できれば壊したいレールのはなし | DNA of DeNA

できれば壊したいレールのはなし

ある国立大の偉い教授から南場よ出てこい、と名指しで呼び出しを受けた。ほんの数年前の話。研究室推薦で日本の大企業から内定をもらっていた学生が、それをキャンセルしてDeNAに行きたいと言っているとのこと。教授はカンカンに怒っていて、その大学には二度と足を踏み入れさせない、学生をいっさい採用できなくするというメールも来た。

 

その学生からも連絡が来た。本人はわりと落ち着いている様子だが、とにかく教授の剣幕は形容しがたいほどだと伝えて来た。学生本人にも怒っているが、矛先はむしろ我が社に向いているという。

 

授と大企業のもちつもたれつの関係がある。企業は研究費を、教授は学生をたがいに提供し、何年ものあいだ、その約束を違えたことはない。有名大学の理系の研究室の常識だ。「南場さん、謝りに行きますか?」と採用責任者に聞かれた。とても心配そうだった。

 

えーっと何を謝るんだっけ。出かけて行って「先生、すみません、知りませんでした!知っていたとしても内定出したと思います!ここは本人に決めてもらいましょう!」なんて正直に言ったら火に油だ。さらに口がすべって「先生も研究者であると同時に教育者ですよね」とか「本人の意思より大事なものってなんですか?」とか言ってしまいそう。2度とキャンパスに入れないどころか、出て来れないかもしれない

 

「行かないよ。本人にしっかり考えてと伝えて」と採用責任者には伝えたが、学生本人が狭間で苦しんでいたら気の毒だなぁと、その件は気にかかり、ときどき確認すると「膠着状態。教授は怒り収まらず、一歩も引かず」という報告が続いた。

しばらくするとこの話はドラマチックに急展開する。


母が登場したのだ。


お母さんは本件を知り、ものすごく、本当にものすごく怒った。そしてその怒りの矛先は我が社ではなく、息子でもなく、なんとその有名教授だった。息子の人生は息子に決めさせろ、それを縛るなら訴訟だ、とまで啖呵を切ったらしい。

 

さすがの大教授も母には弱かったのか、それとも取っ組み合いの喧嘩になったのか、詳細は知らないが、その学生は無事機嫌良く我が社に入社して大活躍

 

日本は初等教育から高等教育に至るまで一般に職業意識の醸成が手薄な上に、新卒一括採用やこういった研究室推薦という仕組みで、優秀な学生を規定のレールに乗せて、本人の意思にときに関係なく(なるべく意思を持たせず、とも言える)大企業に流し込む。そして未だに終身雇用。その会社の文化ややり方に染まりきった人たちで「改革だ!」とか「イノベーションだ!」って、さすがに無理スジなんだと思う。

 

それにしても知名度、社格(ってなんだろう?)ともに数段上のその大企業も、天下の国立大学の有名教授も敵に回して本人に決めさせろと言った母は実にカッコいい。お会いしたことはないが、キリッとした姿を想像している。キャリア採用(中途採用)でお待ちしている。