大学受験の日の朝に


いそぎいそぎ道を歩いていた


わたしはただよいながれるシャンプーのゆたかな香りに


足をとめた。




わたしはいま受験をしにいくのだが、


あのひとは、いま、髪を洗っている。


わたしはいま人生の節目にたっているが、


あのひとは、いま、髪を洗っているのだ、と。




わたしがあのひとになることができたら、


あとからやってくるわたしは


こんな風におもってくれるんだろうか、


と思いながら、


わたしは電車に乗り込んだ。




電車は限りなくはやいのだ。


シャンプーのにおいさえ、


けちらしてゆく。