ボタンが掛からない。


長い間76cmであったウエストが

79cmになった記憶は何時の事だったのか

その後は一進一退ならぬ三進一退を繰り返し

そういえば最近G.U.で買ったパンツはたしか82cmだったであろうと

あやふやな記憶を信じてJマートで釣り用に買った

速乾カーゴパンツ(¥1,500也)のボタンが。



そのピチピチパツパツの

速乾パンツを履いて

あまり釣れない区間をパスする為に

少しだけ上流からの入渓を試みるが

怪しげな踏み痕に騙され

結局ロープ長ギリギリの懸垂下降を強いられたけれども

なんとか降り立った。


やっぱりいつもの所から入れば良かったと

最初から後悔の谷。



暗いゴルジュや滝場はにも

魚影は充分にあるのに

こんなにも釣りが難しかったのだろうかと思わせる程

毛鉤が嫌われる。


もっと明るい、穏やかな瀬で

のんびり釣りを愉しむことだって出来ただろうにと

やっぱり此処は後悔の谷。


唯一の救いは

中年男には若干キツめのこの溯行が

言葉の意味さえ知らなければ

ちょっと素敵な響きに聞こえなくも無い

メタボリック

の解消に少しは役立つだろうと云う事。



毛鉤は7号に落として

そんな事が本当に意味があるのか解らないけれど

気休めでもなんでもともかくそうして

大場所は程々にして

小さめの場所から6寸前後の後悔を拾い釣り。


なんとか、数は揃えたけれども

いつもは人の出入りが多いのであまり釣りをしない

林道に架かる橋から下流数百メートルは

恐らくはそこから稚魚放流が行われたのか

だとすれば、タンクローリー何台分撒いたのかと思わせる程の

三寸前後のおびただしい数の稚魚が淵尻にたむろして

無邪気に毛鉤に戯れ付く。


もちろん、そんな魚に合わせる事はしないけれど

ピックアップの為に振上げた毛鉤に飛ばされる小さな後悔は数知れず。


そんな小さな後悔を避けるべく

最後の滝釜は

最初から奥のエグレに

8号鉤に戻した毛鉤を放る。


一発で大きな影が飛び出し

浅い渕尻を一気に引き寄せたけれど

足元まで来て帰って行ったのは

9寸は越える、大きな後悔だった。



沢で、大物が釣れるかどうかと云う事は、

運と云うか、巡り合わせと云う要素が大きいと思う。

その貴重な巡り合わせの一尾を逃してしまうった事に

後悔はないと言いたいけれど、やっぱりちょっと残念。



きっと、ちゃんとは掛かっていなかったのだ。

推定28.5cmの後悔は

推定その三倍、85.5cmの

後悔の塊が詰まったお腹の

ボタンが掛からない様に。