鴇田智哉さんが「あとがき」に、全力で走った直後のそのからだとあたまで突然俳句を作ったらどうなるか、というのをやってみたと書いていた。エネルギーを使い果たして空っぽになり、この世界の価値観や執着がすべて失われたところでとつぜん生まれる言葉。ときどき、走ることはその場でめをつむって微動だにしないことと同じことなのかもなあと思うこともある。「今走つてゐること夕立来さうなこと/上田信治」。私はこの走る俳句の「今」にずっと驚き続けている。この「今」はこの世界のどこにあるんだろう。今だって走ってるのに。