開幕婚約破棄てんぷれがやりたかっただけないろいろ詰め込みファンタジーもどき。
そんなあれそれな続きにございますとさ。
いつも通りに無駄に長めですとさー。
_(:3 」∠)_
 
 
 
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さらりと柔らかく風に流れる艶やかな黒髪。それと同じく黒い切れ長な瞳は黒曜石のように深く。
すらりとした長身にしなやかに鍛え上げられ引き締まった体躯。
身に付けているものは宝石や刺繍さえないシンプルで飾らない素朴とさえ言えそうなものだが、それなのに凛と揺るがぬ佇まいと合間って気品さえ滲むかのようで。
王妃をはじめとした夫を持つマダムから年若き令嬢まで、揃ってほぅっと頬を赤らめた。いや、その美貌は男としてさえ目を奪われる程で。
そんな麗しい男は庭園に居並ぶ誰にも目もくれぬまま、腕の中にいた乙女が消えた先を思うかのように中空へとその瞳を向けたまま。
そしてまるでひとりごとのように言った。
 
 
 
「竜達の長なんて役に担ぎ上げられるくらいには長く生きてきて、最近気が付いたんだけど……俺は、どうにも思ったより独占欲が強いみたいでね。」
 
 
 
緩く撓められた唇が紡ぐ低音はしとりと甘くさえ響くのに……彼を取り巻く魔力の渦は酷く重く禍々しいまでに濃密で。
ひとり残った美貌の人間にしか見えないそれが、黒竜の姿を変えただけの同存在だという現実を突き付けるかのよう。
フワの王は、カタカタと強大的な力を前に本能的な恐怖に震わせる自分の体に気付く。
すぃっと、庭園で凍り付いたかのように立ち尽くすフワの面々へと、竜の、それもその中でも指折りの力を持つだろう長なのだと名乗る男がその視線を投げる。
「…………だから」
黒い黒いその瞳に浮かぶそれは決して友好的なものではなくて。
ひたり、と。その底暗い竜の瞳がただひとりの人間へと注がれる。
「俺のあの娘の……元婚約者で王太子」
針の落ちる音さえ聞こえそうな程の庭園に、耳障りの良い優しい低音がいっそ楽しげにさえ落ちる。
俺のとか元だとかに微かに、だが妙にしかりと力の篭った声。
「この国があの娘にした仕打ちを考えると業腹もので許しがたくはあるけど、そのなかでも……」
カツリカツリと、庭園のタイル敷きの小道を男の靴が叩く音が嫌に耳に響く。
大陸の中心に立つ大地の実りをもたらす世界樹。それを守護するドラゴン。
そして、そのドラゴンに厭われ眉を顰められた国。その頂に立つ国王は蒼白な顔色で、がくりと青々と繁った庭園の芝生の上へ膝をついてしまう。
カラカラと、王としての威厳と権力の象徴たる金の環が緻密な模様を描くタイル貼りの上を軽い音を立てて転がる。
跪く王の傍らを通り過ぎ、男の足は王太子の前で止まった。
長身の王太子を更に上から見下ろす黒い瞳。何処か月も星もない夜の宵闇を思わせるぞわりとする冷たい暗がりの色で。
それなのに、ふんわりと柔らかく微笑んでみせた。
この国のどの男より美しく、うら若き令嬢から夫を持つ夫人にいたるまでの多くの女性たちに好意を寄せられ引くて数多な遊び人。次代の王座を約束された王太子。
揺るぎなど微塵もない、満たされた、自他ともに認める華々しくも輝かしい道を歩むのだと思っていた。思い込んでいた。
それが…………
 
 
 
「俺は、君が一番嫌いだよ。」
 
 
 
綺麗な綺麗な、それこそまさに人外の麗しさを見せつける微笑みが、黒く暗く塗り潰してゆく。
王太子でいられるといいね?
囁くように顰められた声。けれど、ショーの耳には確かに届いて。
大地に実りを与える世界樹。その恵みをいただく為の年に一度の龍国への巡行は国には欠かせない重要なる祭事。
巡行は国王の名を冠して組まれる。
…………果たして、竜国の長に厭われた者の名で送り出したとて、無事に世界樹の実りを得る事が出来ようか?
世界樹の実りがなければ、大地は枯れ、民から獣に至る全てが飢え、国は困窮し滅びは避けられぬ。
たった今、竜の長に許されないと宣告された国王は、間違いなく王の座から追われる事だろう。
どれほど王として絶対の富と権力があろうと、竜を前にそれが何になろう。
きっと……数多い王の子の中でも、権力から遠く身を潜めるように後宮の隅にあった、竜の乙女たるキョーコを虐げた事のない、キョーコから遠く遠く縁の少ない現王の血の薄い者が担ぎ上げられるのだろう。
けれど、それで許されるだろうか?過ぎ去りし年と同じ程に世界樹の実りは与えるのだろうか?そもそも、竜国はフワの国の巡行を迎え入れてくれるのだろうか?
……何もかも、今はまだわからないままで。
そんななか、誰よりも竜から厭われてしまった王太子は?
次代の玉座どころか、王族であれるだろうか?
それどころか…………この竜による災禍を招いた元凶として国を追われる、そんな未来さえ過ぎる。
竜より直に厭われ呪われた者に、世界樹の実りにより成り立つこの大地の上、安住の地などあるのだろうか?
絶望の縁に立つ王太子が縋るように見上げたそこには、ぞわりとする程に美しい張り付いた柔らかな微笑み。
それは……つい先ほどまでここにいた自分が捨てた筈の元婚約者が見せていた鉄壁の淑女の笑みをなぞり彷彿とさせるもので。
男はその背から竜の羽を顕現させる。黒い竜のそれをまるで悪魔の羽のように背中に生やしたまま、柔らかく微笑む姿は、恐ろしく怪しいが美しく……それゆえに、どこまでも悍ましい。
ばさりと、羽ばたきの音をさせながら黒い竜の男が王の庭園から飛び立つ。
もう見る価値さえないとでもいうかのように、言葉もなく立ち尽くす者もフワの国からも目を背けてるように、ただ、世界樹を抱く竜国の方向へと顔を向けて振り返ることなく飛び去ってゆく。
 
 
 
 
 
 
 
熱の宿るその黒い瞳が見つめた先に…………
幼い頃に引き合わされ未来を共にと約束した筈のあの乙女がいるのだろうか?
助けを求めるように、残された王太子の頭は幼馴染みを思い描こうとした。
いつだって……いつだって、そばに、まるで影のように控え、彼を支えわがままを叶え手助けしてくれていた地味でつまらないと罵っていた元婚約者を。
けれど、得難き乙女は既にこの国を、彼を捨て、この地より消えてしまっていて……
 
 
 
 
立っていた足元に、唐突に大きな穴が口を開けて自分を飲み込もうとしているかのように。
暗がりで突然、繋いでいた手を離された幼な子のように。
今まで、一度たりとも感じた事のない深い深い挫折に王太子は、それでも何かを探すかのように、または、竜の去った空から目を背けるように視線を見慣れた王宮の庭園へと彷徨わせる。
 
 
 
 
そこに、元婚約者の姿は彼が突き付けた国外追放と自称独占欲の強いドラゴンのせいで、庭園の草を踏んだ足あとなかけらさえも残されてはいなくって……
 
 
 
 
 
ただ、輝かしい王太子であった彼のこれから先の人生をでも暗示するかのように、父王の頭上より地へと落とされた金の王冠だけがぽつんと転がっていたのだった。
 
 
 
 
 
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キョコさんの復讐がドラゴンテイマー?な感じでの国ごと暴力破壊系ではなく、継続ダメージなどっちかと言うと精神ざまぁ?系なものだったので……
ドラ蓮さんのおみやけおまけな追撃いやがらせもこれから先をがっつりねっちり長く長ーく後悔させて嬲る系にしてみたつもりだったりですのよ?
腹黒ざまぁって、ほんとむずかし……
_:(´ཀ`」 ∠):
 
 
 
次あたりで終わらせたいとは思います。
 
 
 
次回→おかえりなさいませ、ごはんにします?それもと……な、召し上がれ???
 
 
 
↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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