ある患者様との思い出 | 美容外科開業医の独り言

美容外科開業医の独り言

美容医療とは人間愛!という信念で仕事をしている美容外科医のブログです。
レーザーなど最新の美容情報や普段の診療で感じたことなど、ぼやきを交えながら書いていきます。
外見だけではなく心も綺麗になり、自信が湧いて幸せになれる、そんな美容医療を目指しています。

私が医者になって5年目の頃でした。大学病院形成外科で勤務時代、足一本の裏側全部が腐ってしまった患者様が搬送されてきました。
原因は不明でしたが、ある病院で感染を疑われ、皮膚の全てを除去された状態で、検査の結果、ふくらはぎあたりは骨まで壊死していることが分かりました。
当然その状態では足を切断となります。緊急で切断手術をしました。通常の方法では傷を塞ぎきれないので、形成外科的な皮弁などの手術を併用する大手術でした。義足が何とかつけられるよう、最善を尽くしました。
もちろん患者様やその家族にはきちんと説明をして、手術後は早期のリハビリなどが必要であることもお話ししました。
けれども、手術後に患者様はリハビリを拒否され、私はリハビリ部長から呼び出されお説教です。そんな患者を紹介するなと....。ただ私の仲の良かった先輩がリハビリ部の医師であり何とか取り持ってくれて、患者様を無理矢理にでもリハビリに連れて行く日々となりました。
若かった私は、患者様がリハビリをして、自分で歩くことができれば元気に退院していけるものとばかり思っていました。
でも、ある日、患者様は病室で首を吊りました。幸い大事には至らなかったのですが、私にはどうしてなのか理由が分かりませんでした。気がつけば患者様を叱っていました。
当時の私は患者様の心が分からず、手術さえ上手くいけばみんな喜ぶと思っていたのです。
人には入院中に不安になる要素があること、何も考えず、多くの患者様に対して、病院の都合、手術の都合ばかりを押しつけていました。自分の手術の腕が良いと過信し、医者という職業を何か特別なもののように考えていたのです。
その患者様は生活も大変だった時に入院され、1ヶ月を超える入院となっていたので、退院後、義足の生活に大きな不安を抱かれていたんです。
仕事ができるのかどうか、今後どうやって生活していけばいいのか、そんなこと私は考えたことはありませんでした。
自分のことを反省し、患者様と二人三脚で、それ以降はリハビリに一緒に行ったり、会話をするようになりました。
その後元気に患者様は退院され、良かったなあと思っていました。
しかしある日、家に帰ると、妻からの言葉、「貴方の患者さんがうちで取っている新聞の集金をしてるそうで、名前を見つけてお礼に来た」と。
お菓子を持って夫婦で自宅にいらしたのでした。
これはある意味びっくりでしたが、もし恨まれていたらと思うと、ちょっと怖いことでもありました。
医者は患者様の心が分かって、その上で初めて十分な腕を発揮しなければいけない、そうしないと正しい医療はできない、そう強く感じた出来事でした。

それ以来、未熟ながら、患者様の気持ちを探るように努力していますが、やっぱりまだまだ不十分で、日々努力しなければなあと思っています。


人の心が分かれば、どんなに楽なんでしょう。それは医療だけではなく、全ての人生の出来事に通じるものだと思います。でも、分かるように努力すること、それが大事で、分からないから怖いとか、誤解が嫌だという意味ではありません。その思いこそが自分を成長させると、そう信じています。