初っ端いきなり婚約破棄もの異世界ファンタジーがやってみたかっただけなのに……なやつの続きにあります。
無駄に長くって、その上遅くってごめんなさい。
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
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美しく咲き誇る花の庭園に、愉しげな笑い声が響く。
鈴を転がしたような高い少女の声のそれは、耳にするだけならば愛らしいとさえ思えるのかもしれない。
けれど、乙女の浮かべる笑みは何処か背中の薄ら寒くなるような黒く暗く歪なもので……
さも可笑しくて堪らないとでもいうかのように、口もとを手で隠してはいるが身を捩り笑い続けるキョーコ。
追放前であったならば即座に未来の国母への躾と称した、「口を開け声を上げて笑うなどはしたないっ!!」との叱責の言葉と共に扇での殴打が飛んだ事だろう。
だが、今はただ誰ひとりとして声を上げる事なく、ただただ凍り付いたかのように息を潜めじっと見守るしか出来ぬのがフワの国の面々の実状だった。
 
 
 
「はぁぁ…………」
 
 
 
まるで笑い疲れたとでも言いたげなため息のような溢れるひと息と共に、笑いを収めた竜の乙女。
ゆらり……と、捩らせていた身体を起こすと誰にともなく語りはじめた。
「わたくし、これでもいろいろと考えおりましたのよ?……どうやって復讐してやろうかって。」
と、そう恐ろしげな事を。ざわりと騒めく者どものことなど微塵も気に掛けぬままで。
「妃教育に公務に政務や雑務。そんな中で知った秘密のあれこれやらを片っ端から暴露してやろうか……とか、もういっそこの命と引き換えにでも城のひとつふたつ燃やし落としてみせようか……なんて。」
くすくすと愉しげに笑ってみせるキョーコ。弱った獲物をいたぶる猫のような、そんな残忍な笑みで。
婚約者の裏切りを知ってから。又は、この国を出ようと潜伏と逃亡を繰り返している間。
考える時間は十分にあった。
そして、そんなキョーコの言葉にあからさまなまでにぎくりと肩を揺らす者。
王族や貴族はもちろん。国の政から軍部までを司るさまざま各種部門の重鎮から大臣に至るまで、従順なキョーコをそれこそ文字通りに寝る間もない程にまでさまざまに便利に使っていた者たち程、心当たりのある後ろ暗さにさぞかし肝を冷やした事だろう。
そして、竜との誼みを得る前々からその身にこの国でも指折りに強い魔力を宿していたキョーコ。更には、有事の際にはその身を盾として王族を護る為にと詰め込まれた強大な魔法の数々。
その中には当然のように、その命を対価に絶大なる威力を放つ捨て身のものだって含まれたものだと……この国の権力の頂点に近い者ならば知った筈だった事。
そして、竜との繋がりを得た今のキョーコなら更に強大な規模と威力のものを易々と行えるのだろう。
天敵に睨まれた哀れなる獲物のようにぶるぶると身を震わせ顔色を悪くさせる、そんな様がさも滑稽だと、冷えた瞳が睥睨する。
「わたくしと血の繋がった筈のお父様とお母様」
すぃっと、竜の腕の中の乙女は浮かべていた薄い笑みを消し去り、着飾った貴族たちの中からひと組の男女へと指を差した。
同じ屋敷に暮らすどころか、ろくに顔さえ合わせた記憶もないけれど……娘だとそう言い張っていたのだからおそらくキョーコの両親だろう者達。
「忠義を尽くす筈だった王様に王妃様」
おろおろと視線を彷徨わせる様は威風堂々とは言い難い冠を戴く男と、その隣、今更にふるふると身を震わせている女へと、キョーコは宙を滑らせるように指を指してゆく。
「生涯を共に歩む筈だった婚約者」
麗しいとちやほやと謳われていた自慢のかんばせをらしくなく歪ませたまま立ちすくむ元は婚約者てあった王太子へ。
野の原で花でも数える童のように何気なく淡々と、指をさしていった竜の乙女。
「全部、誰も……この国さえ、どうでもいいわ。」
数え束ねた野花でも散らすようにふるりと手を振るう。
栄えようが滅びようがどうでもいい。気に掛けるのさえ億劫だとでも言わんがばかりの、まるで他人よりも薄い塵芥と等しい有象無象を見るかのようになんの感情も浮かばず熱量さえ感じ取れぬ琥珀色の瞳。
婚約破棄を破棄され追放され、絶望し腹を立てる?復讐を誓う?……いや、それどころか逆に、歯牙にも掛けぬどころか気にもかけないとばかりなそんなキョーコの様子に、今の今まで何処かで自分が捨てた筈のキョーコだろうが、自分を想っている筈だなどと思っていたのだろう王太子はキョーコへと手を差し伸ばしたまま愕然した顔をしてみせる。
衝撃を受け傷付いたかのように。今更に。
そして、世にも得がたき竜の逆鱗を持つ乙女は、最後に貴族令嬢らしくその背筋を正し淑女の笑みをその顔に浮かべると告げたのだった。
この国への永遠の別れを。
「わたくしの中の家族の情も、誓うべき筈だった忠誠も、心にあった筈の想いも、すべて消え崩れ枯れ果て朽ちましたわ。
婚約破棄と追放を謹んで受け入れましたもの。
ですゆえ、どうぞ皆さま……ごきげんよう?」
それは、実に貴族的な言い回しでの二度とこの地に足を踏み入れるどろか、この国との関わりなど持つつもりもさらさらに無いと、強く断絶を告げるもの。
婚約破棄のあの夜に、王太子が起こした断罪の宴にてキョーコが残した言葉を再びなぞって。
 
 
 
 
 
大陸の中心地たる竜国に近しい豊かなるこの国。仕事に学びにと他の地から訪れたる数も多い。
そう。王宮へ上がる他国の者など何処へでもある。
庭園を見る目の数は余りに多い。
どれだけ自国の者達が口を塞ごうと国を上げ手を尽くしたところで…………竜の乙女から二度と関わるなとばかりの決別を突き付けられた、今日のこの日のフワの有り様はいずれじわじわと他国へと広がることだろう。
至高の宝の如き竜の寵を受ける者を、婚約という確かな繋がりさえあったものを、囲い込むどころか虐げ利用し続けた挙句に自らの手の中からみすみす逃し手放した見る目のなき愚かな国だと。
世界樹の実りによって生かされる大地。竜を神の化身だと崇める国も多い。
国と国との交わり結び付き、そしてそれに伴う物流の流れと貿易などでの力関係は裏での駆け引き謀略相まって刻々と変わってゆく。
これから先、フワの国へ向けられる目は決して暖かくなどないだろう。
それは……例えば、キョーコの怒りを招いた者の多くが顔を揃えたこの場で、竜の顎の如き乙女の振るう力でもってひとなぎに命ごとを刈り取られるのとどちらがフワの国へは深く苛烈であっただろうか…………
 
 
 
 
 
 
 
未来に立ち込める暗雲を憂い沈むようなフワの者など気にもせずに、黒いドラゴンは再びゆらりと腕の中の乙女を取り巻く空間を歪ませる。
魔法陣を描くどころか呪文さえ必要としない竜による転移の魔法。
ショーさまと、幼き頃に引き合わされた時に少し舌ったらずに呼ばれてからずっと……ずっと素気無くされようとも健気に王太子を慕い支え続けていた乙女は、その片鱗さえも感じ取れぬ完璧に貼り付けた淑女の微笑のまま酷くあっさりと、フワの国からキョーコのその存在はどこか遠く、少なくともこの国の外へと返された。
そして、残されるは黒いドラゴンと重たい沈黙。
キョーコへかかる探索と捕縛の為の追っ手を振り切ってみせた筈が、飛び去るでもなく王城の庭園に未だ留まり続けるこの世の超越種。
唐突に、何の言葉さえもないまま、何故か飛び去る事もないままの竜のその身を眩い光が包む。
ありありとした敵意は向けられてはいなかったが、竜の寵を受けた乙女を冤罪で追いたて追放したフワの国。庭園に残された者たちは誰もが、ひぃっと喉の奥で締め殺したような悲鳴を上げ恐怖にその目をぎゅっと強く閉ざした。
 
 
 
 
数秒。ほんの瞬きの間に、騎士の背丈の4倍ほどあった黒き竜はその姿を変えていた。
 
 
 
 
 
ドラゴンが居たその場には、神が愛し創り上げたのだろう思わずに目を奪われるような怪しくも完璧な美貌を誇る男がひとり。
 
 
 
 
 
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壁|д')
実はこのお城でなざまぁ?なシーン、ブラックドラゴン蓮くんの肩にキョコちゃんよじよじさせて「薙ぎ払えっ!!」って、クシャ◯殿下と巨◯兵ごっこなドラゴンブレスで焼け野原に……ってのが頭をよぎってたりもましたのよ?
やっしーあたりをひょこっとはやして「はやすぎたんだ……腐ってやがる」とかつぶやかせたい。
( ´艸`)
 
 
 
まぁ、無難なとこ?な、好きの反対は無関心なざっくり国ごと縁切りキョコちゃんにしましたけど。
 
 
 
次回→はてさて、キョコちゃんだけ返して残った蓮さんは何をなさるおつもりなのか?
あと1、2話くらいで終わらせたひ……
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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