古都のブログ小説 お雪抄936


「それなら、小僧か手代を走らせましょう」

 とのお勝の声を遮り、お花が

「真に有り難きお言葉なれど、仔細あってのことゆえ、どうぞ、お構いなきよう願います」 

 涙目で腰を退くのに、吉次郎も与之助も顔を見合わせた。

「なれば、内庭にて茶菓子等を頂き、ゆるりとなさい」

 お雪の言葉に従い、二人は焦点も定まらない目でゆっくり腰を上げた。


 お花たちを見送ったあと、さりげない誘いで別室に移ると、お勝が素早く平伏した。


「恐れながら、雪姫様、お殿様、此度は大層なお心遣いを賜り、御礼の申しようも御座いません」

 お勝の両肩が小刻みに震えていた。


「そのように改めて申されると、返す言葉も御座らぬが、礼を申すべきは我らに御座る。隅田屋・主の与之助殿を無理にも拝借した、こちらこそ、有り難きことと存じまする」


 お勝は童が嫌、嫌をするように小首を左右に振って、これを拒み、更に言葉を繋いだ。

「いいえ、たった一人の跡取り息子として、乳母日傘で育て為か、未だ商い事も、世間の荒波も知らぬ与之助が、まさかお侍様に取り立てらるなど、夢想にも致さず、今はひたすら感謝すれども、悔いなどは微塵も御座いません」

「いや、与之助殿が取り立てられても、我らと同じく実録の無い仮の名と仮の身分にて・・」


「それは存分に承知のことで御座います。ただ素っ町人の与之助が、お屋敷内外で何か取り返しの尽かない不始末をしでかして、お姫様やお殿様へ、ご迷惑をお掛けしないかと思うと、其ればかりが気になって、生きた心地がしないので御座います」

 与之助が身を固くして義母の言葉に静かに耳を傾けていた。


「母上様、兄上様に限って、そのような大事等、起きる筈も無く、どうかお心安らかにしてお任せ下さいませ」

 お雪が小さく漏らした与之助への心配りに感じ入ったか、お勝がわなわなと唇を震わせ、

「姫様・・私は姫様から母上様等と呼ばれる価値も値打ちも無い、恥かしき義母でしか御座いませんのに・・」


「いえ、義母上様は何か大きな心得違いをされておられるのです。確かに乳を頂き、この年まで真綿で包(くる)み大事に育てて頂いた、母上様は、植辰のお里様に御座います」

 お雪が胸の内の一つを吐露した。

「また世間の口さがない人達から目を反らさせ、雪が好きなように暮らしを支えて頂いたお勝様は真、義母上様以外に呼び名は覚えが御座いませぬ」



   古都の徒然 京の錦秋2


京都・無鄰菴


二週間前に訪れた無鄰菴は入り込み客も少なく、小さな苑内を自由に散策できて良かったです(*^_^*)。

この作品も、散策途中にふと目を向けると光と影が織りなす美しさに誘われ、シャッターを切ったものです(#^.^#)。


閑話休題


一昨日、古い読者のあおいさんから頂いたコメントで

お雪抄の感想文が添えられていましたので、あらためてご紹介致しますね!(^^)!


感想文


お雪抄も・・もう900回を過ぎて、1000回が近づいてきましたね。今ではお姫様とお殿様になられて。


位いは変わっても、生まれてからずっと、変わらない優しい心・愛情・思い遣る心があり、そして、その優しさに触れると皆が、その愛に包まれ優しくなれる。

そんな心和むシーンがたくさんあり、寒い季節でも心はポカポと温かくなります♪


これからも古都さんの優しさいっぱいの素敵な小説を楽しみにしています。

でもあまり無理はなさらないでくださいね。

あおい


あおいさんはこのブロクが生まれて、まもなく、読者になって頂いた方ですが、現在はブログを閉鎖されているようで・・・連絡がつかず、見切り発車させて頂きました(*^_^*)


いつものように心温まる優しい表現で、お雪抄を丁寧に分析されていて、凄く嬉しかったです(#^.^#)


あおいさん

これからもご覧頂き、たまにはご感想を寄せて下さいね。

いつまでも、お待ちしていますね。

古都