もう、きちゃだめだよ、


といったら、


すまし顔をして、


そうかな、


という。


そうだよ、


といって、


彼女をむりやり押し出して、


部屋から、しめだした。


こころだけでなく、


皮膚や内臓、細胞の


からだのはしばしにいたるまで


あなたにうばわれていく気がするんだから、


とドア越しにいった。いって、みた。





そうしたら、


ノックが、はじまった。


よわったなあ、


と思いながら、


しばらくノックの音を


きいて、いた。


あまりにリズミカルに


たのしげにうたいあげるような


ノックなので、


少し感心をした。


精確にときも


刻んでいるらしかった。





ノックがあまりにすばらしいので


みれんがましくなって


ドアを思いきり、あけた。


でも、いなかった。


とたんに、執着心が


つきあげるように、


こみあげてきて、


彼女に電話をかけた。





電話はつながったものの、


雑音ばかりでなにも聞こえなかった。


なにかがなにかを食べているような


ばりばりがりがり、いう音がした。


なんだかこわくなって、


受話器をおこうとしたら、


肩をおもいきりつかまれたので


うしろをふりむいたら、


そこに、いた。





うわあ、といって


のけぞったら、


なんだかやわらかいものに


どしん、とぶつかって、


そこから、


なにかが


ひろがりはじめた。





まっくらがり、が


ひろがっていくね、


と彼女がいうので、


そのようなものなんだな、


と思った。





まっくらがりは、


部屋のいたるところへ、くまなく


ひろがりつづけていく。





夜は、きれめなく


この先もつづいていくんだ


とおもいながら、


ずっと、みていた。