15-1
イミナに、少しずつ表情がでてくるようになりました。
小さな子どもにしてはまだまだですが、モウリやマアサの顔をみると表情があらわれ、とりわけイミクに関しては、何をしなくても笑顔になりました。
イミナとイミクたちは、時々話もしているようでした。
イミクとイミナと話しているときのイミナは、さらに無邪気でかわいい声と表情に思いました。
イミヤと話しているときは、イミクと表情や声が違うのでモウリにも判断ができるようになってきました。
「イミナさまは、まるで天使のようですね。イミナさまが目覚めてから、ここは楽園になった気がしますですよ」
マアサが2人を見つめながら微笑みました。
「そうだな。わたし自身もこんな日がくるとは思わなかった」
「はい、モウリさまの変化は、わたしも充分感じておりますです。わたしもですが」
マアサはいいました。
「2人のことは、わたしの子どものように思わせていただいていますです。
子どもを持てないわたしのところに来てくれた天使たちに思ってしまうんです」
「それはわたしも同じだよ」
気軽に子どもを持てる時代ではなく、ましてマアサには無理な話であったし、モウリにもたぶん不可能なことが、案外簡単にこんな風に叶ってしまったのだと、押し付けられた面倒をいやいや思っていた最初のころの自分を思い出して苦笑いしました。
「ですから、できる限りのお世話を致しますし、これからもさせてくださいませね」
マアサは頭を下げていいました。
「もちろんだよ」
モウリは答えました。
15-2
「イミナを研究所に戻す日が決まりました」
アウラが突然に言いました。
モウリはそれに動揺していながらも、表情に出さないようにしていました。
あくまでも預かっていただけ。
ずっとこの家で過ごせるわけではなく、短い期間の話だとわかっていたのですから。
しかしながら穏やかで少し賑やかな毎日が、モウリの当たり前の日常になりつつありました。
その心地よい生活となっていたことを手放せるのか不安があったのでした。
「意識がもどり身体も落ち着いてきたので、これから検査や研究などをはじめます。
変わらずイミクはモウリさまの子どもですが、イミナは、これからこちらの所属となります。
もちろんこれからも養父としてかわらず思ってくださってかまいません」
アウラはいいました。
「はい、、、わかりました」
モウリはそう言いながら複雑な思いでした。
そばで聞いているマアサも同じように思っているだろうと思いましたが、断る理由もなくうなづきました。
「大丈夫なんでございますよね?イミナに研究って、、!わたしはなんだかおそろしいです。イミナに変なことをしたりしませんよね?」
マアサはアウラが帰ってから不安な顔で聞きました。
モウリにもわかりませんでした。
もちろん不安や心配はありました。
が、どうすることもできません。
「最初から決まっていたことだからね。でも大丈夫だよ」
自分に言い聞かせるように答えました。
15-3
「病院にもどり検査をすることになったんだ」
モウリがイミナに言うと、小さなイミナの目が、少しうるんだような気がしました。
「イミナが元気になるように。イミナの身体を検査して、元気になるようにお医者様が治すんだよ」
イミナは、かすかにうなづきました。
何もわからない、理解も難しいとモウリは思っていたのですが、イミナはもう全て理解しているのかもしれないと思いました。
「イミナどっかいっちゃうの?」
マアサにしがみついていたイミクは心配そうにいいました。
「イミナが元気になってきただろう?
もっと元気になるようにでね、病院できちんとみてもらいに行くことになったんだ」
モウリはイミクに話しました。
「ほんと?じゃ、治ったら、そとであそべるようになる?」
「うん、あそべるかもしれない」
「もどってくる?」
「うん、きっと戻ってくるさ。だから、ここで一緒にイミナを待っていよう。できるかい?」
「うん、できる!ぼくとイミヤとおとうさんとマアサでまってる!」
イミクは嬉しそうにいいました。
「なおったら、そとであそべるんだよ!そとにいけるよ!」
イミクはイミナにそう言いました。
「わたしもついてますから大丈夫でございますよ」
マアサはいいました。
「イミナさまには、わたしがついていきます。ちゃんと見守りますから」
マアサの言葉に、イミナは少し安心したように見えました。