豊竹若太夫襲名披露! | 人間の大野裕之

人間の大野裕之

映画『ミュジコフィリア』『葬式の名人』『太秦ライムライト』脚本・プロデューサー
『チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦』岩波書店 サントリー学芸賞受賞
日本チャップリン協会会長/劇団とっても便利

満開の桜が祝福するかのように咲き誇る国立文楽劇場の、豊竹若太夫襲名披露。

愛と笑いに満ちた襲名口上の後は、「和田合戦女舞鶴」。

これはすごい作品。息子市若の決心を聞いた時の「腹を!」の母の切り裂くような高い声は新・若太夫師匠にしか出せまい。「おのれが我が子を引き入れて手柄さそとは心得ず」で打掛を脱いで真っ赤な着物になる、あの母の心情。桐竹勘十郎師匠が、毅然とした武家の妻であることと情愛あふれる母親であること、両者の間で揺れ動く女を見事に遣う。「ナウ母様。今までわしはほんの子と〜〜」と、いたいけな子供が死の苦しみのなか気丈に話す健気さ。そこから、母の張り裂ける思いのクライマックスへと上り詰める若太夫師匠の至高の芸。「ほんのほんのほんの・・・本ぼんの子じゃわいなう」で万雷の拍手とともに会場は涙。若太夫師匠の大熱演はもちろんのこと、さらに勘十郎師匠、清介師匠をはじめベストキャストが揃わないと成立しない恐ろしい作品。豊竹姓の最高峰の名跡の襲名披露にふさわしい大曲。

いやあ、すごいものを見せていただきました。襲名おめでとうございます!