11-1

 

白いカーテンが、優しくふわりと揺れていました。

窓からそのカーテンが踊り出しているように見えて、モウリと庭を歩いていたイミクは、つないだ手を外し、歩きを止め、窓を指差しました。

 

「カーテンが動いたよ。イミナ、おきたの?」

 

「部屋に風を入れるためにマウサが窓を開けていたんだと思うよ」

モウリはいいました。

 

「おきないの?」

 

「そうだね。イミナはまだ眠ったままだと思うよ。

目を覚ましてくれたらうれしいのにね」

 

「うん」

 

「目を覚さないんじゃなくて、眠らせているんじゃない?」

 

「君は、、イミヤかい?」

 

「目を覚ますと大変なことになるから、わざと寝ているんじゃない?」

 

「そんなことはないよ。

わたしも君もイミクも、少なくても3人はイミナを大切に思っているだろ。

目を覚まして会話してみたいと思っている、、」

 

「うん」

「まあね」

 

「イミナだって、そう思っているとおもうよ。それに未来なんてわからない。これからなんて誰にもわからないんだ。

だから、イミナが目覚める日を待とう」

 

「研究所の人間は、何を考えているのかと疑うよ」

イミヤは、ひとりごとのように、そういいました。

 

「イミヤ、そんなことを言っちゃだめだ」

そう言ってモウリは厳しい顔で、イミクの姿のイミヤを見つめました。

 

「わかってる」

イミヤは答えました。

 

「この家以外ではだけどね」

モウリはいいました。

 

 

ここはモウリの住む家であり、庭の温室には緑が溢れていました。

研究所施設の一部である温室だから育っているわけで、普段この世界で植物を見ることはほとんどありませんでした。

この時代は育たない環境になっていたからです。

 

モウリは植物の研究者であり、そのために街から離れたこの場所に一人で住み、植物を育てていたのです。

 

モウリは家に、イミナとイミクを引き取って、養父として一緒に住んでいました。

引き取ったというよりも、研究所からの断れない命令でした。

 

揺れるカーテンを見ながらモウリは、あの頃のことを思い出していました。

 

 

 

11-2 

 

 

「君がモウリだね。君は研究所の温室の家に住んでいるのだったね」

研究所の所長が呼んでいると告げられたモウリは、業績も上げていない自分が何故呼ばれたのかと不安に思っていました。

 

「はい、そうです。植物の温室の世話と調査がわたしの担当なので」

 

「君に頼みたいことがある」

 

「なんでしょうか」

「育ててもらいたい子供がいる」

 

「子供、、、ですか?」

「そうだ」

 

1人暮らしのわたしがですか?」

「そうだよ」

 

モウリは突然の話でもあり、しかもそれが仕事でなく子どもを育てるなどという話でしたから、動揺を隠せませんでした。

 

「子供を欲しがる夫婦なら、たくさんいるのではないですか?

そこに渡したらいいじゃないですか。なぜ?なぜわたしが??」

 

「はっきりいうなら、訳ありだからだ。

公にはできない遺伝子の子供だからね。

まだまだ調査中なこともありなるべく離れた場所で、研究所の関係で、秘密を守れる者でないとだめなのだよ」

 

「ますますわたしには難しいと思いますが」

 

「いいや、離れた場所で地道に研究に明け暮れる独り身の君だから頼むのだ。

もちろん世話は研究所で手配する。

そのあたりは心配ない。

君はただ、その養父変わりという立場になってくれたらいい」

 

「それでも、、、、」

 

「遺伝子と植物との関係が少しあることがわかったんだよ。

だから植物のある場所を選んだ。ま、それもあり君が適任だと言うことだ。

あまり重く考えないで。

頼んだよ」

所長はそういうと、モウリの肩をたたきました。

モウリには、選択肢はありませんでした。