あぁ、やっぱり婚約者は……あなたなのですね、今回も。
 
 
 
王宮が誇る薔薇の庭園。煌めくクリスタルに装飾されたガボゼ。
そんな煌びやかな背景を背に佇むひとへ、お招きいただいた礼の口上を口にしながらカテーシーを。
精密なレースのジャンボに刺繍たっぷりなロココのスーツ。着こなしの酷く難しそうな豪奢なデザインのそれをあっさりと着こなしている、神が愛し創りたもうた寵児。
そう、わたくしの婚約者は偉大なる演技の神と仰いだ敦賀さんそのひとにしか見えなくて。
ローズガーデンに3段のスタンドなアフタヌーンティーセット、そして麗しき王子さま。誰もが見惚れるだろう程に絵になりますわ、例えその王子さまが見事なまでの無表情でも。
けれど……わたくしは、狼狽えたり見惚れたりなど致しませんの。
だって、そうでしょう?今さら……わたくしが何度、敦賀さんから婚約破棄されて来たとお思いでしょうか?
 
 
 
 
そうですの。『異世界転生』ものでもたまにありますでしょう?『逆行』やら『ループ』なんて呼ばれていたあの中身だけそのまま幼児に若返りものや死亡のち同じ人物に生まれ直しなあれに近しいと言えばわかりましょうか?
わたくしは16歳の誕生日に目覚め、そのおよそ半年後辺りで……おそらく命を落とし暗転。そして、また違う世界で16歳のキョーコとして目覚める。
これまで、それを繰り返して参りました。何度も……何度も。
 
 
 
 
そして、どの世界線でも、決まって必ず、わたくしは敦賀さんに婚約破棄されますの。
 
 
 
 
婚約者との初顔合わせなお茶会ですが…………向かい合わせに座る敦賀さんは無表情のまま、会話も弾む事もなく。
どうせですもの、わたくしの『転生』の記憶でも遡りましょうか。
一番近しく新鮮な記憶と言えば一つ前の前世ではありますが……まぁ、ここはあのはじまりの、女優兼タレントだった最上キョーコから『転生』した一番最初の記憶へと遡ることに致しましょう。
わたくしは伯爵家の娘キョーコとして目覚めましたわ。
眠った記憶もないのに目を開けるとレースの天蓋付きベッドに横たわっていましたの。
見た事のない部屋にメイド。洪水のように頭の中へと押し寄せる伯爵家の娘として生きていた記憶。
混乱し戸惑いましたとも。
あの時の両親は今のように今までの世界で知った人ではなく、どう見ても見覚えのない他人としか思えない……それなのに、自分の父と母だと頭では勝手に理解してしまっていて。
夢かと思って頬をつねってみても痛いだけで……
役作りの為にと、気分系異世界転生もの小説を読んではいてもですよ?まさか、自分がその『異世界転生』してしまうだなんて信じられませんでしたから。
メイドがわたくしの部屋の燭台に火を灯そうと指さきに浮かべた魔法の火。
さも当たり前のように使用されてる魔法を目の当たりにしてようやっと、わたくしはそこが『異世界』なのだと思い知りましたの。
流されるように伯爵家令嬢として日々を過ごし、親が決めた婚約者と顔を合わせた時は驚きましたわ。
だって、敦賀さんにしか見えませんでしたから。けど、彼はわたくしへ言ったの。
「はじめまして」と。
もしかしたら……彼もわたくしと同じ『転生』したあの人なのではないか?そう思って探りも入れましたけど、残念ながらあの偉大なる大先輩とは違っていて……でもっ!それなのに、ふと唇を綻ばせた時の瞳の柔らかさなんて、そんな一瞬の仕草まで、どこまでも敦賀さんそのままで。
勝手なもので、LME看板俳優のあの敦賀さんと違う人だとわかってはいても……キュン殺なさるおつもり?あ意外なかわいい一面を垣間見せられる度、わたくしの胸は高らかに鼓動を鳴らし愚かにもまたほのかな恋心を抱いてもおりましたわ。
 
 
 
 
 
 
その頃のわたくしはまだ、ここが『地獄』だと思いもしませんでしたので……
密かに抱いてしまった過去の恋心と淡いに薫る新たな恋心が、ともに見せるふわふわと優しく甘い夢の中へ、まさに夢見心地で無防備に浸って溺れておりましたのよ。
 
 
 
 
わたくしの婚約者となったレン様から婚約破棄を告げられるその時まで。
 
 
 
 
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転生キョコちゃんひ婚約破棄しやがるのは、なんと蓮くんでしたとさ。
しかも、何度も。
((((;゚Д゚)))))))
 
 
なんだ、この話?なこれでも一応蓮キョものなつもりですのよ?
んでも、これからもキョコちゃんにつらい塩展開が続きます……けど、でも最終着地予定では、はぴえん?になるのかな……たぶん。そのつもり。
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
次回→引き続き邂逅ですの?
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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