最近もまた(「また」というのは、ちょっと前にも神出病院で事件があったばかりだからです)精神科病院での事件が報道されました。

 東京八王子市にある滝山病院です。

 ニュースでご存知の方も多いと思いますが、2月25日に放送されたNHK・Eテレの「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」は、精神科病院では大いにあり得る事件とは言え、隠し録りの会話がそのまま放送されたりして、衝撃的でした。

 

 以下はNHKの当該番組を説明する文章です。

 2月15日、東京都八王子市にある滝山病院を警察が捜索。患者への暴行の疑いで看護師が逮捕され、監督する東京都も調査に乗り出した。NHKは、内部告発による病院内の映像や音声記録、そして1498人の患者のリストを入手。さらにその家族、病院関係者などへの取材から、病院の実情と背景を調査した。浮かび上がってきたのは、社会の中で頼られる精神科病院の知られざる一面だった。1年に及ぶ調査報道ドキュメント。

 

 この病院の院長は朝倉重延という人物です。

 これまたご存知の方もいらっしゃるでしょうが、この人、2000年に起きた「朝倉病院事件」の病院長、つまり中心人物です。

 あのような事件を起こしておきながら、朝倉重延院長自身は刑事罰にも処されず、2001年に厚労省に保険医登録を取り消されたもの、06年に再登録されています。というのも、5年経過すれば、再登録ができるというシステムになっているからです。

 なので、この病院の院長にもなれた。 

 

 日本精神科病院協会も一応調査をしたようですが、

 その中で、協会の平川淳一副会長が「過去に問題を起こしながら、なぜまた院長になったのか」と朝倉氏に尋ねたところ、「家族内になり手がおらず、話し合いの結果やむを得ず院長になった」と言ったそうです。

 ま、この日本精神科病院協会自体、会長が「精神科医にもピストルを持たせてほしい」などと書いたりしていますから、患者に対する人権意識が非常に高いとは言い難い団体です。

 それにしても、看護師らの暴言、虐待について、朝倉院長は「寝耳に水」などととぼけたことを言っているようです。

 NHKの番組では朝倉院長にも突撃取材をしていますが、彼はイギリスの高級スポーツカー、アストンマーチン(おそらく)に乗って駐車場から出てきました。

 どんだけ患者からむしり取っているのか・・・。

 

 NHKの番組はよかったですが、「精神科病院の闇」・・・などと言って、「これにて一件落着」にされては意味がありません。

 あるいは視聴者の受け止め方として、「特別な場所の特別な出来事」――これはかなり多い受け止め方でしょうが、「他人事」としてこの事件を「おしまい」にしてしまうのも避けたいところです。

 そもそも、精神科病院内で行われていることは、もしかしたら、私たちが心の奥底に隠し持っている邪を具現化しているだけなのかもしれないのです。

 その意味でも決して他人事ではなく、さらに言えば、街角クリニックは、こうした病院への入口でもあるわけですから、なおさら他人事ではありません。

 

 隠しどりされた看護師の暴言、虐待、さらに、院長と思われる男性の話す内容には開いた口が塞がりませんでした。

 

院長(音声)「また一人逝っちゃったな。申し訳ないけど、そういう人ばかりなんだよな。まあしょうがないんだよな、ヒヒヒ(院長の笑い声)」

 院長「やっても助かって伸びるヤツもいれば、そのまま逝っちまう、そういうレベルなんだよな。根本的に治すなんてとんでもない話だよ。いつか死ぬ(院長の笑い声)」

 

 患者か院長か、どっちが「狂気」なのかと思います。

 しかし、多かれ少なかれ、こうした「思想」は精神科医療の根底に流れているものです。

 根本的に治すなんてとんでもない話だよ。いつか死ぬ・・・。

 そう思って治療に当たっている精神医療関係者は多いはず。

 神出病院、朝倉病院、そして今回の滝山病院。

 なぜ、同じような事件が繰り返されるのか。

 

 繰り返される事件について、私たちはいま一度胸に手を当てて考えてみるべきだと思います。

 この世界を垣間見てきて者として、「こんなことはあってはならない」「人権意識が低すぎる」という段階にとどまるのではなく、もっと根源的なところからこの問題を考え続けてみたいと思っています。

 

 スタイリッシュで近代的な雰囲気を醸しつつも精神科医療の根底に流れているものは、今も昔も大差ないのです。そして、それを支えているのは、私たちの「意識」なのかもしれません。

 そのことをよくわかっている日本精神科病院の会長は、こう言っています。

「処遇困難な患者を一つの病院が集中して受け入れていることも問題。国が受け皿を整備すべきだ」

 さらに、日本精神科病院協会では山崎会長が、3月2日に声明を出しています。

 その中の一節。

 

今一度平成25年2月制定の「精神科病院倫理綱領」の精神に立ち返って、国民の期待に応えることのできる精神科医療の確立のため、日本精神科病院協会として会員病院一丸となって、一層の医の倫理の涵養と精神科医療の向上に努めることを誓います。

 

 下線部分をどう読むかということです。

 すなわち、「国民の期待」とはどういう期待なのか?