! 早くリチャードを運び出せ!」
城が怒鳴る。
しかし鋼鉄参謀は、医師たちを薙ぎ払って進むと、腕を振り上げ……。
「被験体の破壊! 一番乗りだぜぇ!」
と叫んでそれを振り下ろした。
その瞬間だった。
筋骨隆々としたリチャードの腕が動き、振り降ろされた鋼鉄参謀の腕を、掴んで止めた。
「な、何ぃ!」
「……起動したか!」
城が押し殺した声で叫ぶ。
「リチャード・グラース! コード000(トリプルゼロ)だ! 変身を許可する!」
意識を感じさせない空虚な目で、リチャードが上半身を起こし、鋼鉄参謀の腕を絡み取り、横に投げ飛ばす。
「ぐああ!」
ゴロゴロと床を転がった彼の目に、ズシン、と地面にめり込むほどの……人間とは思えない重量で床に立った男、リチャードの姿が映った。
彼は空虚な瞳で、手術台の脇に置いてあった、機械が所々見えている、合金製と思われるベルトを手にとった。
そしてそれを、半裸の自分の腰に巻き付け、バチンと留める。
「コード000了承。変身します」
彼は誰に教えられたわけでもないのに、フゥゥ……と深く息を吐くと、ゆっくりと手を上げ、両手を胸の前で交差させ、叫んだ。
「変身!」
白い光が彼の体の周囲に溢れ出した。
それはまるでまとわりつくかのように、リチャードの体を包み込み……。
一瞬後、彼は異形の姿に変わっていた。
膨れ上がった上半身。
バッタのような頭部。
赤い目。
そして、背中にマントを翻し、彼は鋼鉄参謀に向けてキックボクシングの構えをとった。
「ぬう……変身を許したか! だがここで貴様は破壊させてもらう!」
鋼鉄参謀が起き上がり、肩口からリチャードに向けて突撃した。
しかし、鋼鉄参謀のタックルを受けても、リチャードの体はビクともしなかった。
彼は両手を広げて、自分を押す鋼鉄参謀の上で拳を固め、一気にそれを振り下ろした。
空気の破裂する音がして、鋼鉄参謀が床に叩きつけられ、床には放射状に打撃痕が広がった。
「お……俺は……自分は……」
リチャードが自分の手を見て、小さく呟く。
「リチャード……リチャード・グラース……中尉で、あります……」
「記憶が混濁している……チッ!」
城は呟くと、鋼鉄参謀に向けて構えを取った。
そして叫ぶ。
「チャージアップ!」
彼の胸の「S」というマークが、グルグルと回転を始める。
仮面ライダーストロンガーの体内に組み込まれた「超電子ダイナモ」の力で、二段変身をするのだ。
「S」の回転が止まり、城の体が白く輝く。
一瞬後、彼は銀色の角に、銀色のラインが入ったプロテクターを身にまとっていた。
「超電!」
城は叫ぶと、真っ白い放電が辺りに轟く中、床を蹴り、鋼鉄参謀に向けて光となった。
「ドリルゥ!」
一拍、彼の体が空中で静止し、真っ赤に発光する。
「キィィィック!」
そのまま高速に回転し、城は鋼鉄参謀の胸を貫通して、向こう側に抜け、床を数メートルも滑って止まった。
「グ……ッ! く……!」
口から青い液体を吐き出し、鋼鉄参謀は、胸に大穴が空いた状態で城に向けて振り返った。
「ククク……これで勝ったと思うなよ……ストロンガー……」
「…………」
「デルザー軍団は……不滅なり……」
仰向けに鋼鉄参謀が倒れる。
次いで、施設の中を大爆発が襲った。
◇
「ふん……手助けをしてやったというのに、参謀は負けたか……」
駐屯基地を見下ろす形で、離れた崖に立っていた男が口を開く。
彼の周りには数人の男女が立っていた。
「あんな筋肉バカを一人で行かせるからこうなるのよ」
「次にストロンガーを倒すのはこの私だ。順番は守っていただこう」
一番最初に口を開いた男が、そう言って喉を鳴らす。
「だが今は時期ではない……時期を見て攻撃を掛ける。ここは一旦引くとしよう……」
◇
第4話 後編に続く!!
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