ニャンまげ「そういえば、「友さんを偲ぶ会」で羽佐間道夫(はざま・みちお)さんていう声優さんがスピーチしてね。こんなことを言っていたんだ。「昔、友さんを含めた仲間たちに、俺の代わりにニューヨークに行かせたことがあったんだ。俺はそのころ洋画のアテレコで稼いでたんでね。でだ。ほかのやつらはなにもしてくれなかったんだけど、友さんだけはニューヨークの細かい情景を手紙に書いて送ってくれたんだ。本当にいい人だったよ」。友さんらしいエピソードだけど、羽佐間さんも、陽気で愉快な人だったなぁ(笑)」

猫大魔王「羽佐間道夫氏といえば、東京俳優生活協同組合の30周年記念パーティーで「万歳30唱」をした人なのである、ウム」

ニャンまげ「えっ、魔王さま、羽佐間さんを知っているんですか?」

猫大魔王「ウム、京王プラザホテルで催されたそのパーティーでお逢いしたのである」

ニャンまげ「そうだったんですか~」

猫大魔王「ニャンまげ君の恩師、友谷文孝氏は、羽佐間氏をはじめ、きっと多くの人に愛されながら亡くなっていったことなのであろう、ウム・・・」

ニャンまげ「魔王さま・・・?」


ぼくたちは、9/11メモリアルに到着したよ。

そこはただ、2つの大きなプールがあって水が流れ落ちている・・・、それだけの場所だった。

そう・・・、それだけだからこそ、無言のなにかを感じずにはいられなかったんだ・・・。



プール


ここには、当時世界一の高さを誇るビルが建っていたんだね。

そして、このプールの周囲には、多くの人たちの名前が刻まれていたんだ。

それは、9/11のテロで亡くなったすべての人たちの名前。

魔王さまは、ゆっくりとその名前を見ていったよ。


ニャンまげ「これって、いろんな人の名前がばらばらに刻まれていますね。ABC順とかだったら、たとえば誰かをさがすのも楽なのに」

猫大魔王「ウム。しかし、この刻み方には深い意味があるのである」

ニャンまげ「意味ですか?」

猫大魔王「これらの名前は、それぞれ親しかった者同士をなるくべく離さないように配置されているのである。同じ職場の者同士、家族、知り合い・・・。なので、この配置を決めるのに、かなりの時間を費やしたそうなのである」

ニャンまげ「そうだったんですか・・・」

うきた「ボクもう、名前見るの飽きちゃったよおっ!」


うきたクンだけじゃなくて、ぼくたちもちょっと飽きちゃって、早足に歩いてたんだ。

でも、魔王さまだけは、ぼくたちの後ろのほうで名前をひとりひとり見ている。

ぼくは、来る途中から見えていた、建設中の新ワールドトレードセンタービルの写真を撮ったりしてたよ。



建設中の新ワールドトレードセンタービル



新ワールドトレードセンタービルとニャンまげ


ふと気づくと、魔王さまはある場所で立ち止まって、ずっと動かなくなっていたんだ。


ニャンまげ「そういえば・・・、なんで魔王さまは予約もなしにここに入ることができたんだろう・・・」

うきぼう「関係者なんじゃないんすかね、何かの・・・」

ニャンまげ「関係者っていうと・・・、あっ!」


ぼくたちは、魔王さまのところに走っていったよ。

でも、魔王さまはちょうどその場所から離れたところだったんだ。

ぼくたちは無言で魔王さまの横を通り過ぎて、その場所を見てみたんだ。


うきぼう「あっ、これっすよ、きっと・・・」



TOSHIYA KUGE


ニャンまげ「TOSHIYA KUGE・・・」

うきお「くげ・としやさん・・・日本の人だね、きっと」

ニャンまげ「魔王さま・・・、もしかして・・・」


ぼくたちが魔王さまのほうを見ると、魔王さまは少し離れたところから、ぼくたちに語りかけてくれたよ。


猫大魔王「人が亡くなるのは、とても悲しいことである。家族を亡くすことも、ニャンまげ君のように恩師を亡くすことも、そして、ここに刻まれている人たちのように、何の前触れもなく突然愛する人を亡くすことも・・・。それらはひとしく、とても悲しい。しかし、たとえそれが悲劇であったとしても、残された者の中には、幸せな何かが残っているものなのである」

ニャンまげ「魔王さま・・・」

猫大魔王「この場所には、亡くなった者の名前だけが刻まれている。モニュメントもなければ、飾られた花もない。それでも・・・」

全員「・・・」

猫大魔王「私には、残された者からたむけられた、甘い香りが感じられるのである・・・」


猫大魔王、歌う。


【猫大魔王】
届けたい 届けたい
届くはずのない声だとしても
あなたに届けたい
「ありがとう」「さよなら」
言葉では言い尽くせないけど
この胸に溢れてる

花の匂いに導かれて
淡い木漏れ日に手を伸ばしたら
その温もりに
あなたが手を繋いでいてくれてるような気がした

信じたい 信じたい
人の心にある温かな奇跡を信じたい
信じたい 信じたい
誰の命もまた誰かを輝かす為の光

“永遠のさよなら”をしても
あなたの呼吸が私には聞こえてる
別の姿で 同じ微笑で
あなたはきっとまた会いに来てくれる

どんな悲劇に埋もれた場所にでも
幸せの種は必ず植わってる
こぼれ落ちた涙が如雨露一杯になったら
その種に水を撒こう

人恋しさをメロディーにした
口笛を風が運んでいったら
遠いどこかで
あなたがその目を細めて聞いている

“本当のさよなら”をしても
温かい呼吸が私には聞こえてる
別の姿で 同じ愛差しで
あなたはきっとまた会いに来てくれる



9/11メモリアルにて