はぁ……。あら、淑女らしからぬため息などを……お許しくださいませ？
アンティークなドレッサーと向かい合っておりますわたくし、公爵家ひとり娘のキョーコにございますわ。
そう……『転生』はしても、名前も見た目もあの『最上キョーコ』まま。
転生ものによくあると言う金髪や銀髪なんて夢溢るる髪色にも超絶美少女化も、残念ながらなしのようですの。
ですので、素うどん地味なあのキョーコフェイスをコスメマジックでもって飾り立て、伸びた黒髪をハーフアップに編み込み結っていただきました。
窮屈なコルセットにフリルにリボンとタッセルたっぷりなドレス。虹色に光る粒の揃った真珠のネックレスと大粒のイヤリング。
ドレスの色こそ年若い乙女には珍しくも黒に近しいまでの重たく濃い紺色ですけれども、これでも女優ですもの。どこから誰がどう見ても、高位貴族のご令嬢にございましょう？
きつめのメイクも相まって鏡に映るわたくしは、本当に我ながら立派な…………
悪役令嬢。
はぁ……と、思わずため息をもうひとつ。
背後に乳母がはしたないっ！と眉を顰めるのを見やり、急いで立ち上がる。
部屋を出て侍女の先導に従い向かったのは邸宅のサンルーム。
格子ガラスの扉が開くと同時に上がる声。
「キョーコ！」
そこで私を待っていたのは……
「お父様」
嬉しそうにそう呼んだ方へ。わたくしは意識して、冷たく棘を含んだ声で応えました。
このヒズリ公爵家当主なわたくしのお父様へ。
そう。ハリウッドが誇る銀幕の大スター。演技の師匠と仰いだあのクー・ヒズリは今世のわたくしの父ですの。
ほら、これだけで充分に、ここがあの世界と違った『異世界』であるとご納得いただけますでしょう？
心の中での現実逃避に、誰にともなくそう語りかけるわたくしを全開笑顔で出迎え手を取りティテーブルへとエスコートしてくださる先生。
先生との出会いなあのミッションを彷彿とさせるような浴びせかけるようなわたくしへの誉め殺しな賛美スピードを聞き流しながら席へとつく。
しばしの間を置いて、はぁぁぁぁぁと深く深ぁーいため息が先生の口からこぼれ落ちた。
「……旦那様」
咎めるようにそう呼びかけながら、ワゴンを押して公爵家の家令がティセットを運んで来る。
「サワラ、私の紅茶にブランデーを垂らしてシナモンを添えてくれ……いや、いっそブランデーそのものに氷を入れたものをくれ。」
不貞腐れるように先生が求めるけれど、いけません旦那様と叱るように言いながら紅茶を入れているのは、どう見てもＬＭＥタレント部主任だったあの椹さん。バトラー姿ですけど。
「あぁ、嫌だ。酒でも飲まないとやってられないっ！キョーコ……やっぱり、今日の予定は取りやめに……」
嫌だ嫌だ行きたくないと大袈裟なまでに嘆き、どこかのヤンデレ兄さんみたいな捨てわんこな表情でもってこのまま家にいようと強請る先生。
思わず……思わずにですのよ？よしよしと頭を撫でて甘やかして差し上げたくなるじゃないですかっ！行きたくないのは、私だって同じなんですものっ！！
そんな思いをぐっと奥歯で噛み殺しつつ
「王家からの命に逆らう訳には参りませんわ、お父様。」
と、そう答えた。冷たく、無愛想に。
息子さんへの愛を滔々と語ってみせたあの頃のように、家族愛に厚い先生。私だって、本当ならあのコーンイメージな息子くんを演じた時のように甘え構ってもらいたい。
けれど……わたくしとは距離を取っていただかなければ。
この家の為にも、如何様な時にでもすぐに、躊躇なく、わたくしを切り捨てていただけるように。
「お見合いになど出したくない！キョーコは嫁になんか行かないでずっとこの家で私と共に居てくれれば、それでいいのにっ！！」
懐中時計を開き、予定の時間だと告げる家令へ嫌で堪らないと悪あがきのように先生は吐き出した。
お見合いなんて言ってはいても、前もってな王家からの婚約の申し入れ、それは王命と同等で。いかに娘への溺愛重っ苦しいお父様でも……断る訳には参りません。
えぇ、本日はこれより王宮でのお茶会へと招かれておりますの。
そこでフィアンセとなるあの人と、今世における初の顔合わせの予定となっております。
ここは、『地獄』ですもの。わたくしに選択の自由などある訳がないのです。
例え、それが……どう足掻こうと絶対に、わたくしが婚約破棄される悲惨で凄惨な救いのない未来が待ち受けたものとわかっていても、ですの。
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誰が楽しいんだ？地獄巡り系異世界転生キョコちゃんのお父様なクーパパと執事な椹さん。
はてさて、この他のキャストやいかに？なここでクイズですの。
Ｑ．キョーコちゃんを婚約破棄する予定な王子さまはだーれだ？
( ・∀・)ﾆﾖﾆﾖ
次回→回想ですの？
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。
