魚影はあるのに、チビすらほとんど釣れない日。
そんな日はよく、淵の脇の岩となって座り込む。
早い時には数分で、魚が再び渕尻や流心の延長線でエサを取り始める。
そんな頃合いを見計らって、ポイっと毛鉤を放り込めば、釣れちゃったりすることもあるけれど、この日はそんな事もない。
堰堤まで来て、一応探って見るけれど無反応。 がんばって巻いて上をやろうか、それとももう帰ろうか...そんな事を考えながら座り込んで一服。
その堰堤は、去年一度だけ、良い型が釣れたけど、今年は解禁直後に脇の淀みをウロウロしているヤマメを見かけただけで、その後魚影を見ない。
今年は良い型はココには居ないのだろう。
去年のヤマメだって、産卵を経て死んじゃったんだろう。
ぼーとしながら水面を見つめる。
すると.....
流心の魚が見えてきた。しかも、先日下流で見かけた巨大な黒い影程ではないけれど、かなり大きい。尺はあるだろう。
エラそうに、流心なんて書いて見るけれど、その魚を見つけるまでそこが流心だと気付かなかった。
自分はアソコを打っただろうか?
大きく平なコンクリートの板を落ちるその堰堤下の流れは、淵の終わりでは一つに収束するけれど、どれがメインの流れなのか解りにくい。
でも、今解った。大きなヤマメが着いて居るアソコなんだ.......
幸いにも、自分が一服しているその場所はそのヤマメの斜め後ろ。
ヤマメは水面にこそ顔を出さないが、決して深い位置に着いて居る訳でははない。
ここからヤマメのやや前方、流心のド真ん中に毛鉤を落として少し沈めてやるだけで、あのヤマメが簡単に釣れる様に思えた。
一度たたんだ仕掛けを再度竿に結び直す。
立ち上がらずに座ったまま、毛鉤を放り込む。
毛鉤はヤマメの前方に落ちる......ハズだったけど、堰堤から吹く風に押され失速。ラインが畳まれる様にくしゃくしゃとヤマメの真上で重なり落ちる。
大きなヤマメはゆっくりと、深みへ逃げて行った。
でも、鈎が当たった訳じゃない。しばらく待っていればもしかしたら........
案の定、ヤマメは再び姿を現した。ただし、現したのはその流心の線上ではなく、自分が居る左岸側の淀み。
まるでその美貌を見せつけるかの様に、その淀みをぐるっと一周廻った。
どの鰭も大きくピンとしている。太くもなく、細くもない躰、だけど口先は鋭くとがり、文句の付けようがない程のプロポーション。
3次元ならアンジェリーナ・ジョリー
2次元なら峰不二子
ともかく、グラマラスでチャーミング。
そして、その淀みにも、流心にも二度と現れなかった。
ため息をついて、その場に座り込む事しばし。
しばらく沢はお休みしようか.....と、出来もしないことを考えた。
雨でもふれば、彼女はシーズン中にもう一度くらいチャンスをくれると思う。
オスかもしれないけど。