16-1
イミナの中に、中の中の奥底に、切れそうなくらい細い輝く糸のようなものがあるのをイミナは感じていました。
この糸は絶対に切ってはいけない、切られてはいけない、そうずっと思ってきました。
生まれた時から、生まれたという感覚や意識はぼんやりして、自分がはたして生きているのかわからないでいました。
なんのためにうまれたのか、なぜ今いるのか、そんなことをずっと前から考えながら、その細い糸だけは守らなければと思いました。
糸は、まっすぐと上と下につながっているように思いました。
その先がどこに行くのかはわかりませんでしたが、それに集中すると、そこからまた何か繋がるように感じました。
たまに、何かの具合で、はっきりと光の糸がみえる瞬間がありました。
その集中できる時だけ、イミナは糸を伸ばしていきました。
糸がはたしてどこにつながるのか、自分ではわかりません。
が、その糸は時々誰かの糸に辿り着くという確信がありました。
(たぶん、たくさんの人がいるはずだけど、その全てに届くわけではない、届く人はきっとわたしに必要な人)
そうして届く人に、イミナは叫びました。
(助けて!助けて!わたしをこの世界から出して!)
イミナは、できる限りの声をあげて叫びました。
そしてその声は、光の糸の先へ届き始めました。
16-2
(この音は何?)
ビウラは、かすかな音に気付きました。
(音、、?いえ、音じゃない、声?)
ビウラはさらに音に集中しました。
(フルル?フルルの声なの?)
ビウラは、研究所に行ったフルルが泣いているような気がして、急に心配になってきました。
「フルルが泣いているような気がするの。大丈夫かしら、研究所で心細くなっているんじゃないかしら」
ビウラは聞きました。
「大丈夫だよ、数日のことだし、部屋にはちゃんとハンがついているんだ、心配ないさ」
ビウラはそう言う声に落ち着いたけれど、ふと気がつきました。
(あれは、あれは、フルルじゃないわ。ちがう、ちがう女の子の声だわ、、、。だれ?誰なの?
あなたはだれ?)
ビウラはどこかで聞いたことがあるような気がして、さらに耳をすませましたが、懐かしいようなその声はもう聞こえてこず、誰なのかもわかりませんでした。
16-3
(まただ、、)
ビウラは思いました。
時々聞こえる声のような音。
フルルの声ではない子どもの声。
(こども?)
ふと思い出した身体の記憶。
わからないけど懐かしいわたしの身体から産まれる分身があった。
わたしの身体が別れて、新しい命があった。
ビウラの目からはいつのまにか、涙が流れてきました。
(わたし、子どもを産んだの?
いえ、そんなはずはない。
そんな記憶はない。でも。
わたしには子どもがいる?
わたしの身体の中で育った子供が?確かに?
わたしを呼んでる、、、)
ビウラは、そのことを忘れたことを、その子どものことを忘れてしまったことを思い出して泣きました。
(どこに?どこに、、わからないけど、きっとわたしを呼んでいる)
ビウラはそう思うと涙が止まりました。
(探すわ、ダレカを。きっと探すから、待ってて)
ビウラはそう決心しました。