さて、どうしたものなのでしょうか?
 
 
 
はぁっと、ため息をひとつ。
ここはわたくし一人きりな私室ですもの、ため息くらい許されますでしょう?
ちらりと、物書きビューローへ目をやると、綺麗に磨き上げられた木目の上には一通の封筒。
シーリングスタンプで封をされていた封筒は開封済み。
中身は……お茶会のお誘い。
 
 
 
 
わたくし、王命により王太子殿下の婚約者になってしまいましたでしょう?
これまでは、お父様の『家から出たらわたしのかわいいキョーコがどこの馬の骨に目をつけられるかっ!?』なんて、親バカ極めた理由でずっと引きこもっていられたのですけれど……
王家へと嫁ぐ者とならば、人脈や派閥作りなども必要となりましょう?
今までお父様が我が家へ先生を招いてくださってましたけれど、貴族令息令嬢があまのく通い小さな社交界とも呼ばれる王都の学園へと通わなくてはいけなくなりましたの。もちろん、王太子殿下でわたくしの婚約者(どうせ破棄されますのですけど)なレン様も在園中にございましてよ。
転生を繰り返す数など数える事さえ辞めてしまいましたのだけれど、今世では初めてな学園生活も2ヶ月ほど過ぎてようやく慣れてはきたしたのですけれど……
そんな王都の学園にて、本日手渡されてしまいましたのですわ。
繰り返し繰り返し、もう嫌になる程に転生のたびに何度も何度もリピートされて参りました敦賀さんからの婚約破棄。
その要因ともいえる敦賀さんの『真実の愛』のお相手。
皆に愛されるヒロインたる森住さんから。
 
 
 
 
どうしたものなのでしょう?
数多の転生の中、森住さんからわたくしへと直接にリアクションを持たれた事など数えるほど……
思い返せば返すほど、どれも良い方向へとは結びついてはおりませんでしたわ。(まぁ、バッドエンド確定な悪役令嬢ですもの、仕方がないとは思いますけれど)
ばったりと出会えばわざと脚をかけて転ばせたと涙目になられ、階段ですれ違おうものならば突き落とされたと大ごとに……
かと言って、視界にも入らぬよう徹底的に避けに避けて接触を絶ってみても「どうしていじめて来ないのっ!!ちゃんと悪役令嬢の役目を果たしなさいよ!」なんて凄い剣幕で叱り付けられてしまって。
確か、その頃はまだこの一連の転生リピートがわたくしへの地獄の沙汰だなんて理解しておりませんでしたもので……降って沸いた悪役令嬢の役目と言う言葉に、きっと其れを見事成し遂げたならばこの転生から抜け出せるのでは!?なんて思ってしまいましたの。
これでも過去にはイジメ役が天役だとまで言われました女優。思い出すも忌々しい腐れ縁なあんにゃろうめの所為で学校中の女子から目の敵とされていた経験も、台本なしなイジメ撮影の経験だってありますもの。演りとげてみせましょうとも、悪役令嬢!!……と、張り切ってはみたものの…………まだレベル2なイジメ段階なところで森住さんから「やり過ぎっ!!限度ってものがあるでしょう!?」(身体に傷が付くような危険な事はしておりませんでしたのよ?)と鬼気迫るお顔でもってなクレームが入ってしまって。
その後はもう……以下省略!!と言わんがばかりの雑さでもって婚約破棄からの断罪。敦賀さんからのダメ出しな駄目息までつかれて、詰め込まれるように僻地な修道院への馬車に乗せられ、そして事故にあい暗転。
と、まぁ、わたくしにとって森住さんは接触を完璧に絶つのもまずいが、かと言って積極的に顔を合わせるとわたくしを待つ断罪の罪が積み重なってゆくだけ。そんな難しい相手なのですわ。
そんな彼女からのお茶会へのお誘い。
今までになかったパターンだけに困惑もしておりますけれど…………
 
 
 
それよりも、おかしいのですわ。
 
 
 
だって、2ヶ月ですのよ?2ヶ月。
今までは、出会いを果たしたその瞬間から運命に操られるかの如くあからさまに恋に落ちた様子だったふたり。
なのに、今回の転生ではそんなおふたりが同じ学園にいらっしゃるのにそれなのに……わたくしが学園へと通うようになって2ヶ月。
今までなら政略で結ばれた婚約とはいえどもその婚約者の前でそれは浮気なのでは?流石に問題なのでは?なばかりに、意識しあって惹かれあって
想い合っていちゃいちゃとなさっていたのに……
ここ2ヶ月の学園生活はどうかと言うと、今までなら顔も見たくないとばかりに避けられていた筈なわたくしにべったりでいまいち森住さんに興味も無さそうな素振りで。そんな敦賀さんの視界に入ろうとうろちょろとなさっている森住さんを見つけてしまったり。
わたくしの見てないところで愛を育んでらっしゃるようにはどうにも見えなくて。
おかしいな?って首を傾げたくもなったそんな今日この頃、手渡されましたの、お茶会の招待状を。「是非ご出席を。わたくしとキョーコ様の仲じゃないですか?」なんてにっこり笑顔付きで。
わたくしと森住さんの仲なんて言われましたけど、ちらちらとその存在が目についてはおりましたけどわたくし正式に紹介さえされておりませんのですけれど…………。
それに、お茶会とは言っても女子会なものでもなさそうなパートナー同伴で是非なんて言葉を添えられたとならば、あからさまなまでにその目的はわたくしでなく位が違い過ぎて下の者から声を掛けるなどが許されぬ婚約者様がお目当てかと。
 
 
 
 

 
わたくしの目指すべく目的は、出来る限りに穏便に迎える婚約破棄。
そう。先生の居る我が公爵家に取ってわたくしが災いの種とならないように。(だって、なんせお父様は盲目的な親バカ。わたくしが冤罪で断罪などされようものならば王家へだって弓引きかねないのだもの)
そして、何よりもわたくしの為に。
一番記憶に新しい、この転生の直前な前世での断罪を思い出し、わたくしはふるりと震える自分の身体を抱き締めました。
あんな……あんな思いはもうたくさんですの。
わたくしは心を決めましたわ!!
森住さんのお茶会へと参加致しましょう。
わたくしから共に参加をと婚約者の敦賀さんへお願いして。
おふたりの出逢いを繋ぐ、その為に。
 
 
 
 
わたくし、悪役令嬢兼仲介お助けサポーターポジションを目指すですわ!
 
 
 
 
✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄
 
 
 
このキョコちゃんは転生地獄巡りによりだいぶトラウマを抱えておりますゆえ、今回の転生はボーナスステージ!わたくしと敦賀さんが結ばれるのね❤︎とは、なりませぬ。
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、
 
 
 
 
次回→目指せ!仲人ポジションと曲解暴走するお姫さまに蓮くんはどう出るのやら?
まぁ、のーぷらーんなんですけど……
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2