先日の日本水泳・水中運動学会で行われたワークショップで,
びわこ成蹊スポーツ大学の若吉浩二先生(写真右)によって,
「浮力・浮心重心間距離の即時測定システムの構築」
という測定実習型のプレゼンテーションが行われました.
この学会は毎年このような実技系のワークショップが行われますが,
今回は3種類の実験システムの紹介があり,
このセッションはその一つとして,会場の福岡大学のプールで行われたのです.
重心は「物体の質量の中心点」です.
人間の重心は,腕を伸ばした状態だと,ふつうはヘソのちょっとしたあたりになります.
腕を気をつけ状態にすると,そこから少し下へ移動します.
泳ぐときはストリームラインが基本姿勢ですので,
腕は拳上した状態になりますから,重心はヘソのちょっとしたあたりになります.
ここでは,陸上でまず腕を拳上した状態の重心位置を計測したのち,
水中に入って,手と足を固定し,水中に沈んだ状態で腕側,足側にかかる重さを計測し,
その数値をある計算式に代入することで,体長の何%のところに浮心があるかを計測します.
そして,陸上で計測した重心位置と水中で計測した浮心位置の差を求めると,
重心と浮心の距離が求まります.
重心と浮心の距離が意味するものは,人間の身体にかかる回転トルクです.
通常は,足側に重心,胸側に浮心がありますので,その距離が大きいと,
胸が水面上へ,足がプールの底に向かう力がそれぞれ働き,
足が沈みやすくなるのです.
この力が大きいと,バタ足でもって足の甲で水を下に押すことで浮力を得る必要があるため,
バタ足の足幅を大きくしなければなりません.
ヘッドアップクロールで泳ぐと少しそれを感じることができますよね.
さて,私も悪乗りして(笑),水着で登場し,実際に測定をしていただきました.
四肢を伸ばして固定したのちに,身体を一旦沈めるのですが,
ある程度息を吐かないと沈まないので,息を吐きます.
その後,シュノーケルをつけていますので,口から息を吸いましたが,
数と背中が水面上にプカーっと浮いてきます.
そうなると逆に水面上へ浮いていく力を計測することができなくなるので,
背中を押されて水中に戻るよう指示が来ます.
私はあわてて再度息を吐くと,また沈むことができますが,
測定中のおよそ1分程度,息を吐いて身体を沈めた状態で維持しながら,
可能な範囲でしか息ができないので,結構苦しかったです(笑).
ただ,私の重心浮心距離は非常に短く,
普通は息を吸うと浮心が頭側に移動するようですが,私の場合は息を吸ってもその動きがなく,
且つ,「換気量がものすごく大きいので,息を吸うとすぐに身体が浮いてしまう」(測定員の立先生曰く)だそうで,
余計に測定に被験者側に技術が必要になってしまったようです.
多分,近年行っているヘビーウエイト中に,腹圧をかけるために息こらえをする機会が多いため,
換気量が増えているのかな…と思っていますが.
いずれにしても,どうやらふつうの46歳のオヤジの身体ではないということが明らかになったようで,
また変態扱いされるのかと思うとやや気が重かったです(笑).
さて,そんな貴重な体験をさせていただいた後,
実はスイミングマガジン誌上で鈴木聡美選手の技術解説の機会をいただきましたが,
ふと彼女の姿勢と呼吸タイミングの原稿を書いているときに,
ひょっとして,彼女は呼吸の戻しの後,一瞬止息を入れる際に腹圧をかけながら蹴りの動作を入れていて,
そのことが蹴りのパワーアップにつながるばかりでなく,
呼吸後に胸部を沈めると浮心は恐らく腰側へ動くので,
腰から足の拳上を自然なものにさせているのではないか?と考えました.
ただ,まだ原稿作成段階では確かな実感は得られなかったのと,
文字数の関係で,そのことに言及するには至りませんでした.
確かに,「腹式呼吸を入れると重心・浮心バランスが変わる」という報告はありましたが(体力医学会,若吉先生たち),
一流選手でそういう傾向が見られるかはまだ明らかではありません.
で授業の合間に,実際に自分で泳いでみて試してみたのですが,
確かに胸部を沈めて止息を入れると,
ふわーっと足が上がって,踵が水面に上がってくることが自覚できます.
また,クロールでも同じようにトライしてみると,アップキックが楽に上がり,
下肢の沈みを抑制できるため,2キックでもストローク数を減らすことができます.
このことは,孫楊選手が2キックで大きな泳ぎができる一つの根拠かもしれません.
これらのことはあくまでも,測定と実践を経験している一人の実践者の経験則でしかありませんので,
まだ指導ノウハウに乗せられるような話ではないかもしれませんが,
今後,こういった検証がどんどん進むにつれ,
より明確に姿勢保持のためのコツが明らかにされていくのかもしれませんね.
今後一層,こういった研究が進むと,
初心者で足が沈んでしまう人の効果的な指導法ができたり,
一流選手がさらに伸びるための姿勢保持のコツの解明にも役立つかもしれません.
今後の研究動向にも注目したいと思います.
私のデータがどこかで出るのかどうかも含めて(爆).
たかがけのび・・・されどけのび・・・.
会場にいらした高橋伍郎先生との雑談の中で,
けのびや水の捉えといったことは,沢山の経験があって身に付くものと言われ,
その進歩には限界がないところが,水泳の面白さでもあるとも言われました.
私の恩師の浅見俊雄先生も,「水を使う」とか,「水に押してもらう」という表現をされます.
口々に「ただ速くかけばいいってもんじゃない」とか「ただ水を押せばいいってもんじゃない」といえども,
なかなかそうは言えないものです.
こういった経験を積める立場にいる一人の人間としては,
それを明確に口にできる指導者になれるよう,
さらに変態度を増していかねばならないな…と感じた次第です.