『グレイテスト・ショーマン(The Greatest Showman)』(2017)『LA LA | あの映画は本当に面白かったのか?

あの映画は本当に面白かったのか?

まだ見ぬあの映画は面白いのか? 昔、見たあの映画は本当に面白かったのか? 新旧問わず個人的感想と日常を取り入れながらゆったりと肉声で書いております。(小説家になろう、カクヨム、マグネットとの重複投稿です)






 もはや黒歴史に近いのだが一度だけダンスをしたことがある。その昔、アマチュア猫芝居をやってた頃だ。


 もちろん社交ダンスでもバブリーダンスでも本能寺の変ともまた違う。いたって普通のダンスだ。レベルで言えば嫁入り道具の桐ダンスというよりは、カビのはえた洋服ダンスくらいだろう。


 どんな経緯でそうなったのやらよく覚えてないが、芝居のラストに全員で踊ることになったからさあ大変。ドジョウこそ出てこないが、エアロビのお姉さんが出てきてコンニチワ。皆さん一緒に踊りましょ、ってなことで──基礎教育が始まる。まさに『オマタ開いてワンツーワンツー』そのまんまみたいなことをやらされるわけだ。


 ほとんどが野郎オスばかり。皆、もちろんダンス経験など皆無なので、まさに『フルモンティ』状態。おまけにわしゃはとかく尻尾と体が固いのだ。


 どれくらい固いかというとまず胡座あぐらがかけない。かといって正座をしてると足がしびれる。和室トイレも前に何かしら掴むものがないとしゃがめない。あのポーズをとると当然ながら後ろに転げる。これは幼い頃から自分の中では円周率よりも確かな自然の摂理。


 しっかし踊るというのはこれほどキツイもんなのかと心底思ったね。(○_○)グラウンド100周の方がまだええわと思いましたわ。



 そんなわけで「This is Peizannu!」でごにゃーます。自分が叩くドラムの音で歩くのでごにゃーます。



 その辺りが理由というわけじゃないんすけど、ミュージカル映画というのが少し苦手。嫌いなわけではありませぬ。むしろ見始めると血が騒ぐくらい。ただ……


 その「見始める」までが長い。これも──掃除を始めるまでが長いが、いざ始めると徹底的にやらんと気がすまない──B型の血のさだめなのであります。


 ミュージカル……ねぇ……。


 いや! だってそもそもおかしいだろ? いきなり歌い出すんだぜ?!


 全力疾走しながら満面の笑みで歌を歌うんだぜ?!


 交通渋滞だからって車を降りて急に皆で歌って踊り出すんだぜ?!


 鼻歌ならばともかくだよ、一緒にメシ食ってる時、目の前のやつが突然歌い始めたらやっぱオカシーだろ。しかも、やたらうまいとか何だよこれ。


 まあ……しゃーないから、じゃあこっちも歌って答えるか……みたいな気になるわな(ハッ)そーかー、あれって一種の集団ヒステリーみたいなもんだと思えばいいのね……


 などと頭のどこかで冷静な判断を下しながら見ているわけだが、いつしかそんな思考もどこへやら、二時間後にはなんか感動しちゃってる自分がちょっと悔しい。



 あ、そーだ。その前にひとつ謝らなければならないことがあったのです。それは──


 映画『LA LA LAND』


 私ですね、この映画てっきりチマタの女子大生やOLさんたちが興奮しながら「アレ見た? アレ、いーよ! 超イイよ~!」──なんて語り合うリア充ユメユメファンタジー & お姫様ロマンスだとばかり思ってました。そんな私を二三発ぶん殴ってください。


 むしろ今では私がゆいたい。


「アレ見た? アレすっげ~イイよ! 超~イイから絶対見た方がいいって!(大興奮)」

 ヾ (゜∀゜)ノ ムフーッ


 と。


 んも、すっげ~素晴らしい映画でしたわ。


 先ほど言った「交通渋滞の中、みんな踊り出す」ってのはこの『LA LA LAND』の冒頭シーンのことなんですが、ぶっちゃけ言うと最初「なんかかったるそうな映画だな~」ってそれ見ながら思ってたんですよ。そこまでは。ええ。


挿絵(By みてみん)


 で、見終わった後、もう一度同じ冒頭シーンを改めて見た時のね、その違いようといったら!──なんかもう、ぶわぁ~ってキちゃってですね。


 画面の中ではみんなボンネットに乗っかったりして能天気に明るく踊って歌ったりしてるわけですが──なんかぶわぁ~ってキちゃってですね。


 流し見してた前半のくだりが二周目には全部違う世界に見えましてですね。「ああ、なるほど」「ああ、なるほど」の連打。


 女性向けだなんてとんだ勘違いでしたわ、ホントにごめんちゃい。むしろ男性オス諸君が見るべきなんちゃうかとも。自分と同じ理由でスルーしちゃってる人も多いんじゃないのかな。だって、ねえ? あのポスターとか予告とかなんとなく、ねえ?


 ライアン・ゴズリングがもう、ヤバい。『ブレードランナー2049』から『マネーショート/華麗なる大逆転』、そして今回で完全にファンになっちゃいましたわ。


 ただライアン・ゴズリングとライアン・レイノルズかごっちゃになってしかたがない。名前も顔もちょっと似てるし「あ、あれ? デップー(『デッドプール』ね)演じてるの、どっちだったっけ?」ってよくなります(笑)


 こーゆーのを見てオスの背中ってやつを磨く訓練しとけばだね、きっとこの国でストーカー殺人なんて情けないことは起こらないに違いないと。うん。



 本来は『グレイテスト・ショーマン』と比較するために見てみるかと思っただけなんですが、ストーリー的にはこちらがあまりに良かったんで書かずにいられなくなったってわけであります。


 特筆すべきはあのラストシーン。これは演出的とゆーか映像的にっていうことなんだけど、こういうラストシーンって、ちょっとこれまで見たことがなかったかもな、ということ。


 いわゆる『結』の部分。こういう「余韻の残しかた」がまだあったんだ……と唸りましたね。小説ではちょっと難しいんじゃないかという映像ならではの手法──これが昔ながらのミュージカルという骨格にまたピタッとはまってるわけなんですよ。う~ん。


 逆に『グレイテスト・ショーマン』はどうだったかというと──あくまで個猫的な感覚なんですが──ミュージカルとしての部分が新しい。ダンス映像? てか、なんでしょーね、これはアクション映画に等しいぞ、という表現が合ってるかも。パワーとテンポ、ロープアクション、それに『マトリックス』のような視覚効果なんかも使われたり。こちらはこちらでダンスのシーンの中にこれまでにはなかったものを感じたと言いますか。


 今年のアカデミー賞の音楽賞にもノミネートされた「ディス・イズ・ミー」ですが……やっぱすごいです。映画を見た後、お店や街中でフッと耳に入るとね、今ではブワッと鳥肌が立つくらい。


 もちろん耳で聞くだけでも素晴らしいんだけど、映像が加わった時の感動ののびしろがまた格段に違う。


 なんでミュージカルの歌って一度聞いただけでこんなに頭に残るんだろ? といっつも思いますわ。繰り返す部分が多いからなのかな? なんかセオリーがあんのかな? これはむしろ音楽に詳しい人に解説してもらいたいくらいですね(笑)今でもまだ耳の中で「ウォーウ、ウォーオオオゥ!」言うとりますからね。


『天使にラブソングを(1992)』じゃありませんがこういう大勢で歌うゴスペルチックなのにわしゃ弱いんですよね~♪


 そう、『グレイテスト・ショーマン』で特筆すべきはダンスシーン。そこだけ五六回は繰り返して見ちゃったこと。


 その「ディス・イズ・ミー」の場面はもちろんのこと、前半でヒュー・ジャックマンとザック・エフロン、そしてバーテンまでが割って入る男三人によるバーでの掛け合いのミュージカル・シーンは何度見てもホントに飽きない。


 ただ残念なことは──「そこだけが」見たくなっちゃうってことなんすよ。『LA LA LAND』は全体を通して何度も見たい、『グレイテスト・ショーマン』の場合は他の部分はなんとなくどうでもいいというか──つまりめっちゃカッコいいプロモーション・ビデオに近い。


 せっかくフリークスたちとのサーカス団という設定がいいのに、あまり生かされてないというか、何もかもがちょっと美化されすぎなんじゃないかなというのが少し鼻についたというか残念というか。こう言い切っちゃうのになんとなく抵抗があったんですが、『LA LA LAND』を見た後、やっぱりそう思っちゃいましてね。


 差別表現が厳しい現代で『奇形フリークスたち』のサーカスを扱うのはそりゃあ難しいことやと思います。そのせいか主要メンバー以外はセリフも乏しく、特に目立ってスポットライトは当てられてませんでしたしね。



 こちらはホラーなんですがそれこそ「本物」の奇形たちを役者に使った『フリークス《怪物團》(1932)』という30年間上映禁止だったカルト映画があります。まあその時代と同じように制作するわけにはいかないですからね。彼らの扱いに敏感になりつつ、腫れ物に触る感じで制作したのがどうしても見えてしまう。


 まあ当然なんですけどね。


 扱い方を間違えるとちょっと現代では怖いです。主役のモデル、P.T.バーナムは実在した人物でありますがぶっちゃけ奇形フリークスたちを見せ物にして儲けようとした変人とゆーか奇人ですからね。


挿絵(By みてみん)


 ここまであからさまに美談にしちゃうとちょっと空々しいという感じもしまして。


 なんだかんだいって結局「綺麗でロマンチックなシーン」って空中ブランコ乗りのゼンデイヤしかり、イケメンのヒュージャックマンしかり、入れ物が美しい人たちがみんなかっさらっていっちゃってるじゃないですか。


 で、肝心な時だけ奇形フリークスたちに「ディス・イズ・ミーよ! 気にしないわ、これが私よ!」と言わせちゃうのは……聞こえはいいけど、ちょっとどうなんだろな、と。


 かといってホラーミュージカルの『オペラ座の怪人(1925・2004)』や『スウィーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師(2007)』のようにするわけにもいかないので、そのへんが中途半端と言いますか、少しモヤモヤが残ったかな~とは思いましたね。

挿絵(By みてみん)


 ちなみにこれを書くうえで急遽『フリークス《怪物團》』も見てみたわけですが、こちらはガチでぶつけてくる映画でありました。


 衝撃的な結末だけは確かにホラーのようではありますが「人間てすごいな……」と思わせる底知れぬものさえ感じたり──逆に奇形を見下している通常の人間こそが醜く描かれている映画です。

 かといってフリークスたちを『エレファント・マン』のように心が美しいだけ──とは、作ってないところが凄いんですね。彼らにだって怒りや嫉妬、ともすれば殺意という心もある。そういう意味では健常者もフリークスも同じに見えちゃうんですよ。客席側こっちから見てると。

挿絵(By みてみん)

 しかも表情なんかも、皆、しっかりと生き生きと演技してるんですね。


 こちらは歌いこそしないけれど、まさに「ディス・イズ・ミー!」というパワーを感じさせられるのであります。