猫すら切ることができなくなった新撰組の天才剣士・沖田総司の最期のように、その左腕の力は錆付いてしまったのだろうか?

 公式戦初登板となった3月31日のイースタンリーグのヤクルト戦、西武・雄星の投球は、結果的には周囲を満足させるどころか落胆させてしまい、今後の不安を一層増幅させてしまうものだった。

 ストレートの最速は135キロ。昨夏の甲子園3回戦で記録した自己最速の155キロより20キロも遅く、三振はゼロだった。

 安打は1本も許さず1失点で抑えたものの、それはあくまでも記録にすぎない。初回の1死二塁で野口祥順に打たれたレフトフライも実は、坂田遼がホームラン性の当たりをキャッチするファインプレーだった。つまり、3失点の投球内容だった、と判断されても仕方がないだろう。

速球だけじゃない。制球力も失っていた雄星。

 最も不安定だったのが制球力だった。全35球中、半分以上となる19球がボール。外角高めに大きく逸れるという、スッポ抜けも目立った。制球に関しては、雄星自身も試合後のインタビューで顔を歪めていた。

「カウントが悪くなってしまうと、どうしても『フォアボールを出したくない』という意識が強くなって、ストライクゾーンに置きに行ってしまう場面が多かった」

 新聞やテレビで報道されているように、雄星のピッチングは悪かった。ただ、その理由はいくつもある。

 例えば調整法。登板前の2日間をノースロー調整に当て、本格的な投球練習はしなかった。雄星はゲーム前の状態について、「ブルペンですごく体が軽いと感じて、どこかおかしかった」と言った。

雄星の器用さがマイナスになっているのではないか?

 それは当然だろう。通常、先発を任される投手の登板日1日、2日前は、しっかりとブルペンで投球練習を行うものである。雄星の場合、3回という短いイニングで限定されていたとはいえ、2日もまともに投げていなければ、マウンド感覚は薄れてしまうものだ。

 この言葉を聞き、ブルペンに入る前の遠投で、終始、助走をつけながら全力投球していた行為に合点がいった。自らが抱く良い肩の状態に、少しでも早く近づけたかったのだ。

 雄星は賢い。悪いなりに自分で考え、最良の方法を導き出せる投手だ。だが、「機を見るに敏」も、時として悪影響を及ぼすことだってある。それがプロ入りしてからの雄星だ。