苦しいのは北朝鮮 ~罠にはまるな、対北朝鮮外交~ | 武藤貴也オフィシャルブログ「私には、守りたい日本がある。」Powered by Ameba

武藤貴也オフィシャルブログ「私には、守りたい日本がある。」Powered by Ameba

国家主権、国家の尊厳と誇りを取り戻す挑戦!品格と優しさ、初志貫徹の気概を持って(滋賀四区衆議院議員武藤貴也のブログ)

 今月28日、外務省伊原純一アジア大洋州局長を代表とする日本政府代表団が、拉致問題に関する調査状況の説明を聞くため北朝鮮の平壌を訪れ、「特別調査委員会」の徐大河(ソデハ)委員長ら幹部と会談した。徐大河氏は北朝鮮の秘密警察にあたる国家安全保衛部の副部長の肩書を持ち、通常公に顔を出さ無いことから、今回マスコミにまで顔を出したことについて日本に対する誠意ある異例の対応との見方もあるが、拉致被害者に関する個別具体的な情報については殆ど提示されていないと見られている。

 7月から対北経済制裁を解除し、拉致に関する調査を開始して既に4ヵ月。訪朝団が平壌を訪れる前9月29日に中国瀋陽で行われた協議で北朝鮮側は「準備段階であり、結果を出すのは難しい」という文言を繰り返すだけで、結果が出る時期さえ明言しなかった。そればかりか日本の警察庁が拉致の疑いがある行方不明者を9月に860人から883人に増やしたことを挙げ「事前に通告が無かった」と日本を批判したという。それでも瀋陽で出された「平壌に来たら、より詳細な説明が可能だ」という宋日昊朝日国交正常化担当大使の言葉を頼りに日本政府代表団は平壌入りした。

 10月16日、今回の訪朝団派遣を前に行われた自民党の「外交部会・北朝鮮による拉致問題対策本部合同会議」や「拉致議連総会」において、拉致被害者の家族会等は今回の平壌訪問に反対した。訪朝しても「誠実に対応した」という言質を北朝鮮に与えるだけで何も成果が無いだろうという意見が大方の見方だったからだ。その会議に出席していた私も同様の意見を述べた上で、「仮に派遣するなら、結果を出さない場合、経済制裁を再発動する期限を明確にし、訪朝すべきだ」という発言をした。

 そもそも北朝鮮は、拉致被害者全てに関する詳細な情報を既に把握していると見られている。あれだけの独裁国家なので、当然拉致された人が何人で、現在どこにいて何をしているか一人残らず完全に把握しているだろう。従って「現在調査している」と繰り返すのは、経済制裁が解かれている間に「人・物・金」の移動を可能な限り行うための時間稼ぎだと思われる。

 いつものことだが、今回の交渉の中でも「ようやく開いた交渉の窓を閉じさせてはならない」という議論が出てくる。日本が強硬に出て、北朝鮮とのパイプが切れたら、それこそ拉致被害者の救出は更に困難になるという主張である。今年7月、対北経済制裁を解いた時も、調査委員会を立ち上げた段階で本来は解く必要が無い経済制裁を、「行動対行動」という理屈で事実上譲歩し、解いてしまったのはそのためだ。今回の訪朝もそうした主張によるところが大きい。

 しかし長く北朝鮮を分析してきた専門家は、今苦しいのは北朝鮮だと分析する。北朝鮮は日本から取りたいものがあって接近してきた。北朝鮮の担当者は「これとこれは必ず取れます」と金正恩第一書記に決済をもらって、特別調査委員会なるものを立ち上げたはずだ。ここで日本側が譲歩せず席を立てば、担当者は最高指導者に嘘の見通しを語ったことになる。北朝鮮の交渉担当者は文字通り命懸けで日本との協議に臨んでいる。日本が強く出れば北朝鮮の担当者こそ日本とのパイプを切らないため、上司を説得して拉致被害者に関する情報を出そうと努力するに違いないと。

 今の北朝鮮を動かし、拉致被害者を助ける手段はもはや圧力以外にはない。譲歩して引き延ばせば、北朝鮮の罠に嵌るだけだ。北朝鮮には普通の外交交渉のように、妥協によってお互いの利益を最大化しようなどという説得は通じない。従って日本政府は現実的かつ効果的な経済制裁再発動というカードを、期限を切って交渉に使うべきだ。そして仮に期限が守られなかった場合は、これまでの経済制裁再発動に加えて、国際社会をも巻き込んだ更に厳しい制裁をするよう検討すべきだと私は思う。私はこのことを政府与党内で主張していきたい。