捨てられないブロンズメダル | 野人エッセイす

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森羅万象から見つめた食の本質とは

北島選手が世界記録で金メダルをとった。野人も中学高校と海で遊びたいのに水泳に費やした。食い物も生命反応もないコンクリートのプールを行ったり来たりするのは空しかった。つまり、いやいやながらやっていたのだ。その辺の事情は「スイミン愚物語」に書き記した。野人はオリンピックに出たことはないが、県大会の自由形で優勝、全国大会にも出たからまあそれなりには速かった。大学からスカウトも来たがまったくやる気はなかった。賞状はすぐに捨ててしまったし、メダルは近所の子供達にあげた。残っているのは仰々しい木箱に入った大きなブロンズメダル。全国一斉に実施された「NHK杯全国中学水泳大会」の大分県大会で優勝した時のものだった。それでテレビ中継のある全国大会へ、決勝には進めず、確か全国で13位だったと思う。誰にも水泳を習わず自己流でそこまで行けば十分だし頂上志向もなかった。元々練習が大嫌いでまったくやらなかったから、30歳になってたまたま出場した県大会でも記録は当時とあまり変わらず優勝した。久しぶりに開けてみたらメダルに白マジックで落書きしていた。木箱の裏には母が書いた日時と記録の文字が残っている。野人にとってはどうでも良いものだったが、母にとっては大事なものだったのだろう。そう思って捨てずに保管している。思いのこもったものは捨てられない。地元の高校で県大会が催された時、母の友人やら近所のオバちゃんたちが群れを成して応援に来た。呼吸で顔を上げると、プールサイドを走りながら盛んに手を振って応援するババの群れが見えた。つい・・こちらも水をかく手を止めて手を振って声援に応えたら・・・タッチの差で負けて二位になってしまった。オバちゃんたちの落胆と怒りの矛先は野人に向かった。「手など振らず水をかけば負けなかったのに!水泳の試合中に手を振るバカが何処にいるの!」。オバタリアンは声援も凄まじいが罵倒も凄まじい。まあ勝敗など野人にとってはどうでも良かったのだ。それから大学での水泳大会にも彼女が友人の応援団を連れて来た。その時も声援に応えて手を振った、ヒラヒラ~!っと華麗に。その時は優勝したのだが、試合後彼女が言った言葉は、「アタシ・・あんな恥ずかしい事はなかった・・」だった。試合中に愛嬌振りまいて手を振るとロクなことはない。しかし、無機質のプールを淡々と泳ぐ水泳競技は、何かやらないと退屈極まりないのだ。変てこな時代遅れのターンとか。それが野人の本質なのだろう。一番になりたいと思った事は一度もない。譲り合いの気持ちも時には必要だ。