2月21日。

武中進という協会の選手が、今日
第13期雀竜位決定戦
の最終日に臨んでいた。

この日までのポイントは、

斎藤 俊355.1
武中 進-54.9
板倉 浩一 -143.0
渋川 難波 -158.2

と、斎藤のぶっちぎり。

武中は一番近い位置だったが、
残りたったの半荘5回で、400pの差をまくれた前例はない。

斎藤は本当に強く、センスと華のある打ち手だ。
消化試合だと、誰もが思っていた。

しかし初戦、思いもよらぬ出来事が起こる。



大きく離された武中がこの手をツモ和了らず、



必然のリーチを放った斎藤の宣言牌を出来メンツチー。



斎藤がツモ切った発を武中が鳴き、
斎藤が3索をつかんだ。

奇跡といえばそうかもしれないが、
それでも斎藤を脅かす位置につけたわけではなかった。

しかしここから、武中は丁寧に打牌を繰り返し、
徐々に斎藤との差を縮めていって、
ついに本当の奇跡を起こしてしまった。




たぶんだけど、僕を含めて、今日の決勝をちょっと違った感傷で見ていた人たちがいると思う。

昔協会に、ちょっと生意気でイケメンの後輩がいて、いつも武中とつるんでいた。

「ススムくんは不細工だな!」
「ススムくんはホント麻雀太いよな~!」

そうやって無邪気にばんばんと叩いてくる後輩を、
武中は面倒くさそうにあしらいながらも、
いつもうちの店に一緒に連れて来ていた。

彼は麻雀も強く、そう、たとえば今の斎藤のように、未来ある後輩だった。



2月25日は、彼の命日である。

その日を目前にして、今日武中は、雀竜位を勝ち取った。

優勝直後に武中からメールが来た。

「今年は、いい報告ができそうです」
と。


まあ――どうせあいつは、

「ススムはやっぱツイてんな!」

と生意気に笑って、

それでもやっぱり、嬉しそうに武中のことをばんばんと叩くだろう。


あのときのみんなでそろって、祝ってやれると良かったけれど。

彼のぶんまで、おめでとう、ススムくん。