スイミン愚物語 スポーツマンヒップ5 | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

邪悪な「水中蹴りターン」をあきらめ、正攻法で試合に臨む為に流体力学の本を改めて勉強し直した。大学での専攻が「船舶設計」だからそんな本はいくらでもある。

水の中を移動すると「摩擦抵抗」と「造波抵抗」の二つが足を引っ張る。

摩擦抵抗は液体の粘性に関係し、泳者がスキンヘッドにしたり、水の抵抗のない水着を求めたりする。

造波抵抗とは生じる波の抵抗だ。大型タンカーなどは全抵抗の半分がこれだ。

戦艦大和の球状になった船底の舳先も造波抵抗の削減が目的だ。

水中を走る潜水艦には造波抵抗が発生しないから意外と速いのだ。

だから競技ではスタートしてから浮上するまでの距離や、ターンしてからの浮上距離が制限されるようになった。

エンジンではなく風力で走行するヨットは、大型でもほとんど波が立たない。船体が綺麗な流線型をしているからだ。

水泳も同じ事が言える。波が立たないほど速く泳げる。だから手足の「バシャバシャ」は抵抗にはなっても速くはならない。

中学の水泳部の先生がカナヅチだったから、泳法は自力で身につけたが、無意識のうちにこの理論で泳いでいた。現役のときも一番スローで波が立たなかったが、本格的に習ったり、勉強したわけではなかった。改めて自分の泳法から造波抵抗を割り出すことにした。キックは元々バランスをとる程度でほとんど真面目に打たなかった。だから水しぶきはあがらない。クロールの推進力の大半は腕力だ。

両足をヒモで完全に縛り付けられて泳いでも、50mの記録は1秒も落ちないのだ。

腕のかき方もスイミングクラブに通いながら徹底して分析したが、そこまで意識して泳いだ事は一度もなかった。

わかりやすく簡単に説明すると、まずは腕の入水だ。推進力がついているのだから抵抗をかけない入水は進行方向真っ直ぐに手先を差し込むこと。

そのまま前方斜め下にズボリと突き刺している人が多いがその抵抗でスピードが落ちる。手を入水して「水をかく瞬間」に手首をかえして大きくゆっくりとかくのだ。しかも指先はどの段階でも常に垂直に底に向いている。

真下から後半のかきは手首の力を抜きながら水から引き抜く。

手首の力を抜かないと水を上に跳ね上げることになるから、推進力の方向が違う上に腰が沈む事になる。

特にその部分を意識して確かめるようにゆっくりと泳いでいた。

ワニや蛇の泳ぎから学んだことは、体を直進させることではなく、大きくうねるように泳ぐ事だった。つまりグラインドさせるのだ。そうすれば波が立たずに造波抵抗が少なくなる。

そんなことを試行錯誤しながら泳いでいたが、「最大の発見」は誰も考えない奇想天外な泳法だった。

まともに練習してスタミナ十分の人間には必要ないが、野人みたいに練習嫌いで、楽してチョンボしてなお勝利を義務つけられた男にはピッタリの泳法だった。

名づけて「二重人格泳法」だ。

見るほうも「目がテン」になるほどあきれる泳ぎだが、「運動生理学」的に理に適った泳ぎなのだ。

その秘技は次回で読者に特別公開するから絶対に笑わずに聞いて欲しい。

ただ、この泳法は野人以外には不可能なような気もする。

いまだに見たことがない。