真っ当な方法で中枢にまでたどり着けるはずはない、そんなことはアンダーグラウンドから離れることを決めた日から分かってたんだ。
中枢、それはサンシャイン・アンダーグラウンドを所有する国家、ニホンと云う国を動かす力、権力の核になる部分。
仮に僕がニホンに生まれた一人の人間だとしても、その核心に触れることができる可能性はほとんどないだろうし、力を持つには途方もない時間と労力が必要になる。
そんな時間はない。
ニホンの首都、トウキョウと言う街。
乱立するビル、四角く切り取られた空、くすむ灰色、砂煙。
時計を睨みながら駆け出す人と、あるだけの荷物を着込むように身につけた人。
疲弊はどちらにも見てとれる、けれど、そこにはすでに敷かれた階級があった。
どのような経緯をたどり差別化されるのかは分からない。
ただ、分かる。
ここにはすでにアンダーグラウンドが存在する。
浮上できない、その機会さえ与えられずに這うようにしか生を許されない人々がいる。
ビルに据え付けられた巨大なモニター、半裸の男たちが甘い声で、愛してるだの、君に逢いたいだのと切なげに歌う姿を見て、僕は笑った。
中空に唾を吐く。
☆☆☆
夜を待って、僕は行動を開始した。
繁華街の裏には暗黒が支配する闇がある。その闇の社会でなら、中枢にたどり着く突破口が存在するはずだ。
なあ、ガゼル。
この世界はやはり腐臭に満ちた醜いものばかりみたいだ、僕らが生まれた島も、いま僕がいるこの街も、そうたいして変わりはしない。
魂なんてものがあるなら、僕はそれを悪魔に売り飛ばそう。
方法は限られている。
時間もそうだ。
僕は僕の命を使うしかない。
謎の新型感染症、不治の病と言われてる。
サンシャイン・アンダーグラウンドから発生したと報道がなされているが、それは正解であり不正解でもある。
奇病の正体は、ニホンの軍部、生態科学研究機関が作り出した兵器なんだ。その生体実験を行うのに最も最適だったのが僕たちの故郷だった。
どことも関われず、行き来もない。周囲は海に囲まれ、情報はどちらにも届かない。
僕はすでに感染している。発症の徴候も自覚している。僕は僕の肉体を、命を検体として、すべての事実を開示する。
その手段を手にしなければならないんだ。
ガゼル、君と君が生きる場所、そして君と生きた故郷を守るために。
……続劇