曇りひとつとない大きなガラスの格子窓の外には月のない夜の暗い空と階下の王城のホールから漏れる煌々とした灯り。
国を上げて執り行われている舞踏会。耳をすませば楽団が演奏しているだろう輪舞曲が聴こえるかのよう。
そんな祭典の騒めきから、王城の最奥近いこの部屋に隠すように遠ざけられているのはひとりの淑女。
本来であれば、この国の太陽たる王の隣にあるべき若き王妃。
だが、ひとり窓際に立ち、ぼやりと窓の外を眺める立ち姿には気品を感じさせるが、艶やかな髪が影を作るその愛らしい顔立ちに浮かぶは憂いの色。
ふぅと花のような唇から溢れた小さなため息。
その時、侍女の先触れなくは開けられない筈の扉がキィと軋む音を立てながら細く開かれた。
ひらりと、身を滑らせるように室内へと入り込むは騎士団服の少年。
「っ……もう、ここに来てはいけないと」
そう言った筈だと、震える声が紡ぐのは咎め嗜めるような言葉。けれど、王妃の顔は泣き出す寸前の幼な子のようにくしゃりと歪む。
来るなと拒まれた少年。だが、王妃の声に逆らうかのようにまっすぐにキョーコへと歩を進める。
ビクリと、怯えるように肩をすくませた王妃は顔を俯かせ首を左右に振るってみせるのだけれど……
「キョーコ様」
焦がれるように甘く、そして縋るような懇願を乗せた声色が王妃の名を呼んだ。
それをきっかけに互いに手を伸ばし、ひしと抱き合う。
さらりと頬を擽る柔らかでかわいい感触の黒髪。ふわりと香る愛しい香り。
「俺と……逃げてくださいますか?」
国で一番の女性たる位も、貴族たるその家の名も血を連ねたる家族も、慈しむべき民草も……そばで護ると決めた筈の伴侶さえ裏切り、その全てを捨てて。
罪深いと、愚かだと分かっていながらも……強く自分を抱き締める恋しい男の腕を取りたいと、キョーコの胸が叫ぶ。
 
 
 
「……許さないよ?」
 
 
 
地の底を這うような、低い低い声。
いつのまにかこの部屋へと侵入したる高い背。背後へと、影がまるで物語の魔王のようにおどろおどろしく黒く伸びる。
王妃の私室の扉を開いたこの国の太陽たる国王は、その美しい翠の瞳に仄暗い炎を宿しながらいたぶるかなように酷く残酷なまでに薄く笑う。
狂気を含んだ怒りを感じ取ったキョーコは叫んでしまう。
「ヒオウ、逃げてっ!」
咄嗟に、狂気を滲ませる絶対権力者から愛しい男を遠ざけ守ろうと。我が身を盾に、庇うように。
その美しい琥珀色の瞳にヒオウへの慕情をありありと浮かべて。
そして、そんなキョーコを護るように腕の中へ抱き込む腕。
「……馬の骨が」
愛しいが故の強い執着心からの悋気が王を狂わせる。
「私のキョーコから、薄汚いその手を離せ。」
クオンの手が腰に佩いた王家の紋章で装飾された宝剣を抜き、刃が窓辺で寄り添い抱き合うふたりへと向けられ……
 
 
 
 
 
 
 
なーんてね。
前回での予告通りにヒオキョコがんばってはみたものの……ヒオウくんのこれじゃない感がすっごい。笑
実は、王妃キョコさんはショタっ子好きで、おっきく育っちゃった王さまから見た目ちびっこヒオウくんに乗り換え……とかだったら頑張って大きくなっただろうクオンくん泣いちゃいそう。
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、
 
 
 
 
はてさて、おふざけすみませなんだ。
気を取り直して、仔犬な続きをばどうぞお付き合いをばお願いしまっす!
 
 
 
 
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否定を!何よりも、まずは否定をしなければっ!?
ただでさえ寝起きで周り切っていないのに、その上更に混乱しきったキョーコの頭の中をぐるぐるするのは、とりあえずただそれだけ。
だって……だってなのだ
「ちがっ……違いますっ!」
王妃の震える唇が否定の言葉を紡ぐ。
だが、そんなキョーコを嘲笑うかのように
「違う?何が?」
寝台のシーツへとキョーコを組み敷いた男は問う。
良くない予感にひしひしとした身の危険を感じてしまっているキョーコは、叫ぶように訴えたのだった。
「おっ……王子さまではなく、養子ですっ!」
と、そう。何故にこの国の若き太陽がこの夜に限ってこうも変貌してしまったのか、訳がわからないままながらも、誤解を解こうと。
 
 
 
 
 
ぱちくりと、さも意外であると物語るかのように見開かれた翠色の瞳。
「養子?…………王家へ?」
クオンとキョーコは国王と王妃である。
男の名を連ねたるリストが養子の候補リストだと告げられれば、当たり前のこととして自分たち夫妻への養子だと、そう考えたのだ。だが
「違いますっ!」
即座に返される声。
キョーコにしてみれば、青天の霹靂かのようなクオンの考えに繰り返し違うのだと声を上げる。
然もありなん。
先々の未来に養子縁組をと、リストアップしていたそれらはクオンとキョーコの元へではなく、侯爵家の次代を繋ぐ唯一の直系姫たるキョーコの元へと、そう考えてのものだったのだから。
王座へと繋ぐ為にと急遽結ばれたキョーコとの政略結婚を解き、離縁された後のタカラダへの養子として。
ゆえに、リストへ名を上げたのも王家に養子入りするには血の遠いタカラダの分家筋。それも、優秀だと噂されていた次男や三男など。
タカラダの血は混じれども王家の血の入らぬ、そんな子を入れようものならヒズリにおけるタカラダ家の力が強くなり過ぎ、権力バランスが乱れ国を荒らす元となってしまうだろう。
と、そうキョーコはクオンの誤解を解こうとそうしどろもどろながらに訴える。
けれど、どクオンの纏う張り詰めた空気は緩む気配もないままで。
言葉を重ねども重ねども、クオンは無言のまま。
やがて、寝室には気まずい沈黙が訪れる。
 
 
 
「……それで?」
 
 
 
沈黙を破ったのは促すようなクオンな低い声。
養子候補とは言えど、正式なものでもなく、現状的にはぼやりと目を付けているだけのものなのだと言う事まで洗いざらいに白状しきってしまったキョーコとしては、重ねて問われてももう何も口に出来ずにいた。
意図が分からず、唇をきゅっと噛むキョーコ。
望む答えが得れやしないと、そう判断したのだろうか……
 
 
 
 
続く気まずい沈黙に、はぁとため息が響く。クオンの唇かはこぼれ落ちた、何かを諦めるような小さな小さなそれ。
振り切るゆうにゆっくりと一度だけ瞼を閉ざすと、それまで、硬い表現でキョーコを組み敷いていた男は、唇を吊り上げた。
にやりと、自虐的なようでもあり、それでいて、小鼠の尻尾を捕まえた猫の甚振るように酷薄な笑みで。
滴るような色香を滲ませながら。
 
 
 
 
幼い頃から良く見知った幼馴染み。
そうだった筈なのにキョーコが見た事もない顔をするクオンを前に、まるで天敵を目の前に動きひとつしてしまえばくらいつかれると身をすくませてしまっている兎みたいに硬直してしまっていたキョーコ。
寝台がキィッと軋む微かな音が響く。
キョーコの夜着の首元のリボンが、するすると、まるで玩ぶように解かれてゆく。
はっと、息を呑んだキョーコの手がボタンへと手をかけていたクオンの手を掴む。
「な……なにを」
王妃として嫁ぐにあたり、世継ぎを孕むための夜の営みについても教育として教えられているキョーコ。
自分を組み敷く男が何をしようとしているのか……知識として知ってはいても頭が付いていかない。
12という齢で王家へと嫁いだキョーコ。
その結婚は余りに幼かったが故か、今の今まで、夫と床を共にしてはいても男女のそれではないまま。
あくまでも、政略上での婚姻。その関係はずっと、姉と弟のようなもの。
そう信じていたキョーコを見降ろして仔犬だった筈の男は告げる。
 
 
 
 
「離縁なんて、出来ないようにしてあげる。」
 
 
 
 
 
 
いとけない幼な子に諭すように優しげで、それでいて有無を言わせぬ最後通告のように。
 
 
 
 
 
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すれ違いを拗らせるのは基本!!
 
 
 
要らないオマケやら付けてやたらと無駄に長くなったのに終わらなかった……。
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
次回、にて終わる予定にございます。
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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