どうしても負けられない戦いだった。

 うっすらとしたパーマークを浮かべるその魚は、

 その驚くべき体高が生み出す推進力で頭を下に突っ込む。

 硬調の竿を大きく曲げる。

 こちらは、なんとかして頭を上に上げようと引っぱる。

 魚との綱引きだった。


 



 6月に一度訪れて以来のこの川。

 その時も雨だったが、随分と人が多かった。

 幸い、その朝一番で自分が釣った場所は先行者がなく、

 とても良い釣りになった。


 今日は止まっている車が殆どない。

 最後の車止めの所で引き返そうとするフライフィッシャーに声をかける。

 もう10時近くだったので、きっと朝一番に車止めから近い所をやったのだろうけど、ダメだったみたいだ。


 自分は前回よりも、少しだけ先から入る。





 前回以上に釣れた。

 イワナが釣れた。

 ヤマメも釣れた。

 大きな毛鉤で釣れた。

 小さな毛鉤でも釣れた。

 大場所で釣れた。

 小場所でも釣れた。

 本沢で釣れた。

 枝沢でも釣れた。

 行きに釣れた。

 帰りも釣れた。

 兎にも角にも釣れた。





 秋の荒食いと雨が重なり、最高の条件が揃ったみたいで、

 誰が何をやっても釣れた状況だったと思う。


 でも、本気で釣りをしたのだ。


 厳しい丹沢の川にも沢山魚が居る事が判り、

 雨だけれども、晴々とした気持ちで大滝を眺めるつもりだった。




 そのヤマメに鈎を外されるまでは。


 むしろ何時もの様に、

 ”サヨウナラ”

 と言いながら毛鉤に出てくれたのなら、

 どんなに清々しかった事だろう。




 大滝は煙の中。