春の陽気に誘われて

 午後から半年ぶりの沢に

 山道を往き

 奥の入口まで来て見た。



 暫く釣り歩くけれど

 魚一匹見えない。


 そんな時は、そんな時で無いときも

 とりあえず一服。


 独り座る大きな岩から見る下界の上空は

 青く澄み渡り

 その下に広がる世界も

 細かい事を気にしなければ

 平穏そのものなのだろう。


 だけど、高飛車に独坐している自分の上空はなんだか雲行きが怪しい。

 強い風も吹き始めた。

 ポツポツと雨が降り始め

 小雪もまざる。


 ウェーダーを履かずに来たので

 淵を腰迄浸かって濡れた体には堪える寒さ。


 雨は好機なのかもと

 毛鉤を流せば

 一尾のイワナが何度となく

 毛鉤に戯れ付いて来るけれど

 咥える気配は全くない。


 とうとう雷まで鳴り出し

 カーボン製の避雷針を持ち歩いてる身としては

 退散するしかない。



 久しぶりに訪れた沢に

 なんだか酷い出迎えを受けた様な気もしたけれど

 悪い気分では無かった。



 帰り道にいつものセヴンカフェで

 空腹をドーナツで胡麻化し

 コーヒーで冷えた体を温めてもらっても

 しめて¥210。


 友人からの電話で

 雷の事を話すと

 春雷

 という言葉を教えてもらった。

 
 辞書的には

 春の訪れを告げる雷と言う事にもなるらしいけれど

 俳句の世界では季語でもあり

 他にもなんだか隠された意味があるらしく教えてくれたのだけど


 良い事だった気もするし、ちょっと不思議な事だった気もするし

 つまり忘れてしまったので

 もう一度電話して聞いて見ようかとも思ったけれど

 それも面倒臭いし


 とにもかくも


 仕事が忙しいなんて愚痴るよりは

 今日、釣りに来る事が出来た事に幸せを感じて

 
 異常気象だ地球温暖化だと騒ぐよりも

 今年も春が来た事を素直に喜べば良い。


 そういう事だと思う。

 そういう事でもいいじゃない