泳げなくても簡単に突ける黒鯛 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

クロダイと言えば用心深くて釣るのが難しく、休日のたびに出かける釣りファンも多く一大ジャンルが出来上がっている。クロダイは雑食と言うより悪食で何でも食べるのだが確かに釣るのは難しい。他の魚が食べないサナギはともかくスイカまでエサに使われる。泳ぐのも速くすぐに逃げてしまうので小学生の頃はなかなか突けなかった。大きくなるほど賢くなってくるから当然子供のがさつな仕掛けでは手の平サイズの小さなものしか釣れなかった。習性を覚えた中学の頃には自由自在に突けるようになった。クロダイは用心深いが好奇心も強く、特にエサに対しては貪欲だ。外海から湾内、河口まで何処にでもいるが、突く場所は湾内の比較的透明度があってゴロタ石がある長い海岸が理想的だ。つまりガードレールの下でも良い。使用するモリはゴムを付けた手作りが理想的だが市販の安物でも小さなものは簡単に突ける。ヘソの辺りまで海に入り、頭大の大きな石を頭上に持ち上げ目の前に放り込む。ドブン!と音がしてズシンと着底、かすかに濁る場所が良い。それから30秒待つ。大きく息を吸い込み沈み、その石を左手で抱え込んで海底にうつ伏せになり、右手でモリを前に構えてじっと待つ。息は長いほうが良いが30秒止められたら十分だ。大型のクロダイは深いほうからやってくるが、30cm未満の小型は群れで何処からともなく寄ってきて周りをぐるぐる回り出す。モリ先30cmくらいを通過する時にゴムを離せば簡単に当たる。多い時は十数匹の群れで来る。コツは絶対に動かないことだ。モリ先に来るまで待ちきれずモリを動かせば一目散に逃げてしまう。一度構えたら動かすのは指先だけだ。足を動かしたり浮いたりしても逃げられる。石のように動かないのが最大のポイントだ。だから石を抱える腕力がなければ重りがあったほうが良い。半径25mにいるクロダイは必ず来る。そうやって50m間隔で石をドボン・・3回もやって来ない場所など滅多にない。どんな汚い海にでもクロダイはいるはずだ。2m先が見えれば良い。そんな条件を満たした場所を探すことから始まる。透明度の高い外海でやってみるとよくわかる。海水浴場の端、砂から岩場になる境には必ず頭大の石がある。疑り深い友人が試した。モリは持ち込めないから両手で石を持って沈むのは楽だったらしい。十数匹のクロダイが至近距離をグルグル回り興奮したらしい。見るだけでも面白いものだ。その翌日、その友人は生まれて初めて、小ぶりだが30cmのクロダイを突いて来た。この方法を、音を立てないように神経をすり減らしているクロダイ釣りキチガイに教えても信用しない。岸から石を放り込んで仕掛けを入れたら釣れるのだが・・。寄ってくる魚は決まっている。ベラが濁りに群がり、クロダイ以外はボラが水面近くを寄ってくる。クロダイが突けなければボラでも構わない。ボラはクロダイほど神経を使わず少しくらい動いても大丈夫だ。今では追いかけてもクロダイが突けるようになったが、待ち伏せのほうがはるかに楽だ。一度覚えたら年をとっても泳げなくても食糧確保は簡単だ。是非、安物のモリで「獲ったぞ~!」と叫んでもらいたい。モリに凝るのはそれからでいい。魚突きは猟師町でも漁業権には触れないが心配なら地元の人に聞くと良い。アワビを放流していれば叱られる。