例えば僕は
周りの人達が朗らかな笑みをこっちに向けて
ルンルンしながら語りかけてくると
頬がほころぶ

例えば僕は
夕暮れ時、暗い部屋の隅で眉を落とし
一人窓の外に視線を送っている女の人を見ると
胸がしめつけられる

例えば僕は
満員電車、金髪の青年のヘッドフォンから
漏れる音を聞いて
おじさんがチッと舌打ちする音を聞くと
頭がガンガンする

例えば僕は
公園でお父さんと男の子が
ワイワイキャッキャッ言いながら
ボールをけり合っているのを見ると
ふわっと口角があがる

例えば僕は
横断歩道をよろよろと歩いている
おじいさんをみると
同じように後ろを
よろよろと寄り添ってしまう

例えば僕は
なんどもなんども同じ話を
同じように話すおばあさんをみると
鼻がずずっとなる

例えば僕は
お乳をあげているお母さんをみると
心臓がトクントクンとやわらかく脈打つ

例えば僕は
その赤ちゃん
例えば僕は
満員電車のお兄ちゃん
例えば僕は
黄昏れる女の人
例えば僕は
舌打ちをするおじさん
例えば僕は
まわるまわるおばあさん
例えば僕は
優しくボールをけるお父さん
例えば僕は
揺れながら進むおじいさん
例えば僕は
たわむれる男の子
例えば僕は
いつくしむお母さん

それらは僕の歴史
それらは僕の一部
出逢いが一つ一つ
僕の糧になり
力になり道をさし示す

どんどんと
書き記され広がっていく

笑ったり、怒ったり
泣いたり、哀しんだり
喜んだり、楽しんだり

何が良いことで
何が悪いことで

そんなこっちゃわからない

色々あって
それでもいいかなと

例えば僕は
空にむかって胸いっぱい
例えば僕は
両手をひろげて
例えば僕は
抱きしめる

抱きしめる