壁|д')はたして、これにて終われるのか?
 
 
 
 
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縋るようなキョーコの手は男の手を制止するには余りにも弱々しく、ぷつりぷつりと夜着のボタンが外され白い肌が暴かれてゆく。
キョーコはこのヒズリの国の王妃であり、自分を組み敷いている夫と肌を重ね世継ぎを孕むのはその責務。
閨の教育でも、寝台で王が行う行為を拒否をしてはいけないと、そう教えられていて。
助けを乞うかのようだった紅茶色の瞳を隠すように、何かを諦めるように、ゆっくりと閉ざされた瞼。
長い睫毛の淵に涙が滲む。
 
 
 
「それは…………いずれ陛下が愛妾を迎え、愛する方と幸せを紡ぐのを……王妃として見ていろと、そうご下命ですか?」
 
 
 
泣き声じみたキョーコの震えた声が、懇願のように細くそう問う。
望んだのは、そうだと答える低い声。いっそ肯定の意を示す無言でもいい。
何をいまさら。離縁して実家へ無責任にも逃げるだなど許さぬと。元より政略でのみ結ばれた婚姻。妃として王家に嫁いだならば、それが当然の責務だと受け入れろと、そう命じて欲しかった。
優しくてかわいくて、そして誰よりも愛しいたいせつな幼馴染み。
この国の誰よりも高い地位に君臨してもなお、今の今までキョーコへと下した事のない命として。
そうしてもらえたならば……
きっと、心を凍らせてしまえる。
冷たく冷たく、2度と溶けないよう凍らせて。この胸の想いを殺してしまえる。
いつか愛するひとを迎えるであろうこの国の太陽たる王の隣で、ただその妃として与えられた責を果たすだけの人形のように。
一生『王妃』という役を演じて。
じくじくと酷く痛む胸へ、この愚かな想いへ、冷たく振り落とされる断頭台の刃のようなクオンからの答えを、キョーコは瞼を深く閉ざしたまま待つのだけれど……
 
 
 
 
 
がばりと、肩を捕まれシーツから背中を引き剥がすかのようにキョーコの上半身が抱き起こされる。
驚きに、パチリと見開かれた紅茶色の大きな人。
「愛妾を持つつもりはない。」
きっぱりと断言する低い声。
……は?と、キョーコの頭の中には疑問符が巡り巡る。
愛妾を迎えないと、クオンは言うが、婚姻を結んでより8年。寝台を共にすれど肌を交わした事もなく、妻とは名ばかりの姉と弟のような関係のまま。
クオンはキョーコを女としては見れないのだろう。
ならば、キョーコ以外の女を召すは王として必要なる責務と、当然クオンだって理解している筈で……
ぱちぱちと困惑に瞬きを繰り返したキョーコの目じりから、耐えていた涙が睫毛を濡らし頬へと流れ落ちる。
「俺が、愛妾を迎えるのは嫌?」
キョーコの顔を覗き込むように、頬を濡らす涙を優しく指さきでぬぐいながらクオンは問う。
「そのような事は……」
ぐずぐすと胸の内に燻るような見苦しいこの感情を暴かれたくなくて、キョーコは首を左右へと振ってみせるのだけれど
「それなら……2枚目のリストには◎どころか◯も×も何も付けられてなかったの?」
キョーコが物書きビューローの引き出し奥へ隠し込んでいた羊皮紙。
うら若き国内の令嬢や他国の姫まで。
けれど、1枚目のそれと違ってその名の隣には◯や×などの印は、どれひとつも書き込まれないまま。
刺繍の腕が素晴らしいと謳われた令嬢に、鳥のような愛らしい声で詩を紡ぐ教養高い者や、花のように麗しいと噂の美姫。
どれもが、無理に結ばされた政略での年上王妃なキョーコよりもクオンの隣へ相応しいのだと、その筈なのに……
自分ではない他の姫と手を取り未来を紡ぐ幼馴染みの男の子を思い浮かべる、それさえキョーコには酷く辛くて。
まっすぐに自分を見つめる翠色の瞳から、キョーコは悪足掻きのように目を逸らしきゅっと強く唇を噛む。
それは、クオンから見れば他の女をあてがうのが嫌で嫌でたまらなかったのだと訴えるかのように愛らしくて。
王妃としてなっていないと、そうクオンから失望を突き付けられるのだと身構え震えるキョーコ。
けれど、訪れたのは
 
 
 
ふわりと、やわらかな抱擁。
 
 
 
肌触りの良い肌着越しに感じる体温とうっとりとしてしまいそうな香り。
「…………嬉しい」
耳を擽るのは噛み締めるような、それでいて跳ねるみたいな低音。
タカラダ邸の庭園で無邪気に遊んでいた幼い頃を彷彿とさせるみたいな、感情をありありと滲ませた声。
「キョコちゃん。嬉しい!大好き!」
空耳かと思った。
誰よりも麗しく凛々しい賢王。
そんなクオンの口から今さら『キョーコ嬢』なんて貴族令嬢を呼ぶ呼び方どころか、キョーコの名前さえしたったらずに上手く発音出来なかった頃のような呼び方で。
驚きに固まったキョーコの身体をぎゅうぎゅうに抱き締める腕。ぐりぐりとキョーコの頭に顔を擦り付けているクオン。
それだって、城に帰りたくない!キョーコとずっと一緒にいる!と駄々をこねて前王夫妻を困らせていたあの小さく幼い王子がしがみついているかのよう。
何がなんだか……急転直下な状況がうまく飲み込めないまま、もはや呆然としてしまっているキョーコ。
ぱさりと、いつの間にやら優しくシーツの上へ再び押し倒されたキョーコの髪が広がる。
滲んでいた涙も消え果てたキョーコの視界に映ったのは、頬を僅かに赤く染めにぱっとそれはそれはもう嬉しげ全開に笑う夫の顔で。
 
 
 
 
ずっとずっと、物心つく前から知っている幼馴染みの王子さま。
仔犬みたいなかわいい笑顔が、きゅんとキョーコの胸を貫く。
 
 
 
 
けれど、くるりと入れ替わるみたいに。
或いは、風の強い日の空を雲が流れるみいに、あっと言う間に。
そんなかわいい笑顔は、どこか企んだような滴る色香を含んだ夜を感じさせるそれへと変わる。
そして、仔犬だった筈な男は組み敷かれ自分を見上げているキョーコへと囁くように告げたのだった。
 
 
 
 
 
 
「さぁ、本当の夫婦になろう?」
 
 
 
 
 
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やっと終わらせましたー!!
。゚✶ฺ.ヽ(*´∀`*)ノ✶゚ฺ
 
 
 
結婚してからも長々とじれったい両片思い拗らせてみやしたとさ☆
きっと、今宵はわんこな陛下がはしゃぎ回るんでしょうとも!
一夜明けたら、目も当てられないイチャラブ夫妻に今さらなって、王さまへ愛妾を!なんていろいろ悪巧みしてた方々がびっくりするんだろうなぁ……とかも思ってみたりです。
 
 
 
どっとはらい!
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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